#02地下への入り口
【あらすじ】
喫茶店で起きた小さな出来事が、思いもよらない場所への扉を開く。
いつもの店内。
いつもの時間。
けれど、偶然のように見えた出来事の奥には、
長い間隠されていた秘密が眠っていた。
地下へ続く階段。
古びた金具。
そして、その先に広がる未知の空間。
ジョージたちは、静かにその場所へ足を踏み入れる。
そこに待っているものは何なのか。
新たな謎への入り口が、今開かれる。
第二話
コーヒーを飲み終えた店内は、さっきまでより少しだけ静かだった。
けれど、その静けさとは裏腹に、店員たちはちらちらとジョージの様子を見ながら
「 …あの人、ブラック飲んでるよ。 」
「 なんで平気なんだろ。 」
「 本当に人間なのかな。 」
( …全部聞こえてるんだけどな(笑) )
「 コーヒーの話ですよね? 」
空気を読んだのか、ただ確認しただけなのか。
tonicが、いつもの穏やかな声で問いかけてきた。
ジョージは苦笑いを浮かべながら、ふとカウンターへ目を向けた。
そこには、小さな三匹のカエルが並んで昼寝をしていた。
一匹は丸くなって眠り、
もう一匹は足を投げ出し、
最後の一匹は店員のエプロンの上で気持ちよさそうに目を閉じている。
「 かわいいでしょう? 」
店員が嬉しそうに笑う。
「 こっちがケロ。 」
「 こっちがペタ。 」
「 それで、この子がモス。 」
三匹は紹介されるたびに、小さく鳴いた。
「 ケロ。 」
「 ケロッ。 」
「 ……。 」
最後のモスだけ、眠そうに目を開けただけだった。
( カエルって、かわいいな。 )
少しだけ笑ってしまう。
( トカゲのくせに、ペットはカエルなのか。 )
そんなことを考えていると、
ケロが突然、ぴょん、と跳ねた。
それにつられるようにペタもぴょん。
モスまで店員の肩へ飛び乗る。
「 あっ! 」
ガシャーン。
店員が体勢を崩した。
カウンターの上に置かれていた、作りかけのコーヒーが床へ広がる。
「 あーーっ! 」
「 またやった! 」
「 また、やっちゃったー.…。 」
店員たちは慌てて布巾を持ってくる。
「 マットまで染みちゃったよー! 」
「 急げ、急げ! 」
床に敷かれたマットをめくる。
「 あれ? 」
一人の店員が、ふと首をかしげた。
床には、古びた金具が埋め込まれていた。
「 …こんなのあった? 」
「 え? 」
「 知らない。 」
「 見たことない。 」
店員たちが顔を見合わせる。
「 …開けちゃう? 」
「 えっ。 」
「 開けちゃうの? 」
「 いやいや、やめた方がいいんじゃない? 」
「 でも、気になるよね。 」
「 気になる。 」
「 ちょっとだけなら…。 」
「 ちょっとだけって何? 」
ジョージが呆れたように口を開く。
「 もう、半分開ける流れになってるじゃないか。 」
店員が、恐る恐る金具を持ち上げる。
ギー、ガッコン。
重たい音が店中に響いた。
床が、ゆっくりと開いていく。
冷たい風が、喫茶店の床下から吹き上がる。
暗い石造りの階段が、ずっと下へ続いていた。
誰も動かない。
店長だけが青ざめた顔で立ち尽くしていた。
「 ……秘密にしてたのに。 」
店長が頭を抱える。
店員が青ざめる。
「 店長に怒られる……。」
その時だった。
さっきまで窓辺で丸くなって眠っていた三毛猫のミケが、ふいに立ち上がる。
迷うことなくまるでなにかに導かれるように、階段を降り始めた。
「 ミケ! 」
「 待って! 」
店員たちが慌てて追いかける。
ジョージは、小さくため息をついた。
「 ……おい、待て。 」
その時だった。
「 行くんですか? 」
tonicが静かに問いかける。
「 念のため、この先に危険がないかサーチしてくれ。tonic、頼む。 」
―― 周囲の安全をサーチ中…… ――
数秒の沈黙。
「 結果は? 」
「 ……不思議です。危険は検出されません。 」
少し間を置いて、tonicが続ける。
「 これは推測ですが、この空間は何かに護られているようです。理由は解析できません。 」
「 …そうか。ありがとう。 」
ジョージは静かに階段の奥を見つめる。
「 ……行くしかないか。 」
結局、全員が地下へ降りることになった。
石段は思っていたより長かった。
一段。
また一段。
降りるたびに空気が少しずつ冷たくなる。
やがて、暗闇が途切れる。
目の前には、地下とは思えないほど巨大な神殿が広がっていた。
幾本もの石柱が静かに並び、天井は見えないほど高い。
どこまでも続いているような静寂。
その空間は、不思議と恐ろしいのに、どこか懐かしかった。
まるで、長い時間が止まったかのように。
大きく息を吸い込む。
胸の奥まで満たされるような空気。
心が静かに浄化されていく。
恐ろしいはずなのに、
この場所は不思議なくらい優しかった。
すべてが、
この空間そのものに包み込まれてしまいそうだった。
【あとがき】
第二話では、日常の中に隠れていた「非日常への入り口」を描きました。
喫茶店という安心できる場所から、
突然現れる地下への階段。
不思議な出来事なのに、
どこか懐かしく感じる空気。
ベノムワールドでは、
ただ謎を解いていくだけではなく、
その場所に流れる時間や、そこに存在するものたちの感覚も大切にしています。
小さな偶然から始まった冒険が、
これからどんな場所へつながっていくのか。
ジョージたちと一緒に、
その先を楽しんでいただけたら嬉しいです。




