小さい放浪者
今日は俺が手綱を持って馬車を操作する。
既に街からは出て『麒麟』への道を辿っている。
それなりのスピードを出しているから俺は索敵スキルを薄く広く展開するようにしている。
その索敵範囲に何やら『鳳凰』へと向かう5、6体のなにか。
正確さを捨てて範囲を取ってるから鳳凰へと向かうだけの奴らならすれ違う距離にすら近づかないだろう。
向かってるのは恐らくだが動物かそれ型の魔物、正確さを捨ててるとはいえ四足歩行かどうかくらいは分かる。
と言っても数は少ないし覇気も感じられない、第一『鳳凰』も自分で対処出来るだろということで無視を決め込むと決める。
俺の操縦する馬車から6つの火球がそれへ飛び立ちそいつらを捉えた。
その狙撃手はもちろん、というのは適切ではないが楓だ。
もちろんって言えないのはその火球に込められた熱量も爆発力だ、過剰すぎる、気が気じゃないんだろうな。
魔物さん、あんた出てくる所を間違えてるよ。心の中でくらい手を合わせてやろう、南無三。
火球を撃った楓は寝転がり仮眠のような体勢になる。
雰囲気からして索敵をしてる事が丸わかりだ、休んだ方が良いのは確かだけど、別に咎める事でもないか。
他にも遠くに何匹も鳳凰に向かってる。それが鳳凰の壁の後ろに建てられた高台から見える距離に至った直後、一つの影が見えた。
あれがこの街の守護者ってやつか。見たところ鳥人か、何の鳥かは知らんがな。
直後、その獣人が炎を翼に纏った。
朱雀の代名詞みたいなところがあるからな。
それを見るためにのんびりダラダラ馬を走らせる。
暫く観察したらある事に気付いた。
傷を負ってる気配も動きが鈍る気配もないな、何発か喰らってる筈だが。
……あぁ、なるほど。朱雀とフェニックスが同一視されてんのか。で、その能力がなんらかの作用で付与されたと。
自然治癒、いや、再生ってのが正しいんだろうな。
裏ダンジョンにも確か一体いた、確か魔力やスタミナを体力に変換するスキルだった筈だ。
あの時は大変だったなぁ、スライムの魔力とスタミナが尽きるまで永遠に攻撃を躱しながら切り続けるっていう地獄な。
なんて、過去に想いを馳せていると獣人は翼をはためかせ炎を散布し魔物を始末した。
最後にそれを見て馬車の速度を上げた。
纏ってた炎まで付与された能力だとは。
一見エンチャントにも見えたあの炎、それとエンチャントとの違いは放出後だ。
通常エンチャントを斬撃状に飛ばしたり突きの要領で飛ばしたりするとそのエンチャントは消えてしまう。
それは内包した魔力を放出する事に違いない。だから新たに補充、ようは掛け直さないとダメなんだが、あれは違っていた。
多数の弾丸のように射出した直後にも火は灯っていたからそういうスキルなんだろう。
異常な再生速度に遠近共に有用なスキル、そりゃあ担ぎ上げて人が集まって来るわけだ。
しかもあれクラスがあと四種族、いや、三種族か、人数次第では敵対するのは面倒だな。
だがそれ以上にその人種族、その上恐らく防御特化であろう玄武の権能を持った種族を全滅させた魔族ってのが気になる。
確かに防御手段しか無いならジリ貧になって負けるだろうがその程度の事は幾年もの歴史の中で改善されてるだろう、そもそも防御を攻撃に用いるスキルがある可能性もある。
所詮は憶測でしか無いが少なくとも玄武の権能持ちが生き残ってない事がおかしい。
攻撃特化の魔人なのか、それとも速度特化で防御をさせなかったのか。
スキルも凶悪な物だろう、魔法特化のスキルなら完封出来るからそうなると良いんだがな。
この日は結局俺1人で御者をしていた。
翌日、楓は自分の感情にとりあえず区切りを付けたようで操縦を変わった。
カノンも少しずつ顔を出すようになりこの日立ち直ったとは言えずとも多少は元気も残ったと思う。
そのさらに翌日、また俺の操縦中に俺たちは村の近くを通りがかった。
多少道から外れた所だろうか、そこに1人の少年が倒れていた。
