心境の変化は決意を生む(1)
「姫様、御気分が悪くなりましたらすぐにお教えくださいませ。」
「大丈夫よ、ミーシャっ!ほら、フィッシャー先生もリハビリもかねて外に出なさいっておっしゃっていたじゃない!」
だから大丈夫とエステルは腕の筋肉を見せつけるポーズをとってみせた。が、エステルのか細い腕に筋肉などあるはずもなく、返って貧弱さをアピールしただけだった。そんな彼女にミーシャは苦笑いするしかない。賢く可愛らしいご主人様ではあるのだが、子供らしくどこか抜けた面を見せる時もある。
エステルが目覚めてから早一週間がすぎた。相変わらず夜はゲオルグが警備を担当していた。彼曰く夜勤は人手がたりないらしいのだ。昼間も何かと理由をつけては部屋に顔を出し、時に窓辺にエステルを運んでくれていた。だがフィッシャーからもう好きに歩いて良いとの許可がおりてしまった。だがら、ゲオルグに会う時間が減るのではとエステルは危惧していたのだ。
「姫様はすぐフィッシャー様のお名前を出されますが、本当はあの方にお会いしたいだけではありませんか?」
「ばれてた?」
ほら、また、とミーシャは茶目っ気のある顔をしたエステルをみて思った。いたずらがバレてしまった子供のようにあははっとエステルは頭をかきながら笑う。
「ばれるも何も、散歩がてら軍の訓練場に行こうなど普通の女性が言うものですかっ。」
エステルがフィッシャーに外出を許可されたのは昨日の昼。次の日には散歩よ!散歩!と楽しそうにはしゃぐエステルだったが、その魂胆はただゲオルグの勇姿を見たいという下心が見え見えなのであった。
「全く、あの強面の熊将軍のどこに姫様はお惹かれになったのです…熊ですよ?熊!」
訓練場へ通じる道を並んで歩きながらミーシャは少し呆れ顔で気になっていたことを訪ねた。
「……っれ。」
「え?なんと?」
なぜか顔を真っ赤にしてミーシャから視線を逸らしたエステルはボソリと早口で答えたのだか、
「だから、一目惚れ、なのっ!」
聞き返されて、体の音量調節が壊れているのか今度は大声で返してしまった。その内容も内容であるから、エステルの顔は火照り息は少し荒くなる。
「へ。」
一目惚れ、なんて物語の中の話だと思っていたミーシャは一瞬その理由に思考が止まってしまった。もしも、ゲオルグがエステル以上に美しく優しいオーラを醸す絶世の男であればまだしも、相手は先程からミーシャが口を尖らせていう熊なのだ。
「別にいいじゃない!もう!」
プィッ、と恥ずかしさと少し拗ねたような気持ちでエステルは首を振った。
軍の管轄区に入る入り口には門兵が立っていて、エステルもミーシャもゲオルグの居場所を知らないため二人は声をかけることにした。すでにエステルは散歩という名目を破り捨て、彼に会うことに集中していた。
「すみません…」
「なんだ?部外者は立ち入り禁止だぞ。」
エステルより一回りも大きい兵士は何が何でも通さん、という雰囲気で目も開けずに返答した。
「あの、私。」
もちろん、ここで退くエステルではなかったのでもう一度話しかけた。恋する女は強いのである。
「だから、今俺は…いそ……って、え?天使?」
「…?」
食い下がった見ず知らずの女性にイラつきながら、顔を見てやろうと男は目を開いた。そして、エステルの顔をみて顎が外れるのではないかというくらい口を開き驚愕の顔をした。
「いや、しっかりしろ!俺!」
パシンッ、と男は両手で頰を叩き自分で自分をいさめた。
「あの…?私、ゲオルグ将軍に用があってきたのですが…」
エステルはそんな兵のキャラの変化にはてなマークを浮かべたが、ゲオルグを探すことが今の彼女には優先であったのですぐに話を流す。
「天使が俺に向かって喋ってる。って、今ゲオルグ将軍っていった?」
「はい。南軍の将、ゲオルグ様に。」
エステルは、ゆっくりはっきりと口を動かした。先程も別段小さい声ではなかったのに、彼は聞き返したのだろうか。
「えーー!君がかい?まっ、まさか、脅されてたり…。」
兵は兵で本気でエステルがゲオルグに迫られているのではと心配をしていたわけで悪気は無かったのだが、彼女は好きな人をそう表現されて少し怒モードになる。
「そんな!誤解ですわ!ゲオルグ様はお優しい方で…」
「将軍が…優しい?嘘だ…あれは鬼だろ!」
未だにゲオルグにエステルが会いにきたと信じられない男は、日常のうっぷんも入っているだろう、本音を口に出し始めた。エステルはエステルで彼のいいところを理解して貰いたいとやっきになってしまう。
「なんだ、騒がしいな。何かあったのか。」
そんな二人の間に、エステルの知らぬ声が割って入った。
ありがとうございました。




