変わったもの変わらなかったもの
彼はまた人としての限界を越えようとしている。
涼太が一歩踏み出した瞬間に生まれたその壁は彼と熊のみを囲い込んだ。
空間探知はその状況でも彼を鮮明に脳内に映し出す。
構える、ただそれだけの行為で毛細血管が破裂し筋が傷つく。
そんな状況で踏み出した一歩は大地と同時に彼の足の骨を粉々にした。
「おいクソ熊もう逃げられねえぞ」なんて声が聴こえた。
あの馬鹿⁉︎
魔獣は爪を振り上げようとしている、それを未来視を持つ涼太が気付かないはずは無いのに。
何が逃げらねえよ、そう思った時横を何かが通り抜け土壁を登る、いや釣り上げられて行った。
「カノン⁉︎どうしてここに‼︎」
土壁を登るとカノンは腕を一振り、そのあと一言呟くようにして降りてきた。
「どうしてって言われてモ?この国の鍛冶屋だからナ」
「こんな所に来る理由にはならないでしょ」
とは言ったもののアイアンベアは掃討してしまっている以上涼太が負ければここから遠かろうと近かろうと一緒。
カノンも私がそれを分かっていることを理解して特に何も言わなかった。
それと同秒、涼太がミスリルベアに踏み込んだ瞬間に右腕が消えた。
それに目を見張った直後に腕が現れ熊が肩から脇腹にかけて一刀両断されていた。
「あのバカ…」
そして涼太は口を動かしたと思ったら倒れた。
感じ取れるだけでも右腕からは力が抜け両足は歪に曲がっている。
私はその後すぐ土壁に魔力を通してトンネルを開けひとまず涼太の関節をはめて水魔法で体を覆い持ち上げる。
死にかけの涼太にカノンは目を覆いそうになり悲鳴を押し殺しながらも酷く焦っている。
「なっなぁ、涼太は大丈夫なのカ?死なないよナ⁉︎」
「安心して、いつものことだから」
正直こんなことに慣れてる現状は異常ではあるんだけどね。
生きてるなら治せる、そう自負出来る程度にはダンジョンで魔物さん達に犠牲になって貰ったけどね。
実際に起こった事は九十八階層に存在する人型生物を死ぬ寸前まで痛めつけ回復させるという大変惨たらしい映像だったとか。
学校の授業に加え実際に見ると回復量が大幅に上がった。
けど骨が歪な状態のままだとそのまま骨がくっついちゃうからあとは帰ってからかなぁ。
そんな事情もあって再び帝国城を借りて治療した。
その途中で鍛冶屋メルトとか皇帝陛下と対談を取り付けたけど別に良いよね。
城の客室に戻ってからはそれなりに大変だった、涼太の体に魔力を通して骨の状態を把握、あとは外側からある程度整えて回復魔法をかけたけど、骨をいじってる時凄い声上げてた。
痛かったりしても怪我しないよう多少忌避感を持ってもらうことにしよう。
目が覚めた。
何度も経験したことのある身体が固まったような感覚。
城に戻ってきたのか。
「いやぁ、今回は割と危なかったな」
自分以外に有効打がない状況で自滅技まで切らされた、ダンジョンでも何個か巡ろうか。
とりあえず起き上がり身体を多少解す。
それじゃあ訓練場にでも行くか。
というわけで移動したわけだが、多少身体を動かして分かる違和感。
ステータスが上がったとかいう訳では無さそうなんだが。
「そもそも違和感ができるほどステータス上昇しないだろうしなぁ」
いくら強かろうと所詮一体、おれのレベルなら二十〜三十レベル上がってやっと違和感が出来るくらいだろうし。
ステータス見るのが手っ取り早いか。
ステータス
冬木 涼太 男 16歳
Lv.362
HP45326/44832
MP34053/34053
STR 31526
DEX 38524
VIT 32689
AGI 36432
INT 39564
(性格スキル)
・我道
(スキル)
・分解 ・反転 ・未来視
・戦闘術 ・エンチャント
・索敵 ・空間把握
・激痛耐性 ・自滅耐性
なんか耐性が二種類増えてるんだが。
いやいやそんなに自滅してた覚えは……まぁあるけど、一般的なレベルだろ!
