才能の片鱗
今日は騒がしい城内の気配を感じて目を覚ました。
とはいえ外を通るメイドの歩みに焦りは見られないし内政系統の締め切りが近いとかか?
適当に服装を正して扉を開けて廊下に出ると宰相がいた。
「どうも、確か陛下との謁見以来ですね。そういえば何かあったんですか?」
「いえ、冬木様は引き続きゆっくりしていただいて大丈夫ですよ」
嘘だ。
って訳でもないのか?
表情筋の動き的には事実を隠してるってことの方が近いな。
「へぇ、まっ俺に何もないなら良い」
「はい、ではごゆっくり」
と言われても長くいると鈍りそうなんだよな。
部屋に戻ると楓が既に起きていた。
「どうしたの?いつもは私より遅いのに今日は早いじゃん」
ベッドに座って既に着替えまで終えている。
着替え速くね?魔法でも使ってんだろうな。
「少しやかましくて起きただけだ。まだ五時か」
二度寝するには遅いし起きてるかね。
自分のベッドに腰を下ろして話を続ける。
「そろそろ一旦鍛冶屋に行きたいんだが流石に城外に出れないなんて無いよな」
「出れるでしょ、私も運動ついでについていこ」
最近一緒に居ることが多いな。
ん?こっちに来てから別行動の方が少ないのか。
別に同じだからって損するような事も無いんだが部屋くらいは……慣れた方が楽か。
「そういえば指輪って何に使うの?」
「あれ?言ってなかったか、分解の反転、俺は構築とか再構築って読んでるがそれで使えそうでな」
「ふーん、大体は分かったけど自分で作れないの?」
「作るって何言ってんだよ」
別に俺は鍛冶屋じゃないんだが
「ほら再構築で鉄を分解しでカケラと混ぜつつリングの形で再構築とか」
確かに理論上は出来なくもないんだがな
「物体の再構築って魔法とは勝手が違うんだよ、重さがあるっていうか摩擦を感じるというか、感覚的なズレがあってリングを作るほど正確にはまだ無理だ」
てかそれが出来るなら鍛冶屋に武器の手入れをして貰わなくても刃こぼれとか自分で直すわ。
「ついこの間手に入れたスキルだし仕方ないか」
「そのうち出来るようにはなるだろ、まぁ知り合いの鍛治士も欲しいしな」
裏路地に入り鍛冶屋の近辺にまで近づいた時に
「客の商品で実験するな‼︎」
と野太い声が聞こえてきた。
誰の声かは分からんがOpenの看板が出ている以上気にしなくても良いだろう。
「失礼しまーす、頼んだやつどこまで進んでますか?」
扉を開けて玄関口でそういうと奥から多分だが前出てきた親方らしき人物——ドワーフだと思うが他種族の外見の区別が付くのか分からん——が前回の個室に案内してきた。
「進行状況なんだが、まぁ問題ない」
それなら別に良いんだが、親方は言葉をだが、とつなげる。
「カノンの奴、うちの弟子が変な機構をつけようとしてな」
「それなら構わない、全部あいつに任せて」
親方は掌で言葉を遮って話を続ける。
「あいつの作るもんの凄さってのは知ってる、これでもこの鍛冶屋の親方だからな」
俺はカノンの技術力は知らないがこのおっさんが技術を買ってるなら相当なもんだろう。
ならなぜ、と聞きたくなったがどうせまた途中で遮られるし聞いとくか。
「だが一つ問題がある……誰もその機構を作れねぇんだよ最後の彫刻が余りにも細かすぎてな、図面だけ、理論だけの技術だ」
「なっ、そこまでなのか」
俺の中で湧き上がった感情は誰も作れない、しかし現実可能な技術を持ってる事への驚愕かではなく、圧倒的な才能に対する嫉妬やあこがれでもなく。
あぁ、そうだこの感情を言い表すならこの言葉に他ならないだろう。
興奮だ。
ありふれた陳腐で使い古されたこの感情は才能を有しているだろうという予想を乗り越え、ない筈のあこがれすらも掘り起こし俺の心をくすぐった。
「なんで……そんなものを思いつく」
「カノンの事か、さっき誰もこの店で作れるものはいないと言ったな訂正がある、あいつだけは作れるんだ、だから頭の中で思い描ける」
「じゃあ作れるって事でいいのか?」
そう聞くとそれも違うとかぶりを振る。
「カノンのステータスは我々ドワーフの中でも異質、何の影響かSTRが異常に低くDEXがその分異常に高い」
十二、三の娘なら低いのは当然だと思うがドワーフは違うのか。
