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ナンとも言えるお話し③


 大幅に無駄な時間を過ごした私たちは、どうしょうもない気持ちを抑えながら城下町でナンナンの調査に向かっていた組と合流を果たす。

 街には相変わらずナンナンが跋扈しているが、慣れてくればそんな大したものでもない。野良猫がそこらにがっているような物だ。


「どうだい? 兄チャン。これ、この呪いのマグカップいかが? 飲むと相手と両思いになれるわよ」


「そう言うのってさぁ。飲んでくれた時点で脈アリじゃない? 飲まないでしょ。嫌いなやつからの差し入れなんて」


「いやいや。それが、強制的にでも水に溶かしてでも飲ませさえすれば自然と両思いになれるのよ!」


「まじかよ、流石魔界だな」


「魔界じゃ略奪も寝取りも合法ね」


「やべぇな魔界。ひょっとして名前書くだけで人が死ぬノートとか経験値とかも売ってたりする?」


 素っ頓狂な顔してとんでもないことを聞くと魔界の店主は良くぞ聞いてくれたとばかりに同意するのであった。


「お題は100円玉でいいよ。人間世界の銀、アレ魔界じゃ中々取れないから価値あるね」


「おし。買った」


「なにやってんの」


「いい買い物したところ」


 と、一人目的を完全に見失っている彼を見て私は心底呆れるのだった。 本当に彼ならどこへでも順応できてしまいそうだ。


「ところで、そっちもやっぱり成果なし?」


「魔界の職安と不動産探すか?」


「そのどこまでが本気か嘘か分からないトーンやめて」


「ってのは冗談にしても、真面目になんか悪いこと考えないと」


「悪いことってまぁストレートな……」


 とは言ってもそのくらいのことをしなければならなくなってきそうだ。

 ナンナンを

 また、そんな都合のいいことがあるものかと困惑しそうなものだが意外にも声を上げたのは乃愛。


「あ、私。いいことを思いつきました」


 首からかけていたカメラを見て、何やら悪い顔。

 皆を集めて、一様にコソコソと耳打ちをする。


「えー……!?」


 その内容を聞いて、私は最初愕然とする。

 そんなうまく行くものかと言う疑念もあったけれど、聞くだけなら面白そうなものだ。


「よし、イタズラなら任せろ」


 乃愛さん主導で各自作戦の準備に入る。

 大学生にもなって、女の子一人ハメるためのイタズラの準備とか他人が聞けば何事かと言いたくなるような行為だが、こちとら生活がかかっている。


「題して女の子一人泣かすために大学生が寄ってたかってナンを投げつける作戦ね」


「言い方ぁ!」


『多少シオンの出てくる場所とか運任せになるけど、そこは私に任せなさいな』


「こんなこと言うのもなんだけど。ミコトはいいの? 私たちの味方して」


『いいのよ。ちょっとはお灸据えた方がシオンの為よ』


「シオンって……昔、なんかあったの? 例えば人間が嫌いになるような」


 悪魔が人間を見下してると言うのは聞いたけれど、シオンの場合は見下してると言うよりは、あの可愛らしい笑顔の裏に見え隠れする憎悪や猜疑心と言った感情。 


『あまり過去のことは突っ込まないで上げてほしいわね。悪魔もトラウマってのは存在するのよ』


「ゴメン……野暮なこと聞いて」


『いいのよ』


 気になることは多々あるけれど、今は私に出来る最大限のことをするだけだ。

 何もシオンの為だとか、気取ったこと考える必要もない。

 私が、私たちが早く帰りたいからやる。それだけで良いはずだ。




 それから、どれだけ時間が経ったか。

 ナンナンを投げる手はずの整い、トリナさんがシオンを連れてくることになっている。


「あーあ、ゾロゾロと群れちゃって」


 城下町。下級悪魔たちが怯え、私達が固唾を呑んで見守る中で相変わらず人を見下した態度のままやってきた。


 ここまではいい。

