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市民、あなたは幸福ですか?②

「「「「はい!私達はとても幸福です!」」」」


 機械かというくらいキレイに四人の声が重なった。


「ふふふ。そうか、幸せでない市民には幸福薬を恵んでやろうと思ったが」


「お前たちにもいくつか恵んでやろう。私ほど幸福な者には必要のないからな」


「ははぁ。有り難き幸福に存じます」


 そう言って一人一本、渡されたのは注射器。

 中には毒々しい色の液体が注入されており、一発でヤバイと分かる代物だった。


「あ。UV様、お靴に埃が」


 魔界TVで私と分かれてから一体何があったのか。


 海賊も武将も、天使もあの時のような覇気がまるで感じられない。

 舌で靴を舐め、肩をもみ、団扇で仰ぐなどすっかり従順な下僕へと成り下がっていた。


「さて、幸福になったことで議題に入りましょう」


「9年前ほど前に魔王の息子。マモン=Ⅱ=グリードを捕らえたことを知っていますね」


「しかし、我々『コア・ステイル』も一枚岩でなく私『スタッフ派』と『エクシオン派』の二大派閥に分かれてると言っていい」


「マモンの捕獲作戦を立案したのは私なのに『エクシオン派』の連中はあたかも自分たちだけの手柄にしようとしている」


 あまり私には関係の薄い派閥争い、権力争い。

 あれだけ気が触れそうな世界を作っても、まだ足らぬ足らぬと共食いの日々はどこへ行っても変わってないようだ。


「それであのままエクシオン派のクズ共にフェゴールのなど実行されては、市民共は挙って行動派を支持するだろう」


「そこで諸君らの任務はフェゴール=グリードをここへ連れてくることだ」


「抵抗するようなら殺しても構わないが死体だけは最悪持ち帰れ」


 彼女が、今回の作戦へ動き出した意味がわかった。

 遠回しであるが兄である魔王の息子を助け出す千載一遇のチャンス、ただあまり私の思い描くほど簡単に事が運ぶかは分からない。


「もう一つ『コミー派』の連中に我々の仕業と即断されないよう『魔王派』の連中の仕業と思わせる必要がある」


「そこで。我々には無用の物だがあいつらはあいつらなりにない頭を使ったつもりなのか討伐した『元・魔王マーモン』の心臓を保管してある」


「それは必ず持ち帰ってこい」


「かしこまりました」


 唯一、媚も諂いもせずに従う意思を見せるのはカナミさん一人。

 計画を聞き終えた私たちはブリーフィングルームから退席する。


「久しぶりねぇ。アマテちゃん」


「あ、はい」


 したのは私達だけだった。

 男衆三人は、未だ舌が擦り切れるほど靴を舐めしたぎ、肩をへし折るほどの勢いで揉み、風邪ひきそうなくらいの勢いで風を起こしてる。


 そんな彼らはともかく、てっきり私のことを忘れたのかと思っていた矢先に再会と言う反応を貰えてどこかホッとしていた。


「アレから、私たちも魔界から帰還して……暫くは三人で、馬鹿やったり。色々やってたんだけど……どうにも、人生ドロップアウトしたところから這い上がるのは難しくてね」


 そこからは聞くに耐えない、ゴミを漁り、人の路を外れた行為。

 雷さんは、バイトも長続きせず、その日の金すら苦心してその辺の学生からカツアゲを実行するも数日と食べない身体で敵うはずもなかった。


 武将さんも同じく、雑に生き返らされて雑に捨てられたらしい。

 いきなりの銃刀法違反で武士の魂である刀を取り上げられ、現代に馴染めず、まるで助けの呼び方すら知らない幼子が、砂漠の真ん中に放り出されたような気分だったようだ。


「私も私で、目をかけてた女の子には悉く振られるわ。知らない内に借金の保証人にされてて、借金作ってたし。ま……死んだ方がマシかなってくらいには思ったのよ」


「あの天使さんに至っては私たちの時に護衛の任務失敗してからは天界を追放されたらしくて」


「カナミさん……」


 彼女の言葉には何か説得力があった。胸の内からグイグイと掴まれ、引き込まれるような感覚……。

 

