ついに帝国へ
『戦帝』はシアン、ランクスとコロネ、クレイの男女2人づつの4人パーティー。
帝国首都を拠点と置く冒険者パーティーでS〜Fの7段階評価で上から2番目Aにあたる上位冒険者と言っていいだろう。
その実力は相性次第では魔族とも互角に戦えるという。by商人のおっさん
に、圧勝しちゃった訳だ。そりゃあ絡まれるよね、出発して初日はマジで質問の嵐だった。
共に旅するうちに知ることにもなるだろうということでお開きにはなったが非常に疲れた。
ただ旅をしている途中に重大なことに気付いた、非常に喜ばしく、素晴らしいことだ。
「コロネさんって……獣人なんですね」
俺は獣人に会えて浮かれていたのかその耳が帽子で隠すようにしていることに気がつかなかった。
そして、その質問をすると馬車内の空気が数℃下がる。
「そうだな、それが何か問題でも?」
答えたシアンの声色は別人かと思えるほどに低くなっていた。
そしてまるでこちらを試すような、値踏みするような視線を向ける。
「王国内では見たことなかったので、聞かない方が良かったですかね?」
だがそれがどうしたというのだろうか、俺は別に間違った事をしたとは思っていない。
「はあ⁉︎てめぇ巫山戯てっ、いや、そうか……世間に疎いんだったな。」
こちらに悪意がないことを汲み取ったのか異世界人というのを紛らわせるための田舎者設定が仕事をしたのか場の空気は少し戻る。
そして今度は怒りの熱が生まれる。
苦虫を噛み潰したような、それと同時に深い怒りを持ってシアンはその口を開く。
「王国内では獣人は迫害の対象なんだ、正確には人間以外、つまり亜人のことだ」
この答えはこの反応を見て大体は理解出来た、でもいざ聴いてみるとやっぱり
「くだらねぇ」
心底そう思う、コロネさんと話をしていて違和感もなければ違いすら感じられないというのにな。
ガシっとその言葉の直後に肩を掴まれた。
「だろ⁉︎なぜ王国はそんなことをするんだ、噂には聴いていたが実際に見てわかった。俺には理解不能だ」
シアン曰く帝国は多種族国家の自由主義で強いもの、良い作品を残した者の地位が上がる。
故にそれぞれの種族にある得意不得意が浮き彫りになり互いを理解してるんだとか。
その上世襲制が無く上層部の腐敗もクソもないとか。
「それって国として成立するんですか?」
正直言って驚きだ、そんな適当な国家が存在して良いのだろうか。
「してないぞ?」
なぜ疑問形?てかしてないの⁉︎
「あぁ、帝国なんて言っても実際は傭兵達や職人がこぞって住んでるだけだからな、そこに勝手に冒険者ギルドが出来て傭兵と職人の纏め役が国家としての体制を適当に整えただけだ。いわばただのでかい会社だな。」
「へぇ、職人気質の実力主義だから多種族共存が出来てるんだな」
「そうだな、俺達は帝国生まれでそんな中で育ってきたからやっぱり王国の空気は合わないな」
「あれ?じゃあなんで来てたんだ?」
別に来る理由もなければ知り合いもいないみたいで義理もないだろうに。
「あぁそれは……おっと、どうやら着いたみたいだぞ帝国領」
「?……おぉ、デケェ」
馬車の窓から見るその街は縦5m程の壁が左右に数kmほど広がり街を囲い目前の門には多くの御者が立ち並んでいる。
「ここが目的地の帝国か」
そう1人驚いていると更に上を行く驚きが訪れる。
「いいや、ここは帝国の東西南北にある街の一つだ、俺達にとっては中継地点だな。帝国はもっとデカイから驚いて腰抜かすなよ?」
