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土曜の夜は大騒ぎ➅


 遠くでヘリが爆発し、カナミが巻き込まれたこともいざ知らずアマテたちは未だに上部が真っ二つに裂けたモノレール上で乱闘を続けていたが、それももう終わりを告げようかという時だ。




「ぬぅん!」


 天使の筋肉によるラリアットが炸裂。

 並み居るヤクザをかきこむが如く、突き飛ばしていった。


「今日だけはお前が味方でよかったと思うよ」

「世辞はいいから戦え」


 数によって追い込まれていた雷さんであったけれど、後から天使と武将の救援を得たことによって形成が逆転していた。


「はいやぁっ!」


 武将は刀で肩から一刀両断……に見せかけて峰打ちだったか、力なく倒れ込むヤクザたちがざっと数えても数十人。


「女子の手前だ。運が良かったのぅ」

「おおお……凄い」


 と、男三人こんな時だからこそか嫌に輝いて見えてしまった自分を呪いたい。 


「フフン、当然の結果ですわ」


 何もしてない娘が偉そうなのはこの際おいて置くとして私は何よりまず安堵した。


「でも、みんな無事だったんだね」

「うむ。とはいえ、襲われたのは最初の銃撃だけで殆ど消火作業と野次馬の対処に追われとっただけじゃが」

「マモンとメイも後から合流するってよ、とりあえず次の駅で飛び降りるぞ」


 そう次の目的地を見定めた私たちであったが、安堵させる暇すら与えてくれないのか、無情にも新たなヘリが上空を旋回しているのを見て呆然とする。


「オイオイ、マジかよ」

「飛空部隊、投下開始」


 それも一基や二基に収まらず、五基ものヘリが辺りを周回しており、垂らされたロープから次々とヤクザのおかわりが投入されてきた。


「目標を補足」

「ただちに急行せよ」

「目標を補足」

「ただちに急行せよ」

「目標を補足」

「ただちに急行せよ」


 彼らは一糸乱れぬ、それこそクローンか何かと言うほどそっくりな体格と風貌。ピタリと1ミリの狂いも感じさせない統率の取れた動きはどことなく不気味だ。


「目標を補足」

「レオナの抹殺を優先せよ、繰り返す。レオナの抹殺を優先せよ」


 あっという間にまたモノレールがヤクザで埋め尽くされた。彼らが倒されてもまた、あのヘリに幾らでも次の戦力を逐次投入していくつもりだろうか。


「これではキリがないのぉ」

『お姉さん、ちょっと私に変わって』

『今、ミコト姉様とレイラちゃんに魔力分けて貰ったから一瞬だけなら交代できると思う』


 そんな時、私たちに助け舟を出したのはシオンだった。


「一瞬で何かできるの?」

『とりあえずお姉さんと、そのお姫さん脱出させるくらいかな』

『その為にはそのおじさんたちを前に送って』

「う、うん」


 私は雷さんたちにこの車両から離れるよう頼んだ。


「何か分からんが分かった」

「任せていいんだな、小娘よ」


 当然、彼らを前に押し出してしまえば私たちへの守りはなくなる。いつでも隙に手を出してくださいと言わんばかりの無防備さだ。


「ちょっとちょっと! 何を考えてるですの!? これじゃ誰が守ってくれるんです」

「大丈夫です……!」


 私は出来るだけレオナさんを守れるよう矢面に立つ。無論、この人の為に死んでやるつもりはサラサラないけれど、私はシオンのことを信じているからだ。

 彼らは一斉に拳銃を構え、なんの躊躇もなく撃って来ようとする刹那。


『さーて、弄っちゃうよぉ』


 シオンに交代し、すぐに彼女はモノレールの床を強く踏み抜く。


 その衝撃だけで、ネジや機材など全てがバラバラに浮き上がった。

 彼女の目には一体何がどう見えているのか、手元に抱えた銃の部品と組み合わせ、メリーゴーランドの木馬へ改造を施してしまった。


「ゴー! メリーゴーランド!」


 すぐまた私に姿を戻され目撃するその姿は、車輪のついた木馬。

 物言わぬ、同じ箇所をクルクル際限なく回ることを運命づけられた事から解放されたことを歓喜するかのごとく、自由求めて飛び出していく。


「え、ちょっと……早……」


 それもジェット噴射機と言う一体、なにをどうすればそんな物が作れたのか。オートバイ並の速度を手に入れた機械じかけの白馬はモノレールのレーンを飛び越え、ヘリで包囲網を張っていたらしきヤクザたちの頭上を飛び越えて、国道へ出た。