「そんな折に、雷がね」




『また魔界行ってみねぇか?』


 怪しげな魔導書を一冊手にしてやって来たらしい。


 彼らの心の奥底にあった根底、魔界の感覚が忘れられなかったようだ。


 私には理解しかねる、だが彼らはまるで一時の夢が覚めたことを信じられずにまだ眠っていたい駄々っ子のように、現実を直視することへの諦めとも取れる感情。


『えぇ、いいわね』


 普通なら、突っぱねるか余程の暇つぶしにでもなければ乗らないだろう提案に彼女らは安易に乗っかった。

 方法は何でも良かった。


 また、魔界に行けるならと。

 

 


「ま、まさかとは思ってたけど。たまたま上手く行ってさ」


「意外と魔界への転生者とか最近珍しくないらしいから結構寛容だったのよ」


 あっけらかんと壮絶な生い立ちを語り、ようやく三人の男たちが出てきた。


「ふぅ。今日もピカピカにしてやったぜ……!」


 求めていた物と形は違う筈なのに、私も一部と言え目の当たりにした絶対的な規則と暴力による弾圧。

 そのルールさえ守ってれば衣食の保証された生活を前にし、今こうして彼らは現状に満足しているのだろう。

 

「さぁて、今日もお仕事お仕事じゃ」


 彼らが出てきたのを最後に、カナミさんも私との会話などまるでなかったみたいに何も話さなくなってしまった。 


「で? そのエクシオン派のアジトとか、マモンが捕まってる場所ってのはどこなんだ?」


「え? 何も聞いておらんぞ?」


「は?」


 いや、一部訂正すると案外あの時のノリは残ってるのかもしれない。

 こう言う行き当たりばったりで計画性のないところ、ちょっと懐かしくもあった。


「ちょっと……UV様!?」


 カナミさんが慌ててブリーフィングルームへ戻るも既にもぬけの殻。


『完璧なるUV様はミスなどしないでしょう。あなた達が真に完璧な市民ならば、依頼を達成することも不可能ではないはずです』


 いきなり幸先不安な私たちであったが、さすがにそこですべてお終いとはならない。


「有名な二大派閥なら、場所くらい調べたらすぐわかりはしないかの?」


 武将さんの言うように、少し調べてみたら意外なほど簡単に判明した。


「けどこの距離、歩いて丸一日かかるわよ」


 あのUVは果たして、依頼を達成してもらう気があるのかないのか。

 車もなければ


「一応、移動手段があるにはあるんだけど」


 そういって私たちはセントラルタワーを後にした。

 街の至る所、今はあまり見ない電話ボックスくらいの感覚で配置された小さな球体がある。


 戸がついており、近づくだけで上に開いた。

 中は見た感じ一人乗りの椅子が一つ、ポツンとあるだけ。

 詰めても二人が限界でないだろうかというほど狭い。


『全市民に無償で開放されている、便利な移動スポットといいましょうか。座標をセットするだけで瞬時に目的地まで転送されます』


 聞くだけならとても未来的。


「へー。そんな便利なものがあるのに何で誰も使わないのかな?」


 なんてつい浮かれて聞いてしまったが、この街の背景を思えば容易に想像がつく。


『乗れば30%くらいの確率で自爆します』


「じばっ……!?」


『20%くらいの確率で成功します』


「あと50%は!?」


 口を紡いでしまったメイちゃんの『それでも聞きたいですか?』と言う無言の圧に黙る他なかった。

 この後、伝説の超サイヤ人に丸められてぶん投げられそうな形をしていると言うイメージも満更嘘ではなさそうだと戦慄する。


「私が乗るわよ」


「カナミさん、本当に大丈夫ですか? あの、それ」


「知ってる。けど、乗るか乗らないかで一々揉めててもそれこそ時間の無駄だし、私が成功したら皆も乗る。失敗したら潔く他の手を」


 普段、女にだらしないとばかり思っていた彼女の勇ましい決断力溢れた行為に私は思わず敬意を示した……が、そんな時間も与えてくれない程の一瞬。


「え、ばん……ぶっ!」


 慣性の法則に従って身体がねじ切れそうなほどのGがかかり、ふっ飛ぶ。

