指導の始まり
現在は馬車でシアンが御者の商人の隣で索敵をしつつ帝国への道を進んでいる。
大国というだけはあり大都市から帝国首都…城下町とかの方が良いのだろうか、の道は整備されており、がたつくこともなく快適だ。
「結構楽なんだな、盗賊とか出ると思ったんだが」
異世界ラノベのお決まりはいつ来るのだろうか、と思ってたら戦帝パーティの斥候、猫人のコロネはこちらを向いて爆笑した
「ニャハハハハ、あんニャ全時代的な事してる人ニャんているわけニャいじゃん」
ヒーヒー言って笑い転げてるコロネに気付いてシアンが御者席から馬車内へ入ってきた。
「何でコロネは今にも死にそうなくらい爆笑してんだ?」
現在は開けた場所で敵が視認できなかったので暫くは安全らしく馬車内に入ってきた。
「は、盗賊?知らねぇのか?それはな——」
冒険者の護衛をつけた商人を襲う実力があるなら冒険者ギルドに入って魔物を狩る方が効率が良いらしい。
そもそも犯罪者が集団で手を組むなんて不可能、勝手に潰し合うから盗賊なんて生まれないということだ。
「あぁ、確かに、実力者なら魔物を倒した方が金も名誉も手に入るのか、で非実力者は護衛に返り討ちにされるからしないと」
なるほどなぁ、と楓と共に納得していると今まで笑い転げていたコロネがバッと起き上がる。
「静かに、何…この音……凄い数」
コロネさんが耳をすませると同時に御者をやってるクダルマさんが叫ぶ声が聞こえる。
「馬車の進行方向に土煙が見えるんですが!大丈夫なんですか⁉︎」
俺と楓も即座に索敵を開始、頭に浮かんだ情景は多数の魔物の集団移動だった。
「楓、クレイさん、防御魔法の展開頼む俺は撃退するわ」
避けるにしても規模的に何体かには気づかれる、なら最初から撃退してしまおう。
「あ、それとシアン達は見ててくれあの量なら俺と楓で十分だ」
数は100〜200、シアン達には止められたがさっと馬車から降りると楓にドーム状に魔法を貼った。
そして魔物の集団がついに視界に入る。
この世界では魔物にも冒険者と同様ランクというものが付けられる。
基本的には同ランクの冒険者が1対1で引き分ける事ができるかでランク付けされる。
よってAランクの魔物を狩るならばAランク冒険者最低2人、出来れば4人で狩る必要がある。
襲ってくる魔物は基本的にD以下だがちらほらとB、Cも混じっていた。
Aランク冒険者1人でも2、3ならBランクを同時に相手可能だろう、それが10以上は軽くいる。
それを見てシアンが結界を壊そうと剣を振るった。
「流石にこれはヤバい‼︎早くこれを解いてくれ‼︎」
まだ俺はこいつの前で戦った事はないんだっけ?
「焦らないでくれ。大体は楓が魔法で始末するさ、撃ち漏らしだけだ。あと、指導するに当たって実力も見せときたいしな」
魔物がついに200メートルほどへ到達したとき魔法が発射される。
「もう、いっつも勝手に行動するんだから、『サンライズ』」
聖なる太陽の光が魔物を穿つ、その光は魔物こ大半を飲み込み残ったのはB、Cランクの魔物のみ。
楓のやつ、俺の実力を見せたいって意図を汲みとったか。
うまいこと残しやがったなB、Cランクだけほぼほぼ無傷じゃねぇか。
「はぁ、1匹残してくれたら良かったのによぉ」
グロニアを右手に左手には槍『スピア・ザ・リザード』を持つ。
『エンチャントライトニング』
槍が煌めきBランク魔物ロックベアの硬い体を貫く。
それでも止まらない魔物の中に身を躍らせる。
グロニアで切り払い鎌で刈り取る、大剣でビッグホーネットの体を上下に裂き足元に入ってきたホブゴブリンを短剣で刻み、突進してくるブラッディボアを巨槌で潰す。
ミスジ戦では発揮出来なかったが俺の本領は近距離戦での千変万化な戦闘構築、近中距離の無限の派生にある。
敵の攻撃の一切を避けきりその体制から攻撃できる武器を顕現させる戦闘スタイルであらゆる攻撃を受ける事なく魔物の集団を殲滅した。
「ふぅ、こんなもんか……とりあえず俺の実力はある程度分かったと思う、まぁ指導俺で良いか?」
「え?…あ……はい」
シアンはポカーンとしてランクスは驚いている、コロネに至ってはこいつ誰?みたいな視線を向けてきた。
それからは地上のモンスターは倒しても魔石化しないのでクダルマさんに売ることを条件に解体してもらいアイテム袋に入れた。
馬車に戻って俺が索敵を担当すると馬車内からコソコソとした話し声が聞こえてくる。
「まさかあんなに強いとは思わなかったんだが」
「うん、正直3人でやればかニャうんじゃないかと思ってたニャ」
「指示してもらえるなら強い方が良い」
ランクスさんは好意的だけどシアンとコロネは酷くね?
