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土曜の夜は大騒ぎ⑦

 今にして思えば、何もかも出来すぎた。

 窓一つないはずのジェイルハウスから的確に狙撃をしてきたこと。

 モノレールに狙いすましたみたく、敵が襲撃してきたことも。

 私の中に悪魔が宿っていることを見計らってたみたいに例の封印装置まで用意してきた。


 その全て、レオナさんが自分から殺されるよう仕向けていたとしたら、全て合点が合う。最も私の知らないような魔法や技術なんかでそれらをクリア出来るとしたらそれまでなのだけど。


「……護衛対象が自分から殺されようとする。ねぇ」


 あまりに突飛な発想だったか、マモンさんも今ひとつピンと来ていない様子であったけれど、少し考えてから頭に手を当てる。


「本人に問いただすか」


 マモンさんが強引にでも本人から聞き出そうとするのを私は、自分でも衝動的に止めていた。


「ちょっと……待って。自分の親がなんて……ショックだと思う」


 そういった私をマモンさんは、フッと笑いながら溜め息をつく。


「そんな珍しいことでもないよ、親が子を殺すのも。子が親を殺すのも」

「ま、アマテさんの世界観じゃ認識薄いのも仕方ないけど」


「でも、だったらなんで私たちに守らせて」

「ポーズじゃないか?一応するだけのことはしましたって」

「……」

「まぁ、話すのは俺だ。よしんば俺たちの考えが外れてようと、アマテさんが何も気に止むことはない」


「なんでそんな簡単に……」


 本当の事を言う。

 たったそれだけの行為のなんて難しいことか。

 だって、先が見えないから。ゲームみたいにその結果が本当に正しいのかなんて明確な答えを誰も教えてはくれないのに。


「アマテさんが何に怯えてるのか分かんないけど、隠し事が過ぎて何もかんも失う事が一番あっちゃなんねぇと思う」

「何より、これはもう彼女一人の問題じゃない。完璧に俺たちハメられたようなものだ、仕事を完遂しても失敗しても信用失くすからな」


 悩んでるというより、本当のところ嫉妬してるのかもしれない。ああやってしっかりと自分を保っているマモンさんに。私がこんな迷ってるのにそんな簡単に決めてしまわれることに。


「申し訳ありません……こればかりは私が力添えする訳には」


 悩みに悩む私の下へ特に待ってた訳でもないが諭してくれたのは武将さんだった。


「アマテ殿、迷ってるようじゃな」

「それはそんなに言いにくいことか?」

「言いにくいっていうか……」


 本当に自分でもなんであんなムカつくだけの彼女へ気にかけてるんだか意味が分からない。

 ただ目の前で死なれたら、投げ出したら気分が悪いと言うのもあるけれど、この例えようのない違和感があの虎伏山の事件の後からずっと私を苦しめている。


 私は、誰でもいい。この事を聞いて欲しかった。何度も何度も出しかけてはその度に喉が焼けただれそうになっていたこの気持ちを吐き出す。


「……かつて、ワシは戦場において兵糧があと僅かと言う状況を隠させたことがある」

「兵の士気が落ちると思ってな」


「今にしてみれば本当にワシも馬鹿じゃった」

「なんで言わなかった。言われたからどうしろと言うんだと家臣の間でも意見が割れ、非難されたこともあったわい」


「真相は墓場まで隠し通すか、話してなおその結果がどうであれ受け止める責任がある」

「厳しいようじゃが、それが真相を知る者の責務だと思っておる」


「責務……か」


 変態の癖に義理堅いことを言うと私は少しだけ感謝した。しかし、なんとなく今じゃこんな光景が落ち着くくらいだ。私の友だちを三人も一度に失って気持ちがグチャグチャになっていた私の気持ちを更に掻き回してくれて、どこかホッとしている。


「……の前にひとまず、退散するか。また騒ぎになりだしてきたし」


 あれだけ派手に飛んだ。一部の野次馬根性あるの人たちが物見気分で集まってきてるかもしれないし目立つのも不味い。


「レオナさん、こっちどうぞ」


 マモンさんもここで詰め寄るのは悪手と見たか彼女の手を取り今は安全を最優先とする。その割に逃げ回ったりするけれど、本当にこの人の真意が見えてこない。


「そういやあそこで萎びてるのどうするの?」

「放っとけ放っとけ」


 完全に精魂尽き果てたか、抜け殻みたく空っぽになったヤクザの親玉を放置し、私たちは即座に退散する。


「あ、でも乗り物は……」

「馬に乗れ」

「え? えっ!?」 


 いま、馬の方もビックリしていなかったか。

 天使さんとメイちゃん、マモンさんが自前の翼で飛んでいくから残ったメンバーだけでも五人いる。

 馬に申し訳ない気持ちもありつつ、私とレオナさんと武将さんとカナミさんとで乗るのがやっとだった。


「え、ちょっと……本気でこれでいいの!?」


 海賊さんはどこに乗るのかと思えば、スケボーに寝そべってそこから馬に引っ張られる形で落ち着いている。サングラスとジュースとメチャクチャ寛いでいる光景を私はどこかで見た気がしていた。