 私は、このまま気づかれないでさっさと終わってくれと言う気持ちを隠しながら、悟られないよう気を配る。


「ハイ。捕まえておいたから」


 虫網に一匹入れておいたナンナンを手渡すと、いい心がけだとばかりにひったくりさっさと格の違いを見せてやらんと振りかぶる。


「せーのっ!」


「ナンッ!」


 投げられたナンは豪速球で空を跳ぶその瞬間。

 空間が裂け、虚空の穴が開く。  


「オイオイ、シオン様の力強さで穴が開いたぞ!?」


 一体どれほど恐れおののく悪魔たちであったが、そうではない。


「え……?」


 なぜなら、投げた本人が一番驚いている筈だからだ。

 何故?と言う困惑した所へ答えを示すように開いた穴が摩擦によって焼け焦げた跡から燃え、答えが明かされる。


「嘘……!」


 その先は何もない地平線。


「大成功ーーー!」


 私たちは口々にハイタッチして喜びを交わす。 


「じゃあ、ナンッ!」


「私の番。ナンッ!」


 彼女自身、何が起きているのか分からずポカンとしている内に皆で寄ってたかってナンを適当に遠くへ投げ飛ばすだけで勝ててしまう。


「うそ……そんな」


「終わったようですね」


 その正体を明かすみたく、いきなりトリナさんがシオンの投げたナンナンを抱えてひょっこりと現れる。


「えええええっ!?」


 その人を見下す眼が見ていたのは、プロジェクターに映し出された映像。

 破けたのは視界全体を覆うほどの巨大な厚紙だ。


 ルールは山に向けて投げることだった。

 それが果たされず、あらぬ方向に投げてしまったからには記録はマイナス点……と言うのが半ば暴論に近い主張。


「なしなしなしっ!ぜーったいなし! ズルズル! インチキッ!」


 案の定、コントローラーを投げ出して大泣きする子供みたいな反応をする。よっぽど負けたことが信じられなかったのか、彼女の嫌がり方は尋常ではなかった。


「でも、本当うまく行くと思わなかった……乗っててアレだけど」 


 少し注意深く見られたらうまく行かなかった。

 と言うか私でも引っかかる気はしなかった。


 けれど今まで外敵と呼べる外敵もいなかったろう。

 どれだけ弱者が知恵を凝らそうと力でねじ伏せるだけの強さもあったろう。故に起きた油断、散漫した注意力。


 圧倒的な強者であったが故の勝利だと、私は思えた。


『往生際が悪いわよ』


「絶対絶対なし!」


 やはり彼女としてはそれが納得いかないようだ。


「おいおいおい。約束は約束だろ?」


「してないもんね! なんのことだが」


 とうとうシラを切り出す。

 ミコトも少しばかり怒った口調と言うより焦りにも似た表情を見せ始める。


『そのへんにしなさい』


「やだ! 絶対、絶対にやだ!」  


 城下町の外へと逃げ出したシオンを私たちは急いでその後を追う。

 ……のだけれど、何かが変だ。


「なぁ……なんか変じゃないか?」


「え?」


「最初、魔界来たときって俺たちあの子に追いつけなかったのに」


 それが今では、こうして私たちが普通に追いつけている。

 シオンは全力で逃げているはずなのに、あっさりと距離を詰めることすら出来てしまう。


 城下町が整備されていたから薄れてしまったけれど、法治圏内から一歩出ればそこは無法地帯。

 一歩先を歩くことすら困難なデコボコ道に、そこらで翼を生やした魔物たちがウヨウヨとしている。


「皆様。私かミコト様からは決して離れませんよう」


 最も、ミコトやシオン、トリナさんほどの格の違う悪魔に襲いかかることはないようだけれど、無我夢中で走っていればその内、崖際まで追い込み逃げ場を失わせる事ができた。

 

 とうとう逃げることを諦めたか、彼女は振り返り私たちを一瞥する。

 あの無邪気な笑顔など感じさせない本気で私たちを敵視している殺意の眼に、私たちは思わず動きが止まる。

 

