38話 フロアボス戦
ゲームの中のお約束……
「ミノタウロスだわ!」
身の丈2m程度、頭に大きな2本の角。筋肉隆々だ。下半身は牛そのもののようで、びっしりと毛に覆われている。右手には、床に下ろした槌の長柄が握られている。
こいつが階層ボスか。
あれっ?
一瞬戦慄が走ったが、微動だにしない。
そして数秒。
「動かない?」
リザも俺と同じように一旦身構えたが異常に気が付いたようだ。
魔力は感じるし、剥製とか死骸とかではない。そもそも魔鉱獣は斃されたら青銀に変わるしな。よく見るとボスの眼球は動いて、こちらを睨んでいるから気付いているはずだ。しかし、肩から下は微動だにしない。
「ご主人様。参りましょう。あのレッサーミノタウロスは攻撃してきませんから」
「はっ?」
「どうしてよ」
リザも反駁する。
「戦闘しても誰も得をしないからです」
「むう」
「迷宮は、生命的なシステムであり、斃した侵入者を取り込んで養分とするというのは、昨日聞かれましたよね」
「ああ」
迷宮が生命というのは、ギルマスから聞いた。
「迷宮内で魔鉱獣を産むのは迷宮です。しかし、この階層ですとレベル30の雑魚ボスですから、侵入者を斃す期待値が高くありません」
ほう。
「つまり……冒険者にとっても、利得が少ないということか?」
「はい。したがって、迷宮としては侵入者に素通りして貰った方が都合が良いので、この階層のボスは攻撃してきません」
ずいぶん世知辛い話だ。それなら、ボスを置かなければ良い気もするが。
「なぁんだ」
リザが肩を落とした。がっかりするのは分かる。
「エマは、知っていたのか」
「ああぁ。ええ、まあ」
「そうかあ……」
「念のために申し上げますが」
「なんだ?」
「ボスの足下、丸く床がぼんやりと光っていますよね。あそこには、踏み込まないように気を付けて下さい」
アイの言葉通り、直径7、8m位が他の床とは違って見える。
「ははっ。もしかして。踏み込んだら、ボスも攻撃してくるのか?」
「はい。ちなみにあの外からでも、こちらから攻撃を仕掛けると、同じことになります」
ん?
マントが引っ張られた。
リザのヤツ、上目遣いでこっちを見ている。
わかったわかった。
レベル30は、この階層までの中では高レベル魔鉱獣だが、それ程高くはない。普通の冒険者にとってはおいしくないのだろう。しかしながら、俺達にとってはそうではない可能性がある。
「ミノタウロスを斃そう」
えっという顔で、エマが止まった。
「……はぁ、ケント様がお望みであれば」
微妙な面持ちだ。
「やったぁ!」
対照的に小躍りするリザ。胸が躍動してる。
「それから、攻撃はリザだけだ。エマはもちろん、レダも攻撃するなよ」
「ウロォロォ……」
頭を撫でてやると、喉が鳴った。理解できたのかどうか。
『レダは、先程から私が押さえて居ますので大丈夫です』
それで、レダも動かなかったのか。
「ああ、エマ。ボスが、リザに迫ってきたら守ってやってくれ」
「無論です」
「よし。リザ、いいぞ」
「いいの?」
肯く。
ストレスを溜めたままは、後々良くない。
「じゃあ。張り切って」
リザは、杖を構える。
「~~ エル エッダ ムーデン……」
薄暗い中、リザの身体が仄明るく燐光を放ち始める。
むっ。
それに反応したのだろう、ミノタウロスの身体がこちらを向いた。
魔法の場合は、詠唱段階で反撃が始まるのか。
「来るぞ!」
エマが楯と短槍を構え、レダが重心を下げる。
「…… ホーヘイム ディス エイダム ……」
ダン! ダッダッ。
ボスは重い一歩を踏み出すと、突進を始めた。
彼我の距離は、10mもない。
槌を振りかぶる。
「……リザが命ず 紅蓮の焔で焼き尽くせ フランマーズ!!!」
杖の直前から目映い焔が吹き出た。それが太い幹のようになって伸びていく。
指呼の距離まで近付いていた階層ボスを捉え、その突進を止める。
おおぅ。
凶悪な火炎放射は、瞬く間に犠牲者の全身を燃え上がらせ、白煙を上げる。
なんて火勢だ。
しかし、輻射が来ない。魔法だからか?
大きなミノタウロスは、槌を落とし、太い腕を藻掻くよう振り回したが、やがて動きが止まり、そのまま床に崩れ落ちた。
「やったな! リザ」
「うん」
満面の笑みだ。
しかし、凶悪だな。
ついつい、犠牲者目線になる。
焔はいよいよ強く燃え上がったが、やがて破裂音と共に黒い煙の球が弾け、一瞬にして消え失せた。
そして、ジャララと青銀の粒が床に散らばる。
≪レッサーミノタウロスを斃しました≫
頭に無機質なアナウンスが流れる。
≪基準経験値975を得ました!≫
≪獲得経験値逓倍:256倍を適用,経験値249600を獲得しました!≫
≪青銀8354gを得ました!≫
ファンファーレが鳴る!
≪称号:黒幕を得ました!≫
黒幕って、なんか外聞が悪いな。リザ1人で戦わせたからか。
≪ステータス:AGIが2上昇!≫
≪職能:剣 士が昇格しました!:レベル59≫
≪職能:拳闘士が昇格しました!:レベル54≫
≪職能:放浪者が昇格しました!:レベル60≫
≪職能:調教士が昇格しました!:レベル20≫
≪スキル:多体制御3を憶えた!≫
「ケント様。もしかして、レベルが上がったのですか?」
「ああ」
「さっきも上がっていませんでしたか?」
「まあな。ちょっと待ってくれ」
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訂正履歴
2022/11/19 誤字訂正、少々表現変え
2022/11/30 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)




