証拠は多くを語る(1)
よろしくお願いします。
次の日エステルが目を覚ますと太陽がもう顔を出しており、ゲオルグの姿はもうなかった。少し寂しい気もしたが、当分は夜会えるのだからと言い聞かせる。
よいしょっと、体を起こして部屋を見渡した。カーテンから光が差して部屋をうっすら明るく照らしている。そこに影が写って、エステルは顔を上げた。
「おはよう、ミーシャ」
この部屋に無断で入れるのは皇家と彼女くらいなものだ。そんな親しげな笑みを朝から浮かべるエステルと目があったミーシャは、動きを止めた。
「どうしたの?固まって。」
エステルはおかしそうに首を傾げる。
「また、姫様におはようと言われれ朝がくるなんて…と思うと、また…」
昨日までほかの人間とは違い朝になっても目を開けることのなかったエステルが、今日は太陽の光を受けて自分から起きたのだ。ミーシャの涙腺は昨日からもうずっと、エステルのせいで壊れっぱなしである。
「ミーシャっ、もうすぐ泣く!」
「すみませんっ!…姫様、御気分はいかがですか?」
「フィッシャー先生にも見ていただいてるし、体調的にはなんの問題もないわよ!
あーっ!早く思いっきり外を駆け回りたい!あの白き朝花の丘は10年変わらず健在なのかしら…」
もうミーシャを泣かせまいと、エステルは大げさに元気をアピールした。実は昨日途中フィッシャーがエステルをみに顔を出し、その際軽く身体の異常がないか検査してもらっていたのだ。体を動かしていなかったため筋肉の衰えは多少あるものの、ほかは全く異常なしとのことだった。
「クスッ、元気があるようで安心いたしました。ただ、ご無理は禁物ですよ。体調は良いといっても体力はありませんからね、言われた通り駆け回るなどもっての他、歩くことから徐々にですよ、姫さま。」
まるで、子供に言い聞かせるように、ミーシャは人差し指を立てながら話した。それに乗って、
「はーい!」
エステルも手を上げて可愛らしく返事をする。
「素直で大変よろしいですわ。
さあさあ!おはなしはここまでにして…姫様、一度上を取り替えさせていただきますね。」
「ありがとう。お願いするわ。」
では、とミーシャはエステルの寝着のボタンを上から一つずつ外していく。上とシャツを脱がせ、一番したの胸あてを外されていた時、エステルは自分の体の違和感に気がついた。
「あら、何かしら…この赤い痕…汗疹かしら。」
それはまるで計算されたかのように下着で丁度隠れる位置にあり、皆には見えていなかったのだが赤い虫刺されのような痕だった。数点存在するそれを見たエステルは、昨日の夜暑かったのかしらと1人首を傾げる。その赤い痕をみたミーシャが、大きく目を見開いたことにも気付かずに。
「あんの熊将軍がっ!」
「ど、どうしたのミーシャ?!」
突然の怒鳴り声にエステルは、びくりとした。ミーシャは基本エステルに対しては穏やかに接していた為、初めてみる彼女の姿にエステルは少し動揺した。
「あ、いえ!なんでもありませんよ、姫様。
そうですね…昨日は少しむれましたからね。私も布団一枚で寝ておりましたから。」
「…そうね。」
どこか腑に落ちない点を感じながらもエステルは、ミーシャに身を任せ新しい服を身につけた。忘れてはいけないが、エステルはこの国の皇女である。そんな彼女の私室が温度管理されていないはずはないのだが、体は大人でも10年分の知識しかないエステルには他の理由が思い浮かばなかった。
「姫様申し訳ありませんが、私たいへん重要な用事を思い出しましたので一度下がらせていただきます。
すぐ戻りますが、それまで別の侍女をおくりますので。」
エステルの着替えを完璧に仕上げたミーシャは、脱いだ服を手に抱えながら言った。落ち着いているようにも見えるが、その声はどこか焦りを滲ませている。