「オイオイオイオイ」

「死ぬわ 私」


 道行く大型トラックやスポーツカーに混ざってメリーゴーランドの白馬が優雅にドライブを楽しむ。まさに現代に蘇った騎士の気分。


「おぁぁぁっ!」


 そんな白馬へ対抗するか、現代の重騎兵こと対向車。生憎この白馬にハンドルもブレーキもありはしない。


「きゃあああああっ! どうしますの。どうなりますの!?」

「知らない知らない知らない!」


 後ろに乗ったレオナさんは遊園地のアトラクションか何かかと思ってないだろうか。

 こちとら必死で探り当てた最後の手は首筋のボタン一つ。だがシオンのこと、爆発オチなんてことにてでもなったら目も当てられない。


「これはなにがおきますの?」


 と、私が躊躇ってる間に後ろのバカが押してしまった。本来、バーを上下させる為のスイッチだったろう。それが改造されたものだから威力は軽く上下させるなんてものでない。


 大ジャンプだ。


 何と言う絶景か、この高層ビル建ち並ぶ大都会を空から独り占めにする高さ。恐らくどんな絶叫マシンよりもスリリングかつ派手な経験。

 肝が一瞬、私の体内で縮んだような感覚を経た後、地面へ急降下。


 パッとパラシュートが開き、私たちはフラフラとこの圏内の中、街並みから外れた田園地帯へ床が土で出来た広場を見つけそこへ上手く着地。


 私たちは馬から振り落とされんばかりの勢いで転がり落ちた。


「はふぅ……」

「面白かったですわね!」

「面白くねぇよ……このやろう」


 などと、呑気なことを言ってるが私はいつ白馬が墜落するかと、ずっと気が気でなかった。

 このまま、追手も撒ければいいのだが、アレだけ派手に動いた後だ。既にこの場も長くはないだろうと私は急ぎ震える膝を殴りつけてでも立ち上がる。


『このおバカ!』

『ちゃんと全員助かったでしょ?』

『アハハハ! さすがシオ姉、スリル満点!』


 頼りになるんだかならないんだか、遠慮を知らない分、今一度思い返すが現三姉妹の中では一番恐ろしい少女であった。




「あ、アマテ様。よくぞご無事で」


 私たちがしばらくこの場でどうするか、しどろもどろしてる間にワープゲートを潜ってメイちゃんがやってきた。


「メイちゃん……! と、誰?」


 その隣に見覚えのないアフロヘアーと、突拍子もなく日サロでも行ってきたのか肌が真っ黒に焦げた松葉杖をついた女性……。

 いや、良く見たらカナミさんだった。

 本当にどこから突っ込んだらいいのか迷わせた。


「どうしたんですか……その格好」

「いや、ババア追ってたらヘリが爆発して死ぬかと思った……メイちゃんが助けてくれなかったら真面目にヤバかった」

「ギリギリでしたが、私も救援に向かって正解でした」

「アマテちゃんが撫でてくれたら治るんだけどぉ……がぁっ!」


 カナミさんをふっ飛ばして、鹿毛の本物の馬に乗った武将さんと雷さんが追いついてきた。


「待たせたのぅ。みなの衆」

「どこから馬なんて調達したんですか!?」

「この魔界にはないもの以外はなんでもありますよ」


 さっきまでヤクザと命がけの勝負してたと思えないくらいバイタリティに溢れており、なんだか私だけ疲れてて変みたいだ。


「うーっす。全員揃ったか?」


 そんな折に、マモンさんが天使さんを連れて合流して来た。


「うむ。全員揃っている」


 これでトロピカル……なんとか連合が全員集合したことにまずは一安心する。


「おら、全員揃ったところで土産だ」


 馬に乗ってた雷さんは、ずっと大きな袋抱えて何が入っているのかと思えば、中身は敵側のヤクザだった。


「ぐぅ……くそっ!」


 それもそこそこ立場の有りそうな顔に傷だらけで難いも良い親玉を掻っ攫って来たようだ。


「あら大手柄じゃない。この人にいろんな情報教えてもらいましょう、私は男触るのNGだけど」

「わしとて拷問の趣味はないぞ」

「ふむ。なら俺の筋肉」

『口を割らすなら任せて』


 天使を押しのけてレイラが出てきた。

 

「人間さん、気を楽〜にしてね。痛いことはしないから」

「ケッ。殺したきゃ殺しやがれ」


 捕らえられたと言え屈強なヤクザの幹部。真上から見下ろし、威圧するレイラのオーラにすら決して物怖じせず、逆ににらみ返すほどの胆力を見せつけてくる。例え手足をもいだとしても決して自分らに不利になる情報を吐いたりしないだろう。


