天才の片鱗
『会議解散後 楓』が次の題名と言ったな、あれは嘘だ。
まあ話の区切り的にそりゃあね
「まさか、こんな事が起こってたとはね」
私はゴブリン二体と対峙した時、すぐさま異変を感じ取った。
そしてそれは魔力視を使用する事で明らかとなる。
「まさかダンジョンコアを取り込んでるだなんて……」
ゴブリンワイズマンがダンジョンコアを取り込んでいた、そんな事が可能なのかは分からないけど事実そうなってる。
グロニアさんの書庫にダンジョンコアから魔力を横領する魔法陣はあったけどそれとは違うみたい?
「単純に取り込んで変化したって感じかな?」
それにダンジョンコアの魔力が全てゴブリンの強化に使われてたならモンスターが再出現しないのも納得がいく。
「おっと、キングが前衛なんだ、よしっ始めようか」
久々の未知との戦いに頬が吊り上がるのを感じる。
私って案外この世界を楽しんでるのかもね。
思えば向こうの世界ではなんでも出来た、自分で言うのもなんだけど一度見たものは忘れないし、運動も出来た、見た目もスタイルも平均以上で何も不便はない人生。
けどそれって案外空虚で何もない、頭も良かったせいでテレビを観ても小説を読んでも、友人と過ごしてさえ先が読めてしまう。
そんな中では冬木涼太って人物は見てて面白かった。最初は寝てる事が多いし小説ばっかり読んでるし、クラスに一人は居る普通の男子ってイメージだったんだよね。
同じクラスになって少ししてやっと気付いた、彼は学校という空間に居ない。
その場に居るのに居ないって言うのも変だけど確かにそう、誰かに萎縮せず、増長せず、自分と少数の友人いる世界で生きてる。
だからこの日本という排他的な集団社会であっても人に流されない、そしてその生き方に『彼』という存在が強く出る。
それからは他の人が携帯を弄るような感覚で、小説を見る様な目で、彼を観察するようになった、それからは学校の空虚感が薄まって友達との会話も少し楽しく思えた。
そんな色の薄い世界で生きてた私が、私の知識をせせら笑うような世界に放り投げられて、私の人生に色を与えた張本人と冒険して楽しまない方が無理ってものでしょ。
確かに帰りたいって思う時だってあるけど、私は今を楽しく生きれてる。
せめて魔王を倒すまでは良いよね、お父さん、お母さん。
「私を楽しませてねゴブリンさん達、悪戯者の本領を見せてあげる」
時は村人の訓練が終わって十数分後、俺は一人の少年に、というかレイアに話しかけられていた。
「ねえ、お兄ちゃんはお姉ちゃんのところに行かなくて良いの?」
「お姉ちゃんって楓の事か?」
そう聞き返すとレイアは首を縦に振った。
別行動でダンジョンに、更には異常事態が起こってる可能性がある所に送り出した、けどなぁ
「ダンジョンって閉鎖空間で楓が負けるような相手はこんな場所には居ねえよ」
俺が機械天使に勝てたのだって魂が機械天使を操ってるから分解出来たってだけで俺が勝てたのは相性の問題だ。
むしろ裏ダンジョン攻略前のレベリングをしてない状態で7大罪と同格ともいえる機械天使に攻撃を通せる楓が異常なんだ。
「でも、不安じゃないの?」
まあ、ないと言えば嘘にはなるが
「……これ以上ないくらい信頼してるから背中預けてんだよ。あと、これ本人に言うなよ」
「はーい」
今の言葉、真顔で言えた気がしない。
まあ良いか、黒歴史が今更増えても大した影響はないだろ。
「ま、坊主にもそう言う相手は居るようだな」
顔を真っ赤にして否定して見せたけど分かり易すぎるんだよ。
さっき俺を見てニヤニヤしてた奥様方の気持ちがよく分かる、俺はもう諦めた。
さっさと勝ってこいよ、その、まあ、信じてるからな。
勝負が始まった直後、突っ込んできたゴブリンキングは宙へ飛ぶ。
理由は私が地面に設置した風魔法の一つ、よく移動の際に使う殺傷能力を抑えたウィンドボムだ。
「まさか罠に気付きもしてないとはね、《鉄の処女》」
宙に浮かされたゴブリンキングは動く事も出来ない状態でウィンドボムと連動して発動した多数の魔法に撃ち抜かれた。
……私の魔法に拷問道具の名前がつけられてた気がする、今気にする事じゃないか。
ちなみに後日、涼太がこの技を見た時に思い浮かべたものも戦乙女の抱擁ではなく鉄の処女だったと言う。
とにかく今は閑話休題として、戦闘に戻ろう。
どうやらワイズマンの方は気付いてたみたいね。
ゴブリンの顔色なんて分からないけど全く変わってない事くらいはわかる。
魔法が準備されてる所から時間稼ぎに使われてたと思うべきかな。
さっと発動されてる魔法陣を見る。
数は計五つ、上級魔法が二つ、中級魔法が三つね、中級魔法は練度とか魔力操作が高いから下手な上級魔法と威力は張りそうかな?