「それ以上近づいたら、殺すよ?」


『やって見なさいよ。お互い本調子でなくたってアンタ1人くらい訳ないわよ』


「ちょちょちょ!? 私の身体でやるんでしょ!?」


 魔王クラス二人の姉妹喧嘩など想像したくない。 

 それも使うのは私の身体とアレばさすがに黙っていられない。


「オイオイ約束したろ? なんなら俺、録音してるぜ」


 有能株筆頭。そう感心していた私であったけれど、今の一言が思いがけぬ悲劇の引き金となるとも知らず……


「約束なんか……」


『シオン!』


「約束なんかしてないもん!」


『あのバカ……!』


 ドクンッ。

 心臓の高鳴る音がまるで山彦のように聞こえた。

 それは私の、ではない。


「あっ……が! がはっ」


 突然シオンは膝を付き、全身をガクガクと震わせ肉体の崩壊を始めた。


「なに、なに……!? どうしたの一体」


 口から蛇口を捻ったくらいの勢いで血を吐き、今にも死に絶えそうなくらい衰弱していく。


『……悪魔は魔界消滅か神の奇跡くらいの事でもなきゃ死なないけど、一つだけあるのよ。あっさり死ぬ方法が』


「悪魔は契約を何より重んじる種族、それは遺伝子レベル、魂レベルで刻まれた定めと言っていいほどに」


『その契約、つまり約束を破ると。肉体が拒絶反応起こして……死に至る』


「マジかよ……」


『チッ。まさかそのこと知らなかったなんてことあるまいし……』


 ミコトの言うように血を吐き尽くし、真っ赤に身体を染める彼女の肉体は、最早誰が見ても助からないだろうという確信があった。


「シオン様!」


「シオン、こっちに来て! 早く!」


 私は有無を言わさずに手を伸ばす。


『アマテ……』


「なんで私に……」


 彼女がいないと帰れなくなるとか、私の肉体に移せば延命できるのかとかそんな確信とか打算あって言ったつもりはなかった。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! このままじゃ本当に死ぬんでしょ」


 考えていたのは、彼女を死なせてはならないという気持ちだけだ。


「なんで……人間なんて」


 よろけたシオンの身体が崖の側へと揺らぐ。


「きゃあああああっ!」


 乃愛さんの悲鳴がこだまする中、私は駆け出していた。

 こういう時、ヒロイックに上手く手など掴めればいいのに。


「あ……やば」


 上着の裾なんて掴んで、重心がそのまんま背中によっていくものだから釣られて私まで身体が崖へと投げ出される。


「あぶねっ!」


 そんな私の背中の裾を握りしめてくれた土夜さん。


「大丈夫ですか?」


 目の前に広がる光景は底の見えない奈落の底。

 高所恐怖症でなくとも正直泣きそうだ。

 私の真横を小石が駆け落ち、闇の中へ吸い込まれていく。


「全然大丈夫じゃないんだけど……」


「私が殿を務めます、アマテ様。そのままシオン様を」


「そういう訳だから、本当早くして……人間は弱っちいからあんま長く持たないよ……?」


 こんなことなら普段からもっと鍛えておけば良かった。

 腕がブルブルと震えて今にも落としてしまいそうだ。


『シオン!』


「なんで……なんでさ、私。あんな酷いこと言ったのに」


「何でも何もないでしょ。貴女がいないと、ミコトが寂しがるから」


「何よ……お姉様の為とか言って」


「えぇ。本音を言うと、貴女がいないと帰れなくなるから!」


 段々と腕に余裕がなくなるごとに本音がダダ漏れだ。


「人間なんて……人間なんて……弱いくせに群れたがりで……」


ーーーーー


 それは彼女が今よりもずっと肉体的にも幼かった頃の記憶。


「私。シオンって言うんだ」


 人間の好きな悪魔がいた。

 子どもたちの輪に忽ち入っていき、誰とでも仲良くなれるとても気さくな娘であった。


『あまり人間と関わるのは感心しないな』


 しかし、この時。あまりにも幼い悪魔はもっとも聡い姉からの言葉の意味を理解していなかった。


 ある日、街に災いが起きた。

 目に見えない化け物が皆を苦しませやがて死に至らしめる災い。

 

 人は口々にそれを呪いと呼び、悪魔のせいと叫んだ。


「シオンちゃん、こっち。こっちだよ」


「早く着て」


「ここに来れば大丈夫」


 この時のシオンは、まだまだ無垢な子供であった。

 

