邪な英雄
邪な英雄
転移した直後に索敵と空間把握を使用、現在の状況を調べる。
住人が随分減ってるな、避難でもしたのか。残りはギルド地下に避難、戦える奴らは南東の外壁前で戦闘中か。
「行くぞ」
その声と同時に楓は地面に速度強化の魔法陣を二つ設置、俺はカノンを背負う、そして俺達はエンチャントで風属性を自分の足に付与してそれを踏み抜く。
強化された速度で駆け出し風属性付与の身軽さ向上と風の抵抗を無視して加速する。
カノンが多少騒いでる事以外特になにもなく順調に外壁南東へと進む。
そういやカノンにこれ渡しとくか。
「カノン落とすなよ、ほらっ」
俺が渡したのは以前渡していたSTR向上の腕輪と糸を出す手袋『プリサイズスリング』だ。
「その腕輪つけてりゃお前なら扱えるだろ」
「え?ちょっト⁉︎ギャアァ」
凄い焦りながら受け取っていた。
俺じゃあDEXが足りても糸をどう使えば絡まるかとか分からんからな。
それに片手には手甲着けてるから片方だけになるし。
「使いこなせりゃ、モンスターも倒せる、レベルも上がる、そうすりゃ腕力も増えるから頑張れ」
「おっおう、分かっタ」
その会話が終わる頃には外壁へと到着した。
道中に魔物の気配は無かったし、壊れた建物もない、ウェストよりはまだましか。
……前言撤回
戦地へと到着してそこに広がっていた光景は想像を絶するほどだった。
戦帝は倒れ、王は死にかけその王を槍使いの護衛が必死に守ろうとしている。
他の冒険者の動きも悪くそもそも戦意が感じられない。
そんな事に気がつかずカノンは親方を見つけて近寄って行き叫ぶ。
「親方なんで私だけ逃がそうとすんだヨ、納得できないに決まってるだロ」
ボロボロと涙を流しながら抱きついて行く。
親方は瞬間何が起こってるのか分かってなかった。
そして状況を把握した時
「何で戻ってきた!!!!!!」
顔を真っ赤に染めて怒鳴った。
その声に二匹の鉄の熊が反応し二人のもとへ向かった。
戦意を失った冒険者はそれを止める事が出来ず通してしまう。
その様子を見て楓が止めようと魔法を展開する。
「アースバレット」
しかしそれは直後、俺によって分解される。
「見てろ」
そう言うと同時くらいだろうか、カノンがアイアンベアを認識する。
親方が焦るのに対しカノンは違った。
怒りからか、それともただ邪魔に思ったのか涙ながらにカノンは手袋に包まれた手を振るう。
そして微弱に指先が動いたかと思うと鉄の熊はカノン達に近づくほど互いに惹かれ合い動きを鈍化させ遂には縺れあって動かなくなった。
あぁ、やっぱりあいつは天才だ、カノンの自室に置いてあった木製の道具達は俺達の世界の技術を使いながら独自の技法を創り出した、多分、少なくとも銃に関してはそうだった。
カノンは器用さと創造力の天才と言っていい。
多分糸の使い方が本能的に分かるんだろうな。
「で、親方説明してくれるよナ」
「お前を生かす事がメルトの総意だ、そう言っただろ。」
目をそらしそう答える、次第に脳が整理されてきたのかそらされた目は俺へと向けられた。
(どうしてカノンを連れて帰ってきたんだ)
そう訴えかけられたように感じ親方の元へと足を進める。
「どうしてもカノンが見捨てられないって言うんでな、転移で帰ってきた」
「カノンを俺達と心中させる気か!」
カノンそっちのけに俺に詰め寄ってきた。
「カノン一人にお前らの死を背負わせる気か?」
「それは……親心ってもんだろ」
「戻ってきたのは子供心ってやつだろって言いたい所だが、俺はお前らが死んでも良かったんだよ、カノンの心が折れないならな。」
これからカノンがどんどん発明を続けられるなら良いんだがどうも無理そうだった。
「……死んだら意味ねぇだろ」
その言葉を聴いた時初めてカノンは周囲を見渡した。
戦帝以外に知り合いがいない俺でさえ悲惨と感じたその光景、カノンの目にどう映ったかなんて想像も出来ない。
「ぁ…ぁ……あ…ぁあ………ああぁああぁあ!!!!!!」
絶望を瞳に溢れさせ次第にそれは涙として流れ出す。
膝を突き頭を抱えて叫ぶその姿はさっきまで親方にしていた事とは全く別のもので。
そんな姿を俺は
「お前にそういう思いをさせないために戻って来たんだよ」
泣き叫ぶカノンの頭に手を乗せてクシャッとしながら戦場へと脚を踏み出す。
