襲撃と再臨の青光
「涼太起きて‼︎商人さんにつけた罠が起動した‼︎誰かに攻撃されてる‼︎」
楓の声で急速に目が覚める、ダンジョン内で起こるアクシデントに対応するための癖は残り続けている。
聴いた内容を整理して『氷騎士王の手甲』を装備し時間が惜しいと2人して窓割って飛び出る。
「宿の位置は⁈」
「罠の発動場所で大体は分かってる」
俺は《エンチャントサンダー》を脚に、楓は自身にスピードアップ系の魔法を使う。
エンチャントは属性ごとにプラスアルファの能力が着く、雷属性はスピードアップだ、そして本来使えない筈の自身への補助魔法を罠にして発動する事で楓は自身にかけることを可能にした。
向上したステータスで楓の先導の元屋根の上を疾駆する。
周囲は夜となり一部の酒場以外は静まり返る闇の市街地をレベルの恩恵で見て、不安定な足場をもろともせず風を切る。
そして一つの建物が視界に映る。
「あそこの宿!部屋は」
「大丈夫だ!《索敵》《空間把握》」
二つのスキルの併用で視覚とは違う新たな視点を手に入れる。
そこに映るのは建物二階、透明な球体に囲まれた筋肉のおっさんと糸状の何か。
糸状の何かは球体を破ろうその体をくねらせ締め付け、刺突する。
「こっちも場所を把握した、魔法準備頼む」
そう言って俺も手甲から《氷騎士団の聖剣》を装備する。
そしてその建物の通りを挟んで向かいの屋根へ着くと最初に俺が、その跡を楓が追うように閉じられた商人の部屋の窓へ突っ込む。
するとその赤い糸は俺の方へ向く。
糸が俺を刺そうとするが先に動いたのは俺の聖剣。
一度砕けた筈のそれは俺の手の中でライトブルーの輝きを放ち唸りを上げる。
《氷界》
上級氷魔法が球状の結界に守られた空間以外の全てを凍てつかせ銀世界を創り出す。
そして凍り付いたその赤い糸は
「《セイクリッドアロー》」
聖属性の矢が破壊し、蒸発させた。
「商人さんは大丈夫でしたか?」
その結果を一瞥もせずに楓は怪我の回復を優先する。
色々と質問を重ねる楓の横で氷界を解かす。
にしても聖属性魔法、覚醒の力ってやばいな。
聖属性魔法で糸が蒸発したのなら相手は人間では無いだろう、聖属性魔法は人の敵を滅する、そういうものだ。
朝の吸血鬼騒動に違いないだろうな。
空間把握で窓の隙間から入った事は把握済み、周囲の部屋の住民は干からびてしまってる。
はぁ、人が死んだ事をこんなに淡々と語れる人間だったんだな。
変わった気でいても大切な人間が出来ても心の中心にある物が増えただけか。
いや、今大事なのは商人の安全、依頼は受けた以上必ず果たす。
考えがまとまった頃に楓も話を終わらせた。
「見たところ怪我は無いね、結界にひびすら入らなかったみたいだし余裕はあったみたい」
「ふぅ、ひとまずは安心か、あんたはこれからどうするつもりだ?」
商人は座らされたベッドから立ち上がり多少の間を開けてから答える。
「……出発日は遅らせる、この街で何が起こってるかは分からないが世話になってきた、今の状況で『戦帝』という戦力を連れていく訳にはいかない」
その言葉には確かな覚悟があった、それでも人の命の危機を放置出来ない人も居る。
楓が睨むような視線を送り詰め寄る。
「さっき襲われたのを忘れたんですか⁉︎私の結界だってどんな攻撃でも弾けるって訳じゃ無いんですよ⁉︎なら『戦帝』を置いていきましょう護衛は私たちでも十分出来ます!」
それでも変えないと、戦力になる人間は全員残すとその目が言っている。
仕方ない、その気持ちも分かるんだからほっとけねぇんだよ。
「本来の出発日、その日までは残ります。その日以降の勝手な行動で死なれても責任は取りません」
「え?」
共に困惑する2人、え?という言葉はどちらから漏れたんだろう、まぁあいか
「あと2日ですよね、俺は貴方を護衛するために不穏分子の始末を心がけます、ただし2日後には気絶させてでも連れて行きますから」
「た、助かる!この恩は謝礼という形で『戦帝』と君たちにたっぷりと払わせてもらうよ!」
楓は不安そうな顔を浮かべるも俺が割と積極的に護衛をするつもりであると分かりどうするべきか迷っている。
「……分かったよちょっと時間をちょうだい、罠をかけ直す。敵がいると分かった以上それ相応の物を作るから」
それから作業を開始する楓はああでもないこうでもないと悩みながら結局新しい聖属性結界を創った、攻撃に反応して聖属性の反射があるらしい。やっぱりこいつはチートだ。
それからは商人のおっちゃんと今日の昼前に行った詰所へ向かう。
行く途中は俺と楓の全方位警戒ですれ違う人の1人にすら気を使った。
「失礼します、昼前に来たものですけど吸血鬼関連の被害者をつれてきました。」
呼び掛けた途端に金色の長い髪をなびかせながら1人の女性が走ってきて指を1本立てて口に添え
「大きな声で叫ぶな、民間人には公表してない情報なんだ!って被害者⁉︎生きてるのか‼︎」
あぁ、この声は派手甲冑さんかと反応まで派手だなぁとか思ってると今回は取調室らしき場所とは違い事務所っぽい場所へ通された。
「本当に被害者であってるんだな、話をさせるためにの嘘だと分かれば檻に入れるぞ」
と疑いながらもほぉ、ふぅん、とおっさんをガン見している。
それからは話をすんなり聴いてもらえ、楓が攻撃が分かる様な仕掛けをしたこと、俺たちが護衛をしたこと、吸血鬼とは似つかない赤い糸だったこと、他の人達は手遅れだった事と順に話していった。
「吸血鬼ではない?いや、でも幾つかの死体には噛み傷が、ただ糸から吸血されたなら刺し傷しか無い死体にも説明が……」
ぶつぶつと言っていたら夜勤の眠気も覚めたのかひとまず結論をつけた。
「恐らく普通の吸血鬼が少なくとも1体、あとは変異種かそれに似た何かが1体はいるらしいな」
変異種、元のモンスターがなんらかの原因で変化したもので原因は様々。
今回のパターンだと上位の種族になった、又は特殊なスキルを得たもののどちらかだろうな。
「敵がわかれば対策も出来る情報感謝するぞ、ちなみに2人はどうやって撃退したんだ?」
「えっと、凍らせて砕きました。結局は楓が浄化しましたけどあの匂いは血液でした、凍らせて砕けばなんとかなると思います。」
「血液の糸か、分かった詰所と冒険者ギルドで聖水と氷魔法を使える者を集めるとしよう、あと現場へと事実確認へ向かわないとな」
その端正な顔立ちを納得の顔でうなづかせ、ところでと話を振ってくる
「2人は冒険者だろ?どうだ依頼料は弾むぞ」
「そうですね、あと2日以内に招集があるなら可能性はありますね」
そう返すとそうかとだけ返事を貰いこれから現場確認と作戦会議ということで事務所から出た。
話は終わり帰路に着く、幸い俺たちの宿屋の近隣は宿が密集していて近所におっさんの宿をとれた。
その日、再び襲われる事も無かったので割った窓を直して証拠隠滅した後に眠りについた。