「成る程ねえ、ゴブリンらしからぬ実力はあるみたい」
「ギヒヒヒヒヒィ」
全弾発射される。
発射された魔法は火、水、風と三属性、魔物としてはトップクラス、ダンジョンコアをコントロール下に置くだけの魔力コントロールをして見せる。
魔物の中でトップクラス、魔人ですら多くは居ないだろうね、それに
「《アースウォール》」
私が発動した壁はその五発を受けると崩壊した。
威力も申し分無しか、仲間殺しでレベルを上げたって事ね。
土壁が崩れて土煙が消えるとゴブリンがさっきの倍の数の魔法陣を発動してるのが見えた。
魔力視で見えてたけどね。
「ギゲァア!!」
今度は更に属性が増えたさっきの三属性に加えて雷も発動されてた。
それに対して全弾同じ威力、同じ属性、同じ精度で打ち落とした。
「ゲァ?」
随分と驚いてるけど魔王軍ならこれくらい簡単にやってのけるからね?
所詮は地上産の魔物の最強格であってこの程度か。
それから暫くは私の実験と化した。
ゴブリンが出せる最大量の魔法を見るために撃つ魔法を一つずつ増やしていった。
結果は15、ゴブリンとしては異常、ダンジョンでいえば70後半、無限の魔力と仲間殺しで簡単にレベルアップ出来る環境、あとは一重に才能って言うべきかな。
「まだ奥の手があるでしょ、さっさと出した方が良いよ」
最初に撃たれた火と同等の魔法はまだ出てない、その準備をさせるために魔法を撃つのを止めた。
するとゴブリンは不思議そうにしてすぐに頬を吊り上げ魔法陣を二つに絞って詠唱を開始した。
魔力視で見ると上位魔法を超える魔力量が注がれていた。
そして二つの魔法陣が完成した。
「グギヒヒィ、グギャァア!!!」
発動した魔法は火と風の上位魔法、威力で言えば恐らく私が前にダンジョン50層で使ったプロミネンスに匹敵するだろう火炎。
ゴブリンは勝利を確信し口が邪悪に吊り上がる。
あーあ、勝利を確信しちゃって油断しまくってるじゃない。
私は焦る必要がない、なぜなら所詮は私がダンジョン50層で居た時に編み出した程度の精度も練度も無駄が多いプロミネンスと同程度の魔法。
火力で押し返してもいいけど全身消し飛ばしてダンジョンコアまで破壊しちゃうとアリサちゃんを見つける前にダンジョンが崩壊しちゃうしどうしようかな。
現在の状況を打破する魔法を脳内から検索する。
幾つかの魔法がヒット、その上でダンジョンを崩壊させずカノンを巻き込まない魔法を選択する。
浮かび上がる魔法陣は風、効果としてはウィンドボムの逆、更にその威力を増強させる。
魔法陣が描かれた時ゴブリンが驚愕の表情を見せた、もしかして私の魔力が尽きたと思ってたから余裕そうだったのかな。
無意味な事を考えながらでも魔法陣は完璧に作られた。
「《エアロック》」
範囲は丁度ゴブリンの放った火炎を飲み込む程度に風が吹き荒れる。
ただとある一点に向けて風が吹いた、というより吸い込まれるように空気が圧縮されていく。
その風の中には勿論ゴブリンが放った火炎も入るわけでその火炎はただ一点に無理矢理押し込まれるように凝縮する。
ウィンドボムの様に風を爆破、炸裂させるのではなく凝縮させる。
本来は風を使った大技とか、風を操作するスキルをもった人が技を放つ時のタメでしかないそれは、炎と風を用いた高温の熱波に対してはそれらを無力化する盾となる。
そしてそれは盾では終わらない、圧縮された空気の爆弾と言って良いそれにに拡散しない様に指向性を与えるとどうなるか。
私はその風をゴブリンの眉間に向ける。
ここでゴブリンは自分の攻撃が完全に防がれた事、そして今現在自分の命が危機に晒されている事を感じて無意識に一歩後ろへ下がった。