 哀れ、カナミさんはおおよそ、このビルの屋上から飛び降りたと然程変わらないだろう高速で天井に叩きつけられ肉片と化す。


 その名状しがたき光景に、吐き気を催し吐瀉する者まで現れるこの惨状。


「欠陥品ばっかりじゃないっ!」


 などと、いつも変わらない風景と思い始めている自分に嫌気が差す。


『アルファコンプレックスに欠陥品など存在しませんよ、全てが合理的で完璧なんですから』


「あぁ……ハイハイ」


『メイ……あんた、ずいぶん苦労してきたのね』


 一度は断るつもりだった手前で気まずいと思っているのか、ミコトの何とも言えない気まずそうな態度など私も初めて見た。


『いえ。身分を隠して暮らすのもいずれは慣れてきます』


 びちゃびちゃと降り注ぐ血の雨に混ざり、新しいカナミさんのクローンが降ってきた。 


 前の魔界TVの時にも思ったが、本当に命が軽い世界だ。

 表の悪魔の騒々しさや、発達した世界だったりで感覚が薄れてしまいそうだが根本的に死生観の違いを嫌というくらい思い知らされる。

 

「前の私は天井に叩きつけられて死ぬ欠陥クローンだったけど、今度の私は完璧です」


 私たち総出で消沈してしまったところ、雷さんは何かを思いついたように踵を返し走り出す。


「どこへ行くんじゃ!?」


「決まってる、車を借りるんだよ」


「ここにもレンタカーショップみたいなのってあるの?」


 ぼそっと小声でばれないくらいの声で呟く。


『まずIRには許可は降りないでしょうし……車も基本上級クリアランスの所有物ですし』


「まぁ、そんな気はしてたけど」


 そう言って、彼はどこかから車を一台引っ張ってきた。


「え、ちょっと……」


 わざわざ、もっと大きなワゴン車にでもすればいいのに何故12m級の大型トラックなのか。


『考えましたね……仕事に使う大型トラックであればIRも所有が認められている』


「感心してる場合!?」


 実際に所有者と思わしき人が追っかけている。


「こらぁ! 俺のトラック返しやがれ!」


「誰が返さないと言った! 壊れるまで借りておくだけだ!」


 この世界にも負けない横暴ぶりを発揮する雷さんであった。

 そんな窓なら危うくも顔を出す彼の真横へ銃弾が飛ぶ、向こうも大分容赦ない。


「ひぇ……あっぶね」


「お前ら、早く乗れ!」


「あ。はい!」


 私たちは急ぎトラックに搭乗する……のだが

 ただでさえ二人乗るのがやっとの運転席に、五人も乗っかってしまった。


 特に筋肉天使の空間の圧迫量が半端でないのだ。


「なんでお前ら荷台に乗らねぇんだよ」


「荷台にいたら格好の的じゃない!」


 ガヤガヤと大声が狭い室内に木霊する。


「あーもぅ。こんな時くらい仲良くすればいいのに……」


 なんとか窓に顔を押し付け、自分のスペースを確保しようとした時だ。


「どけっ!」


 雷さんが運転席より天使を投げ出してはアクセルを踏み、トラックは轟音を立てて走り出す。


「ちょっ……天使さんが!」


「うおおおおおおっ!」


 いや、落とされていない。

 腕の力だけでトラックの連結部にしっかりと掴まっている。


『流石は天使ね……』

 

 忘れていたが、天使は名前でない。

 悪魔のミコトと対をなす存在……のはず。


 少なくとも身体力はミコトにも匹敵する物がある。本当に忘れていたけど。


「ねぇ、ていうかこれ止まって来てない!?」


 あの天使の腕力があまりにも強すぎるせいで、トラックの運転席側が逆に引っ張られている。

 ギャリギャリということ人生において全くの初めて聞く音と共に、乾いた銃声が響く。


「この野郎、てめぇ!」

 

「しなばもろとも。貴様らも道連れになれぃ!」


「おおおおおっ! 前、前を見んか!」


 目の前に立ちはだかる巨大高層ビル。

 人の群れをかき分け、トラックは猛スピードで突っ込んでいった。


「っておあああああっ!」


 普通に考えれば、猛スピードで突っ込んだトラックなど急停車するがそこはアルファコンプレックス。

 

