残虐殺人の黒幕は
昼直前に起きてしまい空いた時間に次に襲われる場所を考えてみる。
最初に襲われたのは西区画、住宅地で俺が野次馬した場所だ。次に襲われたのは北区画、安全指向の戦闘力の無い商人向けの宿屋だ。
一般人を襲い次に戦闘力の無い商人と多くない護衛を狙って力を貯める、なんらおかしい事では無いんだが何が引っかかる。
ただ正体の影しか踏めてない今どんなに考察しても分からないか。
一息ついてそろそろ下に降りようと腰を上げた。
「暗殺者の目的なんて考察しようが無いよなぁ」
……また何か引っかかったな。
…………そうじゃん‼︎暗殺者じゃん‼︎
俺は椅子から立ち上がろうとした姿勢で硬直する。
1番重要な事を忘れてた、アホか俺は。
あのスキル『血の糸』とでも呼ぶか。
深夜目に糸で体の自由を奪い刺されると最後血を完全に抜かれて死ぬ。
挙げ句の果てには本人がその場にいる必要は無くわずかな隙間からどこにでも出没する。
そんな事を誰にも注目されて無い状況で出来る初回でわざわざ無力な一般市民を狙うだろうか。
そう思えば違和感のある事も確かにあった放置された死体や隠す気の無い大量殺人が良い例だ。
こんなもの人間を警戒すべき相手などと微塵も思ってないとしか思えない。
そうなってくると相手が次に狙う地区は此処、東区画だろう。
西から北へローラー式に潰していくならぐるっと一周するだろうな。
そしてそこから繋がるもう一つの引っ掛かり、先の考えは所詮は憶測だ。
だがもし弱い順に狙うなら次狙うべきはこの街の領主がいる領館と多くの店が立ち並ぶ強い護衛がいるであろう南区画ではなく有象無象も多い冒険者が住む東区画を狙うべきだ。
これが引っかかった2つ目の理由、暗殺者の考えなんか考察できなくても次の目的は絞られるって事だ。
部屋で椅子から立ち上がろうとしたその体勢でその考えまで至ると
「何してるの?」
楓が昼飯に誘いに来たのだろうか、珍獣を見るような目を向けられた。
「次の殺戮場所が予想出来たんだよ、今夜は戦闘準備をしておけよ」
胸を張ってそう答えるとさらに身を引かれる。
「う、うん、とりあえずご飯行こっか」
はぁ、とりあえず考察を話してなんとか弁解しないとな。
階下へ降りると『戦帝』のメンバーが勢揃いでテーブルの一つに集まっており楓にそこへ座らされた。
「頼む‼︎俺達に力を貸してくれ‼︎」
テーブルについた瞬間に『戦帝』のリーダーであるシアンが頭をぶつける勢いで下げた。
「は?え?何に?えっと……どういう状況だ?」
いきなりされた協力要請に頭がついていかない。
ただ楓にその様子はなく事前に伝えられているようだ、早く説明してくれないものか。
ハテナマークを頭に浮かべていると『戦帝』メンバーの常識人のランクス、クレイが説明を補足する。
2人の内の男、ランクスは普段のガッチリとした重鎧を着ている威圧感、重圧感とはうって変わって落ち着いた声色で話し始めた。
「この街で最近連続虐殺がされている事は知っているでしょう、俺達戦帝はその解決を街の領主に頼まれたのです。それで暫く情報を集めているとあなた方が襲撃者を撃退したという情報が得られ今に至るわけです。」
続いて女性のコロネさんとは逆タイプの紫がかった黒のローブと帽子を着た落ち着いた女性のクレイさんが補足するなら、と話を続ける。
「シアンの攻撃にかすりもしなかったことや野営時の集中力、殲滅力から実力は折り紙付きです。それに商人のクダルマ・キンニさんからもその実力も聞いています。作戦は出来上がっています、どうか我々に協力して頂けないでしょうか」