……別にスルーしても痛くも痒くもないんだが、かと言ってそんな少年をスルーする程腐ってもないしとりあえず近づいてみた。
うん、まあステータス上昇と共に上がった五感で分かってはいたが、号泣じゃねえか。
「おい坊主、何があった」
御者席からその少年の横へ馬車をつけて話しかける。
その時に後部座席にいるカノンがビクッとした気がするがとりあえずは無視だ。
そういや初対面で坊主って言っちまってたな、あれ?俺の会話ってワンパターン?でも仕方ないよな、元の世界では喋り方忘れるレベルで喋らない日もある人間だし。
「うぐっ、えぐっ……お兄ちゃん達は誰?」
「冒険者だ」
そう答えるやいなや起き上がり食い気味で馬車の御者席に座る俺の足に縋るように
「アリサちゃんを助けて‼︎」
顔は涙とか鼻水だとかでグシャグシャ、服は血塗れ泥まみれだ。
「とりあえず話を聴かせろ、状況が分からないと何も言えん」
「アリサちゃんが、アリサちゃんがぁ……」
そこで少年はパタっと意識を無くした。
多分近くにある村の出身だろうって事でポーションをぶっかけて村へと馬車を向かわせる。
特に身元を調べられる事もなく、村の中に入ると余りにも人気が無かった。
そこは建物も少ない村で人も元から少ないだろうがそれ以上に活気が無い。
村に作られた申し訳程度の柵と物見台だけ、この少年が倒れてた場所まで見ることが出来てないならレベルもお察しだろうな。
村の防犯機能に疑問を抱いていると1人の女性がこちらを見た。
「……レイア?…レイア⁉︎」
先程までの警戒した様子から打って変わって1人の男が走ってくる。
「あ、あの!この子はどこで?」
横抱きしていた少年を俺はその男へと落とさない様に渡していると楓が説明に入る。
「近くで倒れたんです、それに気付いた私達が保護して近くのこの村へ送り届けたんですよ」
「そうなんですか。ありがとうございます、ありがとうございます」
男は少年を受け取り、膝から崩れ落ち少年を抱いて泣いた。
感動の再開が起こってめでたしめでたし、とはいかないと思うとため息が出そうになる。
今このタイミングが俺たちに1番視線が向いてるだろうし言っておかなければならない。
「アリサって子は知ってるか?その少年が漏らしていたんだが」
場の空気が入れ替わる、そしてついさっきの再開を見て複雑そうにしていた女性が手を上げた。
「私の娘です……」
やはりこのまま明るい話へとはいかないらしい。
「とりあえず話を聞きたいんですが……」
「とりあえず場所を移さない?流石に話し難いでしょ」
楓に話を制される。
あぁ、確かにな、言われてみればそうな気がする。
郊外に土魔法で個室を作ってもらえば良いか、と考えていると女性の老人が前に出てきた。
「それなら村の集会所を使いなさい、そこならそう簡単には話も漏れぬじゃろう」
長老とかだろうか、その提案を断る理由もないだろう。
それに下手に郊外に連れ出そうとして、賊の類いだと疑われるのも嫌という事で乗る事にした。
「分かりました、そこでお願いします。」
案内されたのは木造の10人入れる程度の木と椅子の置かれた部屋だった。
その場にいるのは俺、楓、カノン、少年、少年を抱えた男に例の女性と老人の7人だ。
その場での話は楓と長老によって進められる。
「最初にレイアを連れてきてくれた事、感謝しますじゃ。では、レイアを拾った時の状況を詳しく教えてくれますかの?」
「最初に見つけたのは涼太、えっと、そこの少年を抱えてた人でした。
近くに寄ってみると服は汚れて血もべったりと付いていて、傷は肩から袈裟斬りにされた様な物だったはずです。
傷の角度や怪我の具合から切った相手の体格は少年と同程度、武器は粗悪で力も弱いと思われます。」
お、おぉそこまで分かる物なのか、多分裏ダンジョンでの魔物解剖の成果だな。
「ゴブリンじゃと思います、最近になって近くの村からも村人が誘拐されてると報告が相次いでおりまするゆえ」
近くの村で相次ぐって、ゴブリンがそんなに広範囲を縄張りに出来るもんなのか?
