幕間 すれ違う思惑
〜帝国領首都ニュークリア付近〜
「いやー、あれはあっしには無理ですね、はい、恐らく全て気付かれていたかと」
耳に手を当て馬車の御者席でひとりごちる男がいた、涼太達を運んでいたものである。
「あの男は私に向かってあくまで日常会話と見せながら、あっしが奴隷の確保をしている事をしってたんでしょうな、俺達は奴隷にならねえから金はこれ以上手に入らんぞと婉曲に煽りまで貰いましたよ」
この男は奴隷のバイヤー、各所から亜人を拐い王国へと売り飛ばす裏商人の顔を持つ。
そしてこの時『お代じゃないもの』の解釈への認識の違いが互いを救っていた。
一方は己の救いたいものの願いが、もう一方は己の命が、曖昧な言葉のすれ違いで救われた。
「奴隷確保用の魔族部隊では不意をついても勝てないでしょうね、まあ魔族部隊の待機位置直前で茶番を始めたと思ったらすぐ逃げられましたが」
男は魔族部隊を連れて御者に扮し混乱に乗じて亜人確保をしようとしていたのだ。
「魔獣ですか、視覚を飛ばしたけど女に無効化されたっすね、たった数ヶ月であそこまで魔法を操るとは、戦闘結果は森から来た魔力が消えたんで倒されたでしょうな」
予想通りという風に語るその様に勝利は確信していた事が窺える。
「え⁉︎『あれ』の調査もあっしがするんですか……はいはい、分かってるっすよ、じゃあ調査に向かうんで切りますな」
そう言うと己に蝙蝠のような羽を生やして空へと飛び立った。
彼は魔族、自分達の幹部を殺った奴が知性なき魔獣に負けるとは考えなかったゆえに涼太達の勝利を未確定ながら上司に伝えられたのである。
残った御者には四人の人が乗り操作を開始した。
この待機地点にいた四人も魔族でありそれなりの実力者であるはずだが彼はそれを雑に使う。
それもそのはず、ある時はシアンすら越す冒険者として魔獣の出現報告を、またある時は奴隷商人を、またある時は諜報員としてただの御者をする。
その本性はある七大罪の直属の部下『亜人狩り』の名を持つ者である。
個人で大罪と戦える人間の出現により魔族は動き出す。
〜某国・城内部〜
「『亜人狩り』の偽装を見破るか、流石だな『嫉妬』を殺しただけの事はある」
誰も居ない集会所で男は一人策を練る、彼は魔族の、それも大罪の力を疑わない。
その慢心はこの状況で選択を見誤らなかった。
自分達の力を信じる故に大罪が負けた理由が不意打ちや偶然の賜物ではないと確信していた。
「あいつ経由で帝国に情報を流すか」
そう呟くと悪い笑みを浮かべて通話を開始する。
「おい『国殺し』仕事だ、例の男を共和国に向かわせろ」
それだけ伝えると——この世界の通信伝達にこういって良いかは知らないが——ガチャ切りした。
「あいつの能力もさっさと魔王様に還元したいと思ってた所だ。さあどう出る、次の相手は『強欲』だ」
戦力を小出しにする、一見悪手に思えるこの手は幹部のみに適用される記憶と能力の継承による情報収集という面において相手の本気を誘いあわよくば討伐可能なのだ。
それに幹部二人を切り捨てる価値があると判断し仲間の同意も求めぬ勝手な行動はこの状況下で涼太達を不利に追い込むのだった。




