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決戦

エンチャントサンダーをエンチャントライトニングへと名称変更させて頂きます。

誠に申し訳ございません。

 転移先で待っていた光景は悲惨なものだった。

 倒れ伏した戦帝の3人に加え崩壊した建物の数々、それらは此処で行われた戦闘の激しさを語る。


「えっ、転移魔法を詠唱破棄⁉︎……皆さん‼︎一体何があったんですか⁉︎」


 状況に気付いたクレイさんはその光景に悲鳴に近い声を上げる。

 予め把握していた私でさえ驚愕する光景だいくら身体に欠損部位がないからと言って仲間が血の池に倒れた姿を見たらこうもなるだろう。

 ただそんな状況を敵は察してくれはしない、仲間に駆け寄ろうとするクレアさんを抑え龍杖サンクタを構える。

 此処で私達を奴は初めて敵と認識する。


「あぁ?またか、次から次へと人の飯を邪魔しに来やがって」


 倒れ伏すシアンさん達の奥の闇に溶け込むかのような黒い服に身を包んだ敵はその牙と共に顔を覗かせる。


「貴方は何者?」


「これから飯だって言ってんだろうが邪魔な奴らだ、まぁ良い教えてやる、俺はあるお方に良質な血を大量に分け与えて頂いた吸血鬼、その変異体だ」


「随分と親切じゃない、散々人を殺しておいて命乞いなんて許さないけど」


 吸血鬼はその言葉に歪な笑顔で返答してくる。


「親切は気にするな冥土の土産って奴さ、飯の邪魔はされたがその分量は増えたからな機嫌が良いんだよ」


 その言葉と同時に背中から漆黒の翼が生み出される。

 バサッ、翼がはためくその音開戦のゴングとなった。


 私が初めにしたのは『戦帝』の人達の安全確保だった。

 敵の全速力に魔法を組めず、サンクタに施したアイギスを用いてクレイさんをその影に入れる。

 全ての攻撃を防ぎながら倒れ伏したシアンさん達へと駆け寄る。


「この戦場は私が請け負います、下がって‼︎」


 私も仇を、というクレイさんを宥め3人を守るよう任せる、正直この相手に人を庇いながらなんて不可能。

 アイギスへと放たれた爪撃や闇属性魔法を見るにあの人造兵器マーダーまでは行かずともそれに近い実力がある。

 避難した4人の周囲に多量の罠を配置して安全を確保する。


「ほう何だ今の魔法は、随分と硬いじゃないか。あのお方から与えられたこの力を防ぐとは」


 マーダー戦以降、改良に改良を重ねたアイギスはもはや常人には扱えない魔力量となってる、涼太の分解ですら一瞬では処理出来ないレベルに。

 ただ戦闘中に発動するなんてとてもじゃないが難しく魔法陣を罠として施してもあまりの魔力量に並の物では壊れる始末。

 今では『主天使の錫杖』などのダンジョンの奥底で見つけたものにしか付けれない奥の手の一つでもある。

 ただ、こいつの攻撃はマーダー(あいつ)より弱い、劣化しても即席の防御魔法で防げる!


「そう、確かにお前の防御魔法は硬い、だがその3人を助けてももうどうにもならないあのお方がミスジ様が今頃住人どもの血を吸い尽くしている頃だ」


 自慢げに高笑いを決め込むその様は本当に、その……


「こんなに小物臭のする奴って本当にいるのね」


「はぁ⁉︎小物だと、20年も生きぬ小娘がぁ‼︎」


 目を血走らせ空に飛ぶ身体を前傾姿勢へと移行させた。


「そういうところよ、それに心配はいらないわ今頃その計画はお陀仏になってるから」


 相手が口を開こうとする。

 翼に魔力が、あれは風属性?

