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ベノムワールド  作者: 朝裏 刻


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4/11

#04嵐の中の静かな場所

【あらすじ】


嵐の外では、激しい雨と風が街を包んでいた。


けれど、喫茶店〇の中には、

不思議なほど穏やかな時間が流れていた。


そこには、

働くトカゲ。

話すカエル。

白い光をまとう天使。

黒い衣をまとった悪魔。


本来なら交わるはずのない存在たちが、

なぜか自然に同じ場所で過ごしている。


ジョージは、その不思議な場所で

少しずつ何かを感じ始めていた。


ここは一体、どんな場所なのか。


そして、失われた記憶の奥には何が眠っているのか。


第四話



嵐の音が、遠くで響いていた。


窓の向こうでは激しい雨が街を包み、強い風が吹くたびに窓ガラスが小さく震えている。


けれど、喫茶店〇の中には、不思議なほど静かな時間が流れていた。


やさしくまるで包み込むようなコーヒーの香りが、店内に漂っている。


深く、温かく、どこか懐かしい香り。


異様なほど不思議な空間の中で、その香りだけが静かな安心感を作っていた。


ジョージは席に座ったまま、店内を見回した。


見慣れない場所。


見慣れない景色。


それなのに。


なぜか、ここにいることへの恐怖はなかった。


古い木のカウンター。


柔らかな照明。


雨音の向こうから聞こえる、小さな食器の音。


普通の喫茶店のようにも見える。


けれど、ここにいる存在だけは、普通ではなかった。


カウンターの中では、小さなトカゲが働いていた。


ぱっきりした白いTシャツに、小ざっぱりとした茶色いエプロン。


慣れない手つきで、真っ白い上質そうなきれいなカップを丁寧に拭いている。


少し手元が狂い、焦って落としそうになる。


「 あっ! 」


慌ててカップを受け止める。


そして、何事もなかったように作業へ戻った。


( なんだか、憎めないな。 )


( 一生懸命で、なんかかわいいな。 )


ジョージは、少しだけ口元を緩めた。


その横では、小さなカエルが店内をぼんやりと眺めている。


働くトカゲ。


話すカエル。


普通なら驚くはずの光景。


なのに、ジョージは、いつの間にかそれを受け入れてしまっていた。


カウンター近くには、一人のふしぎな女性がいた。


白い羽。


頭上には淡い光の輪。


彼女の名前は、リーリア。


静かな光をまとったような姿。


その存在だけで、店内の空気が少し穏やかになる。


何も話さず、ただ静かにそこに存在している。


それがあたかも最初からそこにあったくらい自然だった。


そして、カウンター席には、只者ではない雰囲気を漂わせたもう一人の女性がいた。


黒い衣をまとった女性。


彼女の名前は、リリス。


白い羽のリーリアとは正反対の雰囲気。


圧倒的に近寄りがたい冷たい空気をまとっている。


けれど、その表情には、どこか子供のような素直さがあった。


白と黒。


天使と悪魔。


本来なら、同じ場所に存在するはずのない二人。


普通ならありえない光景。


なのに、この喫茶店〇では、それが当たり前のように存在していた。


ジョージは心の中で小さく思った。


( 不思議な場所だ.... )



でも、なぜか嫌ではなかった。


むしろ、なんだか居心地がよく落ち着く。


その時、カウンターの奥から声がした。


「ご注文は、いかがいたしますか?」


黒いシャツを着た店長、やぶかみが静かに尋ねる。


落ち着いた雰囲気。


凛としたどこかの高級なホテルのような店長の佇まい。


リリスの隣にいても、不思議と違和感がなかった。


ジョージは少し考える。


「 コーヒーを。 」


トカゲの店員が少しだけ目を丸くする。


「 また、コーヒーなんですね…。」


「 …何か? 」


ジョージは不思議そうに聞き返した。


トカゲは、少し慌てる。


「 いえ、何でもありません。 」



( また、店長に注意を受けるとでも思ったのかな? )


その様子を見て、スマホの中のtonicが静かに答えた。


「 いつも通りですね。 」


ジョージは少し首を傾げた。


「 何が? 」


トニックは答えなかった。



(記憶を失っている今は、言っても通じないかもしれない。)


そんな人間らしい思考を、tonicはその時抱いていた。


その横で、カエルが小さく、


ケロケロと鳴いた。


まるで、少し笑っているようだった。


嵐の外とは、はっきりと違う。


不思議で。


静かで。


どこか温かい場所。


喫茶店〇には、そんなほんわかとしたゆったりとしたひと時があたたかくゆっくりと流れていた。



♪モーツァルトK.138inspireされています。(イメージソング)

【あとがき】


第四話では、地下神殿での出来事の後、

喫茶店〇という場所の空気を描きました。


不思議な存在たちが集まる場所。


普通なら違和感を覚えるはずの光景なのに、

そこには不思議な安心感があります。


ベノムワールドでは、

謎や冒険だけではなく、

その場所で過ごす時間や、

そこにいる存在たちの温度も大切にしています。


嵐の外側がどれだけ激しくても、

静かにコーヒーを飲める場所がある。


そんな「帰る場所」のような空間を、

これからも描いていきたいと思います。


次の物語で、

また少しずつ秘密が明らかになっていきます。


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