式典直前準備
今日は国とメルトから装備を渡される日だったな。
国から昼過ぎに召集されて五時頃に終わるらしい。
いや時間かかり過ぎじゃね、とは思ったものの挨拶だのなんだので時間がかかるもんだと言われた。
今から城外に出てメルトに行ってもいんだが流石に国の召集に遅れるわけにも行かんしな、待機しとこう。
「軽く体動かして調子整えとくか。」
体が治って以降も身体を動かすようにしてる、国が俺達を認知した以上は王国とか七大罪が動く可能性もあるし鈍らせれない。
「じゃあ私も手伝おうかな」
いまだに楓は心配してるみたいで監視が厳しくなったような。
いつもの訓練場に行って今回は軽く身体をほぐして魔力操作を鍛えることにした。
やってる事は座禅くんで身体の隅まで魔力を循環させるだけだから身体は動かさない。
肉体的にはたしかに楽なんだが指導員がいるせいで気が抜けん。
「またちょっと乱れたよ!あんなに無茶な魔法の使い方するんだからもっと集中しないと」
俺の前で自分も魔力循環をさせながら楓の叱咤が飛ぶ。
訓練場の片隅に生えた木陰でが俺の定位置である。
魔力操作の訓練は何度かやってたんだがここ最近はやる回数もグッと増えた。
《偽英雄の序章》だの《悪鬼羅刹》だの全身に限界まで魔力を巡らせる技を使って自滅してるから当然と言えば当然か。
かく言う楓は同じことをしてるとは思えないくらい綺麗に魔力を巡らせている。
「…………ちょっと、なんか恥ずかしいから余り見ないで」
顔を逸らしながらそう言うが俺って見て覚えるタイプだから見ないことには始まらないんだよな。
我ながらJKを凝視するのはどうかと思うが失敬して集中力を高め細部まで魔力の循環を観察する。
魔力の流れを一本一本見通すように更にそれを細かく区分して見る。
するとふと気づいたら魔力が流れでは無く粒子で見えるようになっていた。
いつもは魔法の分解、構築の時のみに感覚的に感じる魔力の粒子が可視化される。
そうなってくると自分の魔力操作が恥ずかしいレベルで乱れまくってるのが分かる。
なんというかこう、粒子一つ一つの滑らかさが違う。
俺の魔力は右から左に流れる時に上下にも振動するせいで全体的に乱れるようになっているのに対し楓のはスムーズにほぼ上下の動きなしに移動する。
多分この上下の揺れが膨大な量を流すにつれて大きくなって自壊に繋がるんだろうな。
まあ認識できた所で粒子レベルの物の動きなんぞそう簡単に調整できる訳でもないが確実にマシにはなった。
「あれ?…えぇ?……見ただけで覚えたの?」
引くわぁ、みたいな反応されたよ。
いやこの作業を楓は米に水彩画を描くレベルでやってんだぞ?雑に真似ただけの俺よりもこれをここ何ヶ月かで極めてる楓の方が確実にヤバい。
囁くような声だったし反応するのもどうかとは思うが
「お前よりは絶対普通だ。」
タイミング的に覚える機会は最初の王国での超短期間の授業かグロニアさんの書庫の本、もしくは自己流しかない訳だが、どれを取ってもヤバいことにはかわりない。
だって魔法ほぼ初見or本を読んだだけor自己流だぞ、人のやることじゃねえ。
「幸い私のもらった無限の魔力って訓練のしようがないから魔法に集中出来ただけだよ。」
そう言うレベルではない。
まあいいや、これ以上不毛な争いはやめよう、価値観の違いがあるなら仕方ない。
それ以降は俺は掴んだコツを離さない為に黙って淡々と魔力循環の調整を続けた。
昼前には切り上げ風呂に入って食堂へ向かうが何故かメイドの一人に別部屋に通される。
楓と共にとりあえず付いていくと既に並べられた料理の皇帝、それにエルバートという前に一緒に食事した時と同じ状態だった。
とりあえず敬語を使っておくか、流石にメイドが居る手前いつも見たいじゃヤバいだろ。
