市民、あなたは幸福ですか?
ここは強欲魔界……改めアルファコンプレックス。
一見、子供の頃に思い描いたような夢のある未来の世界……とは程遠い、行き過ぎた管理と思想矯正によって支配された反理想郷。
「話を続けます」
テーブルの上に差し出されたお茶へ手を付けつつ、私はメイモン=グリード改めメイと言う悪魔の話を聞く。
思えば私はこの時、とんだニアミスをしていたのだと驚かされる。
「私の兄、マモン=Ⅱ=グリードが知らずに掘り当ててしまったそれは『機械王ーーーー』の脳でした」
「機械王……!?」
「復活してしまった機械王は反魔王派だった悪魔に付け入り勢力を伸ばし、瞬く間にこの魔界を侵略……いえ、侵略などと呼べるものでありません、それはもはや蹂躙でした」
「魔王であったお父様は殺され、お兄様は囚われの身に」
「辛うじて私は……僅かな仲間の援護により身を隠し隠遁することができています」
静かに淡々と語る口調の裏、ギュッと膝の上で握り拳を力強く握り締めている。
平和だった世界から、兄と父を同時に失ったメイちゃんの心境はいかほどか、彼女の悲しげな瞳に私は胸を焦がされる。
『まさか、マモンがねぇ……』
「ミコト。助けてやれないの?」
そう言うと、メイちゃんは余計に悲しげな表情になり、ミコトもふぅ。とため息をつき私は何か余計なことを言ったかと口を抑える。
『私たち七つの大罪悪魔は、それぞれお互いのぶつかり合いによる魔界の消耗、無駄な争いを避ける為に古くから不可侵の法を取り付けているの』
要約すればミコトの父、ベルゼブブを筆頭に同格の悪魔が7体。それら全ての争いになることなど言語道断。
故に不闘の誓い。魔界内で起きたことは各魔界の責任ということのようだ。魔王同士による契約書も証拠もない『口約束』であるが、悪魔にとっての『約束』がどのような意味を持つかは理解したばかり。
「そんな……」
『それを分かってない訳じゃなかったんでしょ? 悪いけど、私らにできる事はないわ』
こういう時、ミコトは『魔王の娘』としての立場を押し通す。心の奥では父を尊敬しているからこそ、自分がその禁を破ることは冒涜と感じてるのだろう。
「でも、ミコトが助けるんじゃなくて、どっかから湧いてきた人間が勝手に引っ掻き回す分には全然いいんじゃない?」
「え……」
『アマテ、あんたまた……』
自分でも、変なこと言ったと思う。
けれど、彼女の悲しそうな顔を見て見ぬふりはできなかった。
「……その、えと。お気持ちは有り難いのですが」
メイちゃんが見ていたのは私の中のミコトで、多分眼中にもなかったのではないか。初めて彼女と会話をしたような気すらする。
『簡単なことじゃないでしょうけど。機械王と言えば私の祖父の世代、遥か昔の大魔王よ』
彼女は、いっそ藁にも縋る気持ちなのでないだろうか。
下唇を噛み締め、そっと解いてから私に向き直る。
「私も何から何まで助けてもらうつもりはありません……ただ一つ、お兄様を助ける手伝いさえしてもらえるなら」
「お兄様が解放できれば、まだ生き残ってる魔王派の者たちも決起し、立ち上がってくれるでしょう」
「その為に、今日まで用意してきた手段があります」
そう言うと、メイちゃんはちゃぶ台を裏返す。
まるでどこかの秘密基地みたいに、底面にスイッチがあり、それを押すと壁が静かな音を立ててシャッターのように上がっていく。
そこにあったのは、この魔界の市民の格好をしたマネキンが6体。いつの間にか、無機質な白ベッドは人体改造でも行えそうなほど機械に囲まれた秘密基地へと変化した。
「アルファコンプレックスの市民はそれぞれ6体のクローンを与えられており、意識と記憶を共有しているんです。故にここでの魔界の生活や行動の一切は管理されています」
「これは我々『元魔王派』が独自に開発した物なので、機械王の支配下から外れられます」
使い方はなんとなく察しついたとおり。あのベッドに寝て、ヘルメットを被ると壁のマネキンもといクローンに接続し、この魔界での行動を可能と出来るようだ。