(楓:違うよ⁉︎)
ひとまずそこは置いておこう。
レベルも割と上がってるな、ほぼ七大罪とミスリルベアしか経験値の足しにならない筈なんだが八も上がったのか。
あとINTが割と高いんだよな、楓からいくつか攻撃魔法でも教えてもらうか。
エンチャントの重ねがけとかを試してみても良いな。
とはいえ今はまだHPも完全回復してないし身体を解すくらいにしておくか。
凝り固まった筋を解すイメージで運動を始めて数分
「ちょっと涼太、何やってるのかな?」
……怒ってらっしゃる。
あぁ、分かるよだって声が凄い冷たいもんな。
ギギギギッと首を動かして振り向くと鬼がいた。
魔力の渦の中心に鎮座する鬼、正直ミスリルベアの方が万倍は優しそう。
「ねえ、まだ治ってないよね、それくらい分かるよね、分からないなら教えてあげようか」
スタスタと近寄ってきて右腕を取るとゴキッと音が鳴った。
なんとなく多少ズレてた感覚が戻った気がする。
痛っ!ちょ、いきなり止めろ、と言いかけたけど辞めた、怖いし。
「いやえっと、そんなに本気で運動してた訳じゃないですし」
「そう、じゃあこれも大丈夫だね」
ゴキッゴキッ、と肩に続いて肘、手首まで先と同じ事をされる。
俺わかった、激痛耐性の理由多分楓の治療だろ、絶対とは言わんけど、俺の自滅もあるだろうけど。
暫く悶絶しているとこの場にもう一人来る気配があった。
「客さんたちここに居たのか」
王の護衛、エルバートだった。
「痛つつ、どうした?」
「別に何もないぞ、強いていうなら、客さんが使った最後のやつの説明を聴きたくてね」
「あっ、それ私も聞きたいかも、最後気配が無くならなかった?」
「最後の気配?あぁ、あれかとりあえず最初から説明するわ。」
別段隠すような物でもないし適当に話し始めた。
「最初の踏み込みは分解と再構築って俺のスキルを使って壁を形成した。
んで無属性エンチャントで相手に突っ込んだわけだが一直線なんで迎撃されないように事前に片目を潰して遠近感を感じにくくしてたんだ、まぁ第三者の手伝いもあったがな。
次、二歩目の踏み込みで相手の身体に一気に潜り込むと同時に索敵のスキルを反転っていうスキルで隠密に変化させて右腕の気配を消す。
最後に足の加速を腰に乗せて肩で回して肘で加速して手首のスナップでズバンと切り飛ばしたって訳だ」
無属性エンチャントでスピードが乗りすぎて腕の関節が大体外れたけどな。
「まぁ、エルバートに教えられる事はないか、強いていうなら常に全身に強化がかかる無属性エンチャントは身体の部位ごとに加速したら威力がでるぞ」
再三いうが関節は外れるし足も砕けたけど、と言うとそれがわかった上で教えてくれと言われたんでとりあえず基本だけ。
所詮は自己流、それも俺の剣技は元を辿れば氷騎士って魔物の技だし変な影響が出ないとも限らん。
「なるほど、こうして、こうして……こうか!」
おおぉ、やっぱ凄えな、もう形が出来てんじゃねえか皇帝の護衛ってのは伊達じゃないんだよな。
「あとはお前の槍術と混ぜるなり奥の手にするなり適当にしたら良い」
「そうだな、今回の事で火力不足を感じた、今度休みを貰ってダンジョンでも行くかな……っと、元の用事を忘れてた!」
話を聞くとどうやら俺が起きた事を知った皇帝が対談をいつにするかを教えてくれって事らしい。
対談なんて知らなかったが、楓がニコニコしてるし多分そうなんだろうな。
「いつでも大丈夫だと伝えてくれ」
「分かった、多分今日の晩飯で陛下とは話すことになるだろうな、堅苦し場所を好いてない人だ」
ちなみに褒美等は流石に公共の場で渡すらしい、そりゃそうだ。
「あっ、あとお前達は冒険者ギルドからも及びがかかってたぞミスリルベアの死体の事らしい」
結局ミスリルベアの死骸は俺達のものになったらしい、条件として売るなら基本帝国内でって話にはなったがな。
ダンジョン外のモンスターは死んでも魔石化しない以上部位毎の交渉になる。