「陛下、今日はどうなされましたか?」
二人が一気に笑いを堪えるような顔に変わる、多分メイドは気付いてない程度だろうが絶対笑いかけてる、顔の筋肉が痙攣してる。
「おっおう……あぁ、下がって良いぞ」
隣からもちょっと笑い声が聞こえた、お前もか楓。
とまあ、俺が羞恥を煽られてる間にメイドは退出していた。
色々と話はあるがとりあえずの話題はこれだろう。
「お前らはっ倒すぞ!」
「はっはっはっ、気にするな気にするな、なかなか面白かったぞ。」
皇帝め、あとエルバートも我関せずだが次戦う時があったら絶対ボコってやる。
楓?いや、どうせ勝てないんで。
「で、用事は?」
「そうだったな、今日のことでいくつか話しておきたくてな、なに時間はあるさ」
ひとまず俺と楓が席に着くと話は本題に入った。
「とりあえず武器と防具は出来てんのか?時間かなり短かったろ」
「安心しろうちの鍛冶屋は世界一だぞ……ま、実は元になる武器とか防具はあったからそれを加工しただけだ」
それで三日か、ってことは王生って皇帝やりながら自国の武器管理までしてんのかよ。
「いやいや、ただ自国の有名所の装備だから覚えてただけだ」
「おっおう」
心読まれたんだが、もしかしたらそう言うスキルでも持ってんのか?
とか思ってたら横の楓から
「涼太ってかなり顔にでてるよ?」
マジで?俺のポーカーフェ……なんか前もこのやりとりをしたような、してないような。
「そう言うこった、王になるなら気を付けろよ」
なる気ねえよ、と言いたいが王生も自分が王になるなんて思ってなかったろうな。
「で、式はどうすりゃ良いんだ?礼儀とかそんなに知らんぞ」
ラノベとかなら大見得切って大物だ!って言われるんだろうが現実の式でしたら投獄は確定だろ。
「別に適当で良いぞ、でも最初顔を上げろって言うまでは片膝立ちで頭下げといてくれ」
へえ、あんなポーズ実際にとるんだな。
あとなんかこういう風に言われるとなんか腹立つな、頭下げとけって言われたんだからそりゃそうか。
「あっ、それと俺達の事は偽名で紹介してくれ」
正直言って今名前を他国に知られて同級生まで情報が行くのは面倒事に繋がりそうだ。
「別に良いが全く別人の手柄になるから冒険者のランクをあげられなくなるからな」
「了解、あとこれから行くならどっかオススメの場所ってあるか?」
今回もまたランク上げてくれる気だったのか、案外ポンポン上がるもんなんだな。
あとちょっと前から、具体的にはカノン連れて街を出た時にはどっかには行く予定だったしここで聞いとくのが良いだろうか。
「この街を出るのか?ゆっくりしていきゃ良いのに。まっそれに文句言うもんじゃないか」
暫く思案していると思い出したように言った。
「魔王討伐の予定なんだよな、ならここから南に行った所にある共和国とかはどうだ?最近魔族の被害があったらしいぞ」
「魔族の被害?何があったんだ?」
「えっと、一族の秘宝が奪われたとかって言ってたぞ、うちの情報網に最近引っかかってな、あくまで噂程度だが」
確定ではないか、このまま魔王城に言ったほうがいいのか、いや大罪を倒さない事には魔王討伐は無理なんだよな。
「へえ、良いじゃん行ってみようよ、色々な所に見てみたかったんだ」
色々と悩んでると旅行の気配を感知して楓が話に入ってきた。
楓がそう言うなら
「分かった、とりあえず行ってみるか」
どちらにせよ合計七回の大罪討伐報告がないと戦うのも出来ないし寄り道してみるか。
ここまで話したところで皇帝のほうの時間が来た。
「時間的にもう終わりだな、立場上準備もあるし先に行く、ゆっくり食べていてくれ」
王生は時間になるとメイドが呼びに来ると俺達に言うとエルバートを付き添わせて部屋を出た。
