一つの依頼
翌日、結局俺達はすることがなく鍛冶屋メルトに来ていた。
親方は俺達の顔をみるとカノンの部屋に通るよう顎で指示してきた。
親方に頼んでた事はない、邪魔にならんようにさっさと行くか。
そう思いさっさと部屋へ向かうと親方は俺の服だけを掴み
「あんたは残れ、依頼がある」
そう言ってきた、楓は残ろうか逡巡するもカノンの部屋へ入っていった。
ドアが開いた時
「誰ダ?……おぉ⁉︎楓じゃないカ、指輪できてるゾ」
と聞こえたし問題はないか。
作業場から出て三度案内される事務所で仕事の話と言うことで襟を正しす。
「で、わざわざ楓を追い出して何の依頼だ」
正式には冒険者ギルドを通した頼み事を依頼と言うんだがこの際気にしても仕方がない。
「あの嬢ちゃんを遠ざけたわけじゃないわ、どちらかと言うとカノンだな」
「……腕輪か?売らねぇぞ、またいつ調達出来るか分からねんだ」
自分が装備しないからって使い道が無いわけじゃないんだ。
適当に荷物持ちを雇う時や今回みたいなことはあるだろう、あの娘の今後もみたいがそれは魔王討伐の後で良い。
そう拒否するが親方は首を振り本題を出す。
「いや、もっと簡単だ、明日の朝カノンを連れて北の町に鉱石を買いに行ってくれ」
「社会勉強の護衛って事か?」
「そうだ、そろそろそこら辺に紹介しても良い頃だ」
確かここから東の町まで片道一日だったな。
「報酬次第だな」
「分かっとるわ、持って来る」
そう言うと親方は自分の部屋らしき所へ行き、帰ってくると両手には一本の槍が抱えられていた。
ほいっと軽く投げられた物を片手で掴んでみると
「これは……どういうつもりだ」
自分でも少し声が低くなっていることが分かる。
『ミスリルスピア』
硬質かつ魔力伝導率が非常に高いミスリルを多く混ぜ込み作られた槍。
たったこれだけ、特殊な能力なんぞ皆無のこの武器は今回の依頼の報酬としては………余りに高すぎる。
掴んだだけでわかるこの手に馴染む感覚、高い魔力伝導率に程よい重さと射程。
そして、俺のためだけに作られたような、オーダーメイドのようなレディメイドの槍、誰にでも会い誰にでも寄り添えるこの武器が
「お使いの報酬なんぞで渡して良い代物じゃねえだろ」
「それはこっちが決めることだ受け取っておけ」
「……ありがたく貰っておく」
このレベルの武器をあっさり渡してくる武器屋か、良い場所を見つけたな
「ついでにカノンが槌を振るえるまで頼むぞ」
「このk…」
このクソジジイそっちが目的か。
だが断るには余りに勿体ない。
エルバートから習った(盗んだ)槍術も組み込むなら五十五階層ドロップの『スピア・ザ・リザード』じゃ物足りなくなってきた所だ。
でも楓に聞かないで大丈夫か。
いや、大丈夫かメルトと上手くやってるみたいだしな。
プチ旅行と考えれば楽しくやれそうだ。
そう思ってると楓は会話が終わった事に気づきカノンを連れて俺達のところへ来る。
カノンが楓の後ろから出てくると悪戯っぽい顔を見せる。
その時宙にきらりと光るものが投げられた。
「おっとっとと」
俺に投げられたそれは手の中で二、三度お手玉をしたのちに俺の手へと落ち着く。
それは金色のシンプルな指輪だった。
「依頼のやつか、良い出来だ」
試しにはめてみると左手の中指にピタリとハマった指輪からはカケラとなった武器達の魔力が感じられる。
「適当な武器に近づけて魔力を込めてみてくレ」
「この間やってた仕掛けか」
いましがた手に入れた槍に近づけて魔力を込める。
すると指輪が小さく光を放ちミスリルスピアから小さな光が出てきて吸い込まれていった。
「これは、なる程な自動でカケラを吸収してくれる訳だ」
「そうだゾ、私と楓の合作ダ!」
随分と便利な物を作ってくれたな。
「報酬は何が良い、出来る範囲なら大体は叶えるぞ」
掌を返すようだが、最悪腕輪くらいあげても良いとすら思ってる。
「おかげで鍛治を初めて出来たからいらねぇヨ、と言いたいけど生憎私がしたのは設計と最後の彫りだけダ、だからえっとこのくらいだナ」
提示された金額は恐らく指輪の材料と自分以外の作業代なんだろう。
一番エゲツない仕上げをしたカノンの作業代がないせいで馬鹿みたいに安かった。
「これだけで良いのか?もっと払えるぞ」
「私の分は十分すぎる経験と知識を兄ちゃんと楓から貰ったよ」
親方といいカノンといい随分と良心的な価格だな、騙されてるんじゃないかと疑うレベルだ。
「貸し一つだ、何かあったら言えできる範囲でやってやる」
「いやいらねぇヨ今まで力が足らなくて木を彫るくらいしか出来なかったのに今回指輪に彫刻できたんだゾ!それだけで十分ありがたいってノ」
ブンブンと手を振って拒絶する様は小動物的でちょっと可愛いな。
「なら何か困ってそうなら勝手に助けることにする、親方さんよ、依頼の件説明しとけよ」
また拒否られる前にさっさと店を退出する事にした。
店を出て依頼に関して一応説明したがレベルアップした聴覚には依頼の話が聴こえてたらしく必要無かった。
「ま、そんな訳で明日から北の町に旅行だな」
「ホントに何も相談しないよね、君って」
と暫く嫌味を言われたんだがそれはまた別の話ということにしたい、てか思い出したくない。
途中で北の町に何かしらの依頼がないか調べる為に俺は一人で冒険者ギルドに行くことにした。
決して嫌味から逃げる為ではない、決して違う。
一人でむかった冒険者ギルドはいつも以上にザワザワとした喧騒と人に溢れている。
こんなにむさ苦しい所だっけか、男が多いし空気も重いし高レベル冒険者が多いせいで圧も鬱陶しい。
そしてその喧騒と人混みを抜けた先にその理由があった。
いや、人混みと喧騒の理由だけじゃない幾つかの点が線で繋がるような依頼が掲示板のど真ん中に貼ってあった。
「そう言うことかよ、全く歳食ったじじい共ってやつは」
一つ大きくため息をついてこれからの方針を考える事にした。




