さあ、もう終わりにしよう
急ぎ足ですみません!
「ここが、善の森…いや魔女の森の入り口か…」
「オルセンの村人も今朝方二人の女性が森に入っていく姿を見かけたと…皇家の紋が入った馬二頭も繋がれていましたし、この森に入ったのは間違いなさそうですね。」
苦い目で森を見つめるゲオルグに、ランドが補足を伝える。
オルセン村から森の入り口が見える位置に兵は待機していた。馬達が森の不穏さを感じ取り興奮するため、あまり近くまでは寄れていない。
「俺は、森に入り様子を見てくる。」
「し、しかし閣下!森は危険ですっ!」
「危険なことなど、今日までも多々あっただろう。」
「この森は違います!今までの敵は人間です。力が知れています。ですが、魔女の力未知数です!何が起こるかなど誰にも予測できません!」
一歩森に入ったらどうなるなかわからない。そんなことはゲオルグにもよく理解している。魔女に見つかり呪われるか、それとも永遠に暗い森を一人で彷徨い続けるか。
だが、森の中に入りエステル皇女を探す。それ以外にこれ以上ゲオルグが打てる手立てはない。
ただ、黙って待っているのはもう嫌だった。
十年間、彼女が眠り続けるのを黙って見ていた弱く浅ましい自分。
もう呪いの呪縛から解放されたい。
全てを終わりにしたいと、そう思った。
今、ゲオルグの前にいるのは目を覚ました、成長した彼女だ。逃げ続ければその呪いはゲオルグについて回るだろう。
エステルときちんと向き合おう。
もちろん、自分の気持ちともだ。
それにはまず、無事彼女を見つけ出さなければならない。
だから、俺はー
「将軍閣下っ!森の中から人影が…」
どこからかゲオルグに向かい声が上がった。ハッ!と1秒遅れて反応したゲオルグはすぐに、入り口を注視する。部下の言う通り、木々の隙間から人がいるのが見えた。
「一応、武装させますか?」
魔女かも知れません、と絶対的指揮官であるゲオルグに伺いを立てるランドにゲオルグは、
「いや、必要ない。」
と命じた。
この距離からでも分かる。こちらに向かい出てくる人物が、エステル皇女であることが。
ゲオルグは、はっきりと感じたのだ。
エステルが森を完全に抜けきる前に、ゲオルグは馬を降りて彼女の元に駆け出した。後ろからランドらしき人物がゲオルグの名前を呼んでいたようだが、彼には届いていなかった。
今、彼の耳に聞こえるのは、自分の心臓のうるさい鼓動だけだ。
昨日まで感じていた柵は彼の心中から嘘のように消えていた。
その変化は、ゲオルグ自身が笑ってしまう程、著しかった。
直ぐに彼女の元へ駆け出してこの腕に抱きしめ、その存在を感じたい。
と、心は素直に脳に指令を送る。
体は心より先走り、駆け出した足は全速力だ。
「ハアッ…ハッ…ア…。」
だから、エステルの元に辿り着いた時には、息は荒く心臓の音は更に煩くなっていた。久々の全速力に流石のゲオルグも膝に手をつき、きちんと話ができるように呼吸を整えようとする。
だが、ゲオルグに息をついている暇などなかった。
ーパシンッ!
と、突然頰に痛みが走ったのだ。
一瞬、何が起きているのか分からなかった。
そして、ゆっくり目線を目の前の人物に向ける。
そこにいたのは確かに、あの皇女エステルだ。
だが、彼女は平手型にしたままの利き手を赤くしゲオルグを見ている。その瞳には怒りの色が伺える。
ー自分の予定と違う…
と数時間の別れながらも感動の再会を想像していたゲオルグは、少しばかり嫌な予感がした。




