1話 ここは日本だと信じたかった。
お待たせしました···?
「ここ、どこ···?」
目の前に広がる光景に呆然とする。
私、カードを買って自転車で家に帰る途中だったんじゃなかったっけ···?
なぜ草原のど真ん中にいるのか、まったくもって理解できない。
どうしよう、どうしようどうしよう···。
*
座り込んだまま、まとまらない思考で考えること10分。
私のお腹が『きゅるるる』と音をたてた。
飯をくれと催促している。
「···とりあえず動こう。食べ物···なにかあったっけ?」
まずは持ち物を確認してみる。
買い物帰りだった私の持っていたレジ袋は、私が倒れていた場所から10歩くらいのところに落ちていた。
中には牛乳と、カードのパックが10パック入っていた。
背中には黒いリュックが背負われたままだった。
「何入れてたかな···?」
リュックの中に入っていたのは、
·私のカードデッキ2種類(それぞれカード40枚ずつ)
·カロリーバー(パサパサの栄養食、おやつ代わりに入れていた。)
·腕時計(腕に着けると蒸れるのでリュックに入れていた。)
·黒ボールペンとメモ帳(昔、父さんに貰ってからリュックに入れっぱなしだった)
ちなみにスマホは入っていない。私のはガラケーだったし、それも家に忘れてきてしまっていた。
「家を出る前の私が恨めしい···!」
「でも良かった···。非常食入れといて···」
昔の自分に土下座して感謝したい気分だった。
4本入っているカロリーバーのうち一本を牛乳といっしょにモシャモシャ食べながら、これからのことを考える。
「食料は頑張ってもあと2日分よね···。今からすべきなのは、人を見つけることと食料の調達···、後は火を起こす方法の確保かな?」
夜になると肉食動物が活発になるし、なにより寒いだろう。
火を起こす方法は必須である。
時計を見た感じ、今は午後の3時。
あまり猶予はなさそうだった。
「そうと決まれば、動かなきゃ!」
荷物をまとめ、立ち上がって歩き始める。
やみくもに歩いても仕方ないので、自分が立っていた場所から北へ向けて。
*
歩き始めてから20分ほど経って、私は草原から一本の道に出ていた。
草原の中にあるその道がコンクリートで舗装されているはずもなかったが、むき出しの土には、車輪のような物の後や足跡が残っていた。
私は、人がいる痕跡に安心した。けれど、とても大きな不安点もまた見つけてしまっていた。
そこには人のそれ以外に、肉球のついた動物の巨大な足跡があった。
大きさ的には、枕一つ分くらいだろうか?
「地球上にこんなデカイ生き物いたっけ···?」
いやいや、このくらいの熊ならいるよね、と考え直す。
実物を目の前で見たことがないから不審に感じるだけ。のはずだ。たぶん。
道は西から東にかけて伸びているようだった。
どっちに行っても人は居るだろうと考えて、迷うことなく東へ進む。
歩くこと10分。
木製の車のような物が動いているのを見つけた。
周りには、4人ほどの人間がいた。
「良かった···。おぅぃぇ?」
オーイと言おうとしてしりすぼみになる。
別にBROTHER葵になったわけではないのだ。
安心したのもつかの間、私は気づいてしまった。
その全員が剣や弓に見える物を持っていることに。
両手剣や片手剣、短刀などが陽を浴びて煌めいている。
1人が身にまとっているのはどう見ても鎧だった。
「····」
絶句である。
私の人生でまさか絶句することになるとは思わなかった···。 私の頭の中でちび葵たちが議論を繰り広げる。
ちび葵A「あの人たちってコスプレイヤー?」
ちび葵B「そうじゃなければ、本物だよねー。あの剣とか」
ちび葵C「現代の地球上にあんなもの持った人たちいる?」
ちび葵D「居ないんじゃないか?···だとしたらどういうことだ?」
そこで議論をぶち切る。
そんなことはない!そんなはずない!
