#03封印の神殿
【あらすじ】
地下深くに眠っていた神殿。
そこには、長い時間封じられていた何かが存在していた。
偶然開かれた封印。
広がる黒い煙。
そして、静かに現れる謎の存在。
ジョージたちは、
ただの古代遺跡ではない何かと向き合うことになる。
その場所に隠されていたものとは何なのか。
そして、なぜジョージの記憶は反応するのか。
封印された物語が、少しずつ動き始める。
第三話
地下神殿は、どこまでも静かだった。
幾本もの石柱が並び、天井は見えないほど高い。
その広さに、店員たちは思わず見上げる。
「 広いなぁ…。 」
「 地下にこんな場所があったなんて。 」
「 古代神殿って、本当にあるんだ…。 」
ジョージは黙ったまま辺りを見渡していた。
その時だった。
ケロが、ぴょん。
「 あっ。 」
ペタも、ぴょん。
「 ちょ、待って。 」
最後にモスが店員の肩へ飛び乗る。
「 わっ!? 」
ガシャーン。
神殿中に乾いた音が響いた。
台に置かれていた古びた壺がこっぱみじんに砕け散る。
札のような封印が何枚も舞い上がった。
誰も動かない。
しばらく沈黙が続く。
ジョージが小さくつぶやく。
「 …これ、さっきも見た流れだな。 」
次の瞬間。
…
「 お前だろ! 」
「 いや、ケロだ! 」
「 ペタが跳ねたからだよ! 」
「 モスだって飛んだじゃん! 」
「 俺じゃない! 」
「 だからって、俺でもない! 」
三匹の店員たちは、いつものようにペットのカエルたちと責任を押し付け合っていた。
ジョージは苦笑する。
「 …平和だな。 」
その言葉が終わるより早く、
モク……
黒い煙が壺の中から静かに立ち上る。
煙はみるみる広がり、
神殿全体を包み込んでいった。
「 見えない! 」
「 お前どこだ!? 」
「 これ足か!? 」
「 それ俺の手! 」
「 え、お前見えてるのか!? 」
「 夜行性だからな。 」
ジョージが呆れたように言う。
「 夜は、ふつう寝るもんだろ。 」
その時。
「 周囲が暗すぎます。ただちに照明を起動します。 」
tonicの声が、静かに辺りへ希望のように響いた。
人類の文明の利器であるスマートフォンが、柔らかな光を放つ。
白く優しい光が、黒い煙をゆっくり照らし始めた。
ジョージは目を細める。
「 …そんな機能、あったか? 」
「 通常機能ではありません。 」
「 現在、この空間に最適化されています。 」
「 …魔法か? 」
少しだけ間があく。
「 分類できません。 」
その直後だった。
煙の向こうから、ゆっくりと拍手が聞こえた。
パチ…。
パチ…。
妖しく、それでいてどこか優雅な声が響く。
「 ふふ……。 」
「 一番おいしい登場シーンだったのに。 」
「 まったく、機械というものは……。 」
「 文明の利器だか、文明の開化だか知らないけれど……。 」
「 少しは空気を読んでほしいものね。 」
煙の中から、黒と淡い紫の炎がゆらめく中、一人の女性がゆっくりと姿を現した。
まるで、止まっていた時間を巻き戻すように。
恐ろしい姿ではなかった。
息をのむほど美しく、どこか妖艶で、黒い衣をまとったその姿は、人ではないことだけが静かに伝わってくる。
その姿を見た瞬間、ジョージの胸がわずかにざわついた。
しかし、それ以上に気になるものがあった。
「 ……。 」
「 あくまだ! 」
「 間違いない!!」
「 ぼく、本で読んだことがある。 」
三匹のカエルたちは、珍しく声をそろえて騒いでいた。
( ん?カエルって本読むのか...。 )
tonicが反応する。
「 反対方向から、高純度のエネルギーを検知しています。 」
「 明るい気配が、向こうから近づいています。 」
黒い煙の向こう側。
淡い光が、ゆっくりと差し込んできた。
そこに立っていたのは、
天使だった。
白く透き通る翼。
優しく穏やかな光。
けれど、その瞳だけが、言葉にできないほど哀しそうだった。
何も話さない。
ただ、静かにジョージを見つめている。
その瞬間、胸の奥が強く締めつけられた。
( ……どうしてこんなに懐かしいんだ。 )
思い出せそうで、思い出せない。
何か、とても大切なもの。
何か、絶対に忘れてはいけなかったもの。
tonicが静かに解析を続ける。
「 記憶領域に、大きな変動を検知しています。 」
「 強い精神的衝撃によって、封じられていた記憶が刺激された可能性があります。 」
ジョージは答えなかった。
ただ、その天使から目を離すことができなかった。
対照的に、さっきまで漂っていたコーヒーのわずかな香りだけが、
この出来事が夢ではなく現実であることを、全員へ静かに引き戻す残酷な証に
なっていた。
♪モーツァルK.137inspireされています。(イメージソング)
【 あとがき】
第三話では、「封印の神殿」を舞台に、
ベノムワールドの大きな謎へ触れる入口を描きました。
地下へ続く階段。
誰も知らなかった場所。
そして、そこで待っていた存在。
不思議な出来事の中にも、
いつもの喫茶店らしい少しの騒がしさや、
仲間たちの掛け合いを残しています。
怖さだけではなく、
どこか温かさや懐かしさを感じる場所。
ベノムワールドでは、
謎の答えだけではなく、
その場所で何を感じるのかも大切にしています。
封印が解かれたことで、
ジョージたちの旅は新しい段階へ進んでいきます。
この先に待つものを、
一緒に見届けていただけたら嬉しいです。




