3話 想像と違った。
3話です。
夢を見た。
真っ暗な何処かで子供の笑い声を聴くような、そんな夢。
今日もまた、泥のような目醒めらしい···。
*
「なんか重い···?」
目を開いてみる。
私の前に金色があった。
正確に言うとフランカちゃんの金髪が、である。
どうやら私は、フランカちゃんを抱き抱えて寝ていたらしい。
フランカちゃんを脇に転がす。
『むぎゅっ··』と音を出して転がった彼女の顔は、暑苦しさからむずがるような表情を浮かべていた。
まぁ、起きる気配はないが。
···そういえば、今気づいたけどこの世界って夏じゃないよね?
湿度も気温もちょうどいいくらいである。
昨日は無我夢中だったから、温度とか気にしてなかったのだ。命の危機だった。だから仕方のないことなのだ、うん。
こほん。
さて、まだ早朝もいいところらしく、辺りはまだ暗い。
テントの外に出てみる。
外は相変わらずの草原で、心地よい風が緑の大地にさざ波を立てている。
と、その中に人影を見つける。
スキンヘッドの大男だった。
ハゲイ···じゃなくてゲイズさんである。
走りよって、小声で「おはようございます」と声をかけるが、返事はない。
正面に移動して顔を見ると、寝息が聞こえてきた。
立ったまま寝てる!?
あんた、見張りじゃないの···? と思ったが、寝かせたままにしておく。
周りから聞こえてくるのは鳥の鳴き声くらいだし、見回してみても鳴き声の主たちくらいしか生き物は見えない。
せいぜい、起きてから足の痛みに耐えるがよかろうぞ!
などと考えていたところでふと思いつく。
今ならスキルの確認が出来るんじゃないか···?と。
スキルは戦いの切り札に成り得るはずだ、今は皆に言うべきじゃないだろう。
そうと決まれば少し先まで移動しよう。
もちろんエクサさん達のテントの聞き耳も忘れない。
音が聞こえないことを確認して、テントから離れた。
5分程度歩いて、立ち止まる。
見渡す限りの草原に障害物はないので、テントから離れたのも気休めでしかないが、逆に言えば気休め程度にはなるだろう。
リュックに入れて持ってきたデッキを取り出す。
ここで私がしているカードゲーム<リアライズ オブ ソウル>の説明を一つ。
<リアライズ オブ ソウル>略してリアソルは、
火·土·水·風·光·闇の6属性のカードを駆使するカードゲームだ。
カードには属性以外にも種類があり、相手と戦うモンスターを表す<ソウル>や攻撃中に使うことで効果を発揮する<キャスト>、ソウルに装備させる<アームズ>、そして指定された枚数を揃えて場に出すことで戦況を変えられる威力を持った<オーバーリミット>に分類されている。
カードに関してはこんなところ。(ルール説明は省かせてもらう、長くなるので。)
さて、私はデッキケースから赤いカードを取り出す。
その上半分には、威厳を感じさせる仁王立ちでこちらを睥睨するドラゴンの姿が描かれており、下半分にあるのはこのカードの名前と効果等が書かれたテキストボックスだ。
私のデッキのうちの一つのキーカードであるそのカードを目の前にかざす。
···この後どうやったら召喚できるんだろう?
『かっこよく呪文唱えちゃおうよ? 好きでしょ、そういうの』
一瞬迷ったその時、頭の中で厨二なチビ葵が囁いてくる。
その提案に躊躇いなく乗る。
周りを見渡して人が居ないことを確認し、そして呪文を唱え始める。
「‘‘紅炎を司りし竜王よ 我が言に呼応し、その姿を現せ!’’」
唱え終わったと共に体の力が抜ける感覚がして、目の前のカードから巨大な赤い柱が出てくる。
···いや、それは腕だった。
特撮にでも出てくるような、人間を豆粒のように握りつぶせるような怪獣の巨腕。
しかし、その他の部位がでてくることはなかった。
『嘘だろう!? 窮屈すぎるだろうこの門は! チッ、仕方ない。 姿を変えるとしよう』
頭にドスの効いた低い声が響くと共にカードから火が噴き出す。
不思議と熱さは感じなかった。
火が収まるとそこには、ぬいぐるみのような見た目の赤いトカゲがいた。
驚いているとソイツと目が合う。
見つめ合う。
見つめ合う。
見つめ合う。
···と、そうすること3分。
根負けしたのかトカゲが目を逸らす。
『なぜ、何も言わない···?』
またもや頭に響いてきた声に返事を返す。
「あぁ、ごめんなさい。想像と違ったもので···」
『好きでこんな見た目になったわけではない! お前が作った門が小さいのが悪いのだ』
憮然とした声でトカゲが告げる。
「えっと、一応あなたの名前聞いてもいいですか?」
『人に名を聞くなら先にすべきことがあろう?』
人···?
「ちっ、めんどいな。私は西野 葵と申します」
『舌打ちだと!? ···まぁ、良しとしよう。話が進まんしな』
心が大きいやら小さいやら。
「それであなたは?」
『俺は、紅竜王メギドラグナと呼ばれる、炎竜の国を統べる王だ』
私の相棒たるカードから現れた竜王は、そう名乗ったのだった。
*
『お前、俺と契約する気は有るのだよな?』
名乗り合いから5分後、自分のテントに戻ってきた直後にメギドラグナが送ってきたのは、そんなテレパシーだった。
何を言っているのか分からないのでその思いのまま答える。
「どういう意味ですか? メギドラグナさん」
『<さん>とか要らん、ギドと呼び捨てろ。敬語も要らんぞ。
気持ち悪いからな』
「えぇっ···。···分かりました」
『なんだ、その間は! じゃなくてだ。
<契約>を知らないのか?』
「えぇ、さっぱり」
『面倒な奴だな。 ···<契約>とは我々召喚された者と絆を結ぶことだ。
その恩恵としては、接触していれば互いの魔力を行き来させられるようになることや思考を読み取れることが挙げられる』
「魔力の行き来っていうのは普通できないの?」
『出来んことは無いがな。
だが、契約した場合の魔力は自動的に倍になり、行き来もスムーズに行われることを考えれば、しておいて損はないと思うぞ』
「そっか、じゃあしよう。どうやってするの?」
『決断速いな!? まぁいいが。右手を出せ』
言われた通りに出すと、ギドがその上に両手を重ねる。
手に懐かしいような温もりを感じてすぐ、ギドは手を放した。
ギドの手で隠されていた私の右手の甲には炎を纏った翼の模様があった。
「カッコいい···。けど、どこかで見たことがあるような···?」
あっ、思い出した。
ただ、色々と危ないので追及は控えよう、うん。
『契約は終わったのだからひとまず帰らせてもらうぞ。
帰還の門を開けろ』
「え」
『ん、どうした? ···もしやお前、帰還の門が開けられぬのか···?』
「それって、召喚と別でスキルが必要だよね? スキルの説明に帰還のことは書いてなかったし。
だとしたら、無理だと思うんだ?」
テヘッと笑う。母さん直伝の必殺技である。
『嘘だろ···? 俺にこの姿のままお前と共にいろというのか?』
「もともとの姿に戻ることは出来るんじゃないの?」
『出来んのだ! ただでさえ形態変化のスキルは魔力をごっそり持っていくというのに、この世界は空気中の魔素が薄いから魔力の回復も出来ん!』
「そっか。えぇっとじゃあ、これからよろしくね?
ギド。」
『むがぁぁ! 厄日だ今日は! もういい、無理にでも世話になるぞ! アオイ!』
こうして私は相棒との絆を結んだのだった。
次回は7/23夜9時投稿予定です。




