5話 街で冒険者になった。
心理描写って難しい···。
『なぁ、アオイよ。俺にも相談の1つくらいあっても良かったと思うんだが?』
ギドからテレパシーが送られてくる。
しかしその本人、もとい本竜の姿は見えない。
それもそのはずである。
ギドは今、私のリュックの中に居るのだから。
その理由は至極簡単なことで、周りの人間を驚かせない為であった。
ここはピスカの入場門で、私は行列に並んでいるところだ。
人気のある街だけあって行列にはそれなりの長さがあり、まさしく長蛇の列という感じである。
まだしばらくは街に入れないことにゲンナリしつつ、小声でギドの質問に答える。
「ごめんね? でも別に異論はないでしょ?」
『まぁ、無いな···。いや、そうではなくてだな! <ホウレン草>は社会人のマナーだろうという話をしているのだ!』
このドラゴン、なんで日本社会のマナーを知っているのだろうか。
ドラゴン社会にも企業があるとか?
···無いですね!!
···。
······。
どうしよう、すごく暇···。
*
特にする事が無かったので、フランカちゃんに遊びを教えながら待つこと15分。
ようやく私達の番が回ってきた。
石造りの詰め所の横で、若い衛兵のお兄さんが背筋をピンと伸ばして立っている。
オーガスさんが話しかけて手続きを頼むが、まだ仕事を始めたばかりのようであたふたしている。
「あぁっ、えぇっと、そのっ「何回言わせるんだ新入り! 後がつかえるんだからさっとしろ、さっと!」
詰め所の扉を蹴破るように開いて出てきた中年小太りのおっさんが、若い衛兵に近づきながら言葉を遮るように小声で怒鳴った。
「お待たせしてすみませんね。冒険者の<新緑の息吹>の皆さんとその護衛対象のフランカさんでよろしかったですか? ···おや、ここらじゃ見ない服装の方がいらっしゃいますね?
この街は初めてですか?」
「はい、そうです。」
「それじゃあ幾つか質問を。
お名前と職業、それからこの街には何をしに?」
「えっと、西野 葵と言います。そのですね、気付いたら草原に倒れてたものですから記憶が無くって」
「そうですか。身分を証明出来るものはありますか? 無いかもしれませんが、これを聞くのも仕事でして」
この人、衛兵の仕事して長そうだなぁ。
こんな(こっちの世界では)変な格好してるのに眉一つ動かさないし。
「いえ、無いです。証明書とかって、ここで発行できませんか?」
「出来ますよ。銀貨1枚は手数料として必要ですが」
おぅ、お金···。
「大丈夫じゃアオイ、儂が出そう」
「オーガスのヘソクリが火を噴くときね!」
フランカちゃん、ヘソクリじゃ無いと思うよ。
おそらく。
「それじゃ、詰め所の中でしますので先にお代を頂けますか?」
「ほれ」
「それじゃあアオイさん。こちらです」
そうして私は詰め所の中に入り、証明書を作った。
証明書というか魔法の金属板だった。
鉄っぽい見た目の金属板を渡されて「体の一部をこれに乗せて下さい」とか言われた時は、ストレスフルな職場でおかしくなったのかと思った。
いざ髪を金属板に乗せてみたら、名前やらステータスやらが浮かび上がってきたわけだが。
ごめんなさい、オジさま。
証明書を作り終えて、それを読んだおっさんがスキルのことを聞いてきた。
「特殊召喚術ってのはどんなスキルで?」
「私が持ってるカードから、モンスターを呼び出せます。
魔力を食うのであまり使えませんが」
「そうですか、じゃあもう大丈夫でしょう」
···なんというか、雑じゃない?
別にいいけどね?
そうしてアッサリと、入国許可は下りたのだった。
*
街の中に入って初めに感じたのは、陽気な雰囲気だった。
道を行き交う人間の殆どが明るい顔をしているからか、それとも道を埋めるような数の屋台から明るい声が聞こえるからか。
いや、街そのものがそういう雰囲気を発しているのかもしれない。
いずれにしろ、活気に溢れた楽しそうな街に見える。
「おーい、アオイちゃん。冒険者ギルドまでさっさといこうぜ?