「しっかし……魔界ってこう、魔法とか呪いとかそれこそミコトのいた魔界のファンタジーなイメージ強かったんだけど……今度はSFチックな」
『魔界と一口に言っても色々あるって言ったでしょ。遥か高次元にはそれこそ人間の想像つかないような魔界なんてゴロゴロあるわよ』
「……話を戻します。現魔界『アルファコンプレックス』の魔王となった機械王は未だ行方不明の肉体を見つけられておらず、不完全です。故に反乱分子の存在までを管理しきれていません」
見た、と言うか。この前に中を歩いたと言ったらどうなるか。ミコトがなにも切り出さないので私も迂闊なことを言わないほうがいいかと黙しておく。
どうせ言ったところでプラスには動かない、私だってこのまま永遠に見つからないでいればいいものだ。
「そこで、機械王は自らの手足となって反乱分子たちを始末する『トラブルシューター』と言う組織を作りました」
「トラブルシューター……」
「機械王は物を探す探知能力の高いお兄様に自らの肉体の在り処を吐かせるためにあらゆる手を講じているでしょう」
「しかし、トラブルシューターも一枚岩でなく機械王に与するフリをしながら密かに転覆の隙を伺う二大派閥があります」
「その内の一つに潜り込み、反逆の機会を伺います」
可愛い顔して大胆なことを言うと感心させられる。
ここまで用意するのも、並の苦労ではなかったはずだ。
私は、なんとか彼女の気持ちに沿って上げられないかと思考がよぎる。するとその時、いきなり天井のスピーカーからアナウンス前のチャイムが鳴り響く。
「配給の食事の時間です。出ないと反乱分子と思われかねませんから、ここに住まう者は必ず出なければなりません」
私たちがいた部屋はいわゆるマンションや寮のような風呂、食堂共有の建物であったらしい。
「細かいことは後で説明します。アマテ様、そこへ寝てください」
「後は決して生身では外へ出ないで下さい。コンピューターは自分の管理下にない生命を見つけるのは早いです」
「この部屋だけは唯一妨害電波を発していますが」
「わ。分かった」
私は、改造手術専用みたいなベッドに寝転がる。
自動でヘッドギアが目元にかかり視界が暗転、手足に枷のようなものがかけられ段々と皮膚の感覚がなくなっていくのが分かる。
次の瞬間、私の視界に映るのは先程窓の外から見えた景色。行き交う人々と同じスーツに身を纏った姿になった私は、完全にこの世界の一部として溶け込んでいる。
「あ、そう言えばミコト。いる?」
『いるわよ、シオンも近くいる』
言わば魂を元の身体からクローンに移し替えたようなものなのだろう。
「アマテ様。あまりミコト様との会話はお控えを。いつどこで監視の目が光っているか分かりませんので」
「あ、うん……」
何事もなく、スーツでなく元の紫色のキャミソールみたいな服のまま外へと出てくるメイちゃんに少し呆気に取られる。
『存在感を限りなく0に近づけているのね。意識してみようとしなければ貴女以外には見えてない筈よ』
「元は私の初めた闘いです。お傍でサポートさせていただきます」
一人で行くのかと思っていただけに、とても頼もしい。ミコトもいることだし100人力くらいの気持ちで食堂へ向かっていく。
「うわ。もうこんなに混んでる」
高校時代の食堂くらい混み合い、こことは反対側の入り口の外にまでその行列は及んでいた。
「健康的な市民は早寝早起きを欠かさないんです。健康は市民の義務ですから」
「配給の食事をここで受けます」
正直そんなお腹空いている訳でもないのだけれどトレーを持って行列に並ぶ。食券などはなく日々決められた食事を順番に受け取るだけならそう時間もかからなかった。
「トマトと、ナスとキュウリ?」
「健康には良さそうだけど」
「あっ……!」
私がそう言うと、なぜかメイちゃんが青褪めている。
その意図に気づく前に、和気あいあいと食事をしていた市民たちが一斉に立ち上がって私の方を見ている。