 



 場所を変え、駅の地下鉄構内に集まる。

 現代の魔境。巨大迷路と評される新宿駅よりも更に混迷とした人と物や店であふれかえったこの施設は人目の隠れ蓑として最適か。


「ま、こんなとこか」


 そうして、階段の踊り場に屯するホームレス達や物売りに混じった事で安全を確認したマモンさんは改めてレオナさんに問い詰める。

 すると彼女は最初驚いたような顔をしていたが、すぐ開き直ってケロッとした表情になり


「えぇ。最初から知ってましたわよ」


 呆気ないくらい、悩んでた私が馬鹿だったのかというくらいあっさり言ってのけてしまった。


「なんで、そんな簡単に自分の運命を受け入れちゃうのよ……」

「だって。それでやっと初めてお父様は褒めてくださる」

「は?」


 キョトンとして頭が空っぽになってた私へ、そこから先の言葉は私の耳を疑った。


「お父様のお役に立てますもの、今までなんの役にも立たなかった私が」


 彼女の目はまるで生気を感じさせないほど澄んでおり、その反応は何を当たり前のことを言ってるんだと言わんほど。


「私が、こんな私が死ねばお父様はーーーー」


 そう言いかけた彼女の口元を私は叩いて止めた。生木の割れたような音がして、薄っすらと赤く腫れた彼女の頬。

 私の掌にもビリビリと痛みが残っていた。


『アマテ……』

「あちゃあ、やっちゃったなアマテさん」


 皆も呆気に取られている。

 私は自分でも何をやってるんだと思った。

 けど、我侭に振り回された時も、考えなしに動き回られた時よりも腹が立って仕方なかった。


「散々我侭で人を振り回しといて今さら……」

「自分の命は自分の物でしょ! 親だろうが他人の為に死んでやる義理なんかどこにもないのよ!」


 魔界の風習だとか、世界観だとか色々意識の違いはあるんだろうけど、今のは私にとって最大級の侮辱にも等しく、ただひたすらムカついた。

 自分でも何にムカついてるのか分からないけど、とにかくこの胸の苛々を見て見ぬふりなど出来なかった。


「ハッキリ死にたくないって。助けてくれって我侭言ってみなさいよ!」


 それもこれも何故か、彼女に幼い日の私の姿が重なって見えてしまったからだ。


「ブッ!」


 そんな私の怒りを知ってか知らずか、反撃のようなパンチが鼻頭に跳んできた。


「下々の分際でよくもこの私の顔に」

「この……偉いからお高く止まってんじゃないわよ! 偉いのはアンタのお父さんでしょ……っ?」


 今まで溜めてきた言いたいこと言わせるより早くヘッドバットをまともに喰らった私は青天する。そこから馬乗りに乗られてマウントを取られた私であったが、左腕を取られて関節と逆の方向に倒される。