「楓、救出優先だ。俺はアイツを止める鉄熊はその間に全員潰せその後は冒険者の回復を」
えっ?と声を出しながら顔を上げる。
信用しろよ、負けねえから、俺も楓も。
「了解、もともと私もそのつもりだったしね。カノンちゃんも安心して誰も死なせないから」
安心させるように笑顔を浮かべて即魔法を多重発動させる。
楓の魔法に目を見張るカノンを尻目に俺は駆け出す。
さぁ始めますか俺の仕事を。
《エンチャントウィンド・ライトニング》
より詠唱を短縮した二重付与により風が唸りを上げ耳元で低い音を轟かす。
二重発動を楓に叩き込まれたおかげで今まで以上の速度で駆ける。
俺の道中にいた熊共は一匹残らず楓のフレイムバレットで頭を撃ち抜かれ倒れ伏す。
なんとか間に合いそうだな、そう思った所で護衛の槍使いに熊の爪が振るわれた。
「交代だ‼︎」
その爪が当たる直前、首根っこを掴み後ろへ思いっきり投げ捨てる。
直後左手に氷騎士団の聖剣を装備。
迫りくる爪を剣で受ける、するとまるで鉄バットで地面を強打したかのように手が痺れた。
ミシッと氷剣が音を立てて限界を伝えてくる。
受けをグロニアに集中、爪撃を横へと流す。
そのバカげたパワーについ舌打ちを漏らす。
六人守りながらはキツい、そう判断し上位ポーション二本を放り投げる。
「えっと何つった、エルバートか、さっさとこれ飲んで皇帝と一緒に下がれ」
「あ、あぁ助かる、気を付けろ相当硬いぞ」
分かってる、さっきの一撃を防いでみて爪じゃない毛皮に当たった氷剣からすらも手応えがなかった。
「了解」
だが今の目的は勝利じゃない。
まずは皇帝共の救出次いで戦帝の救出だ。
現役冒険者、しかも死なない戦いを教えたんだ、生きてろよ。
左手の氷剣をまずは一振り、ほんの数瞬氷漬けにする。
これ以上使うとヤバいので氷剣は収納、空になった左手でまずは耐久の低いコロネを掴む。
「一人目‼︎」
ポーションを飲んだエルバートに思いっきり投げる次いでにコロネに上位ポーション瓶を投げつける。
すると瓶が割れると同時にポーションがかかり傷が癒えた。
次はクレイか、それからシアンクレイか……。
いや、クレイの怪我が酷えな、さては皇帝を守る為に突っ込んだか、それで仲間もろとも総崩れと。
お人好しが。
シアンに手を伸ばすか思案するも相手はSランク、ただの氷なぞ即破壊して来た。
「化物が」
「グルルルゥ」
お互い様だと言わんばかりに唸り互いに向き合う。
先に動いたのは熊の方だった、そりゃそうだ攻撃が効かないんだ、俺より警戒が薄い。
二本足で立つ巨体、その踏み出す一歩は俺が左手に出現させた大剣で側面を思い切り叩く事で滑らせ転ばせる。
直後に武器を変更し一撃を与える。
「「⁉」︎」
その驚きはエルバートと熊の両方からだった。
一つは熊、当たらぬと思った、いや来るとすら思わなかった攻撃が己の目を貫いた。
もう一つはエルバート、変更した武器は《ミスリルスピア》相手に対し垂直に構えて放つ一撃は相手の目には短剣がいきなり伸びた様にしか見えないだろう感覚破壊の創造者。
「ガァルルルァアア」
痛みと怒りで上げる咆哮が大地を揺らす。
「二人目‼︎」
今度はシアンを掴み放り投げ、コロネより多く三本のポーションを投げる。
「三人目‼︎」
咄嗟に伸ばしたその手は当初の予定からずれてランクスを拾う。
先と同じく今度は二本のポーションを投げつける。
あと一人、だが此処で熊にこちらの狙いに気付かれた。
熊はクレイへと駆け出し両手による爪撃を放つ。
エルバートの時ですら片手、両手の爪撃を受けたら潰される、受けなきゃクレイが殺される。
どうする、頭を働かせろ、どうすればいい。
クレイを引っ張って避けさせる?いや間に合わない。
流す?いや、グロニアみたいな壊れない武器じゃないと不可能。
……受けるか。
行ける筈、多分死なないだろ。
《エンチャントフレイム・アース》
力と防御力を上げる。
死なせない…あいつにも全員助けるって言ったもんな。
左手の武器を収納、剣に手を添えて両手で構えクレイの前に躍り出る。
熊がニヤリと口角を釣り上げた気がした。
……畜生が、受け切ってやるよ。
ズシンと重力が数十倍になる感覚が俺を襲う。
靴が地面にめり込み肩が外れそうになる。