そうその先を否定する。ここは現実だ、2次元じゃないのだ。
立ち止まって頭を抱えていた私の耳に『フシュー』という間の抜けた音が聞こえてきた。
後ろから聞こえたその音の元凶を確かめるために、ゆっくりと振り向いた先にあったのは、岩だった。
いや、それは現実逃避と言うものだろう。
その物体には、岩にはない要素があまりにもありすぎた。
鋭く尖った双牙、強靭な脚、つき出した鼻、私を捉えて離さない目。
岩に見えたのは、その所々が赤茶けた岩石に覆われていたからだった。 『フゴゴッ』
私がその姿を確認した瞬間、その瞳に敵意が宿る。
頭の中でちびたちが声を揃える。
ちび葵ABCD「モンスター来たーっ!!」
「そんなこと言っとる場合かい!」
叫び返して走り出す。
私の脚は、いつも走る3倍のスピードで動いたのだった。
*
「助けてーーっ!」
道の脇を走りながらさっきの人たちに叫ぶ。
モンスターは依然として私を追いかけている。
「ほぇ?うぉおい!?嘘だろ!クレイジーボアがこっちに来てるぞ!」
スキンヘッドで厳つい顔の短剣を持った男性がこっちに気づいてくれたっぽい。
「そんなまさか。···ってマジじゃない!しかも人が追いかけられてるわ!」
次いでベリーショートな茶髪で、お姉さんっぽい雰囲気の片手剣を持った女性も気づく。
「戦闘体制をとれ!儂らなら油断せん限り殺れる!」
両手剣と大盾、さらに鎧を纏ったもっさりした髭のお爺さんが指示を出した。
短剣の男がこっちに来て、「後は任せな!」といってクレイジーボアに向かっていく。
クレイジーボアの表皮には岩があるところと無いところがあるようで、彼はお腹の辺りを狙って剣を振り抜いた。
赤い血が飛び、巨猪の注意が彼に向く。
彼がそのまま、巨猪を木製の車から離れた位置に誘導して、戦闘を継続する間に残りの二人は戦闘が行われている場所へ移動し、戦いに参加した。
*
「君、大丈夫だった?」
そう片手剣の女性から声をかけられたのは、クレイジーボアが『ズドンッ』と音をたてて、倒れ伏した後のことだった。
彼女の顔や右腕には血が飛んでいて、とってもワイルドな感じになっていた。
「あっ、あの! ありがとうございました!」
「あぁ、いいのいいの、気にしなくて。この世は持ちつ持たれつってね!」
そう言いながら近づいてきたのは短剣の男で、こちらもまたワイルドな感じだった。(笑い方もワイルドだった。)
「俺はゲイズ!
皆にはゲイって呼ばれてるからそう呼んでくれ。」と言うのは短剣の男だ。
いや、ゲイって···。それでいいの···?
「違うでしょ、ゲイズ。あなたの普段のあだ名、ハゲイじゃない。 あ、私はエクサよ、ヨロシク。」と片手剣の人。
ゲイより酷いあだ名だった!?
「ハゲじゃねぇから! スキンヘッドだから!」
否定すんのそっちかい!
私がゲイズに哀れみの視線を向けていると、クレイジーボアの剥ぎ取りをしていたお爺さんが帰ってきた。
「すまんすまん、待たせたかの?」
「あ、この爺さんはオーガスって名前だ。」
「ゲイズ! なぜ先に言ってしまうんじゃ!?
今のは儂が自分で話す流れじゃったじゃろ!」
オーガスさんが不満の声を上げる。
その顔は怒りと残念さで半々のような表情で、わんぱく小僧っぽい面影があった。
見た目は髭もじゃでガチムチのお爺さんなのに。
私は、そのギャップに感じた面白さから漏れ出しそうになる笑いを必死に堪えるのだった。
次回は7/20(9時)投稿予定です。