「市民トマトとはなんですか」
「は?」
市民たちの目に光を感じない。明らか、私を敵として認識している目だ。それが一つ二つどころでなく何百もの視線に晒されれば、ゾッと背筋が凍りつきそうにもなる。
「市民ナスとはなんですか」
「市民キュウリとはなんですか」
口々に語りかける彼らの目には生気をまるで感じさせない冷たい氷のような瞳であった。
「あなたのクリアランスに提示されていない情報を何故知っている」
「お前はコンピュータ様に逆らう反逆者だな!?」
「え、ちょ」
「ZAPZAPZAPZAPZAPZAP」
四方八方から放たれたレーザーガンによって私の身体はあっという間に蒸発する。
「なにこれぇ!?」
サーバーから断絶された私は、元のメイちゃんの部屋へと戻ってきていた。手足と視界が自由になっており、壁にあったクローンが一体減っている。
すると、今度は私の頭の中にメイちゃんの声が流れてくる。
『申し訳ありません、言うのが遅れました……アルファコンプレックスでは、最下層の悪魔に提示されてない情報を口にするだけで忽ち処刑されます』
「なにそのぶっとんだ世界!」
「そうなんです……それだけ、発言の自由も与えられていない世界へと変えられてしまいました」
私はまだ、この世界への認識が甘かったようだ。
「とにかく、もう一回やってみるよ」
「だから、あの世界のことをもう少し詳しく教えて」
付け焼き刃だけど、一先ず食べ物や動物などの機械でない物の名前は出さない。それに歴史上の人物とか悪魔、神などの言葉もさっきみたいに処刑されるらしい。
『特に魔王と言った単語には皆敏感になってます、寝息ほどの声で処刑されますので気をつけて下さい』
反対に車とかスマートフォンとかの機械類は問題ないようだ。
『うっかり口滑らせそうね』
「けど、やるしかないでしょ」
クローンはあと五体分。
二機目のアバターへ私の意識をアクセスさせる。
「はっ……!」
気がつけば、さっきの食堂の外だ。相変わらず何事もなかったように平穏な食事風景を見せる食堂。もう一度受け取ったなら食べたことでもいいだろうと私はさっさと行こうとした時だ。
「なんか……すごいお腹空いたんだけど」
いきなり、お腹の中身が空っぽになったみたくゴロゴロと唸る。
「申し訳ありません。多分クローンの誤差ですね」
「えぇ……嘘でしょ」
「二度目の配給はないです……」
盗られようが、失くそうが自己責任。今まで生きてきて経験したことがないほどお腹をすかせたまま、朦朧としてきた意識に、さっきと同じチャイムの後、アナウンサーの放送が聞こえてきた。
『市民No.IR〜』
『IR-02-08759955。至急ブリーフィングルームへ出動を命ずる』
それだけ言ってプツリと途切れてしまった。
その一息で覚えられそうもないIDナンバーみたいな不規則数字の羅列が数人分呼ばれていたようだが、その内の一つだけは私のことだと、普通に名前を呼ばれたみたいにしっくり感じられ、番号も頭に残っている。
「最後のは間違いなくアマテ様のことです。市民は基本コードで呼ばれますが、今のアマテ様でしたら普通に名前を呼ばれたように感じる筈です」
「えぇ。確かに、そんな気がしてた」
「それで、ブリーフィングルームってなに?」
と。周りに気を配りつつ、口元を隠して独り言を言ってるとは思われないよう注意を払う。
「あちらに見えます建物が『セントラルタワー』と言いまして、あそこで市民はトラブルシューターとしての仕事を受理します」
「おお……すっげ」
明らか人間世界では作れないだろう物理法則を無視し、周りの建物と比べても圧倒的に巨大な雲の上まで貫く建物の造形には感心してしまった。あの分なら、街のどこにいても目標を見失うこともなさそうだ。
早速、行こうと私は何気なく踏み出すがあまりの空腹によろよろと足がもつれる。自分ではまっすぐ歩いているつもりが、蛇行運転で足を黄色いコンクリート地にかけた時だ。