「あいだだだだだっ! 箸より重いもの持てないんじゃなかったの!?」

「関節技だ。アレなら力を入れずとも制す事ができるぞ小娘」

「冷静に言ってる場合……このっ! あ」


 めちゃくちゃに暴れたら簡単にホールドを外すことが出来た。


「軽っ! 風船かってくらい軽……いてっ!」


 力弱い癖に動きは猫みたいに俊敏だ。

 私の髪を鷲掴みにしてくるものだから私もこいつの髪を握り返してやった。

 もう自分でやっててなんだが子供の喧嘩だ。


「アマテ様、レオナ様……ちょっと」

「いやいや今。めっちゃ面白いとこだから」


 いくら何でも見るに耐えなかったか、彼女はマモンさんの静止を振り切ってでも、私たちの喧嘩を止めに入った。


「いい加減にしてください」


「った……!」

「あつっ」


 私達は喧嘩両成敗とばかりに拳骨を受けた。


「そこ正座!」

「えぇ……ちょっ」

「正座!」


「「はい……」」


 見た目幼い少女にゲンコツされて、正座させられている私はなんなのだろうか。

 いや、もうきっと私は赤ちゃんなんだ。

 いくら世界広しといえども思い返せば自分より幼い少女に助手席に乗せられる大学生が二人といるまい。


 そう私は赤ちゃんなんだ……けど、メイちゃんの真面目な顔を見たらふざけてなどいられなくもなる。


「……確かに。私も、生まれてからずっと。お兄様の忠実な家臣となるべくして育てられました」

「強欲魔界で弟や妹は体のいい下僕として利用されますので」

「えっ…… 」


 そう聞くと、彼女は一体どんな気持ちで変わり果てた自分の故郷をどんな目で見ていたのだろうか察するに余りある。


「その為に『血の繋がり』などと医学的以外に意味のないものに大層な理由をつけて上の者へ服従することを義として強く教えこまれてきました」


 子供と言うのは、つくづく吸水性の高いスポンジみたいなものだと思う。

 教えられたことをそのまま吸い取ってしまって、それを当たり前と感じるようになれば、人の道理や正義に対して疑問を持たなくなる。

 きっと、村の風習で生贄とされた菱輝さんもかつてはそうだったのかもしれない。


「私は今でもお兄様の家臣としての自分に疑問はありません」

「しかし、私は一人の悪魔としてお兄様と共に歩むこと。その事だけは違えるつもりはありません」

「メイちゃん……」


 彼女を優しく諭すように前へ出てきたのは武将さんだった。


「彼女と姫の違い、分かりますか?」

「この子は愛しのお兄さんの為に死ねる覚悟は出来てるが、あんたみたいにただ死ぬつもりはないってことだ」


 が、横から出てきた雷さんにかすめ取られてしまう。


「あっ! なんで雷殿が言うんじゃ!」

「早い者勝ちだろ」


「……貴女たちに分からないでしょうよ!」


 レオナさんが腹の底から発した声は二人が言い合ってるガヤを切り裂くほどの奇声だった。

 私たちの考えうる限りの言葉で済むほど彼女の抱える闇は根深いようだ。


 涙ながらに訴え膝を濡らす。

 

「生まれてからずっと……自分は偉いから」

「嫌なことがあったら、みんな召使いがしてくれて、邪魔な石があれば私の言葉一つで退かしてくれる……」

「考える必要なんてないって、お父様の言うことを聞いていれば全部幸せで間違いないんだって」


「自分で決めるなんて今まで何一つすることがなかった私にどうしろって言うのよ!」


 本当、マモンさんじゃないけど世界観の違いって厄介だなと思う。けど、もうここまで言い切ったなら私も言い切らせてもらう。


「なら、私が教えてあげるわよ」

「はぁ?貴女がですか?」

「人にアレコレもの言えるほど偉くもないけど……生き方だったら幾らでも教えてあげる」


 勢い任せに言ってしまった、当然皆も唖然としている。


「言うねぇ。彼女」


「とりあえず。貴女は絶対に私が助けるから、まずは自分が絶対に生き残れる方法を考えて」

「生き残れる方法……」

「うん。生きたいって意志が無い人を守ることはできないから、貴女が自分で考えて動いたことなら私も全力でフォローする」


「そこは私たちが、でいいだろ?」

「雷さん」


 そんな一人でも、やる気だった私にポンッと肩を叩かれ少年漫画みたいなことを突然言うのだ。


「思えば、いつもお前の発言に気付かされてばかりだな」

「俺はいいぜ。海賊なんだ。お上に楯突いてなんぼだからな」

「え……え!?」


「アマテちゃんの為なら火の中でも」

「フッ……妥当な選択する賢い者などこの場におるまいて」

「全くだな」


「あ、ありがとうございます……」


 彼らと過ごす内に私はなんか妙な一体感すら感じ始めていた。協力してくれるのは有り難いのだけど……変態軍団とか心の中で蔑んでた手前で好意を素直に受け取ることに恥すら感じていた。


『変態を従える素質あるのね』

「どんな素質よソレ……」

『お姉さんももっと素直になっちゃいなよ、欲望のままに』


 悪魔だけど、シオンの言葉が本物の悪魔の囁きに聞こえてならなかった。


『理性なんて外しちゃいなよお姉さん』


 元からまともな考えでどうこうできる事態でない。 

 だったらこちらも狂う他ない。


「じゃあ、皆。ちょっと悪いこと考えたんだけど」



 時は約束の時刻。

 場所は同じく駅構内。

 念の為、ホームレスや物売りにはお金を渡して出払って貰って、ゴミの散らばるシンと静まり返った階段踊り場にて例の党首とボディガードが四人。


「すみません、家の事務所が吹っ飛んでしまいまして。貴方をこのようなところに押し込めてしまい」


 それとマモンさんが会合する。

 皆にはそれぞれ指定した配置についてもらい、私は離れた所で様子を伺う。

 

「建前はいい。それで。娘はどうなった?」


 その声は心配してるのか期待しているのか、この場にレオナさんがいないことからもどこか浮足立った様子で、全て知ってから見れば無性に腹立たしい。


「はいやぁぁっ!」


 そんな沈黙を破り、鹿毛の馬に乗った武将さんが壁を突き破り、二人の間に割って入ってきた。


「なんだこれは……」


 あまりにも突然過ぎる光景にいくらお偉い様でも口を開けてポカンとしている。馬が駅に突っ込んできたくらい、そんな驚くほどのことでもないだろうに。


「娘様は既に内密的に議事堂へ送っておきました」

「は?」


 当然、訳がわからないだろう。私が勝手にしたことだ。


「いや。なんでも、これからはお父様のお傍で力になりたいからと、我先に準備しに行きました」

「チッ……余計なことを」

「なんとも勉強熱心な娘さんでして」


「娘さんへの護衛はついておりますから大丈夫でござります。ささ、行きましょう」


 ミッションスタート。

 精々、狙われる側の気分を知ればいい。



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