「ミーシャが忘れるなんて珍しいわね。」
「申し訳ありません。」
「いいのよ。まだ、お腹もあまり空いてないし。
急がなくて大丈夫だからね。」
エステルはミーシャに絶対の信頼を置いていた。だから、何の疑いもなく彼女を送りだす。
「ありがとうございます。では、失礼いたします。」
ミーシャもそれに応えるべく、行動にでた。
「おはようございます、閣下。
昨日もお変わりなく…では、なかったようですね。
部屋に入ったランドは上司の顔をみて、返事を聞く前に答えを出した。エステル皇女の話はいまや皆が知る事実であった。皇帝は下手に隠すよりはと、エステルが眠りについてすぐに国民に一連のあらましを伝えていた。ただし肝心の「魔女の呪い」の部分だけはオブラートに包まれて、だ。呪いを受けた皇帝と呪いを授けた魔女への不信感は、反乱につながりかねない。その事細かな真実を知るのは、一部の関係者のみであった。
「驚きましたよ。でも、何もしていないのに目を覚まされたとは…魔女の呪いって案外弱いんですかね。私はてっきり、我慢できずに閣下が姫様を襲ったのかとばかり…」
本人が言い返さないことをいいことに、ランドはつらつらと考えをのべていたのだが、
「…あ」
とゲオルグの顔を見て言葉を止めた。
「どうした。」
「…閣下、え?襲ったんですか?」
まさか…と空いた口に手を当てランドは驚愕の表情を浮かべた。
「…」
「ほら!今!耳が少し動きましたよ!」
ゲオルグは表情に乏しいが、長い付き合いのランドにはある程度の感情の変化が読み取れる。耳がぴくりと動くのは動揺している証拠だ。
ーでは、彼は何に動揺したのか。
「…」
「閣下!」
先ほど自分が発した「姫様を襲う」という単語にゲオルグが動揺したわけではないと、ランドは願ったがその願いは鬼の形相で現れたミーシャによってすぐに壊された。
「失礼します、ゲオルグ将軍の顔を一発殴りに参ったものですが。」
少し息を切らせながら現れた侍女のいる入り口の方角に、二人の視線はすぐにむいた。彼女は一介の男ですら目を合わせたら逃げ出すゲオルグを、殴りに来たらしい。
「だれだおまえは。」
ゲオルグは、いつも以上に不機嫌そうな声を出した。
「閣下、彼女はエステル皇女の第一侍女のミーシャ殿ですよ。
…まさか閣下、姫様だけには留まらず侍女にまで手を…」
ランドがフォローのつもりか口を挟んだが、かえってそれは逆効果で地雷を踏んだ。
「ランド、おまえクビになりたいのか?
で、ミーシャと言ったか。何の用だ。」
「何の用かお分かりでしょう?ロリコン将軍閣下どのっ!姫様に関することですが、お時間を今つくっていただけますか?
まあ、拒否権などございませんが!」
ミーシャは反論するすきなど与えまいと、ここに来る間に考えたセリフを叫んだ。
「…ロリコン将軍。」
そこに反応したのはやはりランドである。
「ランド、おまえは部屋からでろ。」
「え、閣下?」
これから面白いところなのに、とランドは食い下がろうとしたが、
「ー命令だ。今すぐこの部屋から出ていけ。」
ゲオルグに低い声で命じられて名残惜しそうに部屋を退室して行った。絶対後で聞き出してやる、と内心で密かに決意しながら。
入り口に立っていたミーシャはランドが部屋から少し離れるを目で確認した。
そして、扉を閉めゲオルグの前に向き直る。
「今朝姫様の下着を取り替える際、鎖骨の下から胸にかけて赤い跡がありました。
姫様には蒸れたあとでは?と説明しましたが、あれはそんな痕ではありませんでした。
私にはわかります。
あれは、閣下が姫様につけた大量の吸痕ですね。」
次話に続きます!
少しいちゃいちゃをいれる予定です(^^)