「え?」
「ZAPZAPZAPZAPZAPZAPZAP」
いきなり私は背後から射殺されるのだった。
あまりにも呆気ない、案外人の最後でこんなあっさりした物なのかもしれないと、私が物思いに耽っていると意識はまた元の部屋。
『申し訳ありません。説明が遅れていました』
曰くこの世界では、市民にそれぞれ階級として色が与えられていて、私たちはその最下層底辺『インフラレッド』である。一つだろうが上の階級に逆らうのは許されないどころか、ゴミ屑同然に扱われても文句すらいえないのだ。
『アマテ様はイエローの専用ルートを踏まれてしまい、クリアランス違反として処刑されてしまったようです』
「そんな……道を歩くのも一苦労なの?」
『こんな調子でこの先、大丈夫かしら』
まだ話が本題にすら入っていないのに、もうクローンが残り4機になってしまった。慎重に行かねばという思いもあったが、遅刻なんてしてまた無駄に残機を減らせない。
「あーもーとにかく、残り4機でもやってやる!」
3機目のクローンへ接続したその先は幸か不幸か。
お腹の減りが解消し、セントラルタワーの真ん前であったことへの都合の良さに私は感謝すらおぼえてしまった。
が、ここからが難題だ。
「ええっと。ブリーフィングルーム。ブリーフィングルーム」
入り口にモニターも何もないまま中に浮かんだパネルの地図がある。手で触るだけで簡単に動かすことができ、この建物の内装を知ることができた。
建物の外観に違わぬ広さでその長さなんと8378m。
全5000階と、魔界の物は何かと数の使い方がパワーインフレの進んだバトル漫画並みにでたらめだ。
「直接聞いても探してくれますよ」
「ええと、じゃあ……ブリーフィングルームってどこですか?」
275階と表示される。こういう時、ちょっと夢のある未来の世界みたいで憧れてしまった。
「275階ね……って、275階でも充分高いわ!」
ホールにエレベーターが12連。円を描くようにして設置されており、その辺りの配慮はなされているようだが……
「あぁぁぁぁ、もう!」
エレベーターの一番早そうなのでが1433階とか一々待ってもいられない。そもそも5000階の超タワーに12連のエレベーターで足りる筈もないのだが……。
特に足腰の弱ったお年寄りなんかも当然いる。
待つのには慣れているのか、その老人がただ漠然とエレベーター前に立っていた時だ。
「ちょっと……何す……」
脇から突然突き飛ばされたかと思えば、イエローの人たちが列に割って入る。ムスッと顔をしかめても、彼らにはまるでIRの人間を居ないものとして扱っているのだ。
「お爺さん、大丈夫ですか!?」
「あぁ。なんとかね」
私の手を借りながら立ち上がると、埃を払って後ろへ並び直す。あの調子では、また他の上の階級に突き飛ばされることだろう。
『耐えなさいよ、ここで逆らってもいいことはないわ』
「分かってるよ!」
つい、イライラして必要以上に怒鳴ってしまった。
お爺さんも、急に怒鳴られビックリさせてしまったようだ。
「アマテ様。階段がございますのでそちらへ行きましょう」
こんな悪辣な世界で何年と過ごしてきたのだろうメイちゃんのことを思うと自分が恥ずかしくなってしまう。
「あの……ごめんなさい。私、いかないといけなくて」
「あぁ。気をつけるんだよ」
この胸のムカムカする気持ちを何度も押し殺しながら、ここへ来て初めて私は人間と会話したような気がする。
私はあのヘラヘラと笑っていられる連中の背中へ舌を出すと、猛ダッシュで階段を駆け上がった。
健康は市民の義務とは言うけれど……
「うわ、なにこれ!?」
階段に蔓延る人の群れは満員電車さながら。
よく見れば、その殆どがIR……おおよそエレベーターを使うことも出来ないからと、考えることは皆一緒のようだ。
「割とよくある光景です」
「通してください」が通じることもなさそうだが、今更引き返すことも出来やしない。
「おおおおおおっ!」
