#09丘の上のピクニック
【あらすじ】
喫茶店〇で流れる、いつもの穏やかな時間。
ある日、丘の上へピクニックに行くことになったジョージたち。
風の音。
花の香り。
遠くに見える町。
初めて訪れたはずの場所で、
ジョージはまた不思議な感覚に包まれる。
失われた記憶の奥から、
ひとつの光景が静かによみがえる。
そして、その小さな出来事は、
喫茶店〇の仲間たちにも変化をもたらしていく。
第九話
喫茶店〇での翌日。
ジョージは、まだ町の違和感を感じている。
でも、みんなはいつも通り。
トカゲが聞いた。
「丘の上に、行ったことありますか?」
「すごく景色が、いいんですよ」
ジョージが答える。
「 ピクニックみたいだな。 」
店長がみんなに声を掛ける。
「 では、みんなで行きましょう。 」
リリスは、考えてることを無意識に挟んでいた。
「 もちろんサンドイッチは、あるんでしょうね? 」
ジョージが、言う。
「 この前のやつ? 」
リリスははにかみながら言った。
「 ……美味しかったから。 」
少し照れる。
「 唐揚げも、作ろうか? 」
ジョージが、言う。
リリスの目が、輝く。
「 いいの? 」
リーリアを見る。
彼女も、少しだけこちらを見る。
ジョージが尋ねる。
「 この前のオニオンサンド、気に入ったんですか? 」
リーリアは、小さく頷く。
それはまるで、月しずく錦のレモネードを頼んだ時の初めての意思表示の様だった。
丘の上は、とても静かで心地が良かった。
風。
花。
青い空。
鳥の声。
町が遠くに見える。
ジョージは安心する。
「 なんだろう。 」
「 初めて来た場所なのに。 」
「 まるで、なんか帰ってきたみたいだ。 」
そこで百合の花をみつめる。
ジョージが、花に触れる。
めまい。
記憶の断片。
白い光。
誰かに花を渡した記憶。
気づくと手には百合。
ジョージは、花を差し出した。
「 ……これ。 」
リーリアへ渡す。
リーリアは、驚く。
長い時間、ジョージを見る。
そして、声にならない声で。
「 ……ありがとう。」
口だけが、動く。
光。
リーリアの姿が、淡い光になる。
羽。
光。
風。
それが、すべてリリスへ流れ込む。
リリスは、黙る。
「 …… 」
倒れる。
青白い光。
全身が、青く染まる。
トカゲが、ふと言った。
「 毒が……効いた? 」
カエルが、鳴く。
「 ゲコ…… 」
ジョージは、驚いて声を出した。
「 一体、何をしたんですかっ!? 」
しばらくして、リリスが目を開ける。
「 ……ん?何? 」
でも、いつもの鋭さがない。
トカゲが声を掛けた。
「 リリスさん……? 」
リリスが、口を開く。
「 違うわ。私の名前は―― 」
少し笑う。
「 アマリリスよ。 」
トカゲが、とぼけたことを言った。
「 アマガエルの間違いじゃなくて? 」
少し沈黙。
そして。
「 ふふ。あなた面白いこと言うのね。 」
みんなが、固まる。
「 ……なんか、優しくなってる。 」
♬モーツァルトのクラリネット協奏曲 イ長調 K.622(Adagio)からインスパイア予定
【あとがき】
今回は、喫茶店〇の外へ出て、
少し広い世界を描いた回になりました。
いつもの場所を離れることで、
見えてくるものがあります。
何気ない景色や、小さな出来事の中に、
過去へつながる記憶が眠っている。
ジョージの失われた時間は、
少しずつ形を取り戻し始めています。
そして、喫茶店〇にいる仲間たちにも、
少しずつ変化が訪れていきます。
穏やかな時間の中で進む、
小さな記憶の旅を楽しんでいただければ嬉しいです。




