少女を救う才なき英雄
「とっとと楓から離れろクソ野郎、俺はここから帰りてえし、楓と一緒にいたいんだ。」
「はて、たかだか一般人風情がなぜ《選定の間》で動けるのでしょうか」
俺には一切目もくれず死んでない楓を不思議そうに見つめている。
「さあな、もしかすると今この場で俺にも英雄の才って奴が目覚めたんじゃねえか」
「あれはそんな簡単なものでは有りませんよ」
余りにも分かりきった答えに思わず笑いが飛び出る。
「はっ、まあそんな事はどうでもいいはやく楓から離れろって言ってんだよ二人でさっさと帰りてえんだ」
「なら私を倒せば良いじゃないですか、まぁ才なき一般人相手には負けませんがね」
「そうかよ」
その言葉を叫ぶと同時に疾駆する。
次の瞬間には互いの剣が激突し火蓋が切られた。
俺は雷のエンチャントを相手は3対目の翼を光らせると同時に刃の乱舞は加速する。
『氷騎士王の手甲』から出る多種多様な武器を織り混ぜかの騎士王の剣技を真似て再現しこれまでの戦いの経験全てを用いて昇華する。
剣で薙ぎ、槍で突き、鎌で退路を断ち、短剣で潜り込み、細剣で刺し、盾で殴る。
全ての武器を使い、応用し、騙して誘導する。
読みようのない剣技と戦わせられる相手の剣技はほとんどないといえど癖を読まれパターンを見つけられ、だんだんと追い込まれていく。
来た‼︎
本来なら防がれる、弾かれ流され反撃は出来ずとも確実に防げるであろうその体制、そこに
「《分解》」
壊れろ
——ガキン‼︎——
鳴り響いた音は剣と剣のぶつかる音だった。
分解し切れなかった?
いや、王国の結界のような頭の処理が出来ないなんてことはなかった。
造りは単純、直されてもいない、ならなぜ。
そのコンマ数秒で瞬時に敵は飛び上がった。
「なるほど、近距離には自信有りですか。ならこれでどうです」
1対目の翼を輝かせると光の弾幕が大量展開される。
まあ、効くわけがないんだがな。
「《分解》」
近寄る全ての魔法を消し去る。
「なるほどねえ、なるほど、さっきの剣の一撃は随分と甘いと思いましたがそういうことですか。」
バレたか?いやバレた前提でいることにしよう、調子に乗るなと散々あいつから言われたからな。
「教えて差し上げましょう、先程は名乗れませんでしたがこの剣の銘は《神剣グロニア》全てを切り裂き決して欠けず壊れぬ最硬の剣あなたのスキルは効きません」
決して壊れない剣か、確かに相性は悪い……が
「近接戦で俺に負けてビビって飛び退いた奴が何言ってんだ、お前の弾幕も光線も俺には効かねえよ。」
近接戦では勝利、遠距離戦ではそもそもかすり傷一つ負う要素がねえ。
「そうですね、このまま引き延ばして餓死させても良いのですが時間がかかる。そして何より虫けら風情に時間をかけること自体が不本意」
ほう、何か俺を倒せる手段が有ると近接戦で俺に勝てる手段が有ると言うのか。
「あなたに見せてあげますよ英雄の才持つ者には見せられない私の本気を、造り出された私に与えられた《疑似覚醒》を」
疑似…覚醒?
そもそも覚醒ってのがなんだ、それが英雄の才ってやつなのか?