「うん、ありがとう!」


 悪魔とはなにか。

 人間とはなにか。

 まるで理解していないまま、その言葉を額面通り素直に受け止め鉄の箱の中へと入っていった。


 ガチャリと上から鍵をかけられているのにも関わらず、きっと新しい遊び。明日にはみんな元通りだろうなどと考えていたのだろうか。


「お父さん、ここだよ」


 箱の外から漏れ出た声。

 シオンの視界に光が戻った視界の先は闇そのもの。


 大柄な鎧甲冑に身を包み槍を携えた大男たち。

 最初、事の真意すら分からないまま抵抗すらせずに捕らえられる。


「悪魔を捕らえたぞ!」


 鉄の輪をかけられ、大衆の前へと引きずられ、大量の薪の上に寝かされる。


「少女の姿をやつした悪魔だ! こいつは人間でない!」


「全ての災厄はこの悪魔の仕業だ!」


 投げ込まれた火が薪に燃え移り、油があっという間に延焼させシオンの身体を包み込む。


「私、何もしてないよ」


 彼女が苦しかったのは、こんな炎じゃない。

 炎などなんともなかった。


 それ以上に、友達に裏切られた。

 何度考えても自分が怒らせるようなことをしたと言う記憶もない。


「ねぇ。お願い……教えて、私なにか悪いことしたの?」


 彼女は何度も叫んだ。

 私じゃない。


 喉が張り裂けるほど、なみだが渇くほど何度も叫んだ。

 しかし大衆の声にかき消され、悪魔の戯言と断ぜられ聞き入れられることはなかった。


「なんで……なんでそんなことを言うの」


 皆が口々に幼い少女へ噛み付く。 

 悪魔のような顔で、こいつさえ死ねばそれで戻ると信じているかのようですらあった。


 この後、意識途切れた彼女が目にしたのは自分が二人の姉に助けられていたということ。


「大丈夫だった? シオン」


「お姉様……」


「悪い夢を見たのよ。貴女は」


「だから人間世界との干渉をするべきでないと言ったのだがな」


 彼女に残ったものは深い絶望と怨嗟。


 そして、二度と人間など信用しないという深い恨み。


 なのに今再び差し伸べられた手に対して、どうやってその手を取ればいいかわからなくなっている。


ーーーーー


「あああああああっ!」


 シオンの肉体が消滅していく。 

 間に合わなかったかという悔やむ間もなく、私の体が浮き上がる。

 これ以上は足場も限界とトリナさんが一気に私たちを引っ張り上げてくれたようだ。


「はぁ……はぁ……」


 間一髪、さっきまでの足場が奈落の底へ転落していくのを見届け、もし間に合わなかったらと思うとゾッと肝が冷える。


「シオン様は……!?」


 冷静さをかなぐり捨て焦った表情を伺わすトリナさんを見ることすら心苦しかった。

 彼女の最後が見えていたのは私だけ。


 その光景をどう伝えたものか。私は、言葉に詰まりながらもまずは結果から話そうとしたその時だ。


『……いるよ、ここに』


 勝手に動いた私の口から声がし、私の胸の奥から感情がこみ上げた。


『シオン! 間に合ったのね!』


『……』


 私の心の中に感じる二つの気配。


『その……えと』


 未だに私たちを信じた訳じゃないのだろう、嫌々で入ってやってるという気持ちをビンビンに放っている。

 けれど、今までで一番心地よい感じのオーラだった。

 

『ありがと……』


 素直になれないそのお礼一つでなんだかホッと胸をなでおろす。


 疲れてしまったのか今は眠っている。

 あれだけ振り回されたのに寝てる時だけ可愛いのは悪魔も一緒かと、私が安堵している時だ。


「ねぇ、ひょっとしてミコトも誰かと約束してる?」


 咄嗟に閃いた、自分ですら思いも寄らない言葉だった。


『え?』


「私のこと、誰かに守ってってお願いされたりとかしたの?」


『……貴女、時々。変な時に鋭いわね』


 ミコトの呆れたような物言いは私の中に確信を与えるのに充分なものだった。続けて、口から出そうになった私の声を紡ぎミコトはいつもの優しげな声色になり


『ただ。貴女のことを守ってるのは、自分の命惜しさじゃないって事だけは言える』


「……そっか」


 ミコトの真意は分からないけど、少なくとも今の私にはその一言だけあれば十分だった。


『で……まぁ、シオンが起きるまでは帰れないんだけど』


「もうなんでもいいよ、帰してくれるなら」


 結局、魔界暮らしの日々を送る羽目になる私たち。


 トリナさんが、衣食住を送るのに必要な物品は用意してくれるし、毎日食事も出るから不満はない。

 だが、兎にも角にも退屈であった。


「スマホ……持ってきていないし」


 最初こそ、物珍しさに観光気分で足繁く城下町へ通っていたが、人間の感性で遊べるような物はなくひたすら暇を持て余す。

 ベッドの上でゴロゴロと寝転がる半ば空虚な日々を送っていた。


 そんなときであった。こちらの方をちょっとだけ見てる女の子が一人。紫色のキャミソールを着つつも尖った耳に、背中に持った大きな黒いカラスの翼から彼女が悪魔であるのはすぐに見て取れた。