やっぱレベル上がって五感が常に良くなるって良いことばっかりじゃないな。
楓のアハハって声も聞こえるし、止めろよ、まぁ良いけど。
それから索敵をしたはいいものの大したものは出てこないまま夜を迎えた。
Dランク以下は石、Cは投擲用針で殺せるから戦闘にそもそもならないが暇つぶしにはなった。
俺の索敵の当番が最後までだったので日が暮れ一仕事終えた。
「ふぅ、あとは飯食って一仕事して終わりか」
座りっぱなしで曲がった腰を伸ばしながら言うと楓がやってきた。
「おつかれ、でもちゃんと指導はするんだよ対価も貰うんだから。」
対価、まぁそんな大した物でもないが鍛冶屋の紹介。
多くの武器を使う戦闘スタイル上は迷宮産じゃなくても他種多用な武器はストックしておきたい。
他にも防具や装備品の手入れもしてもらうなら優秀なところを知りたい。
「仕事はする、この機会に覚えて帰れるかはシアン達次第だがな。」
他にもいくつか言葉を交わしているとクダルマさんから晩飯のお呼びがかかる。
「わぁ、相変わらず美味しそうな料理ですね」
楓も褒めているがこのクダルマさんは筋肉達磨のような見た目の割に手先が器用らしい。
この旅に同行してる間はご馳走になっている。
裁縫なんかも得意で実家では家事を手伝ってたって聞いた時は驚いた。
家事より鍛治とかのほうがやってそう、ホントになんで振るうのが槌じゃなくて針なんだ。
他にも編み物が〜とか言ってたがひとまず置いておいて晩飯のスープとパン、石焼きステーキを食べて休憩。
そしてついに1日目の指導に入る。
楓が《灯明》を用いて光玉で明かりを確保した。
「じゃあ最初だけはクレイさんも一緒に模擬戦をしてもらう相手は最初は楓、次に俺がする。」
「了解、模擬戦用の武器ってあったか?」
シアンが行った提案は普通のこと、この世界の実力基準なら素手でも一般人を殺せるだろうが
「安心しろ多分楓には攻撃は通らないし俺には当たらない、此処で実力差ってのを知っておけ」
その言葉を聞いて実力者としての自負があるのか4人各々から闘気が漏れる。
「随分と舐めてくれるな、後悔するなよ」
「攻撃が通りもしにゃいにゃんて言い過ぎじゃにゃい?」
「………」
シアン、コロネ、ランクスさんは顔をしかめているがクレイさんだけは違った。
闘気を出しながらも怒りを出さず冷静に思考している、唯一楓の戦闘を見たからってのが理由か。
戦帝と楓は互いの距離5mを開けてそれぞれの武器を構える。
シアンは戦斧をランクスさんは大盾と直剣をコロネはダガーを構えクレイさんと楓は杖を構える。
「じゃあ……開始」
俺の合図直後戦況がいきなり動く。
楓は己の足元に《硬化》と《ウィンドボール》の罠を配置し踏み抜くことで自ら爆風で飛ばされて距離を取る。
その行動が読めずにいきなり食らった猫が1人。
俺が言った言葉を気にするあまり焦った、早まった、つい手が出た、様々な言い方があるが言うなら自滅した。
幸い距離を取る用のもので威力も低く直後にクレイさんの回復が飛ばされて無傷へ。
まぁこんなものだろ、戦闘経験は少なくとも初見命がけで戦ってきたあの時間、一般人ですらそこそこ強くなれる。
楓は一般人が一年の戦闘で得る経験をたった一度の戦闘で見出す、記憶力、計算力なんてその副次品に過ぎない。
ま、経験の差だな。
クレイさんの回復がコロネを癒すころには楓の体は中に浮き球体に囲まれていた。
