ミッションインゴースト 事後報告編
街中でひっきりなしにサイレンが響き渡る。
あれだけ議事堂で暴れ、会議をメチャクチャにし党首への侮辱罪。
もれなく処刑でも余りあるくらいのことをやらかしてしまった私たちであるが、検問が張られる前に色欲魔界へ逃亡は成功していた。
「ちょっと……狭っ……」
「本当、小娘の案でうまく行くなんて思いもしなかったけどな」
「なに、行き当たりばったりなくらいがワシららしくていいじゃないか」
本来なら4人乗りの車に8人も乗り回して完全にパンパンだろうが、私は生憎一人快適にトランクの中。
ハリーポッターじゃあるまいしと思うだろうが自分から志願したんだ。前に強欲魔界でギュウギュウ詰めの乗り物には懲りてるからだ。
「いつつ……私が一番怪我人なのよ、もっと丁重に……った! 傷口が!」
改めて、カナミさんは右足を落とされる程の重傷を負った……。
あの老婆との対戦は彼女たっての希望と言え仕向けたのは私だ。
少なくとも武将さんと、二人がかりくらいなければならなかったのでないかと、私自身判断の甘さを呪う。
そんな気持ち落ち込んでいた私の気持ち察してか、トランク越しに語りかけてくる声があった。
「怪我したしないなんて自分たちの責任だっての」
「こいつらが何もかんもお前を宛てにして突っ込んでた訳でもねぇし」
声の主は雷さんだった。
車内の喧騒にまぎれて私にしか聞こえてないようボソボソと小声で話しかける。
「侍やマモンやメイはお前に甘いがな」
「自分だけが世界の命運背負い込んだような面すんなよ」
「結局、どうやってもありもない答え探して、自分なりに見つけた正解と折り合いつけてく生きてくしかねぇんだ」
「……海賊の癖にまっとうなこと言う」
何だか今まで一人、突っ張っていたのが恥ずかしいやら苦しいやら。
けど、何だか肩の荷が下りた気分だ。
私はトランクの暗がりの中で、マモンさんの指示によりスマホてポチポチと手書きの報告書を書いていく。
ー「なんかそう言うのあればシークレットミッションっぽくなるから!」とのこと。
ー「そんな適当な……」
時は少し巻き戻って、作戦決行より少し前。
私は思いついた限りのことを皆に話した。
「まず暗殺婆さんにレオナさんが一度死んだことにさせて死んだと報告させる」
「その後、暗殺婆さんを倒す」
ー
「でないと、レオナさんがいつまでも狙われ続けることになりますから」
「口で言うのは簡単だけどそれが出来たら苦労はねぇって言う奴じゃねぇのソレ」
概要を大雑把に話したくらいで信用を得るのは難しいようだ。雷さんのもっともな指摘には一気に自信を失う。
「や、やっぱり駄目かな……」
「しかし小娘の目の付け所としては悪くない、ババアに虚偽の報告をさせればあの親父も認めるだろう」
「そうなるとネックなのはやっぱり死んだふりしたことじゃないか? 」
実際の殺し屋がどうなのか、殺せんせーに教わったくらいの知識しかない私だが、プロの殺し屋なれば確実に死体を確認することだろう。
自分で心臓や血液の流れを意図的に止めたり動かしたりできる人間がいないように、悪魔と言えども、生きてる限り身体中を巡る魔力を意図的に止めることは不可能のようだ。
尚かつ、悪魔は生き物に流れる魔力を感じられ、ミコト曰く悪魔は容姿を見るよりもまず魔力を見ると言うくらいの当たり前の話らしい。
「メイちゃんの擬態とかで誤魔化せない?」
「私の擬態も完璧ではありませんから……特に手練の悪魔であれば擬態した魔力かどうかはすぐ見抜くでしょう」
「死んだふりすればよろしいのですよね」
「出来ますわよそのくらい」
「うん、出来るよね……は?」
今、何かおかしなことを聞いたような気がする。
「見ててください」
その場に寝転がって寝ただけだろうと思いきや、メイちゃんとマモンさんが一様に驚きの表情を見せる。
「し、死んでる……」
「嘘……なんでそんな」
「えっ……」
ミコトたちも同様に魔力を感じれなくなっているようだ。
「これで宜しいですか?」
その後あっさり起き上がり、皆が一様に反応が遅れていた。
生まれてこの方、真っ白な画用紙を決して汚さず使わずといった感じに育てられた彼女は何色にも染まれると言ったところだろうか。
思いがけない才能を発掘してしまったと、関心すら覚えてしまう。