 なるほどね、変異体ってのは風魔法への高い親和性って訳、あれほどのスピードをステータスで出してたならきつかったけどネタが分かれば。


「ミスジ様の計画を?無理に決まっているだろう、あのお方は魔王軍を支える大罪の一角だぞ」


 その言葉を言うが早いか宙より鋭利な爪が目の前へと迫ってくる。


「なら大丈夫ね、その程度きっと倒してくれる」


 バヂィっと音が鳴り響きその爪に劣らぬ聖雷の刃が敵を焼き焦がす。


「人の形をしていても頭は足りてないの?同じ手が二度も通じるわけがないでしょう」


「あっ、が、再生が…出来……ない」


 魔力の構築さえ見れればどこに来るかなんて用意に想像できる。

 風魔法さえ応用すれば宙に透明な壁を作るなんて造作もない、あとはそこに罠をはるだけ。


「はぁ、大罪の部下がどの程度かと思えば、もう終わらせようか。」


 ここから挽回があるかと思えば再生も回復もせずに焦げてるだけなんて、ねぇ。

 龍杖サンクタをコツンと地面に突く。


「そこで惚けるのはいいけどもう動かない方がいいよ一歩でも動いたら」


「俺は、俺はあのお方に選ばれたエリートなんだ!その俺がァァ‼︎」


 再びバサッと翼を展開した……が、その翼が宙にある罠に引っかかる。

 聖炎、聖雷、聖水、聖風の4種の槍が身体を撃ち抜く。


「動くなって言ったのに、最低限の情報くらいは取りたかったなぁ。」


 聖属性の魔法に吸血鬼の肉体はボロボロと崩れ落ちていく。


「あんな敵を一瞬で……それに聖属性の魔法を本当に使えるんですね!」


 ここでやっと戦帝のクレイさんが現状を理解した。

 どうやって覚えたかや素性などを聞かれはしたが


「今は戦帝のメンバーの治療を優先しましょう、あとは涼太のところにも加勢に行きたいですし」


 戦帝の治療は終わっていたらしく寝息をたてていたので付近に敵がいないのでクレイさんには3人を連れ帰ってもらうことにした。

 はぁ、こんなことになるんなら涼太の服にも戦闘魔法だけじゃなくて転移魔法陣もつけとくべきだった。






 俺の目標は東区でも一際高い時計塔の上に居た。

《エンチャントウィンド》

 身軽になった身体は軽くその頂上へと俺の体を押し上げる。


「お前、何者だ」


 問いかけにその場にいた女は笑顔で応じた。

 その女は人間ではなかった、いやこの表現は不適切だろうこの国に住む獣人やエルフなどとも別の


「待っていたわいらっしゃい、早速自己紹介といきましょうか魔王軍幹部色欲の大罪ミスジ、以後お見知り置きを」


 ディルムと同じ魔の存在、この世界の『人』は大きく2種類に分けられる精霊に愛された種族『人類』これには人間、獣人、エルフなどがそれにあたる。そしてもう一つが精霊に愛されなかった『魔族』という種だ、これにはディルムのような悪魔種、今回の吸血鬼などが該当する。


「以後お見知り置きを、ねぇ俺はお前らとは仲良くする気はないんだがな」


 背負ったグロニアに手をかけようとすると


「お話があってきたのよ、少しくらいゆっくりしましょう?」


「人の住処を荒らしておいて何がお話しだするわけないだろう」


 今度こそグロニアへと手をかける。


「他人の死なんて悲しくもないでしょうに、何を言っているの?」


「⁉︎」


 その言葉は彼女は主観を語ったのだろうか、それとも


「傲慢の大罪に適合する様な人間が人の死にいちいち腹も立てないでしょう、生きにくくない?」


 俺の内心を見抜いての言葉か。

 俺が絶句しているのを見て更に話を進める。


「私はね貴方を勧誘しにきたの、人間でありながら大罪に適合するその性格、並の人間なら闇に染まり魔族の一員になっていたはずそれが人のまま、きっと貴方は魔王軍に新たな刺激を与えてくれるわ」


 俺が一言も話さずとも饒舌に喋り続ける彼女は手を差し出してくる。


「さあ、私達と一緒にもっと生きやすい世界を作りましょう」


 ……ふぅ、まぁだからって話だよな、自覚はあったしそれでも楓の為に、誰かの為に動くって偽善だとしても決めたんだから。


「はっ、他人の死にいちいち悲しみなんてしねぇが一般人を虐殺する様な奴らと手なんか組めるか。」


 手にかけた剣を引き抜け突きつけ相手の提案を突っぱねる。


「そう……交渉、決裂ね‼︎」


 ゾッとする様な笑顔でそう答えると次の瞬間俺が串刺しになる未来が見えた。

 咄嗟に時計塔から飛び退くと俺がそれまでいた場所に例の血糸が大量に刺さっていた。


「勧誘してきた割に随分と好戦的だなぁ」


 ふわりと地面に着地にエンチャントを切る。

 そこへ蝙蝠の様な羽を生やし背後に4つの紅玉を携えたその魔族ミスジは降りてきた。


「私ね貴方の話を聞いたときから疼きが止まらないの貴方が欲しい、貴方と混じり合いたいって、転移した勇者でありながら大罪に適合する人間だものその血はさぞ特別なんでしょうねぇ」


