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皇帝狂介

「よく来てくれた、俺はこの国の皇帝、狂介だ今回の魔王軍大罪の討伐ご苦労であった。」


 俺達の前には一人の日本人が座っている。

 この世界はステータスが上がると歳の取り方が遅くなるという。

 目の前の皇帝はこの世界に呼ばれて五十年、十六程度でこの世界に来たとすると六十六歳にもなるがそうも見えないくらいだ。

 感じる覇気も全盛期には至らないだろう今でも強力なものだ。


「褒美は何がいい、金か女か権力か、何でも用意して見せよう言ってみろ」


 実力では勝ってもこの威圧感は出せないだろう王の威圧というのがビシビシと伝わってくる。


「今回俺達が望むのはそれらではありません」


「ほう、なら何だ」


「知識を、以前狂介陛下が魔王討伐に参加した時の情報を頂けないでしょうか」


「……お前達は魔王に挑むというのか」


「ええ」


「良いだろう、後で俺直々に話してやる。だがそれだけでは帝国のメンツが立たん、お前達のステータスカードに皇帝の印をやろう、これさえ有れば帝国ではある程度の自由が効く」


「ありがとうございます」


「気にするな、話の時間は後で伝える、昼食の時間まで好きに休むと良い」


 そこまで言われると俺達はスッと立ち上がりその場を後にした。

 外に出た俺はフッと一息ついて


「どうだ楓、俺だって事務的な会話なら出来るんだよ」


「ちょこちょこ微妙なところはあったけど及第点はあげようかな」


 それは楓が完璧主義なだけだろ、冒険者にそんな礼儀を求められてもなぁ。


「白波様、冬木様お部屋はこちらになります」


 おおやっと部屋に着いたか。

 まあ相部屋だよね、どうせ冒険者がふた部屋も使うのは勿体ないとかだろうな、ほんとどんな意図があるんだか。

 いや分かるよ、異世界《こっち》で一人になるのは危険だってのは、でもさぁ男子高校生と一緒ってのも別の危険があるよな。


「うわっ、ベッドフカフカだぁ、こんなの王国以来だねぇ」


「んじゃ俺はこっちのベッド使うわ」


 マジだ、でも俺ベッドが柔らかすぎると酔うんだよなぁ。

 それにしても今から昼食までか、今日は起きるのが遅かったとはいえあと三時間くらいあるんだが、そういえば


「書庫を自由に見てくれて良いとか言ってなかったか?」


「言ってたね、そうだ!今から勉強にしよう、涼太にも物価とか地形とか覚えてもらいたいって思ってたし」


 なんか俺って最近ずっと楓の手のひらの上って感じがするんだが。


「……了解、地形はディルムの記憶で大体は分かる」


「うんうん、乗り気で良いねぇ」


 絶対に断れないのが分かってるだけだがな。

 それから三時間みっちりと楓先生による物価相場の授業が行われた。

 途中から元の世界の株とかも説明しだしてどうなることかと。

 ほんとどこまで知識があるんだか。


「白波様、冬木様、昼食のお時間です。」


 この時ばかりはこの格式貼った呼び出しも天使の唄声のように聴こえたね。


「まだまだ教えたい事はあったんだけど、仕方ないからこれで終わりにしようかな」


 今から皇帝との昼食か、同郷とはいえ立場的には話し辛いな。

 呼ばれた場所は案外狭い場所だった。

 5、6程が入れるような場所に俺、楓、皇帝とその護衛の青年のみの食事らしい。

 青年は緑の短髪に槍を携え壁に目を閉じてもたれかかっている。


「すまん、どうもきっちりとしたのは苦手でな、まぁうちの国でそんなのが好きな輩はいないんだが」


 と豪胆に笑っていた。

 公式の場所では国内とはいえきちんとしなければならないのは皇帝でも同じらしい。


「構いませんよ、好きにしてください」


「お前らも楽にしてくれて良いんだぜ、他に人もいないんだから。」


 護衛の方を見ても動く気配も無い、そうさてもらうか。


「わかった、それで魔王の兼だが」


「それはメシの後にしようぜ、腹が膨れた方が冷静になれるだろ?」


 指をパチンと鳴らすとメイド達が各々の料理を所狭しと並べていく。

 魚や肉に入ってるサシは素人目に見てもそこら辺で雑に育てた訳では無いのが分かる。


「うちは食糧には気を使ってるんだ、職人も冒険者もその方がやる気を出してくれるからな」


 野菜だけは上手いこといかないだよなぁとボヤいてはいるがそれでも料理の質は高い。

 料理を食べると元の世界で食べた料理よりも美味しいものも多かった。

 つい食べ過ぎてしまい机に並べられたものを平らげデザートまで食べるてしまった。

 そして今ついに皇帝は魔王について話し出す。


「俺たちの仲間は一度魔王を暗殺した事がある」


 は?