「あ、えと……けど。これは使えるよ!」
一番の問題が解決したも当然だ。
後は死体を偽造する問題だが、そこはメイちゃんの手腕に託す。
「ハリウッド女優ばりの特殊メイク見せてあげる」
「私も手伝います」
もう何から何までと言うレベルでお世話になりっぱなしの二人には感謝しかない。
「天使さんと武将さんは先に議事堂で準備してもらいたいんですが……かなり危ない話ですけど」
二人にはレオナさんが待機する予定の部屋へと侵入してもらう。ちょうど端にあるおかげで東側に部屋のない間取りであるのか幸いした。
「ふんぬっ!」
天使さんの筋肉によってこじ開けた壁の裏に空間を作り、天使さんと武将さんが本物のレオナさんと待機してもらい、事前にある仕掛けを準備してもらう。もちろん、内密に。
「どっせい!」
次に、ここで婆さんの殺し方を予測する必要があった。
悪魔は、肉体の再生力と回復力がずば抜けているが魔王クラスならともかく、レオナさんくらいの準魔王クラスの悪魔なら肉体がバラバラになるくらいのダメージを受ければ絶命するようだ。
『心臓を刺されたり、首が吹っ飛んでもすぐ繋げばくっついてしまうし、脳もよほど当たりどころ悪くなければ致命傷にならないわ』
『けど、悪魔に対して有効的な攻撃の方法があるとしたらそれは爆殺』
「爆殺って……爆弾?」
『えぇ。私の父親を狙った暗殺者は大体爆薬を常備してたわ』
「そうなると……」
無論、あの老婆も爆薬を使った暗殺で来る可能性が高い。そこへ待ったをかけたのはマモンさんだった。
「だが決めつけは大体失敗する。最初の引き金となった銃弾にはどんな意味があると思う?」
「多分、動きを止めるため……と、私達の注意を引く為かな」
「はい、正解。なら守る箇所は分かるね」
まずは、メイちゃんとカナミさんの手によってレオナさんの特殊メイクを施す。
「本当、嫌ですわ。お肌もザラザラ……みすぼらしいったらありはしませんの」
「今だけは我儘許さないですから……ね」
レオナさんには申し訳ないけど、本当まともに直視できない。ここまでやるかという程の姿となった。それがそのまま立って、歩いてるのだから本当にゾンビみたいだった。
気を取り直し、後は姿に気づかれないよう厚着。出来るだけ頭を隠し、ヘッドショットからの攻撃には備える。
ナイフによる直接攻撃が来た際は、作戦を中断して天使さんとカナミさんとで挟み撃ちにし、取り押さえる必要がある。
「部屋には監視カメラもあるし、悪魔に有効打を与えにくいナイフを選ぶ可能性は三つの中じゃ低いとは思うが……」
その辺りは、出どころ次第。
なんにしてもレオナさんの命は最優先する必要がある。
実際の作戦決行時、ここでプラスに動いたのはカナミさんの予想以上の粘りを見せてくれたおかげで、老婆も銃やナイフを使う時間もなかったことか。
結果的に無駄な用意となったわけであるけど、最初に爆弾を放り込んでくれたお陰で彼女のメイクに気づくことはなかった。
「よし、今だ!」
そこから先はスピードとの勝負。
文字通り超人的な眼力を持つ天使さんと武将さんには、爆破の瞬間を見計らって貰う。
「「せーのっ!」」
壁一枚隔てた裏側、レオナさんの座る椅子と繋がっており、思い切り椅子を倒して壁ごと捲り上げることで爆風から回避させる。
「うぉ!?」
縦断を通さぬほど堅い壁越しにも伝わる爆発。おそらく最初のアジトに投げ込まれたのよりも遥かに強いだろう衝撃を前に二人は間に合ってよかったという安堵を見せるばかり。
「間一髪じゃったのぅ……」
「小娘め、簡単に言ってくれたが。この仕掛けをバレずに作るのどれだけ大変だったか」
「なに、ワシと主で不可能な仕事ではあるまい」
「……これで、大丈夫なのですよね」
「あぁ。後はこのまま戻すからもう心臓を止めておけ」
「私、お父様のために死ぬことが当たり前と思っていて、そう思ってれば死ぬことなんてちっとも怖くなかったんですが……今になって、何故か」
レオナの手がワナワナと痺れるように動き、その手は握り拳の作り方も忘れてしまった見たいであった。
「アマテさんに諭されてから、急に死ぬのが怖くなって……堪らないんです」
まだ硝煙や爆風が収まりきらず、老婆とて迂闊に顔を近づけることは出来ないだろうその間に厚着とチョッキや帽子を脱ぎ捨て、死体を装ったメイクを晒す中、手をギュッと胸の内にしまう。