 ゾッとする様な笑顔を浮かべたままうっとりとその青白い頬を赤く染める。


「さあ!貴方の血を私に頂戴‼︎」


 紅玉から放たれた血糸が四方八方から襲いかかってくる刺されば抜けるまで血を吸われ続ける吸血の槍。


「その程度のスピードであたるかよ《エンチャントライトニング》」


 雷属性でスピードを向上させ左手に手甲から出現させた氷騎士団《アイスナイツ》の聖剣で凍らせ、砕く。

 無数に降り注ぐ赤色の豪雨の中で狂気じみた笑い声が聞こえた。


「凄い、やっぱり凄いよ、まさかこっちに来て1年も経ってない転移者がそれも1人で私の攻撃を捌いてるだなんて。でも、あぁ、惜しいなぁ飛んでる私に攻撃手段が無い。ジャンプなんかしたら動きが取れないもんね、ふふっ嬲り殺してあげる」


「この程度の攻撃なんぞで体力なんざ使わねぇよ。あと、余計なお世話だ《二重付与《デュアルエンチャント》・ウィンド》」


 二重付与、これまで一つしか出来なかったエンチャントを楓がグロニアさんの魔導体系をもとに重複可能にしたものだ。

 雷で速度が上がり風で身軽となり跳躍する。


「⁉︎」


 まさか身動きが取り辛くなる空中に飛び出すと思わなかったのか飛んだ先には血糸は存在しなかった。


「少し驚いたけど馬鹿ね、まさか自分から死にに来るなんて」


 ミスジの手が振るわれると目の前が真っ赤に染まる。


「は⁈ちっ能力を見誤った‼︎」


 血液操作、その能力を予期出来なかったら俺はドボンッと音を立てて目の前に産まれた血の盾に突っ込む。

 こいつの能力は血液を自由に操るものか。

 勢いを削がれた俺はミスジに届く事なく空中で静止、血糸に囲まれる。


「見誤った?もしかして私の能力が血の糸を操るだけとでも思った?随分と大罪を甘くみてるのね、それが命取りになるとは思わなかった?」


 相手を過小評価したばっかりに人生が終わる、ねえ。


「見込み違いはお互い様だな」


 笑みを返し俺はしっかり足を踏ん張る、空中で。

 ダンッという音と共に空中で飛ぶ。


「躱された⁉︎へぇ、それが貴方のスキルってわけね」


 多段ジャンプ、まあもちろんこの能力は分解でも反転でもない。

 《クラウドブーツ》ギフトから与えられた防具の一つには望んだ能力が付くことがある。

 俺のこの防具は魔力を消費して足の下に風の足場を作り出す能力が付いた。

 そして再びダンッという音が響く。

 血の盾が現れるたびにその音は響きだんだんと吸血鬼へと近づく。


「ふっふふふっ、覚醒すらもしてない転移者が私に勝とうなんて不可能だと言う事を教えてあげる《血装》」


 4つの紅玉のうち一つずつが手元へと移動し形を成す。

 血爪、手が包まれ指先が鋭く鋭利に変化する。


「近づいた所で勝てやしないのよ‼︎」


 交錯する。


「あれ?私は殺す気で裂いたんだけどねぇ……あれ⁉︎え⁉︎あれ⁉︎」


 頬を流れ行く血に気付いた瞬間に表情が変わる。


「近づいた所で、ねぇ随分と俺のことを過小評価してるなぁそれが命取りになるとは思わなかったか?」


 意趣返しって訳でもないがまぁ負けたままってのは釈然としねぇんだよな。


「私の……血を……フッ、フフフッ、

フフフフフッ……殺してあげる血なんて殺してから吸い尽くせば良いものね、それより今はお前を…」


 随分と情緒不安定だな、『色欲』とは色や形を持つものに執着することもその一つとされる。

 血に対する異常な執着がこの女の大罪という訳か。

 これまでの糸とは違う太く強い殺傷能力を持った血の槍が俺を貫く未来が見えた。

 それを躱すも無数のそれらが空中で俺を追い回す。


「死ね!死ね!死ネ!シネ‼︎」


 躱し凍らせ砕き割る空中戦闘。