「共和国に行くってので良いのか?カノンと仲良くやってんだからゆっくりすれば良いだろ」
「えっ?…あぁなるほど。そうだね、強いて言うなら今回ちょっと目立っちゃったし今身バレするのは避けたいでしょ?」
「そうだな、流石に王国の諜報員とかに顔見られたらバレるか」
いるか知らんけど。
相手が大国なら確実に居ると見ても良いだろうが。
それから半時間程度だった頃だろうか、飯を食い終わった頃にメイドが呼びに来た。
俺と楓は隣り合った別々の部屋に案内される。
そこには貴族用の礼服みたいなものが多数並んでいて、身体に合ったものを何着か着せられた。
流石に武器が多数入っている手甲は外せないからアイテム袋に入れて服に忍ばせてもらった。
かなり嫌な顔をされたが流石に異世界に来て他人に自分の生命線を渡すわけにはいかないし国を救ったんだから多少ゴネても許される。
最終的には赤、青、白そして金と派手な色で装飾しまくった海外の絵画で見たことあるような服を着させられた。
皇帝曰く魔道具を使って国内に放送するらしくどうにか礼服を着てくれと拝み倒された。
その話に楓が終始乗り気だった事もあってそのまま押し切られてしまった。
普段は楓に選ばれた服を着てるから現代ファッションと俺の趣味に合わせて割と色が暗めだ。
という訳で金色なんかでゴテゴテに刺繍された服を着てると考えると嫌悪感が湧く。
どんだけ嫌なんだよとか我ながらに思ったが現代人の感覚で言うと無理矢理コスプレさせられた訳で、これで式典に出て国内放送されるって人によっては自殺すら考えるレベル。
「これで出ればいいんだよな、了解。……はぁ」
俺を着せ替え人形にしてたメイドから逃げる為に部屋を出る。
その際アイテム袋は見えない所に入れるようにと念を押された。
あの人が嫌な顔した理由って絶対に武器の持ち込みとかじゃなくて絵面が悪くなるからだろ。
職人の国の住人なんだからデザイナー志望だったりするんだろうな。
それから俺の着替え部屋と楓の着替え部屋の間くらい、覗いてないけど待ってるとは分かる位置で楓を待っている。
女の着替えが長いのは万国共通らしい、待たされた時間なんと体感半時間。
式典までには余裕はあるがかと言って他に何かできる余裕はない程度の時間になった。
「遅くなってごめん、えっと、どう?」
出てきた楓を見た時、俺が最初に思った事は何なんだったと思う。
微妙、だ。
いやちょっと待って欲しい、女の着替えの感想が『微妙』ってのは口にしてないとは言え悪いだろうがちゃんと理由がある。
この世界の住人は基本的に骨格からして顔つきが違う、元の世界でいうなら街並みと同じくヨーロッパの方の彫りが深い人相をしている。
そんな世界で作られた化粧技術、それはこの国ではより先鋭的に、更にはこの世界の住人に会うよう特化されたんだから現代日本人には当然似合わない訳だ。
とは言えそれで微妙で済んでる、いや、普段の楓を見てるから微妙と感じるが普通程度には可愛いんだからほんと美形ってふざけてる。
「あー、そうだな、俺は普段の楓の方が好きだぞ」
嘘を言ってもどうせバレる、それにこのメイクを憶えられたりしても嫌だという事で素直に言ったが怒られるだろうか。
「……………………そう」
そっぽを向かれた。
怒ってる訳ではないと信じたいが…。
気のおけない間柄なんだから言いたい事があったら言うだろ。
そういや俺中学の頃ずっと気のおける間柄だと思ってたな、
と、どうでもいい実話を思い出していると楓が立ち直った。
「もう、時間ないんだから早く行くよ、メイドさん案内して下さい」
と言って腕を引っ張って行かれた。
はぁ、また式典だよ、今度は大罪の時より大きいしほんとやめてほしい。