私は意を決して階段の流れへと飛び込んでいく。
その30分後だ。
「無理、もう無理」
普段からそこまで運動しない、いや。体力に自身があってもまともに上がれるものか。275階を待つくらいなら、50階くらいなんてことあるか。
幸いにも、100階を越えた辺りでだいぶ脱落者が続出し、或いは運動の得意な人がさっさと行ったり途中の階で抜けたりと風通しは大分良くなっている。
「大丈夫ですか?」
メイちゃんは余裕そうだ。
と言うより、人間と悪魔で根本的に仕組みが違う、彼女はこのくらいでヘバッている私を不思議そうな目で見ているのだった。
『メイ、人間はそんな強くないからもう少し加減してやりなさいな』
「分かりました。では、アマテ様。私におぶさり下さい」
「え……!?」
最後におんぶされたのはいつ頃だろうか。
小3の頃に、お父さんにおんぶされて『もう持てないなぁ』とか言われたのが最後切りだった気がする。
今、私の前には父よりも遥かに小さな背中。
「いや、ちょ……これ」
私よりもずっと小さな女の子に背負われている。
恥ずかしいだとか、申し訳ないだとかいう感情を遥かに通り越して、まともに顔を上げられなかった。
『間に合わなくなるよりいいでしょ』
「そうだけど……そうだけどさぁ!」
私と言う重りを乗せているのに、私のペースに配慮しなくて良くなったぶん、動きがさっきよりもずっと軽快だ。トントン拍子に階段を駆け上がるよりも、最早跳んでいるくらいのペースであっという間に辿り着いたその先。
「到着です」
教室ほどの広さで、全面がクリアな青と紫を基調にしたケース状の輝きに包まれた眩い部屋だ。そこにいたのは四人の人影。恐らく私の他に呼ばれていた市民だ。
「遅い! それでも完璧で幸福な市民か!」
やはりセーフといえばセーフだが、一分前では遅すぎるようなもの。
「す、すみません!」
その内の一人に怒鳴られ、バイト初日に遅刻したみたいにビクッと肩を竦めた私は、恐る恐ると顔を見上げたその時だ。ぎょっと目を細めて、変な声が上がりそうになる。
「そうかっかしないの。すぐ怒りっぽいのは幸福でない証拠よ」
「ブハハハハ。まさかこの場に幸福でないものがおるわけがなかろう!」
「そうだ、俺を見ろ。筋肉があるから毎日が健康的で幸せだ」
(「……って! あんたらかい!」)
そう言いかけたのを私は飲み下す。
『魔界TVの時の変態四天王じゃないの』
元海賊のフリーター。須郷さん。
サイコレズビッチ。カミナさん。
武将。奮梃子丸さん。
あと、護衛天使であった筋肉天使。
いずれも魔界エンタメショーで会った変態四天王だ。
「俺は以前の勤めを果たしきれずに仕事をクビになったが、今やコンピューター様の忠実な下僕」
「おぉ。なんと幸福で完璧なのだろう、コンピューター様につくだけですべての幸せを享受できるとは」
誰に説明しているのか、筋肉を大々的にアピールする芸に無駄な磨きがかかっている。
しかし、あまり好ましくはなかったけれど忘れるには難しく、あれからそう間も空いてない筈だ。
にも関わらず、何か私のことをさも初めて会ったみたく、とても久々に会ったような反応と思えなかった。
何かあったのか聞きたい気持ちはあったけれど、発言一つ一つどこに地雷が埋まってるかも分からない中では下手な質問も出来ず、黙ってこのカオスな四人を眺めていた時だ。
「アマテさん、そろそろ」
私たちがこれから依頼を受けるべき相手。平たく言うなら上官が来るべき壇上へ下ってくることが電光掲示板から伺い知れる。一人用のエレベーターが直接繋げられているらしい。
さすがの四天王も、空気は察したかさっきまでのワイワイ感も抜けて途端に大人しく整列する。私たちがじっと見守りながら下ってきた人物は男性であった。
姿形は人間にとても近く、ヴァイオレットカラーのスーツに、威風堂々とした歩き方はどことなく気品を漂わせ、開口一番彼はこう語る。
「さて、市民」
「あなたは幸福ですか?」