この文化レベルでこのサイズの都市が最低5つか魔法があると発展の仕方ってかわるんだな。
すると騒ぎに気付いたのか隣席の住人が体を起こす。
「ふわぁ、着いたんだね涼太。ごめんねぇつい寝ちゃって」
楓だ、ってか楓以外は他人しかいないこの状況で楓以外が両横にいるとかコミュ力皆無の俺には無理。
「いやいや夜の最後に見張り番やってたんなら仕方ないと思うぞ」
基本的に見張りは何人かのチームで行うがそこは途中参加者、2人起きてると何をしでかすかわからないってことで別チームに分けられた。
「ほら、これが帝国への中継地点らしいぞ。帝国はこれより凄いんだとか」
すると楓は少し眠そうに目を擦りつつ街、というよりそれを囲う石壁を見て呟く。
「土魔法でも使ったんだろうけど随分と大きいね、ほんと魔法って便利。」
なんと言えば良いのか、これじゃあ1人で「すげー」とか思ってた俺が田舎もんみたいだな。
「おっカエデちゃんも丁度起きたみたいだな俺達は街に入ったら行きつけの宿に泊まる予定だがどうする?」
なんか俺が事務的な話から外される様になってるな、面倒だし別に良いんだがなバカと思われてようと気にもしないし。
最終的に宿は同じで3日後の日が最も高い時、要するに正午に再出発する様だ。
「と言ってもどう時間を潰すか、初めてくるし土地勘もあるわけないんだよな」
『戦帝』のメンバーは知り合いに挨拶だとかでどこかに行くし下手に外出すると戻って来れない可能性すらある、一階の居酒屋で適当に飲み食いしても良いんだが。
「ここに来て初日だよまだ時間もあるんだし、今日は休んだら?」
あぁ、そうする予定だったんだけど1つ問題があるせいで部屋に居づらいんだよな
「それでも良いんだが、なんで俺は楓と同じ部屋なの」
「?4人部屋と2人部屋がそれぞれ1つしかこの宿に空いてなかったからじゃない?」
じゃない?じゃないんだよ確かにダンジョンでは同じ部屋?階層?で寝てたけど日常に戻ったんだからやめなさいよ。
「そもそも何故男女を分けないんだ当たっただけで通報される昨今の電車事情を考えると分ける事が我々男性に対する配慮というものではないだろうか。」
「何言ってるの……ほら『戦帝』は男女2人づつのパーティーだから女部屋に女3人その中に男が1人になりたい?」
ほう、赤毛ケモ耳少女に緑長髪や魔法使い、そして楓と……俺以外の奴が入るなら殴る、俺が入ったら居づらくて死ぬよって不可能。
「沈黙は肯定とみなすよ、ほら仕方ないじゃん諦めたほうが良いよ」
いや、でも、なんかこう、さぁ、恥じらいというか危機感というか持って欲しいのですが。
くっ、仕方ないここは全面降伏だ。
「もう寝るわ、また明日」
いや、敵前逃亡?戦略的撤退だなそういう事にしておこう。
……翌日
「あのまま一晩眠ってたとは、ざっと15、6時間はあるぞ」
特に意識はしてなかったが初めての長旅ってのが意外と心身に疲労でも与えてたのかね。
楓はまだ眠ってるか、朝飯は6時からだっけな。
帝国には元の世界と同じ仕様の時計があったいつかの転生者がつくったんだろうが転生者様々だな。
下に行くと見知ったって程でもないが知り合いが居た。
「おぉ〜リョータじゃないかぁ〜、呑んでるかぁ〜?」
「にゃははぁ〜相変わらずここのお酒は良いのがそろってるにゃぁ〜」
うん、やっぱり知らない。俺の知人はこんなに顔が赤くはなかった筈だ。
てかケモ耳さんよぉ、あんたはほぼ無口だったじゃねぇか初会話がこれかよ呑んだくれの印象しか残らんぞ。