 激しさを増す血槍と氷剣の激突はついに拮抗を崩す。

 血槍の一つが当たる。


「カハッ‼︎」


 なんとかグロニアで受けたは良いものの、いなすことも受け切ることも出来ず建物へと吹き飛ばされる。

 即座に起き上がるも受け身をしたとはいえ木造の建物を倒壊させる勢いで全身を打ち付けた威力は相当なものだった。

 再び宙へ飛び上がるも焦りと痛みが思考を奪い本来の動きを不可能にしていた。

 そして


「‼︎、誘導された⁉︎」


 血の槍で創造された檻が俺を包む。

 凍らせ砕いても次の血槍が補い閉じ込められる。

 そして、血槍から枝分かれした細い血糸が俺を貫き縫い止める。


「ぐっがっあぁっ‼︎」


 クッソ、どうにかしてこれを……グっああぁアぁァァ血がぁ吸われてっ。

 血の檻の維持に紅玉を2つ使い手に装着された紅玉を解く。

 それがギュルンと円を描き多数の魔法陣を生み出す。

 火、水、風、土、雷、氷、闇の光を除いた全属性の上位魔法を同時発動させる。


「お前は今ここで殺す、危険だこの街もお前が関わった人間も全て‼︎存在した痕跡すらも消し去る‼︎」


 なんで…俺の敵はこうも俺以外にも被害を与えようとするかね。

 結局守れない、英雄になれる器じゃないんだよな、偽物にすら届かない。

 7色の上位魔法が俺の視界を奪い俺の身体を包み込まんと蠢く。

 これを消したとしても追撃がある、流石にこれは……キツいか。

 こんな時、あの英雄ならどうしたかね、汚れを知らないあの英雄なら全てを救うあの英雄なら、魔牛を殺し、巨人を殺し、魔物すら救うあの英雄に憧れた英雄ならきっと……諦めないんだろうな。



 なら……なら‼︎

 決めたんだろうが‼︎

 英雄になると‼︎

 たとえ偽物だとしても、なれないと分かっていても‼︎

 なら、諦めようとしてんじゃねぇよ‼︎



 楓が刻んだ魔法陣から聖炎が迸る。


《分解》《反転》


《結合》


 炎が全身を包み込み血糸を蒸発させる。

 そしてその炎が雷と結合され紅雷が産まれる。

 ゴウッとバリバリと唸る紅雷が力を生みだす。

 クラウドブーツで足場を生成し全力で踏み出す。

 雷属性の速度ブーストと風属性の身軽さが超速を生み出し突っ込む。

 血の檻に左手の氷剣を投擲し凍らせ砕きほんの一瞬、血槍で穴が補われる直前に隙間をすり抜け7色の混光へ身を晒す。


《分解》


 それをフッと全て消し去る。


「はぁ⁉︎一体何を‼︎くそぅ死ねぇぇぇえ‼︎」


 それでも、と紅玉からあらん限りの血槍と血の斬撃が飛ばされる。

 それが音を立て迫る7色の混光に全て掻き消された。


《結合》全ての物を作り、直し、混ぜる。時には複数の魔法を混ぜ、壊れた武器を直す《分解》の反対側にあるスキル。

 それを反転で無理やり引き出したもの。

 そしてそれは魔力へと分解した魔法を再び結合することすら可能にする。


 英雄さんよ、あんたみたいになれないのは分かってる、純粋な正義感だけで動けない俺じゃあんたの足元にも及べないことも。

 ただこの一瞬で良いあんたを代弁しようなんて思わない、ただその力の一片を俺に。

 紅雷が走り思考が加速する止まったような世界の中で自分とグロニアの刃だけが滑らかに動く。

 いくぜ、ここから始める英雄の一撃


「《偽英雄の序章(フェイカーテイル)》」

名称変更の理由がよく考えたらダサくね?と思ったからだなんて言えないボソッ


ちなみに作者にはネーミングセンスがないので主要キャラ以外名前が決まっていません。こんな名前よくね、とコメント頂けると嬉しいです。

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