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ベノムワールド  作者: 朝裏 刻


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9/11

#09丘の上のピクニック

【あらすじ】


喫茶店〇で流れる、いつもの穏やかな時間。


ある日、丘の上へピクニックに行くことになったジョージたち。


風の音。

花の香り。

遠くに見える町。


初めて訪れたはずの場所で、

ジョージはまた不思議な感覚に包まれる。


失われた記憶の奥から、

ひとつの光景が静かによみがえる。


そして、その小さな出来事は、

喫茶店〇の仲間たちにも変化をもたらしていく。

第九話



喫茶店〇での翌日。


ジョージは、まだ町の違和感を感じている。


でも、みんなはいつも通り。


トカゲが聞いた。


「丘の上に、行ったことありますか?」


「すごく景色が、いいんですよ」


ジョージが答える。


「 ピクニックみたいだな。 」


店長がみんなに声を掛ける。


「 では、みんなで行きましょう。 」


リリスは、考えてることを無意識に挟んでいた。


「 もちろんサンドイッチは、あるんでしょうね? 」


ジョージが、言う。

「 この前のやつ? 」


リリスははにかみながら言った。

「 ……美味しかったから。 」


少し照れる。


「 唐揚げも、作ろうか? 」

ジョージが、言う。


リリスの目が、輝く。

「 いいの? 」


リーリアを見る。


彼女も、少しだけこちらを見る。


ジョージが尋ねる。

「 この前のオニオンサンド、気に入ったんですか? 」


リーリアは、小さく頷く。


それはまるで、月しずく錦のレモネードを頼んだ時の初めての意思表示の様だった。



丘の上は、とても静かで心地が良かった。


風。


花。


青い空。


鳥の声。


町が遠くに見える。


ジョージは安心する。


「 なんだろう。 」


「 初めて来た場所なのに。 」


「 まるで、なんか帰ってきたみたいだ。 」



そこで百合の花をみつめる。


ジョージが、花に触れる。


めまい。


記憶の断片。


白い光。


誰かに花を渡した記憶。


気づくと手には百合。


ジョージは、花を差し出した。


「 ……これ。 」


リーリアへ渡す。


リーリアは、驚く。


長い時間、ジョージを見る。


そして、声にならない声で。


「 ……ありがとう。」


口だけが、動く。


光。


リーリアの姿が、淡い光になる。


羽。


光。


風。


それが、すべてリリスへ流れ込む。


リリスは、黙る。


「 …… 」


倒れる。


青白い光。


全身が、青く染まる。


トカゲが、ふと言った。

「 毒が……効いた? 」


カエルが、鳴く。

「 ゲコ…… 」


ジョージは、驚いて声を出した。

「 一体、何をしたんですかっ!? 」


しばらくして、リリスが目を開ける。

「 ……ん?何? 」


でも、いつもの鋭さがない。


トカゲが声を掛けた。

「 リリスさん……? 」


リリスが、口を開く。

「 違うわ。私の名前は―― 」


少し笑う。


「 アマリリスよ。 」


トカゲが、とぼけたことを言った。

「 アマガエルの間違いじゃなくて? 」


少し沈黙。


そして。


「 ふふ。あなた面白いこと言うのね。 」


みんなが、固まる。

「 ……なんか、優しくなってる。 」




♬モーツァルトのクラリネット協奏曲 イ長調 K.622(Adagio)からインスパイア予定



【あとがき】


今回は、喫茶店〇の外へ出て、

少し広い世界を描いた回になりました。


いつもの場所を離れることで、

見えてくるものがあります。


何気ない景色や、小さな出来事の中に、

過去へつながる記憶が眠っている。


ジョージの失われた時間は、

少しずつ形を取り戻し始めています。


そして、喫茶店〇にいる仲間たちにも、

少しずつ変化が訪れていきます。


穏やかな時間の中で進む、

小さな記憶の旅を楽しんでいただければ嬉しいです。

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