俺たち3人がここにいられるのは長くて一月だからな!
教えなきゃいけないことは一気に教えちまうぜ。」
えっ、あと一月しか居ないの?
···そっか、冒険者だもんね。
よし、今は目移りせずにゲイズさんに従おう。
ゲイズさんが冒険者ギルドに向けて歩き始めたのでそれに続く。
『チラッチラッ』と視線が屋台なんかに向かってしまうのはご愛敬である。
私の決意の軽いことよ···。
浮気がちな私の目を恨みつつ歩いて、ゲイズさんとともに木造建築の巨大な建物に入る。
『ギシッ』と言いながら開いた扉の奥に見えたのは厳つい男達の鋭い眼光···。
いや、ムリムリムリっ! と思いつつも足は止めない。
顔に営業スマイルを張り付けようとしたが、のりを付けすぎた紙のように引き吊ったものになる。
スティックのりって出す量の調整難しいよね!
などと考える間にカウンターに到着する。
カウンターにいたのは、これまた新人っぽい若い女の子だった。
黒髪をおさげにした利発そうな子である。
「こんにちは! 冒険者ギルドにようこそ!」
「こんにちは。この子の冒険者登録がしたいんだが大丈夫か?」
「もちろんです! それじゃあこちらの用紙に必要項目の記入をお願いしますね」
受付の子に促されてふと気づく。
文字、書けないんじゃあ···?
言葉だって、私が話しているのがこちらの世界の言語である可能性もあるのだ。
不安を感じつつ名前を記入してみる。
が、そんな心配も虚しくサラサラと書けてしまった。
まるで象形文字のような字が。
「ですよね~」
安心と落胆から声が出てしまった。
···なんだろう、知らぬ間に汚されてしまったような気分。
急に声を出したせいで冷たい視線が突き刺さる。
冷や汗をかきつつ用紙に必要事項を書き終え、受付嬢に手渡す。
(受付嬢も可哀想な物を見る目で私を見ていた。ブルータス、お前もか)
次にギルドカードを作成する。
ギルドカードの作成は、身分証明書と同じシステムだった。
相変わらず仕組みは分からない。
「えっと。それではアオイさん、改めましてようこそ冒険者ギルドへ!
この組織の説明は必要ですか?」
「お願いします」
「それではまずは、この組織のことを説明しますね! 冒険者ギルドは、簡単に言ってしまうならなんでも屋です。簡単な物は飼い猫探しから難しい物だとドラゴンの討伐まで、依頼の内容は様々です。
今のあなたはFランクなので、モンスターの討伐は出来ないんですけど」
「えっ? じゃあ、何ランクから討伐依頼は受けられるんですか?」
「Eランクからですね! 簡単な依頼を受けるしかないですから、FランクからEランクに昇格するまで1年位掛かりますよ?」
そんなに待てるかい!
「なんとかなりませんか?」
「時間を無駄にしてもいいなら方法はありますよ?」
「どうしたらいいんですか」
新人ちゃんの割に強気な態度にイラッときて詰め寄りながら話す。
「ぅっ!? ぅえっと、ギルドマスターに直談判するんです」
「分かりました。ギルドマスターとやらを呼んでくださ「まぁまぁまぁまぁ! アオイちゃん、今はまだ無理だって。自分の能力も完全に分かってないんだろ?」
さっきまで黙っていたゲイズさんが唐突に声を出す。
どういうことなのか訊こうとするが、頭に血が昇ったままなので語気は荒いままだ。
「だから何ですか?」
「いや、だからなアオイちゃん。ここのギルドマスターは直接闘って判断するんだよ、昇格させるかどうか」
そう言われて理性が戻ってくる。
召喚術が使えても、私自身が強いことにはならないと気付いたからだ。
「···分かりました。それじゃあ、出直してきます」
「よかったです···。今、ギルドマスター居ないんですよ、出張中なので。
2週間後には帰って来ますから、その時また来てください。
···歓迎は出来ないと思いますが···」
最後のは小声であったが、バッチリ聞こえている。
チクショウ、さては可愛い顔して性格悪いな?
絶対Eランクになってやるっ、と思いながら冒険者ギルドを後にするのだった。
次回は7/27 夜9時更新予定です。




