魔石の力
「……遅くね?」
少女がこの部屋に俺達を置いて行って半時間程たったろうか、未だに帰ってくる気配がない。
「話す時間をくれたんだろうけど、流石に心配かも」
彼女の立場は完全に被害者ではあるが、霊亀に知人がいる人からすれば能力に任せて1人逃げてきた娘だ、何もないとは言えない。
何かあったのか、と楓と軽く話していると例のメイド長が入ってくる。
「ご安心ください、敷地内からは出ていませんのでもう半時間ほどごゆっくりお待ちください。」
そう言うと追加の茶を注いで出て行ってしまった。
「……こっちも時間の単位って時なんだな。」
「世界は違うけど一日あたりの時間は変わらないみたいだね、異世界に来た時に体内時計が狂ってる様子も無かったでしょ?」
「なかったでしょ?なんて言われても1日あたりが1,2時間しか差がなかったら気づかないだろ」
魔法や魔物の本読んでも時間の単位なんて出てこないし知りようがなかったし必要にかられる時もそんなになかった。
「私って人より体内時間が人よりちょっと正確なの、私でも違和感ないなら差はないと思うよ?」
「大した自信だな」
「ちょっとした特技?みたいな感じ、でも修学旅行の時は時差ボケで困っちゃった」
へぇ、そうなんだな。
国内だから旅行地との時差1時間も無いんだけどな。
「そうか、よく困れたな。で、それは置いといてだ」
と、露骨に会話を変え本題へ。
楓はむくれてるけど知らん、楓のチートにはもう突っこまんって決めたんだ。
「本題に戻るが魔族とどう接触するべきか……」
「待ってればそのうちこの街にも来るとは思うけどこれ以上被害が出るのは避けたいね」
「それに後手に回るのも危険だ、街を魔物で囲われたら被害は否が応にも出るだろうな」
少女の話を聞く限りでは住人が兵士の役割を果たしてるんだ、下手すれば死亡者を出しかねない。
それに前回の色欲戦、住民の避難を済ませていたから建造物だけではあったがそれでも馬鹿にならなかった。
「それに大罪がいるってなると手が足りない、よね。」
楓もそれを分かっている、しかも今回の相性次第では殲滅力の高い楓に大罪を相手させざる終えないかも知れない。
そうなると対魔物戦は俺になるわけだが、いかんせん数がなぁ。
「いや、住民も戦えるなら足りないこともない……筈だ」
「大丈夫なの?」
「元々魔族さえいなけりゃなんとかなってたって話だろ?」
俺もフォローに回るとすれば守護者複数人分の働きは出来る。
楓は暫く考え込む様子を見せると再び顔を上げた。
「大丈夫そうだね」
「あぁ」
そこには確信と勝利を見切った瞳があった。
住民、守護者の実力から魔物の実力を割り出し地図上の霊亀の大きさから魔物の量を推測、そこに俺が入った時戦場がどうなるか……そこまでの全てを読み切ったんだろう。
完全ではないだろうが楓がそう確信したならかなり信用できる。
あとは俺が動き方をミスらなければ良い。
「てか心配なのはそっちだろ、大罪相手にスキルが不明ってのはかなり不利だぞ」
前回の俺はスキルの読み間違えで空中で一瞬とはいえ動きを完全に止められた。
あれは相手がこっちを舐めていたから助かったようなものだ。
今の情報では大罪のスキルの内容は
・魔石を吸収する。
・鎧を纏う。
のたった2点だけ、吸収できる量も大きさも分からなければ、それと2つ目のスキルが噛み合わない。
「大丈夫、ちゃんと最悪を想定して戦うから」
「大罪レベルのスキルの複数所持か……」
吸収と鎧、防御に特化しているようで近接戦では吸収で相手が武器を持つのを許さず鎧を纏った拳は十二分な殺傷能力を有する。
更に下手すればこれ以外にもスキルを持ってるかもしれない……。
情報の少なさに話が行き詰まり時が経つ。
そんなタイミングで部屋の扉が開いた、入ってきたのは家主の少女。
メイドが来てからもう半時間か。
帰ってきた彼女の髪は整えられ水気を帯びており服装はラフなものへと変わっていた。
風呂にでも入ってきたのか?いや、そんな事はどうでも良いか。
それよりも
「あまりにも情報が少なすぎる、些細なことでも良い、敵のスキルの手がかりはないか?」
対面に座る楓の表情に小さな非難の色が出る。
確かにそう思うのも分かるがこれに関しては楓やカノン、俺、ついでに言えば街の住民の命がかかっている。
「……うん、ある」
少しの逡巡の後にそう言い、俺に神器のガントレットを見せた時のように片手をあげる。
その後妙な魔力が集まると腕全体が鎧に包まれた。
「敵の鎧、これに……似てた」
「それは?」
「『霊亀』の守護者に与えられたスキルの一つ、《亀神装》」
与えられた?誰に?いや、この状況でその話を持ち出すって事は
「霊亀の守護者のスキルは魔石から与えられたものなのか。なら……」
魔石を吸収した大罪がそれを使えるのも道理か。
鎧と吸収が繋がり魔物の扇動も適当な魔物からその類のスキルを奪ったんだろう。
「ならこの国を狙ったのも、そういう目的なんだろうね」
楓も気付いたらしい、こういう系統の知識自体は俺の方が多いとは思うが地頭の違いだな。
「考え得る中で最悪のパターンだ、大罪レベルのスキル数個じゃ全然足りねえ可能性も」
もしかすると、あらゆる魔物のスキルを自在に奪える、しかも魔石からで良いってなると部下に収集させれば良い。
「個数制限に縋るって訳にもいかねえよな」
「ねえメルトリアさん、他の守護者さん達のスキルも教えてくれないかな?」
メルトリアさん?
…
……
………
…………あっ、俺ってこの人の名前知らなかったわ。
「?理由は、分からないけど、分かった、教える」
元々人前でも戦うだろうから秘密って訳でもないだろうが、彼女、メルトリアさんは、緊迫したこちらの状況を察してから即断してくれた。
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強い、霊亀を含めた守護者達の能力はそれに尽きる。
どれもデメリットというデメリットは無く性能は絶大、大罪にはもうこれ以上はただの一つも取らせる訳にはいかないが……。
「他の街、大丈夫かな?」
「分からない、だが相手の手法は割れてる」
「ん、魔物も、かなり減ってた、筈」
とは言いつつも、そんな事は気休めにしかならない、この世界は数より質が優先される。
「魔石をこの街に集めるってのは出来ないのか?」
後手に回ることになるが、守護者も魔石もできる限り集めて襲撃を待ったほうが街を端から潰されるより断然ましだ。
「無理、魔物被害が少ないの、魔石の、おかげ」
魔石の?秘宝ってのは守護者に力を与えるのだと思っていた俺と楓は互いに目を合わせる。
「人は守護者の元に集まってるんじゃないの?」
楓がその情報に食いつくのも当然だった。
「魔石に、周囲の魔物達は、今も、怯えてるから、寄ってこない。テロ対策とか、その他色々?で歴史の闇に、消えたけど」
確かに魔石ひとつ奪えば魔物での被害者は増えるだろう、他にも国の守護者が魔物から力を貰ってるってのも隠したい事実なんだろうな。
結局この日は対処法も見つけられず、対処法はこの国の方針を聞いてからにする、という結論に落ち着いた。