面倒だなぁ。
「……パス」
「そうなんだ、じゃあ行こっか」
結局は有無を言わさず楓に連れて行かれる、もう抵抗する方が疲れるんじゃないかな。
城を抜けて大通りへと差し掛かったころ。
「…寝たい」
「痛くて寝込んでたようならゆっくり出来たんだけどね、もう準備運動できるみたいだし?」
うげぇ、チクチクと言葉の端々にトゲを巻き散らかしてるよ。
「身体が多少固まってる感じはするけどな。でも大体治ってる、サンキュ」
あぁ、やっぱ礼を言うのって慣れてないんだよなぁ。
えっと、反応が無いのは悲しいんだが、と思いながら楓を見ると目を丸くしていた。
「えっ、なに?丸くなった?カノンちゃんの純粋さに当てられた?」
「今回に限っては自分から怪我しに行ったからな、すまないとは思ってる」
「えっえぇ?今さら言う?」
「いつも助かってる……あぁもう言わん‼︎」
恥っず‼︎
とりあえず今回の事だけは礼を言うべきだと思った。
と俺が一人で恥をかき終えたあたりで冒険者ギルドへと到着。
「どうも」
そう言ってギルドに入っただけで中が騒ついた。
「あいつらじゃね?」
「CランクでSランク魔獣を倒したって言う?」
「意外とヒョロいんだな」
「もう一人は凄い美形だぞ」
「あら、あの少年も悪くないわよ?」
等々魔物討伐に関係あるものから無いものまで様々な好奇の目に晒される。
その思い思いのざわめきに再び会話が混じり始めてきた頃に一人の男がやってきた。
「ようこそいらっしゃいました、私はこのギルドのギルド長、シウノだ。早速だがついてきてくれるか?」
俺達はギルドの個室へと連れて行かれる。
「相変わらずお前ぼったくりすぎだろ」
「あれくらいは払えるでしょ、需要と供給だと需要の方が圧倒的に多いモノなんだから」
え?話し合い?大体ボーッとしてたな、基本的に楓の掌でおっさんがコロコロされてるシーンなんて見てても哀れなだけだしな。
え?戦利品?ミスリルベアの体毛を1/5、骨と肉を少々を残してあとは金にした。
前回はただの死体(使い道はがあるのかもしれない)を二億で売りつけた楓だ、今回の商品は鍛冶屋の憧れミスリルの塊と魔力の塊とも言える肉だ、そりゃあ儲けてた。
なんせ骨から作る武器防具に、体毛から作るローブやケープは超一級装備品になり、眼球、睾丸、爪、臓物は超高位の錬金術や魔術の触媒に、胆嚢に至っては万病に効く可能性すらある。
最終的には楓の言い値からスタートするオークションにかけられる。
売れた金ら二億と同じで冒険者ギルドを通してステータスプレートで引き出せる。
全部が最低値で売れても一生働かなくて良いレベルの金が入ってくるのは確定してるんだから恐しい交渉術だよ。
その日の晩飯時、エルバートの予想通り食事はエルバート、陛下、俺達の四人で行われた。
「で、何が欲しい」
陛下の食事を終えて一言目がこれだった。
「直球すぎでしょ」
「褒美は何がいい、金か女か権力か、何でも用意して見せよう言ってみろ」
「それ二回目じゃないっすか?俺はそれらで別に困ってないですね」
「私もそうかなぁ、お金もあてが出来たしね」
俺達は既にこの国での知名度はそこそこ、金にも困ってないし魔王討伐を目論む根無し草なんだよな。
「だと思っていたよ、ならこんなのはどうだ?この国勢力を上げて装備を作ろう涼太の方は望みの武器を、楓さんの方はローブとかでどうだろう」
なるほどな、魔王討伐用に武器は多い方が良い、しかもこの国のものなら信用も出来る。
「俺はそれで、武器は細剣で」
「私もそうしようかな、もうちょっと防御力も上げたいし。」
「分かった、そうだな、急ぎで三日後になると思う」
新しい武器を作るのに三日って無理じゃね?既存のをくれるのか、強化するのか、どっちにしろ期待して待ってみるか。
この日は特に何もなく、やはり、楓と同じ部屋で寝た。
死にかけても変わらないのね。