「ゴブリンの拠点などの目星はあるんですか?」
「なかなか信じられない話ではあるが、ゴブリンは総じてこの近くのダンジョンへ向かってるという話ですじゃ」
ダンジョン?ダンジョンからモンスターが溢れる事は基本的に無い。
奴らは自分の縄張りから出るのを酷く恐れる習性がある。
だから基本的にはあり得ないんだが、たまたま外の世界のメリットに気付いた個体が生まれ、更にそいつがゴブリン全体の指揮を取ってんのか?
「ゴブリンの上位種や変異種が指揮をとってる可能性が有りますね、恐らくアリサさんはそこへ連れ込まれた、最悪は……」
部屋に沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは意外な人物だった。
「…リサ…ん、ア…サ…ゃ…、アリサちゃん‼︎」
少年が寝言で呟くと急に飛び上がるように目を覚ました。
「え?あれ?ここは…お父さん⁉︎……えっと…」
混乱している少年は俺達を見つけるそんな状態でも再び言った
「お兄ちゃん達は冒険者なんでしょ、アリサちゃんを助けて‼︎」
楓が少し驚いている、予想できない動きをする子供は苦手なのか?
「落ち着け坊主、ちゃんと、一から、何があったかを伝えろ」
「分かった、あのね——
——って事があったんだ」
簡単に纏めると幼馴染を連れて郊外に遊びに行ったらゴブリンに襲われたって事らしい。
その話を最後まで聴くとその少年を抱いてた父が怒りに身を震わせていた。
「だからあれ程今は外へ出るなと…」
今ここで息子を怒鳴りつけても状況が良くなる事はないと分かるくらいには冷静なのか、呆れるように溜息を吐いてそれ以上は言わなかった。
ここで長老が提案をする。
「冒険者様、我らの依頼を受けてくれ無いじゃろうか?」
依頼内容は少女の救出、ゴブリンの全滅だった。
「報酬は?」
俺の言葉だった、相変わらず空気が読めないとは思うが後でギスギスしない為には必須だろう。
村を見るに野菜を育てて村の横の川から魚を取る自給自足の生活、どう考えても金はないだろう。
「必ず用意してみせますのじゃ、近辺の村からも出してくれる筈ですのじゃ」
「あいにく金には困ってないんだ」
そう言うと困ったような表情を浮かべる。
すると恐らくアリサって子の母親が逡巡したようにしてからこちらを見て
「私のから—」
俺は「か」が聞こえた時点でアイテム袋に手を突っ込み小石を取り出す、それを左掌へと載せて右手で力を調節しデコピンでとばした
「あうっ」
「ガキいる場所で何言おうとしてんだよ、情操教育に悪いわ」
突っ込みみたいになったが相手はボケではなく割と真面目に言っていた。
そのせいでうちの女性陣の目線が俺にグサグサと刺さる、俺悪くないよね。
「はぁ、今回は受けますよ。2人は受けたいんだろ?」
ほっといてもどうせ助けに行くんだ、公認にしてしっかりと準備させた方が良い。
「良く分かったナ、なんだかんだ面倒見が良いよナ涼太って」
「俺は今回は付いていかないぞ、お前と楓で行って来い」
カノンのレベリング(レベル上げ)もしておきたかったところだ。
ゴブリンなら上位種の変異種だろうが逆立ちしたって楓には勝てないから安全だろうしな。
「えっ、じゃあ涼太は何するんダ?」
「まぁ、ちょっとな」
「えっと、受けてくれるって事で良いのですかの?」
「はい、安心してください倒してきますよ。」
楓が安心させるように笑顔で受け答えした。
母親は今にも泣きそうで長老も安心していた。
それからは楓はダンジョンの場所を聞いてお開きになった。