「もう呑んでるんすか朝起きて即泥酔って帝国の冒険者ってこんなのがエリートで良いのか。」
「舐めるなよ小僧、俺が呑んでる酒は起き抜けの一杯じゃねえ徹夜明けの一杯だ。」
「ふっふっふ帝国の冒険者ならこんなの序の口、もはや酒が抜けてる時間の方が少ない冒険者なんてわんさかいるにゃ。」
「マジで誇れることじゃねえだろ。後2人どこ行ったんだ回収してくれよ」
「ランクスとクレイのことか?あの2人そういやぁ、呑み初めてからどっか行った様な気がするなぁ、部屋で寝てんじゃねぇ〜かぁ?」
あ、逃げたんだな絶対そうだ、そう言えば周りにもこの2人と店主以外は呑み倒ている、この飲み会は恒例行事なのかよ、ならこの絡みもか。伝えておいてくれよハア。
「そんなあからさまに溜息つくなって、ほらっ呑めるんだろ肴も上手いぞぉ〜」
「もう諦めて私達と呑もうよぉ〜、どうせ時間あるんでしょ〜」
「おいでぇ、おいでぇ」と腕を伸ばしてくる亡者に見えたよね。
「ええぃ俺は酒は呑めないんだよ、離せ酔っ払い共」
くそうこれじゃあ朝飯が食えないじゃないか、外で何かしらの店でも周るとしよう。
「「おいでぇ、おいでぇ」」
何も聞こえない、何も聞いてない、さっさと宿を出よう。
外に出ても何かしらのドス黒いオーラが漏れ出てる気がするがこれも無視だな。
へぇ、割と朝から人が多いんだな、出店もかなりの量が開店してる。
世界が違えば営業時間なんかの常識も変わるものなんだな。
それじゃあ折角だし何か1つ
「おっちゃん、その串肉を1本頂戴」
出店はある程度の感覚を開けながら展開されていてそのどれもがちょっとした飯となる様な物だった。
流石に朝起きてすぐガッツリ食えないのでサイドメニューな串肉だけを頼む。
「毎度あり、100ライドだよ」
この世界の通貨単位はライド、1ライド1円換算で多分あってるだろう、知らんけど。
「朝から人も出店も多いね、帝国ってのはいつもこうなのか?」
俺が心置きなく話せるのは数少ない友人と楓、それから店員くらいだよ。仕事って分かり切ってると話しやすいよな。
「ん?帝国は初めてかい?そうだな都会じゃあ冒険者は比較的朝早くに出るから冒険者とそれ狙いの出店は多くなるもんだ。」
おお、なんと良いおっさんだ。普通の人にあったのって久しぶりな気がするわ。
迷宮でて直後に会ったのがガチムチ商人と呑んだくれだからなぁ。
おっ、この肉も美味いな調味料こそ薄いが肉本来の旨味が凄いんだろうな。
「凄え美味い。何の肉使ってんだ、企業秘密だったりするのか?」
「そいつか、別に特別な物は使ってねぇよ腕だよ腕」
おぉお、程よくウザいな。いや確かに腕が良いのかもしれないが。
「肉も普通に買えるオークのを使ってるよ。」
「へぇ、そうなのかオーク肉をね……オーク⁉︎」
あの汗ばんでデブった二足歩行の豚⁉︎
「あれ、お客さんの出身地じゃ喰わなかったのか?」
そうか、あれか、そう言われると何か胃がザワザワするな。もう食ったから考えても仕方が無いが。
「あ、あぁ、きいたことがないな初耳だよ」
「そうなのか帝国ではメジャーな食材だから慣れてくれ、そうでなけりゃここらの飲食店はどこも食べれないぞ。」
なんでそんなに狩られてるんだよ、もっと頑張れオーク。
いや頑張った結果数が増えて大量に狩られてるのか、お疲れ。
「大丈夫だ、基本何でも食べる。すぐ慣れるさ、慣れたくは無いが」
とりあえず楓には黙っておこう、下手すればマジで肉抜き生活を始めかねない。