「フフフ、強情な旅人の羽衣を脱がせるは吹雪か日輪か。魔界にも伝わるおとぎ話だよ」


 指先に魔力をため、ヤクザのこめかみを軽く触るように小突いた。


魅惑的幻想ファントム・チャーム


 すると、ヤクザはガクガクと足が震えて膝をつき身体中が汗ばんではだらしなく舌を出し、苦しそうに……と言うよりは気持ちよさげに吐息を漏らすのだった。


「あぁっ……だめ、そこは」

「そこは、出すところであって入れるところでないのぉぉぉっ」

「自分が女体化して、えっちな触手とお友達になって気持ちよくなる夢を見てるの」

「き、気持ちいいのおおおおおおっ!」


 私は思わず引いた。そして哀れにも30歳は過ぎたろうスキンヘッドの強面ヤクザの顔が蕩け、頬は光悦し淀み、もうエロ同人とかでしか見られないような顔つきになってきた。


「見てるこっちは気持ち悪いわ」


 私も雷さんとおおよそ同じ意見だ。


「いつまで続くんだこの地獄絵図」


 ビクンビクンと痙攣し、とても記憶に留めておきたくない凄惨な光景を目の当たりにするが、当のレイラだけしっかり見ているものは私の頭の中にも流れてきてしまう、もはや見てる方も拷問だ。


「あ~あ、こりゃもう壊れちゃうねぇ。人間さんの脳みそは、悪魔に比べて弱いからシャボン玉に触るくらい繊細に扱ってんだけど」

「そこがまた面白いんだよねぇ、いじり甲斐があって」


 頬に手を添え、愉悦に富んだ小悪魔的な笑みを浮かべるレイラは、この程度まだお遊びだとでも言わんばかりの極上な快楽を与え続ける。



「ーーーーーっ!」


 2時間後。無駄に耐えてくれたヤクザの口から放たれた衝撃の一言は私達を震撼させる……筈であったのだけれど、絵面があまりに酷すぎて乗るに乗り切れないやり切れない状態だ。


「依頼主は……盟約議員だよ……」

「え、それって……!?」

「盟約議員の……あいつの、父親だよ」


 私は慌てて振り返った先、レオナさんは遠くにいて聞こえていないようだ。幸か不幸か……と言うより、レイラはまさかこの状況を予期していたのか、あまりの光景の醜さに私以外は全員離れてる状態だ。


『あーそんな気はしてたけど』

「今回の、盟約のドサクサで……役員の跡取りが死ねば……自分が、まだ党首を続けられる……」

「世襲制、なんだよな。議員って常に特定の代で必ず次代に繋ぐのが慣わしだ」

「マモンさん……え、でもそれって」


 少なくとも現状の報告から今後の対策など聞ければと思っていたが、事態はどうやら私が思うより数百倍悪い方へ向かっているようだ。


「ま、お偉方にもなれば親殺し子殺しなんて珍しいことでもないからな」

「そんな……じゃあ、なんで私たちに守っててくれなんて依頼したのよ」

「そりゃ、ちゃんと守ろうと頑張りましたってポーズは要るだろうからな」


 世間体の為に利用されたと言う苛つきは勿論あったが、事はそんな一個人の怒りを気にしてる場合でもないようだ。


「問題なのは、このままお嬢様守り続けても何の得にもならねぇってことだ」

「え……?」


「大白はこの先、どんな手を使おうとお嬢様を殺そうとするだろうが……守り続けたとしても、機嫌を損ねて金が貰えない可能性もある」


「かと言って依頼人を見捨てる、失敗しても信頼を失って俺たちはおしまい……」


「こりゃ参ったな」


 なんて道化た仕草であっけらかんとした態度に私はつい声を荒げてしまった。


「笑ってる場合なの!?」

「怒んなよ、これでも俺だって結構焦ってんだ」


『もうさ、あの当主直接殺しちゃう?』

「はい、出たシオンちゃんの悪魔的スピード解決策」


「でも。そこがまた厄介なんだよ」

「盟約党首が一人死ねば、そこから先残った四人で責任の擦り付け合い、一大事件、さぁ犯人は誰だとでっち上げが飛び交うニュース。一時は凄かったらしいぜ、俺もメイもまだ強欲魔界に居た頃だけど」


「そんな……どうすれば……あ」


 どうにか、現状を打破する手段はないかアレコレ考えを巡らせていた時だ。


「……ねぇ、まさかと思うんだけどさ」


 私の頭の中にふと疑問がよぎる。

 一つ、間を開けてからメイちゃんを呼んできた。


「メイちゃん、私たちをどうやって追ってきたの?」

「え、脱出した後に皆散り散りとなったので。お兄様が探知で皆様たちを探しまして、その後に私が転移してカナミ様を救援して……手当てしてから」

「……転移魔法って今もできる?」

「えぇ、試しにどこか……おや?」


 さっきまで普通にここへ来ることのできていたメイちゃんが、なぜかテレポート出来なくなっている。


「やっぱり、シオンもさ。なぜか出来なかったんだ」

「彼女、本当は何もかも知ってたんじゃない?」


「自分が殺されるって」




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