「あぁ。こんな時にも我儘言ってしまって、私はやはり駄目ですね……」
「それで良いに決まってるだろ、当たり前のことを口にするな」
そんな彼女を天使さんは行くぞとの言葉もなく、椅子を戻して彼女を部屋へと転がす。
やがて、偽装した遺体を発見した老婆はカナミさんを殺せていないことによる即断即決が今度ばかりは仇となったことだろう。
偽の報告をしてしまい、その後はカナミさんによってノックアウト。しばらくは起き上がってこれないだろう。
車で到着した私たちは、武将さんたちと合流し彼らを回収して即座に撤退する予定だった。
「アマテさん」
「レオナさん……ちょっと、ここで顔を出したらせっかくの計画が」
まだゾンビメイクを落としていないレオナさんが天使さんに担がれた大きな風呂敷に包まれながら顔を出す。
「いえ。最後にお父様に挨拶をしておこうかと」
「はぁ? 一体何言って……」
風呂敷から出た彼女は静止も聞かず、散々な目にあって精神的に披露していた所へ朗報を受けて、不幸のドン底から幸せの絶頂へ舞い上がっている党首様の下へ。
「はははははは……お父様ぁぁぁぁぁっ!」
親子水入らずの時間を過ごした後に、改めて回収して撤退。
以上が、今回の作戦の全貌である……と。
『ところでマモン、どうすんのよこれから』
「アハハハ。なるようになるしかないだろ、どの道あんな仕事持ちかけられた時点で負けてたようなものだしな」
「つーかマモンの旦那、俺たちの報酬はどうすんだよ」
「あぁ。もちろん払うさ」
「けど、今後支払いのつてもなくなっちまったしな……もう、俺のビジネスに付き合ってくれなくてもいいんだぜ?」
マモンさんとメイちゃんは強欲魔界からも色欲魔界からも追われることになってしまった。そんな先の見えないビジネスに付き合うこともないと
今回で四人との縁も切るつもりでいたようだ。
「なーに言ってんだ、こんな面白い仕事。世界中どこ探したってあるもんか、どこまでもついていくぜ俺は」
「あんた、それ言いたかっただけでしょ」
妙なところ自分に酔ってると言うか……酔ってなかったら海賊なんてしてないと思うけど。
「次はどんな魔界にでもお供しますぜ」
「うむ。ワシも行く宛などないしのぅ」
「天界から追放された身だ、今更追放される世界が一つ二つ増えたところでどうということもあるまい」
「と言うことで、まだトロピカル連合は続きそうですよマモンさん」
「本当、馬鹿ばっかだな家の社員」
そうキレイに決めて映画のエンディング気分か、意味のないドライブはガソリンが切れるまで……と言うか重量に耐えきれずタイヤがパンクするほうが先だった。
「あっちゃー……」
「アマテちゃん。大丈夫?」
「なんとか……」
頭を天井にぶつけたが、なんてことはない。
どこかで停車したついでに、トランクの荷台が開けてくれるようだ。
「仕事は終わったし、魔界観光も楽しんだし私たちはそろそろ帰ろっか……随分長居しちゃったけど」
『うん。もう結界もないからホール作れるよ』
トランクの扉が開く。
光が射し込み、見たものは私を驚愕させた。
「ぎゃああああああっ!」
「あぁ……汗とか車内の暑さで蒸れて……」
ゾンビメイクがよりエゲツないことになっており、私はこれ以上なく恐ろしい体験に、竦み上がるどころでは済まなかった。
「そ、それじゃ……私、この辺で失礼しますんで」
「おぅ。またなんか楽しい仕事あったら頼むわ知将」
「ちゃんと前向いて生きろよ、知将」
皆して知将などと囃し立てられ、もう怖いとか恥ずかしいとか言う感情を越えてさっさとシオンにゲートを開けさせた。
「……うぅ、何ヶ月ぶりの我が家よ」
懐かしの六畳間。
懐かしの部屋、布団。
もう動きたくない……。
とりあえず、土足とスーツのままだった私は洗面所へ適当に投げ込んでおこうと靴を脱いでから向かった時だ。
「ふぅ、サッパリしましたわ」
「え?」
ゾンビメイクを落としたレオナさんが何故かここにいる……。
「あら? 私に生き方を教えてくれるのではなくて?」
そう彼女は皮肉っぽく小首を傾げる。
「ちゃんと責任取ってくださいませ、アマテさん」
肉体と精神の疲労がピークに達した私は、廊下にへたり込みそのまま気絶するように眠りにつくのだった。