そもそも何歳かすらも分かってないわ。
「十五にもなると周りの皆は槌が振るえるくらいに筋力は付くのだがそれすらも付かない」
何かしらの影響か、それとも偶々か、器用さ特化のドワーフが出来上がったという事か。
「って事は筋力さえ足りれば作れるって事でいいのか?」
「まあな、ただつかない筋力はステータスで補わなければならんがそれも不可能となるとどうしようもないんだ」
確かにここら辺の土地は何の影響かレベルの低いモンスターが全くと言って良いほど出ない。
具体的に言えばこの街で冒険者をしようとすればCの中でも上位の仕事しかなく他の街なら上にいるであろう下位のCでも荷物持ちになってしまう程だ。
「そうか、レベル上げに付き合う位は構わないがそうだな」
俺はポケットから一つの装飾品を取り出す。
すると親方の目に火が灯るのを見た。
「この腕輪はなんだ?……いややっぱり良い」
そう言うと暫く装飾をなぞったり光に当てながら、この流れでこれが出てきたなら、等と呟くと。
「STR増強系の腕輪か」
「正解だ、カノンがどの程度のステータスかは知らないが赤子に付けても人間の成人男性くらいにはなる」
「な⁉︎そんなものなんであんた自身がつけてないんだ」
この世界の成人男性は全てのステータスの基礎地が五十近くだ、そこから普段の生活で上がったレベルを考慮すると
「ステータスで言ったら二百やそこらだぞ、カノンの作る装備にはそれ以上の可能性があるんだよ」
「いや、でも、これは……ありがたく貸してもらう槌を振るうまでは行かなくとも最終工程の彫刻くらいは出来るようになるだろう」
「それは良かった、じゃあ渡しといてくれ」
盗まれてもあの程度じゃ正直幾らでもってほどじゃないがある。
言っても六十層あたりで落ちたと考えればレアな方か。
うわっ、振り向いたら今楓がすげぇボーっとしてた。
ちょっと自分の趣味で動きすぎたか、まぁいいか別に黙るタイプでも無いし文句が有れば言うだろ。
とか考えながら扉に手を掛けると
「ちょっと待った!こんなもん俺からパッと渡すわけにはいかねぇよ⁉︎」
どすどすと小さくて太い体でズンズンと近寄ってきて腕輪を渡しこれはあんたが渡してやってくれと言った。
面倒臭いな、でもあれだ、自分勝手に振る舞う代わりにやる事はやるって心情だし
「あぁ〜、おう、やっとくわ」
「めっちゃ面倒臭そうだな!」
そのまま俺達をカノンの作業部屋に連れて行かれた。
「おいカノン、入るぞ」
親方が無遠慮に扉を開いて中に入っていく。
その時空いた扉の隙間からチラッと白い布が舞うのが見えた。
「親方ぁ!何度も言うけどうら若き乙女の部屋に勝手に入ってくるナ‼︎」
幸いそれは服の類ではなかったようで部屋を見た感じ特に違和感もなかった。
「お前の客だ、渡したいもんがあるらしい」
それだけ言い残しそそくさと部屋を出ていった。
「えっと、あぁ」
持ち前のコミュ障を発揮しきょどる。
いやぁ、仕事上の話だと簡単に話せるんだけど普段は話せないって分からん?
「今日はね、カノンちゃんにプレゼントを持ってきちゃった」
何を話そうか迷っているうちに楓が会話と共に人懐っこい笑顔を引っ張り出してくる。
「プレゼント?あぁ代金の事か、それは完成後で良いって聞かなかったカ?」
ここでやっと入り込めそうな雰囲気になってきたな、やっぱ俺のコミュ障は治らんわ。
「代金じゃねぇよ、最終工程で滞ってるって聞いてな、解決法を持ってきた」
ここでホウと言いながら目を細め職人らしい、が拙さの残る表情で見つめ返してくる。
「これだ、ほら」
金色の腕輪を放り投げるとおっとっと、と言いながら腕の中で何度かバウンドさせてすっぽりと手に収める。
「何なんだこレ?」
「とりあえず付けろ、安全性は親方がしてる」
「お、おう」
恐る恐るといった表情で腕輪を付ける。
「お、お、おっおっおおおおおぉぉオで——すげぇよすげぇよ、力が漲ってくるみたいダ」
溢れた力を発散させる様にブンブン腕を振り回す。
「とりあえずそれで最終工程は終わりそうか?」
「おう、これなら出来るヨ!」
そう話している中で部屋をうろちょろしていた楓が急に喋りだす。
「ん?なんかこれちょっと変だね」
作業台とは別に置かれた大きな箱?