膝が笑い腰に重さがかかりどんどん爪が迫る。
はぁ、ふぅ、《我道》発動
目的、天才の心の保護、仲間の友人の保護……友人の保護
力が急に湧いて出て爪を少しずつ押し返す。
七大罪との戦うなら自在に発動出来なきゃ今後キツくなると考えずっと練習してたことの一つ。
爪を押し返しついには完全に弾き切った。
「四人目‼︎」
クレイを投げ飛ばし同じくポーションを一本投げる。
一先ずここまでか。
少し下がり熊と距離を置く。
周囲を見渡すととっくに鉄熊退治は終わっており治療もほぼ完了していた。
先程押し返したおかげか相手の警戒心が上がってこちらの出方を伺っている。
次に鑑定板で熊を見る。
不明
アイアンベアの上位個体と推測。
体毛の他に爪、牙、骨が鉄からミスリルへと変わっており常に魔力が循環している。
なるほどな、あの硬さの原因は体毛のミスリルと循環する魔力のせいか。
今現在ギリギリSTRは勝ってる筈だがあの防御力で持久戦をされたら性格スキルで無理矢理上げたステータスは反動が来る。
しかも推し勝つためにスピードまで捨てた今ほぼ同速、ほんと面倒な奴が出て来たな。
色々考えているとミスリルベア(仮)と俺の間にかなりの距離が空いている事に気づく。
⁉︎
逃げやがった、アイアンベアが全滅したのを見て不利を悟ったかミスリルベアは四足歩行へと変え森へと駆け出した。
「逃すか‼︎」
此処で逃げられるのはよろしくない、森の中じゃ不利、再度進行されても負傷者多数。
この数のアイアンベアがどれくらいで生まれるか分からんが今回で全員だとは思えない
《エンチャントウィンド・ライトニング》
再び速度が超上昇する。
あと数秒で追いつける。
その瞬間。
ミスリルベアが振り返ってこちらに手を広げて大の字になった。
は?斬られたがってんのか?と困惑しているとザワザワと毛皮が動き毛が立つ。
その瞬間俺の脳内に俺がハリネズミにされてる映像が流れた。
「野郎俺が防御系のエンチャントを切るのを誘いやがった‼︎」
進行方向を変更してもおそらく全方位、ならばと身体を限界まで低くし左手に大剣を装備、それを構えると。
ガガガガガッと連続で手に衝撃が伝わってくる。
再び武器からミシッと音がする、こいつ俺の武器を何本壊す気だよ。
大剣を仕舞い込み怪我なくなったはずの……もう生え変わってやがるのかよ。
本日何度目かの舌打ちをする。
だが戦帝達は丁度俺の後ろ当たらなかった上距離も取れたなら良かったと取るか。
それに生え変わるまでの時間ミスリルベアには隙が出来た。
グロニアを構え思いっきり突き出した。
突きなら毛皮を掻き分けて刺さるだろ。
スピードを上げ隙を突いて不壊の剣で放ったその一撃、それは、またもや防がれた。
超高密度で密集したその毛皮はしなやかさと硬さによって俺の突きを防いで見せた。
それでも衝撃は伝わり身体はよろめく。
だが、それでは足りない。
俺は伸び切った身体を敵に晒すことになってしまっている。
はぁ、キッツいなぁ皇帝にあとで謝礼毟り取ってやる。
未来視で見えるその光景に俺は覚悟を決めた。
ミスリルベアの爪撃の軌道上に首を晒しノロノロと体勢を整えて距離を取ろうとする。
もちろんこんな好機を逃すはずもなくミスリル製の爪は俺の首へと吸い込まれようとする。
決まったな、時間切れだ。
頭上から小規模の連続爆撃が着弾する音が鳴る。
「少しばかり遅くないか?楓」
アイアンベアの討伐と怪我人の治療が終わり楓がこっちへ加勢に来た。
「治療ってみんなに同じ魔法を使っておけば良い訳じゃないんだよ」
ミスリルベアは槍で貫かれた瞳を炎で焼かれ、雷で感電し、風で切り刻まれ、土で小さな穴をいくつも開けられ、氷漬けにされる。
「十秒頼む」
「相性悪いんだけどなぁ、後で何か奢ってよ?」
楓の魔法は相性が悪い、ミスリルは魔力伝導性が高いのはもちろん魔法耐性も一級だ。
ならどうするんだって?切るんだよ剣で。
今回ばかりは硬度特化のグロニアは休憩だな。
グロニアを手甲へと仕舞い込み代わりに黒剣オーキスを取り出した。
『黒剣オーキス』
その一太刀は空間をも切り裂く性能すら持ち得る黒色の両刃の剣。
武器はこいつ一本あとは。
分解の力を足へと込める。
相性が悪い楓にミスリルベアの相手をさせることに不安はないか?
