始まりの場所
冬休みの休載ありがとうございました。
また連載開始します!
今年も、よろしくお願いいたします!
ナフル皇国王城の一室。
朝日の柔らかい光をうけて、一つの影がベッドから起き上がった。
しばらくその影は動きを止めていた。が、何か考えが決まったのか、少し先程より力のこもった目を誰もいない空間にむけ、
「決めたわ。」
と思いを言葉にする。
そして、行動あるのみとばかりにすぐにベッドから出て窓辺にその足を向けた。窓を開け、何をするのかと思えば肩にかけていたストールをハラリと外に投げる。二階の窓から落とされたそれは、一度ふわりと風に乗ったかとおもえば地面に着地した。 無事の着地を見届けた影は今度は窓とは逆の方向、部屋の出口に向かう。
そして意図して困り眉を作り出し、「すみません…」と扉の向こうにいた人物に声をかけた。
「何?!エステル皇女が消えただと?」
朝日が昇ってからそう遅くない時刻。いつもなら穏やかな静寂がある時間帯であるが、どうやら今日はそのいつもではなかったようだ。
「ひえっ!あ…あ…」
熊将軍と恐れられるゲオルグに問い詰められた兵は縮みあがり、ガタガタと震えだす始末である。
「閣下落ち着いてください。怖がらせては出るものも出ませんよ。」
その様子を見ていたランドが、流石に可愛そうだと仲裁に入った。だが、ゲオルグは、
「これが、落ち着いていられるかっ!」
と更に怒りを露わにした。普段は誰よりも感情をみせることがない彼がここまで変化するのはエステルが関わる時だけだと長年連れ添ってきたランドには分かっていた。だが、今は兵を責める時ではない。消えたエステルを探し出すのが先決なのだ。だから落ち着け、とランドはしばし分からず屋な上司を説得した。
「消えたとはどういうことだ。説明しろ。」
冷静さを顔だけではあるが取り戻したゲオルグは、姫がいなくなったと報告しに来た兵に改めて尋ねた。
「…は、はい。実は…」
早朝、いつもの通りゲオルグとエステルの護衛を交代した彼は扉の前で待機をしていた。エステルが目覚めた後、彼女の部屋の中に入れるのは許可を得たものと、侍女、非常事態のみと警護方法が変わった。だから皇女殿下の顔を見ることがなくなった彼が、自ら扉を開けて顔を出したエステルを見た時は驚いた。また雲の上の存在となってしまった皇女が一護衛兵に話しかけるとは、思ってもいなかったからだ。
「すみません…。」
見張っていた静かな扉が開き、そこから顔をのぞかせた天使に兵は狼狽えるしかない。
「エ、エステル皇女殿下っ?!ど、どうされましたか?」
「実は、あの、大切なストールを外に落としてしまったの。それで…その…申し訳無いのだけれど、外に取りに行っていただけないかと思って…」
目線はチラチラと申し訳なさそうに下を彷徨いながら、華奢な体を少しモジモジさせる皇女はある意味天使ではなく小悪魔と言えた。上目遣いで「お願いできますか?」と破壊的な可愛さで頼まれては、一度いや…と躊躇った兵も断れるはずがない。
「で、部屋の前から離れたと…全く、姫さまが美しすぎるのも問題ではありますね、ここまでくると。」
まんまとエステルの小悪魔大作戦に乗り逃げられた兵は、肩を落とし二人に見せる顔がないと体をすぼめている。
「まあ、貴方の処遇はこの件が落ち着いてからにしましょう。話を聞く限り、その隙を待って姫が拐われたというよりは姫自らが逃げ出した可能性の方が高そうですね。閣下、ここは表立たずに我々だけで…」
兵の話を聞いたランドは、エステルの少しばかり不可解な行動からそう判断し上司であるゲオルグに賛同を得ようと話を振った。
「閣下?」
ゲオルグは仕事となれば頭がよく回る自慢の上司だと、ランドは口には出さないがいつも思っていた。エステルが今は誘拐でなかったとしても、彼女が今城から逃げ出していると知れればそれを利用とする輩が出てくるに違いない。だから、あまりこの件は公にしないほうがいいだろうとゲオルグが判断するとランドは考えたのだ。
「閣下!どうしたんですか?大事な姫が姿を消したんですよ!早く指示をください。」
「指示…ああ、指示だな。よし。」
ランドに急かされ、ゲオルグはようやく考えをまとめたようだ。ランドもランドで自分がこれからやるべき事を脳でシュミレーションしていく。だが、それに続く上司からの指示は想像していたものと違っており、すぐにその脳内シュミレーションは無駄なものとなる。
「よいか、南軍総力を挙げてエステル皇女を探し出せ!」
「かしこまり…って、えええ?」
ーランドが考えていたよりも、ゲオルグのエステルへの執着は深かった。
そんな城での騒ぎも知らず、二人の人影が薄暗い森の中をさまよっていた。
「姫さま…帰りませんか?やはり、護衛も付けずに外出なさるなど…しかも、この場所とは…」
そう不安げな顔をみせるのは侍女のミーシャであり、
「巻き込んで悪いとは思ってるわミーシャ。」
彼女とは反対に心に決意を燃やす人影は、皆が行方不明と騒ぎ立てるエステル皇女であった。
「でも私は、確かめたいのよー真実を。」
彼女は、護衛もなしに暗い森を行くあてもなく進む。
行き方も、地図もわからないが、目的だけはハッキリとしていた。
そう、そこは全ての始まりの場所ー
「魔女」のいる森へ。