クレイさんの魔法、《フレイムランス》が放たれそれを《ウォーターランス》で迎え撃つ。
水が蒸発し炎が掻き消え水蒸気が立ち込める。
そんな中でシアンさんが霧の中で飛翔する。
その戦斧が楓のバリアに当たる、すると触れた瞬間に風玉が彼を捉えて吹き飛ばす。
急に現れた魔法を困惑を見せたがそれも一瞬、あの戦い前の作戦会議で聴いた楓のスキルを思い出し仲間と目を合わせる。
流石はAランク冒険者、それだけで意思疎通をやり終え今度はランクス、シアン、コロネの順で駆け出しそれを穿とうとする楓の攻撃をクレイさんは打ち抜き妨害する。
ランクスが楓へジャンプで到達する距離にいたり飛翔する。
しかし結果はシアンと同じ《フレイムボール》で迎え撃たれるがそれを盾で流す。
しかし威力は殺され落下していくランクスの足目掛けてシアンが戦斧の腹を思いっきり振るう。
ランクスはクレイさんのバフで強化されその盾を構え斧を踏みしめ再び楓へと突っ込む。
さっき使われたばかりで罠を貼りなおしていない場所へシールドバッシュを叩き込む。
ガァ〜ンという鉄の震える音が響き楓のバリアを揺さぶる。
その直後、鳴り響く鉄の音とランクスの巨大な体躯をコロネが飛び越えると同時にランクスが盾を引く。
それを見ると……コロネは硬直した。
シアン達は己で防御を崩しコロネにとどめを射させようとしたが驚愕する、バリアに傷一つ付いてなかったのだ。
防御系呪文は魔力、技術などで強度は変わるが戦帝だって強者だかすり傷ひとつ出来ないなんて筈はない。
しかしそれらを楓は有り余る魔力で常に修復し続ける、傷一つのこさずに。
残るは強力な魔法による一点突破なんだが、魔法という分野でクレイは楓に勝てるのか。
並大抵の攻撃じゃ楓に相殺されて終わり、さてどうするのか見ものだな。
「クレイ!最大威力でいくチンタラ耐久して勝てる相手じゃねえ!」
シアンの号令にメンバーが動き出す。
ランクスが前にそのそばにフォローのためにコロネが着きシアンはクレイのそばへ。
「クレイしっかり貯めろよ、攻撃が来ても打ち落とす《エンチャントフレイム》」
「渦を巻き荒れろ」
この魔力は、精霊魔法か俺も楓も知らないグロニアも魔族だこの資料が書庫にあったかどうか。
何が起こるか不明の魔法を行使させる訳にはいかないと判断したのか楓が魔法を放つ。
しかし火槍、風槍、水槍はことごとくランクスの大盾に阻まれる。
「風に力乗せ驚異を退かせ」
それに対し楓は丁度クレイの上空あたりへと杖を掲げる。
《フレイムレイン》
炎の雲から火槍が飛び出す。
それを見てシアンが動く。
「魔斧乱舞・炎」
「我らに勝利の栄光を」
炎の壁、そう言っても良い密度で斧の斬撃が振るわれ雨の傘となる。
戦の帝、パーティ名に劣ることなきそのさまに舌を巻く。
だが、それで超えられるほど楓という壁は低くない。
《アースパイル》
地面から突如として生えた土の杭は詠唱中のクレイの腹部に深く突き刺さる。
「あっ…グッ…我ら、戦いし者なり……応えろ…風精 」
楓が追撃を入れようとすると楓の足元にコロネが何かを投げ込んだ。
その直後に煙が立ち込める。
そんなことをしようとクレイは移動してやいないだろう、それでも投げ込まれたものへの警戒、煙幕への驚きが魔法の完成を許した。
「《ウィンドシリンダー》」
!