バカか?有るわけ無いだろ。
決定打が無いだけ、多分だがその気になれば監禁して拘束して餓死でもさせるんじゃねぇか?
何にしろあいつなら耐える、だから俺は集中する。
この分解と一振りの剣撃に全てを込める。
エンチャント解除
《エンチャント》
無属性エンチャント、己の心臓にエネルギーをぶち込む、前回とは違う正真正銘の全力。
身体のあらゆるところから悲鳴が上がり心臓の鼓動がバカみたいな音を上げる。
「さんきゅ、もう大丈夫だ、あと奢りは皇帝に言ってくれ」
「…女心ってのが分かって無いなぁ《マジックバインド》」
「すまんな」
楓は最後に各属性による拘束魔法をかけて離脱する。
分解を包含した足を思いっきり踏みしめた。
足が砕けた。
大地が崩れた。
形を無くしボロボロとひび割れていくそれを
《再構築》
俺からミスリルベアへと続く一本道を残して壁が構成される。
「おいクソ熊もう逃げられねえぞ」
踏みしめた足は俺を限界を超えた速度で駆け出させる。
今までの俺じゃダメだ、それじゃあこいつを切り裂けない。
何も極めず、何も努力せず、他人を真似し他人の劣化を組み合わせて奇襲を用いて相手のミスをつくようなやり方じゃ本能で生きる強者には届かない。
多分俺と同レベルの人間ならこいつを切り裂けないでも傷くらいは付けられるんだろうな。
だから俺は俺を超えなきゃならない。
可能だろうか、戦いの中で己を超え足らない力を凝縮させて運命すら切り伏せる英雄の様な戦いが。
届くだろうか剣を極めるその高みへ。
恐らく不可能だろう、才能がない俺じゃダメだ、俺自身を超えるなんて俺には出来ない。
だから俺は俺の中の全てを総動員して全ての技術と小手先の技をこの一刀に込める。
ミスリルベアへと迫る、奴も覚悟を決めたみたいだ、己の爪を振り上げている。
躱すか、いやそんな事に裂くキャパシティなんて残ってない。
楓、治せるかなぁ。
そのまま突撃する事を決めた。
熊は俺が射程範囲に入った瞬間に爪で貫けるタイミングで腕を振り下ろした。
だが予想外に振り下ろされた爪はノロかった。
どういう……
「じゃっ、あとは頑張ってくれヨ」
よく見るとミスリルベアの周囲には鉄糸が張り巡らされていた。
…さんきゅ、やっぱ俺は英雄みたいに一人で災厄を倒せないらしいな。
だが、使えるもん全部使えば可能みたいだ。
残った足でミスリルベアの懐に踏み込む、その勢いのまま腰を回し、肩を回し、腕を振り、ひじを伸ばし、手首で剣を振るう。
足が砕け、腰を痛め、肩、肘、手首の関節が外れる。
切り飛ばせ
「《悪鬼羅刹》」
たった一撃に全て乗せる継戦能力皆無の技、姫を救い、お姫様抱っこで連れて帰るような英雄には決して許され無い邪道の技。
英雄になるって決めたのにしまらねぇなあ。
「すまん、また頼む」
だって、またうちの姫さまに頼むことになるんだから。