 ビルを突き破って、そのまま前進。

 なんで自分でも冷静に状況を観察できるのか、驚きが一周してどこか気持ち落ち着いてきていた。


 幸いにも、今のでトラックの持ち主を撒くことに成功したかに見えた。


「おわっ!?」


 車体ががくついた。

 さっきのギャリギャリという謎の音の正体は、タイヤを擦る音だったらしく、派手にクラッシュ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 前に一度ガタンと体がつんのめって、そのまま全員ハンドルを曲がりきれずに川岸へダイブ。

 トラックの助手席から身を投げ出され、私は鳥の気分を存分に堪能する。


「あばっ!」


 などと感傷に耽っている内にダイビング。

 一見川の底まで見えるほどキレイな水であったから、しぬことはないのでないかと


「ちょ……なにこれ、痛っ!痛いっ!」


 が、その実態は工場による汚染水にすっかり侵され切っているのか、皮膚を溶かしそうなほどの激痛走る川であった。


『アマテ、一瞬変わりなさい』


 川の中なら、バレることもなさそうだ。

 一瞬だけ意識を手放したことでアマテの脚力が両足に伝わる。

 思い切り水をかいて瞬時に川岸へ上がり、とにかく地面に転がって水けを払った。


 本当なら、すぐにでもきれいな水で洗いたいところだがそんな暇も場所もない。


「やれやれ、とんだ災難じゃったのぅ」


「あ。武将さん」

 

 一人だけ、途中で窓から投げ出されたおかげで水に突っ込むことは回避したのか。濡れた様子はなく、体を打ち付けるだけで済んだのは運が良かったのだろう。


「他のみんなは?」


「あの辺で溶けておるのがそうでないか?」


「え……」


 水の色が変わっている箇所が三か所ほど。

 どろどろの液体へと変わり果てた無惨な三人だった物の跡が残っている。


「トラックがなくなってしまったのぅ」


 替えのクローンが転送されてくるまでの間、次の足を探すことのが武将さんには大事なことのようだ。


『でぇじょうぶ。クローンがある……ってとこかしら』


「あはは……」


 実際、簡単に人が生き返れたりクローンが作れるのなら死生観もろとも覆ってしまいそうだ。


『その割に、さっきなぜ助けたのですか?まだアマテ様にはクローンが三機残っていましたのに』


『はぁ。ま、咄嗟に身体が動いたっていうか』


『ミコト様。やはり以前とは変わりましたね……以前はあれほど人間をお嫌いになっておられたというのに』


 シオンも、ミコトが変わっていたという話をしていた。

 彼女は私の何千倍もの長寿種である以上、10年も共に暮らしてすっかり姉のように気の知れた間と思い込んでいたが、きっと私の知っているミコトはきっとほんの断片に過ぎないのだろう。


 疎外感を感じていたところ、私の隣にいたはずの武将がいつの間にかいない。


「あ。いた」


 車を持った市民と何やら交渉をしているのか。

 三部のジョセフじゃあるまいし、大金をポンっと渡して数テンポで車を譲ってもらえるはずもなさそうだが。


「本来、人間とは生まれながらにしてすべてが平等であるべきでその自由は尊重されるべきなのです。その自由と平等を阻むのはなにか、そうあの汚れ切った頭のおかしいクソコンピューターであり機械王そのものです。おかしいとは思いませんか?この色と機械に支配され、格差の決まるおかしな世界を。あなたは本当に満足しているか。そんな現状を覆すためには何をすればいいか。そう、今こそ立ち上がる時であり、行動で示すべきなのです。その一環としててのものは平等にすることです。ずばり、私とあなたは平等でありその所有物も等しく平等に持つべきなのです」


 その途端、IRの市民の目から光が消えうせた。

 代わりに、とても幸せそうな充実と興奮に満ち溢れたような姿がそこにあった。


「プロバガンダ!」


 武将は自分の口調もキャラもかなぐり捨ててまで、一体どんな手品を使ったのかはあえて聞かないでおいた。

 

「さっきまでの俺は川に落ちて溶ける能無しだったが今度の俺は完璧さ」


 遅れて三人の新しいクローンが届けられたころ、武将さんはまるで最初から自分のものであったかのように迎え入れるのであった……。


 私達の旅路は続く。


 

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