「五十年前の魔王はそれで死んだのか⁉︎」


「一度って言ったろ?魔王は復活したんだ、二度目の暗殺に行った仲間は帰ってこなかった。」


「復活⁉︎ありえないだろそれは百年周期、少なくとも今回みたいに五十年はかかるんじゃないのか⁉︎」


「落ち着いて話を聴ける、それから俺たちは大罪を五人殺し魔王に再び挑んだんだ、最初に戦った時は驚いた倒したはずの大罪のスキルを使ってくるんだからよ」


 ここまでは知ってる、たしかにディルムの記憶にもあった、だがなぜ蘇る。


「俺達はこの時多くの犠牲を払って魔王を討伐した、十人は死んだよ。だがまだ終わらなかった」


 遠い過去を見ながら話は続く。


「蘇ったんだ再び」


……


「そしてようやく気付いたんだ、魔王がこの時使ったスキルはおそらく八つ、俺達が倒した大罪はのスキルが五個、恐らく己のものが一個、ならあと二つはなんだ」


「……残りの…大罪?」


「恐らくな、これが魔王が己を蘇らせる時にスキルを七人にばら撒く理由、それは何らか理由でそいつを犠牲に蘇るためだ。そして各地でしつこいように言われる大罪を先に倒す理由だ。だがそれに気付いてももう遅い二度目の戦いで俺達の戦い方は学ばれていたんだそれでもなんとか倒せたほんとギリギリだったよ俺はその戦いで運良く生き残った残党の一人さ。」


 こんな情報はディルムの記憶に無かった、大罪達はこの事実に気付いてないのか。

 それに大罪のスキルを持つ俺はどうなる、犠牲になるのか。

 そもそもどうやってディルム達はその犠牲者になる事から逃れられたんだ。

 それからしばらく俺は一人思考の海へと沈んでいたらしい。

 その間の話は楓がしていてくれたとか。

 気付いた時には俺は割り当てられた部屋のベッドに転がっていた。


 うーん、考える事が増えたな。

 どこかで情報を得なければ、出来る事なら魔族側の歴史書なんかが欲しいんだが。


「えっと、大丈夫?色々と新しい事を聴いた訳だけど。」


 楓が自分のベッドに座り話しかけてきたので体を起こす。


「え?おう、大丈夫だ少しやる事は増えたけどな、あの後何か言ってたか?」


「特には言ってなかったよ、仕事のグチとかの雑談してたかな。」


 グチって…、確かに楓が博学だからグチるには良いのか。


「高校生に国政を相談するのか、どんなことだ?」


「うーん、人手が足らないだとか野菜を上手く作りたいだとかって言ってたよ。」


「教科書内容でも参考にしようとしてるのかね。にしても皇帝には悪いことしたな、途中から放心してた」


「気にして無かったみたいだよ、暫くはここに住むんだし次謝ればいいよ」


 気にするタイプでも無さそうだしそれでもいいか。

 喋っているとドアがノックされた。


「お風呂が沸きました、どう致しますか?」


「えっ、ほんとに⁉︎やったぁー!」


 こう言うところを見ると楓もJKなんだなと思うな、また寝れなくなるからあんま自覚したくないけど。


「それじゃあ又あとでね」


 風呂は二つに分かれておりなぜか『男』『女』と書かれた暖簾で分けられていた。

 こっちの世界の人達はこの字を読めないだろ。



カッポーン



 ふぅ、ここ最近で一番落ち着いた気がするわ。

 武装も服も胸鎧以外はアイテム袋に入れられるからここまで持ってこられたし盗まれない。

 てかここ広くね?風呂というより温泉だろ。


「おっ?いるじゃねぇか今代の勇者君」


 振り返ると皇帝が裸一貫で入ってきていた。


「一人で来るのは無用心じゃ無いですか?」


「はっ、抵抗も時間稼ぎも出来ずに死ぬやつがこの国のトップなわけねぇだろ」


「そっすか」


 だいぶ無用心ではあると思うがな、だがそれを言えるだけの実力は持ってるように思える。


「そういや今代はお前らだけか?」


「王国から聞いてないんすか?俺達は追放されただけで後三十以上はいますよ」


 皇帝も適当に体を洗って風呂に浸かる。


「追放?面倒になってんのな、何やらかした?」


 面白い話を嗅ぎつけたとニヤニヤしながら聞いてくる。


「なんもやって無いっすよ、性格診断でサイコパス認定された的な」


「あー、性格スキルか、俺らの時も大分あったってただけあって何とも言えんな」


「へぇ、陛下は?」


「陛下ってのやめてくれ、オフの時は適当で良い、んで俺の性格スキルだったな、別に隠すような事でも無いしな《獣王》それが俺の性格スキルだ」


 獣王か、俺の知ってるスキルには大きく考えて二種類あると思ってる。

 アクティブスキル、何かしらを引き起こすタイプ

 パッシブスキル、何かしらの効果で持続的に強化するタイプ

 楓は前者に分類されるだろう、俺は後者に近い。

 どちらかに分類するなら


「獣化、又は動物系の魔獣にダメージ増加って所か?」


「おっ、いきなり考察か?この国にいりゃそのうち分かるさ」


「考察ってほどの物でも無いっすよ、癖みたいなものです」


 ラノベ好きのせいだな、この性格に助けられたことも多いが。


「いやいやウェストの街を救った英雄さんの考察を拝聴したいですなぁ」


 このおっさん性格わりぃ、そのニヤけた顔を殴ってやろうか。


「一人倒したくらいで大袈裟なんだよ、あと六人残ってんだぞ」


「その一人を俺らは五から十人かけて倒してたんだぞ」


 この世界に呼ばれてんのは毎回三、四十人なのか。

 元の世界事件になってなかったのは忘れられてるからって事になりそうだな。


「俺が言うのもなんだが一人で挑む奴の方がバカだろ」


「はっはっはっ、違いねぇ」


 水面に波が立つくらいに笑った後急に表情を引き締めてこう言った。


「魔王には一人で挑むなよ、あいつは、あいつだけは住む世界が違う」


 そこまでか、魔王と二度にわたり戦って来たやつが言うなら間違いないだろう。


「少なくとも死ぬ気はねぇよ」


「そうか、それじゃあ俺は上がろうかな、年老いた身体にはちとキツい」


 はっ、そこらの冒険者より断然強いやつがよく言うよ。

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