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トレカで始める召喚魔術  作者: 白井 章
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プロローグ

初めまして、白井 章です。

他の小説家の皆様に憧れて書き始めました。

駄文ではありますがお付き合い頂けるとありがたいです!

 

 真夏日のある日、紺色のジャージに黒いリュックを背負った高校生が一人、自転車を漕いでいた。

 身長は165センチくらい、黒い髪は無造作に短く切られている。

 中性的な顔立ちだがその黒い目は鋭く、見るものにきつい印象を与えそうだ。

 その控えめな胸も相まって一見美男子のようだが、彼の口から漏れた「暑っつい···」という声は、

 確かに()()のそれだった。

「誰よ、夏と冬作ったの···。見つけたらぶん殴ってやるのに···」などとおよそ高校生とは思えないことをのたまっている彼、いや、彼女西野 葵(にしの あおい)こそがこの物語の主人公なのだった。


 彼女にとって、今は高校二年の夏休み。そろそろ受験勉強を始めなければならないというのに彼女が暑い中貴重な時間を費やして、自転車を漕いでいる理由(ワケ)は時を30分前に遡る。

 *

 ~葵視点~

 私はカードの散乱した自室の中で、テレビから流れるお天気キャスターの声を肴に遅めの昼食としてカップの醤油ラーメンをすすっていた。

 家の2階にある、物置と隣接した6畳ぐらいの部屋が私の自室だ。

 窓は北側と東側に1つずつで、部屋の中央には小さな木製の台。

 その側には無造作にパソコンが置かれている。

 ちなみに物置には私のカードや父さんの私物が入っているが、父さんは海外出張で7年前にこの家を離れているので、この部屋は名実共に私の私室なのだった。

 8月の初めで時刻は2時、外はうだるような暑さなのだろう、笑顔を絶やさないことで有名な女性キャスターの額には大粒の汗が浮かんでいる。

 エアコンの効いた部屋にいる私、ちょっとだけ優越感。

 誤解されそうだが私は意地悪なわけではない。

 ···ほんとだよ?

 などと心の中で自己弁護していると「バンッ」と扉が開かれた。

「あぁ涼しぃ~」と言いながら私の部屋に入ってきたのは母さん|(西野 華)だった。

 母さんは一言で言うならおっとり系美人って感じの人だ。長い黒髪、優しそうな目元、そして巨乳。

 ···そう、巨乳である。私にはその遺伝子は受け継がれなかったようだ。ちくせう。

 ちなみに、見た目はこうだが中身はイタズラ好きなお茶目なヒトなのだった。

「母さん、ノックって言葉知ってる?」と非難してみたけど、母さんは「野球の?」だと。

 いや、そんなワケあるかい、とか、リビングもエアコンいれてるでしょ?などと突っ込んでいたら話が進まないので要件を聞く。

「それで、何か用事?」

「あぁ、そうだったそうだった。ちょっと、コンビニに行ってきてくれない?夜ご飯、シチューにしようと思ったんだけど牛乳買うの忘れちゃって」 テヘッ、と笑う母さん。

 この人はこの猛暑の中、体力の無い私に自転車を漕げとおっしゃる。<テヘッ>のおまけ付きで。

 正気か。   

「嫌です。断固拒否します」

 え?口調が崩れてる?そんなことを言っている場合ではない。

 私だって命は惜しいのだ。

「やっぱり?でも私だって嫌よ?」 

 子供か! そう思いながら母さんと見つめあう。

「···ちぇっ、分かったわよ」そう言って母さんが折れた。

 そして部屋を出ていきながら言う。

「あーあ。カードゲームの新しいパックが出たって言うから、臨時でおこずかい出そうって思ったのにー。モッタイナーイ」それを聞いた私はあっさり手のひらを返して母さんに飛びつくのだった。