下がってしまった。
その瞬間、足が魔法の罠を踏み抜いた。
ゴブリンはゴブリンクレイマンは気付く事が出来なかった、一度有利に立ったと思い込んだ慢心や派手な魔法による打ち合い、必殺技への集中、それらは彼から確実に自分の足元への警戒を怠らせた。
踏み抜いた魔法は土属性の《アースチェイン》、土でできた鎖が手や足、全身を縛りつけ完全に自由を奪う。
自分なら数秒で崩壊させられる拘束系の魔法、ただ今の場面では致命的だった。
そして彼は動く事も出来ずパスンッという間抜けな音を最後に額を撃ち抜かれ、その一生を終えた。
「さて、あとはダンジョンコアを取り出せば終わりかな、あ、カノンももう終わったみたい。」
楓はゴブリンの死を確認するとそこら一帯、床や壁、天井に至るまでにびっしりと設置した数百の魔法陣を解除した。
「うーん、ゴブリンクレイマンって動かなかったから案外時間掛かっちゃった。」
自分の戦闘が終わってずっと楓の戦いを見ていた。
私はどうやら楓に関して大きな思い違いをしてたみたいだ。
彼女の強さの本質をずっと無限にある魔力だと思ってた、それがこの戦いで覆された。
楓の強さの本質はその知識量と判断力、そして即魔法を組み上げる馬鹿みたいな演算能力にあったみたいだ。
状況に応じた魔法を必要な威力で、速度で扱ってみせる、無限の魔力はそれを実現するための一つのファクターでしか無かった。
「楓も終わったんだナ……いヤ〜、こと創造においては自信あったんだけド、あの魔法の罠達を見たら自信無くすヨ」
ゴブリンクレイマンを横目で見ながら楓に合流しそう言うと、楓は何でもなさげに答えた。
「あはは、あそこまでの魔法の罠なんか私には作れないよ、ただ覚えてただけ」
それを聴いて私が出来たこと、それは絶句、そうするしかない。
楓はあの幾百の魔法罠を覚えてただけと言い切った。
私もあれらが全部同じモノならせいぜい呆れるくらいで済んだんだろう。
だが、ぱっと見あの魔法罠達は一つ一つが影響し合い相乗効果が発揮されるように微細な調整がされてたように見えた。
「そ、そうカ、じゃあアリサちゃんを探そうカ」
一人の少女としてではなく一人のクリエイターとして、私は楓という存在を規格外に位置付けた。
ま、私もその規格外に入るんだろうけどな!
カノンと共にその大部屋を抜ける、着いた場所は本来ダンジョンコアが置かれているはずの部屋。
そこには複数人の少女が横たわって眠っていた。
「良かった、全員息もあるし怪我も無いみたい」
「誰がアリサちゃんかは分からないけド全員連れて帰るってことでいんだよナ、どうやって移動させるんダ?」
「それは当てがあるから大丈夫だよ」
私は涼太が対嫉妬戦で倒れた時に移動に使った水と回復魔法の同時使用で顔に被せないよう少女達を優しく包む。
「じゃあ帰ろっか?」
「………ハハハッ、何その魔法…涼太の言ってた事、身をもって実感したヨ」
ゴブリンキングを前座にすらならずに惨殺、ゴブリンとは言え最上位の魔物相手に遊びながら勝利、数百の魔法陣の完全暗記、挙げ句の果てには複数の属性の魔法を一つの魔法として圧縮という魔法の新常識を成立させたか……どんな喜劇だヨ!!!
『楓はチート、これ覚えてないと今後心労で死ぬ』恐らくこの言葉をカノンは生涯忘れないだろう。
裏設定っぽいの
楓がよく防御魔法として展開するアイギス。
それは前々話で涼太がしてた大気へ光属性による魔法の実体化を応用して盾状に展開したものだったりする。
ま、今後の展開に何も影響してこない無駄話だけどね。