クレイさんが頭を下げると同時にコロネさん、ランクスも頭を下げる。
わぁこの街の人気者の『戦帝』に頭を下げさせてる一般人の絵面の完成だぁ。なんていってる場合じゃないな悪目立ちしすぎだろ。
「商人のおっさんが襲われないように敵は殱滅する。今日明日にその作戦が終わるなら協力出来る。」
「本当か⁉︎それはありがたい!作戦は今日にでも決行する。」
シアンはその拳を強く握りもう犠牲者は出さないと呟いていた。
ステータスが高過ぎるっていうのも野暮なもんだな、まあ俺もやるって決めた以上同じ気持ちでやらせてもらう。
「じゃあ作戦の説明をランクス、クレイ頼む」
「分かった、では進行は俺ランクスが務めさせてもらいます。まあ作戦と言っても大したものではありませんが。では今夜の襲撃場所は此処東区で間違いないでしょう、相手は弱い民から順に狙っていますから」
その時楓が視線を向けてきたが同意見だとこの意見に頷いていたらすぐに視線を話を外した。
もしかすると分かっていたのか、楓は相当頭が切れるからな。だとしたら俺はあんなに自慢げにわかりきったことを…恥ずかしっ‼︎
「そこで今晩はこちらのコロネと楓さんで東区全体に探知魔法を使い襲撃場所にすぐに迎えるようにしたいと思っています。幸い領主様の協力もあり冒険者には常に戦える状態で寝たフリをして貰えることになってますから。」
「なるほどな、撃退に関してはそれで良い。本体は誰が叩くんだ?」
「それに関しても考えています、俺、シアン、コロネの3人は血の糸と別にいる吸血鬼をクレイと楓さんには撃退を頼むことになるんですがそうなると……」
「本体を叩くのが俺1人になると、まぁ大丈夫だろその作戦でいくぞ。」
血の糸を砕ける氷魔法、蒸発させる炎魔法が使えないなら吸血鬼の対応をするしかなく、それらの魔法が使えない冒険者のフォローも数人作必要がある。
その上敵は詳細不明のスキルを手に入れた変異種と考えられており下手な人材だと足手纏い。
「それなりに腕には自信がある、魔王軍の大罪クラスでも無ければ襲撃者を全滅させるまでに負けるなんて事は無いだろうな。」
『戦帝』メンバーの目が見開き驚きを表す。
「そこまでか、黒髪黒目なんで割といるがもしかすると勇者様達の直系だったりするんじゃねぇか?」
「そんなわけあるか、勇者なんて器じゃねえよ、少なくとも俺はな」
最後に楓が変な視線を送ってきたが基本の話はそれで終わり夜が来るまで細かい場所の打ち合わせをしていた。
東区大通り十字路
「ふぅ、昨日一昨日からしてそろそろだコロネ、楓さん頼む」
シアンさんが立ち上がり巨大な戦斧を担ぎ上げその他次々と指示を出して行く。
100、この場に招集された冒険者の総数である、敵に気取られずに行動出来ると考えられた最大人数。
残りは宿屋で寝たふりをしている火、氷系統の魔法やスキルを持つもの300、持たないもの200
私はその200人のフォロー、それと
「涼太、無理しないでねさっさと殲滅して手伝いに行くから」
「無理すんなってそれを俺に言うか?心配なら止めにきてくれ、さっさと殱滅してな」
無理しないでね、なんで言って聞いてくれるとは思わない。
多分彼は私の命に関わる敵と判断したら全てを投げ捨ててでも敵を殺す。
それで本当に命を捨てるって言うなら引っ叩いてやるんだけどちゃっかり自分も生き延びるきでいるからほんとにやるせない。
「言われなくても……じゃあいくよ《空間探知》」
《空間探知》自分を中心として魔力を注ぎ込んだ分だけの範囲の模型を脳内に作り出す。