 *

 そうして現在に至る。

 回想をしている間に5分ほど経ち、私は現在あまり規模の大きくないカードショップの前にいた。

 このカードショップは家から20分程度の位置にあり、コンビニは目と鼻の先なのだった。

 私がここに来たのはもちろん、私が遊び続けて10年になるカードゲーム『リアライズ オブ ソウル』の第70弾となるパックを買うためである。

 牛乳は邪魔になるので後で買おうと決めて店内に入る。

 店の中は雑然としている。ショーケースには様々なカードゲームのレアカードが並び、色とりどりのファイルが壁には掛けられていた。

 最も店の中を狭く暑苦しく感じさせているのは備え付けのテーブルでカードゲームをしている人間だろう。

 そのほとんどは男でその風体は様々だった。痩せている者、そうではない者、お洒落な者、ジャージの者、大人から子供まで。

 全員に共通しているのは、真剣に、されど楽しそうにカードゲームをしていることぐらいだろう。

 辺りを見回していると声をかけられた。

「おっ、葵ちゃんいらっしゃい」

 話しかけてきたのはこの店の水色の制服を着た長身壮躯の男だった。髪は茶髪のアフロでその柔和そうな顔には人懐こい笑顔が浮かべられているが、その顔にかけられているのは間違いなく鼻眼鏡···。 

 どう贔屓目に見ても変態だった。

 しかし、私は平然と挨拶を返した。

「あ、へんたっ···じゃなくて店長、こんにちわー」

「今、変態って言いかけなかった!?」

 店長の鋭い突っ込みが飛ぶ。

 いや、変態以外の何だと言うのかとは思ったが、店長の格好が変なのはいつものことなので言わない。

「ところでへっ··店長、リアソルの最新パックあります?」

「毎回間違える気···?まぁ、いっか。

 うん、あるよー。何パック欲しいの?」

「10パックです!」 

 ドヤ顔で告げる。

「えらく豪勢だね?お小遣いでも貰ったの?」

「えぇ、それはもうがっぽりと」

「···実は女子高生の皮を被ったおっさんなんじゃない?」

「訴えますよ?」(ニコッ)

「さぁて、仕事仕事!10パックね!選んでいいよ!」

 20パック入っている箱から適当に10パック選び、会計を済ませる。(店長は50円ほど値引きしてくれていた。優っさしぃ!)

 自分のデッキをリュックに入れていたので1試合しようと思ったが、いつも対戦している面子が誰も居なかったので帰ることにした。

 店を出てからコンビニに入り、牛乳を買ってカードも同じ袋に入れる。

 ここに来るまでに消費した体力もそれなりに回復したので、また自転車に乗って来た道を引き返す。

 時刻は3時過ぎ、だのに日差しは一向に衰える気配を見せない。

 私は雲一つない空を見上げて恨みがましい目をする。

 と、「···ふふっ···」 子供の笑い声が聞こえた気がした。

 周囲を見渡すがそれらしき子供の姿は無かった。

「···?

 気のせい?」


 ただの空耳だろうと気を取り直し、残りの気力を振り絞って自転車を漕ぐ。

 なんとなく感じた薄気味悪さを早く家に帰りたい気持ちで塗りつぶし、思考を上向きにする。 

 新しいカード(ユメ)エアコンの効いた部屋(キボウ)はすぐそこなのだと。

 今日買ったパックから良いカードが出る可能性に思いを馳せてつぶやく。

「あぁ、待っててね、私のSR(スーパーレア)ちゃんっ!」

 青になった信号とともにスタートダッシュを切ったとき、私の目の前が真っ暗になった。

「ぅあ?」

 驚いた拍子に私の手がハンドルから離れ、体勢を崩す。

「やばっ···」

 本来私を襲うはずの地面との衝突は無く、私の意識は突然消えた。

 ほんの一瞬、子供の嬉しそうな笑い声を確かに聞いた···。

 *


 急に光が差し込んできて目が覚める。

 爽やかさなど微塵も感じられない泥のような目覚め。

 まだ起きたくないと脳が訴えている。

 しかし、意識が戻った以上、目をつむっていようと視覚以外の感覚が働き始める。

 鳥の鳴き声、チクチクする肌、風が吹く度に聞こえる草が揺れる音。

 周りから感じられるのは草特有の青臭さ。

   ···ん?草? 

 私、どこにいたんだっけ?

 私は、コンクリートジャングルを生き抜いて来たんじゃなかったっけ···?

 急に思考がクリアになる。頭が大音量で警鐘を鳴らす。

 慌てて起き上がり、周りを確かめるために目を開けた。

 私の周りには、草原があった。

 だけど、草原しかなかった。

次回は7/18(9時)更新予定です。

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