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真実ってなんですか?


「彼らは、今。精神が完全に壊れてしまっております、見たのはほんの一部分である筈なのに」

「俺も今、心が壊れちまいそうだよ……」

「この方が儀式を続けてくれている内はむこう1億年は問題ないだろうが」

「1億年……」


 ホッとしたような、恐ろしいような。もう恐怖も出し尽くした私は、気が抜けて床にへたり込む。


「最後に教えて……その、菱輝……さんは、なんでそうまでしてイス人に協力してるの?」


 すると、またしてもだんまりを決め込まれ余所余所しい態度に私は自分でも意外なくらいプッツリとキレてしまった。


「ホントにさ、そろそろ秘密主義はいい加減にしてくれない!? ハッキリさせてよ!」

「それは……その、菱輝。どういうことですか?」


 こちとら、恐れとかの感情が欠落している状態だ。高次元の生命体を慌てさせるほどの強い口調がいくらでも出てくる。


『分かんないの?』


 そこでいきなりレイラが出てくる。


『私は魔王ベルゼバブ。魔王アスモデウス第666女が娘』

『アタシのモットーは人の恋路を邪魔する無粋な輩はケルベロスに喰われちゃえ』


「恋路……?」


 すると、私の耳元へ囁くような声で


「信仰対象に惚れた罰当たりな教祖様」

「あー……」


 そういう事かと、最後の肩の荷が下りた瞬間にまたレイラと身体が入れ替わる。

 それは、七色に鈍く発光する蝿の羽。幼き日に見たことのあるレイラの正体、悪魔本来の姿だ。

 山羊の角を持った赤色と黄色の折り混ざった人ならざる妖艶な身体つきをした姿。口……ではなく腹に当たる部分から、牙を大きく剥き出しにする。


 菱輝さんと、偉大なる種族の肉体から放出される薄紅色のエネルギー体。それは、レイラの大きく開いた腹の中へ吸い込まれ消えていく。


『ーーーーー』


 悪魔の言葉。

 キンッと耳のなる音響を何度か醸し出しているが、ミコト曰く喜んでいる時との事。

 腹の牙をモゴモゴと動かすのは咀嚼、最後に膨れ上がった腹がまた元通り収縮し飲み込まれていったらしい。


『ふぅ……ごちそうさまでした』


『私は人間さんってだーいすき。こんな迸ったエネルギーに満ち溢れてて、魔力なんかよりも上質な力をくれるんだから』


『……んんっ。快感』

『相変わらず品のない食事風景だこと』

『仕方ないじゃない。暴食と色欲の悪魔の血を受け継いじゃうと色々魔力維持するのも大変なんだから』

「確か、色欲の悪魔って言えば……アスモデウスだよね?」

『うん。私のお婆ちゃんになるね、たまには顔出さないとなぁ』

「てことはミコトやシオンもアスモデウスとあのお父さんとの娘なの?」


 するとレイラは意外そうな声で


『あれ? 話してないの? みんなお父さんはベルゼバブだけどお母さんはみんな別なんだ』

「まさかの一夫多妻制……」

『中でも、お父さんの血を直に引いてるのはミコ姉と私だけでクロ姉とシオ姉は養子だけどね』


「ちょっと……初めて聞いたんだけど」

『言う必要もないでしょ』


 長話してしまったが、当初の目的は果たせた。

 もうこの山に用はないと私たちはすぐにでも下山する準備を整える。


「あの嬢ちゃんは一足違いで救急が搬送してったよ、なんか突然雨が止んで良かったとかで」

「そうですか、ありがとうございます……」


「ルーゼンベルク様。今まで、ありがとうございました」

『うん、こちらこそ。10年くらいだったかな、楽しかったよ。ありがとう、美味しかった!』


 奇妙な出会いに別れを告げながら、最後に残っている問題が一つだけあった。


「こいつらはどうなるの?」

「壊れた心を治すのはイスの技術とて用意ではありません。最も、全くの別人に組み替えると言うなら出来ますが……」

「用は気の持ち方次第ってわけね……」

「変わらず、行方不明扱いになるな 」

 

 元はと言えば自業自得が招いた結果だが、いつ戻れるかもわからない長い時を彷徨い心を正しく戻せた頃に浦島太郎となっているのでないか。

 そう思うと、どことなくやるせない気持ちもあった。 

 こればかりは手のうちようもない、せめて彼らの回復を願う気持ちだけは忘れないでいた。




 一先ず荷物を取りに駐屯所へ戻った私が見たのは、どこまで死者を冒涜しようというのか、掘り返され弔う遺体すらない空っぽの墓。

 彼女の魂とか、どうなってるのか分からないけど、とりあえず私は音黒さんが安心してくれることだけを考えた。


「正直、どうすればいいかなんて分かんないけど……とりあえず泣かないし、別に取り繕おうとかしないって決めたの」 

「私の部屋はいつでも開けてるから。いつでも来てよ、占いの本とか置いとくし……あ。心霊スポットとか行ったらまた会えるかな……なんて?」


 ひたすら無我夢中で彼女がそのままどこかで聞いててくれてるかのように話した。まだ、話足りないこととかいっぱいあったけど、さすがに切りがない。

 私は、袖で目元を一つ拭ってからもう一度だけ何もない空間に向かって


「とにかくさ、今はゆっくり休んでて」

「私はまだやらなきゃいけないことあるから」




 そうして私は帰ってから、シャワーも浴びずに畳っぱなしの布団へ倒れ込むようにして寝た。

 それから、どのくらい寝たのか。前にもこんなことあったなとか思いながら目が覚めた今度は日も昇らない真夜中だった。

 ボーッと頭の働かない状態から手探りで探り当てたスマホのカレンダーは、無情にも先に進んだ日にちを示している。

 床に散らばったキャンプセット。


 鞄に脱ぎ散らかした服なんか。それらが私に伝えてくる現実。夢なんかであるはずがないと分かっているのに、それでも信じたくない気持ちがあった。


「いっつ……」


 覚悟はしてたものの全身を襲う筋肉痛でまともに立つことすらままならない。

 色々と怒ったり泣いたりと言う麻酔で忘れていたが、どれだけ悲しくとも、辛くとも、人間の生理的反応というのは避けられないもののようだ。 


 頬から涙がつたって、膝の上に落ちる。


「あー……痛すぎて涙出てきた……」


 




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