まあ無限の魔力を注ぎ込んだら脳がパンクするだろうからしないけどINTの数値によってそれなりの範囲が可能となっている。
「私もただの飲んだくれじゃにゃいことを証明しにゃいとね《聴覚強化》《感覚向上》」
コロネさんも猫獣人特有の聴覚と獣人共通のた高い互換で索敵を開始する。
索敵開始から数分後深夜に数人の人物が街を彷徨くのを探知しシアンさんとコロネさんはそちらの対応へ向かった。
そして更に数分後、最初に動いたのは涼太だった。
大通りを全力で駆け北へ北へと疾駆する。
‼︎
次に動いたのは敵、赤い糸がまばらに宿屋へ出現する。
涼太はこれをいち早く察知したってことね。
「クレイさん行くよ。皆さん‼︎襲撃が始まりました場所は東区北側宿屋街13番から15番までです‼︎」
それからは冒険者達は各々の方法で走り出す。
私達は火、氷魔法の使えない人を集めた12番街へと飛び立つ。
《空間探知》《多重魔法》《拡散化》《ロックオン》
血の糸を把握、魔法を多重化させ拡散し狙う総数130
《雪化粧:花吹雪》
己と言う魔力の大樹から桜の花弁と言うにはあまりに鋭利な雪の花が散りその花弁が宿主を探すかのようにそれぞれの部屋に入って行く。
この花弁に触れたものは美しい氷の花となって砕け散る宿主に選ばれた血の糸には同情するわ。
「我願う、忌まわしき魂よ人を喰らいし化け物よ砕け散り塵へとなりて懺悔しろ我の願い今此処に成就する《聖光波動》‼︎」
クレイさんの放つその光は優しく、暖かくとても安心するものだった。
「どうしました楓さん、私何か……あっ!え、聖属性でも蒸発させれるんでしたよね?」
「え?あっ、いえいえ聖属性なんて使える人がいたんですね。」
文献によれば教会の総大司教でやっと下位の聖属性魔法、それ以外は
「私はこう見えて『ハイエルフ』なんですよ……今はもう血筋だけで民も家族もいませんが」
ハイエルフ、森の人であるエルフの王族稀に見る人類種の変異体、その中で最もメジャーなものでエルフと同じく長寿、そして膨大な魔力と聖属性適性を持つ最強の種族の一種だ。
そんなハイエルフの王族がなぜ
「ちょっとしんみりしましたね、此処はもう大丈夫そうですシアン達を手伝いにいきましょう。」
空間探知に一切な敵反応無し、転移者以外で70の敵を1発で殲滅その上建物、人に被害ぜろ、いくら長寿といえどかなり強いのは確かね。
「えぇ、あとは残りの冒険者に頑張ってもらいましょう」
《空間探知》……⁉︎
「ねぇ、戦帝の残り3人って貴方くらいの実力があるの⁉︎」
「何があったの、もしかしてシアン達に」
「いいから‼︎」
もし彼女くらい強いなら頭の中に映るこの光景は
「えぇ、殲滅力で言えば私が上だけど対単体なら」
「っ!仕方ない捕まって!」
地面に魔法罠を張る。
罠は強制テレポート、シアンさんの服に仕込んだ魔法陣を出口に設定。
この際転移者ってバレるのは仕方ないか。
それよりも今はたった一体であの3人を地に伏せさせなおも荒々しいこの気配の持ち主を。
《テレポート》
疾駆する。
前回から感じてた俺の《索敵》《空間把握》の両用に生じる不明の空白これの正体が分かった。
空間探知とは違い感覚として感じるこれは脳内での映像化とは違いおそらくでの不明点の補完がされない。
そらは索敵されず空間把握から逃れる敵の存在の証明。
全ての血糸が此処に集約しているのを見てやっと気付くとはバカさ加減に飽き飽きする。
到着するとそいつは確かにそこに居た索敵も出来ず空間把握にも引っかかっていないのに姿は見える。
「「お前(貴方)は何者?」」