机?にかかったテーブルクロスを引きなおそうとする。
「あっ、ちょっとそれはダメ——」
という言葉を遮るようにバサッと白いテーブルクロスをはためかせると。
「え?」
幾つもの木製の家具なんてもんじゃない、カラクリのようなものが大量に入っていた。
ついついそれを走って手に取ってしまった。
カラクリとかロボットは男子が一度は通る道だと思ってる。
なんか幼女が打ちひしがれる声が聞こえるがとりあえずカラクリの吟味を始める。
簡単なものならルービックキューブのような物から開け口のない木箱のようなものまで勢揃い、その中には幾つもの見慣れない物もあったが。
「銃?…になんだこれ、術式か?」
と呟くと急に隣から白い手が伸びてきて。
「ちょっと見せて」
楓に抗議の視線を送るも全くの無視、というより銃への術式を読み解くことに集中している。
「……母音と子音が………でもこうすればこの線が崩れて、あれ?間違ってはないんだけど…………あぁこれ立体になってるのか」
何言ってるのか全く分からん、いや多少は分かるがこれを読み解くとか俺には不可能だ。
が、それを見て目を輝かせている少女が一人。
「分かるのカ⁉︎そうだよ街の外壁に掘られた防御陣を参考に作ってみたんダ」
楓の元へと駆け寄りあーだこーだと説明を始めた。
「でもメルトちゃん、ここはこうして、あとここをこうすれば効率が良くなるよ」
「本当ダ!ここをこうするって考えもあったんだけどそこに矛盾が出来るんだヨ」
二人で延々と会話を続けビッシリと彫られた術式がどんどん効率化されていく。
「じゃあこっちのお客さん達の注文品に彫る予定だったこれハ?」
紙を持ってきて机の上に広げる。
「うわぁ、面白い術式だね、そうだなぁ……ここはこうしてそこも変えてみようか」
結局このまま術式に関して語り合って終わる頃には昼になっていた。
「じゃあ私はこれから彫刻に入るヨ、また明日の朝来てくレ」
「分かった、じゃあね」
楓は随分と仲良くなったようで別れの時には手を振り合っていた。
「なんか複雑な話をしてたな」
「うん、私もディルムさんの書庫であの術式は見たけど自己流なだけあって独創性があったね、良い刺激になったよ」
と言われても分からんから興奮のしようが無い上に共感も出来んのだが。
「なら良かった、それで昼からはどうする?」
「そうだね、鈍ってきた気もするしちょっと近くの森に行ってみない?」
「そうだな、集合は七時に城の自室で」
鈍ってきたものを解消するなら自分に合わせてする必要があるから大体は分かれてしている。
それからは適当に昼食を屋台ですまし別々で森に行く。
森に入り狩りを始めて数時間後。
「ふぅ、感覚は大方戻ったな。少し疲れた。」
この森は意外にも高レベルモンスターが多くでてくる、ダンジョンの五十層以下にいても違和感はない。
「あのダンジョンの難易度が高すぎるんだよ、なんで異世界に来て数ヶ月で魔王軍幹部とやりあえるレベルにまで育て上げれるんだよ。」
膨大な経験値の代わりに生命のリスクが多すぎるんだが。
……あと随分とでかい反応があるな、触らぬ神に祟りなし、魔族の魔力とは少し違う、襲ってこないんなら別に良いか。
それからしばらく肉体と感覚の違いをすり合わせ時間までに城へと戻った。
「少し早かったか、何をしようかね」
時間を持て余して帝国城の廊下をぶらついているとおい、と声を掛けられる。
「時間はあるか?」
ぶっきらぼうに話しかけてきた男は確か、皇帝の護衛だったか。
「どうした、護衛は良いのか?」
「いつも側にいる訳ではない、それより今は暇か」
「だとしたらなんだ」
「付いて来い」
他になんの説明もせずに先導しだす。
罠にしてはあからさますぎるか、あってもぶち破れば問題ないだろうな。
一度二度質問して帰ってこないのでそれからは何をいうでもなく付いていく。
「ここは…」