風がシアンを包み超スピードで放射した⁉︎
楓は魔力の動きで何があったのか感知しようとしてもクレイの魔法で起こされた現象は攻撃ではない、シアンの補助だ。
言うなれば楓のウィンドボムを用いた移動法と同じ故に迫る驚異を魔力では感知出来ない。
煙幕で楓の視界を防いだのはこのための布施か‼︎
そしてシアンは炎を纏った戦斧を構え煙幕へと突っ込む。
直後大きな音が響く。
バリンという破壊音と共に風が巻き起こり煙幕が薄くなり影が見える。
映ったのは斧を振り切った男の影とそれより細く上下で分かれた女の影だった。
その影は崩れ
幾つもの弾幕となりシアンを吹き飛ばした。
その後空に巨大な魔法陣が描かれて隕石が降り注ぐ。
《フレイムレイン》+《メテオシャワー》
楓が持つ広範囲魔法の一つが戦帝へと直撃し全員が倒れた。
まあ地形を見る限り威力は絞ってあるから気絶で済んでいるだろう
そして空から楓スーっと降りてきて俺の隣へストンと落ちる。
流石に最後のはちょっと
「初見の水分身からのウォーターバレットは酷いだろ」
「煙幕を使って自分達まで見えませんっていう弱点をついただけ、普通でしょ?」
水分身だけでも煙幕の中なら分かりづらいのに追い打ちまで付けるあたり俺より性格が酷かったり……やめとこ、これ以上は怖い。
煙幕生成からの分身は楓がよく使う手だから知っているが。
「シアンの突撃がよく分かったな」
「エンチャントしっぱなしなんだから魔力感知で分かるよ」
知ってるでしょ?と返してきた。
確かに。
「あぁ、いやぁ、うんそうだったな。で実力はどうだった?」
ちょっともたつきつつも答えるとジト目をされる。
「……まぁいっか、うん連携は十分、個々の実力もあるけど対応力に難ありかな」
最初の感情的な攻撃、不意打ちのアースパイルに水分身、初見の攻撃でまともに判断が出来ていたのはクレイさんのアースパイル後の詠唱続行くらいか。
「そろそろ治ったか?」
回復魔法をかけた手を先の会話中に中断していた。
「もうすぐ起きるよ、怪我も治したし起きたら戦える状態だよ」
「えっ、流石に休憩挟んだほうが」
「今ぐっすりと休んでるじゃん」
「確かにそうだが…」
「冒険者ならいつでも戦えなきゃね」
「楓、お前実は俺より鬼畜だろ」
「普通だよ、このくらいはやってもらわないと時間が足りない」
謎の威圧感のある笑みで押し切られた。
そういやダンジョンの時は生きるためってことで無理してんのかと思ってたけどこれが素だったりするんのか。
暫くして防御の高いランクスが起きその後はシアン、コロネ、クレイと起きた。
「今からかぁ、涼太も鬼畜だなそう思わないか楓さん」
シアンは完全に俺がやらせてると思ってるのか、楓がやんわりと促してたのに。
これがコミュ力の差ってやつか。
「ほら配置につけ時間もかけたくない」
「へいへい、じゃあさっきと同じ配置につけ。今度勝つぞ!」
シアンがはっぱをかけているが、勝つねえまだちょっと舐められてるか?
「おら来いスタートだ」
初動は先程とは違いランクスが一歩前に出て構え後ろでクレイがバフをかけ俺はグロニアを構える。
その後ランクスが大盾を構え突撃して来た。
それを後ろに下がりつつ横へ回るとその陰からコロネが出てくる。
持っているのは短剣だ。
《未来視》
見えた剣筋は3つ、鋭く速いが対応が少ない。
「俺に合わせて振り方を変える、それは良いがその数じゃ当たらねえよ」
剣で受けることすらせず短剣を使った攻撃の全てを躱す。
躱す動きの中でスッと屈むとさっきまで首のあった場所に斧が通過する。
「シアン不意打ちは良いが無理にしようとするせいでコロネの動きや視線に影響が出てる。」
「そうかよ、ならこれは気付いてるか?」
炎の波が俺達へと迫る。
コロネとシアンは即座に下がりランクスの構える大盾の中へ逃げ込んだ。
「気づいてはいるが……すまんな効かないんだわ」
腕を振るうと炎の波は忽然と消え俺の目の前にシアン達を飲み込まんと再形成される。
「は⁉︎」
己達の魔法に飲まれ戦帝は今日2度目の敗北をした。