「ところで、あの子も妹?」

『え……? あ、メイじゃない』


 気づかれて、ビクッと首を竦めながらこちらへ入ってくる幼い……とは言えきっと私より何倍も歳上なのだろうけど、見た目は小学生くらいの小さな女の子だ。

 裸足のまま、ヒタヒタと足音を鳴らしながらこちらへやって来ては深々と頭を下げた。


「どうも。お初にお目にかかります……アメイモン=グリードと言います」

「こことは別の異世界の魔王『強欲の悪魔』の娘です」

「魔界って他にもあるんだ」  

「それこそ、星の数ほど存在してるわよ。貴女のいる人間世界も人間魔界って呼ぶとこもあるらしいし」

「行方不明と聞いておりましたから、ご無事で何よりです」


 物腰は柔らかく、丁寧で腰の低い姿勢に思わず小さいながらしっかりした子だと感心してしまう。多分、私よりも数倍も歳上なのだろうけど。

 礼儀正しいと言えばトリナさんもそうだったけれど、ビジネスウーマンと言ったイメージの彼女とは違って、メイちゃんはどちらかと言えばお嬢様的な柔らかさを思わせる。

 しかし、どこか自信なさげにモジモジとしており、その辺り年相応?と言うイメージではあった。


『それで、ベルが来るってことはよほどのこと?』


 にも関わらず、ミコトは少し上からと言うか。簡単にイエスとは頷かなさそうな雰囲気があった。


「はい。私の魔界の……今後にも関わるほどの」


 今にも泣きだしてしまいそうになる彼女の顔を見てハラハラとしてしまう私だったが、ミコトもさすがに無下にはしないよなという期待を込めた気持ちを送ってみる。


『……まぁ、話くらいなら聞くわよ』


 そう言うと、パッと明るくなったメイちゃんは早速と言わんばかりに空中へ円を描き白い靄のようなものを出現させる。そこを通ればすぐに着くという話通り、私は靴を履き直してその靄の中へ入っていく。


『あとちょっと早く来てくれてたら、こんな面倒なことにならなかったんだけどな……』

「はい?」

『こっちの話よ』


 私の視界が一瞬白い光に包まれ、何も見えなくなったと感じた直後にはもう次の視界が開けていた。


「ここが……強欲魔界?」


 壁から床まで、ゴミ一つ。シミ一つとしてないまるでサイコロの中に閉じ込められたような立方体の空間。そこにあるのは小さなベッドが一つとちゃぶ台だけといういやに質素な空間だった。


「いえ。私の部屋です」

「あ……あぁ、そうだよね」


 コントみたいなことを言った私は、慌ててもう一つ気づいたカーテンを開く。


「嘘ぉ……」


 開幕から私は思わず空いた口が塞がらなくなる。

 そこはまるで子供の頃に描いたような未来の世界。


「ここは元強欲魔界……でしたが、ある日。復活してしまった旧魔界の魔王の侵略にあってしまったのです」


 青い空へ突き刺さるように雲まで届きそうな高いビル。

 車は空を走り、白いタイツのようなスーツに身を包む人々が行き交うそこはとても侵略があったとは思えない賑わいであった。 


「表向きには平和に見えるでしょうか」


 私の考えを汲み取ったみたくメイちゃんが悲しげな声を挟む。その言葉のとおり、窓の外では人がいきなり銃で撃たれたのだ。


「え……!?」


 それも、通行人まで混ざり一人の人間にやり過ぎでないかというほど身体が粉々になるまで撃ち尽くす。

 一体彼がどれほどの罪を犯したというのか。


 しかし例え彼が大罪を犯しいたとしても、子供から大人まで人を撃ち殺したにも関わらずそれが当たり前であったみたいに元の日常を、私が知る日常となんら変わりない行動を取る。


「なんなの……ここ」


 たったそれだけのことで、異様な世界であると戦慄する。

 

「ここは偽りと狂気の世界……誰もが人を信じ

ないながら幸福と完璧と言う矛盾した世界」


「それこそ、この現魔界『アルファコンプレックス』です」



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