それの疑似品、人を英雄に押し上げる物の類似品、警戒するに越したことはないか。
「ではいきますよ
《堕天》」
次の瞬間、奴の5対目の翼の下に6対目の翼が生える。
今までの何者にも染まらないような白色から一転、全てを飲み込む漆黒の黒色。
それが薄気味悪い光を出すと純白の天使が黒く染まる。
翼は同じ色へと変化し天輪は黒く輝きだす、今までの存在全てを否定するかのようなそれは変化、というには余りにも汚く異常な変異と呼ぶにふさわしいものだった。
「ふふふ、これを才持つものに見せて悪影響を与えては困るのでね、気絶していてくれて助かりました。……では」
確認できたのは3対目の翼が光った事だけ、そして
「‼︎《エンチャントアース》……ゴハッッ‼︎」
地属性のエンチャントを全身に施し防御を上げてなお吹き飛ばされ壁へと激突した。
「ハァハァ、随分と変わっちまったなぁ」
「そうですね、しかし余り苦しい時間が長くても可哀想ですしさっさと終わらせてあげますよ。」
そこからの展開は一方的だった。
翼を使い四方八方全ての方向から攻撃が加えられ俺はただ耐える事しか出来なかった。
ただそれにもいずれ限界は来る。
「あぁ〜あ、動けるようになった時点でさっさと1人で逃げていればレベルを上げてからチャンスがあったというのに。そしてこの少女の目的、君を生き残らせる事も出来たかもしれないのに」
「ハァハァ、俺が、楓と…ハァ、一緒に、帰りてぇんだ……ハァ、さっき、言っただろ」
楓の願いを叶えるならその手もあったかもしれない、それが俺に出来る最善手だったかもしれない……ただ今俺が立ってるのは俺自信のためだ、他の誰の為でも無く俺が楓と帰らなきゃ意味がないと決めちまった。
ポーションポーチから回復薬とあと一本、結局あの時使わなかった増強剤を取り出して飲み干す
「楓、待ってろすぐに終わらせる」
再び相手が消える、さっきまでは目で追うことを意識してた、だが辞めだどうせ見えねえ。
未来視、先読みを用いてさっきまでの戦闘から来る攻撃を察知する。
ギャン‼︎
おしっ、流せたこのまま行くぞ。
そこから展開されたものはもはや刃の乱舞なんてものを超えた超高速戦闘だった。
互いに身体にかすり傷を作りながら肉体を含めた有りとあらゆるものをすり減らす。
幾たびの死線を超え、死の恐怖すら麻痺させ痛みなどとうの昔に置き去りにする。
そんな中、拮抗した実力唯一壊すものがあった。
それが根本的な肉体強度、このまま続けると体力を先に切らすのはこちらで有ることは明白。
そんな死の未来を切り伏せんと放つ複数の斬撃の内の一太刀が当たる。
それだけなら今までの剣撃の中にもあった、その筈がその一撃だけは手応えが違った。
その斬撃が当たった直後に相手は完全にバランスを崩したのだ。
「これは!少女の《聖炎》のダメージ⁉︎」
ふっ、サンキュー楓。俺はその叫びを聴きつつ相手の懐に2本の剣を構え飛び込む、右手には愛用する黒剣、左手には氷騎士団の聖剣。
まず左手の聖剣を振り抜き氷魔法を使い相手の足を固める。
楓と帰るんだよ、これで死ね。
右手の黒剣を振り抜く。
「クッククク、虫けらがぁあぁァァアァア‼︎」
その絶叫と共に全ての翼が同時に輝き、その力が神剣グロニアへと集約されふるわれた。
——ガキッ、バキン——
そして俺の2本の剣が砕かれた。
……だろうな。
あんだけ余裕かましてそのまま死ぬなんてことはあり得ないよなぁ。
だがな、俺の本名はそれじゃあないんだわ。
破壊された瞬間に腕を引き絞り拳に力を乗せる。
最後はこれで終わらせる。
「《分解》」
拳にスキル《分解》を乗せて奴に、天使の形をした『魔導人形』を穿つ。
「ガッ!ば、馬鹿な私の身体が崩れて……一体何を、貴様のスキルか、だが私は魔導人形などと名乗った覚えは」
「言ってたじゃねえか『造り出された私に与えられた』ってついでに言えば75階層ボス99階層の敵、ヒントならあった」
「まさか、一般人風情にやられる日が来るとはな……私を作られた御方はこの先で英雄を待つ、まあ才なき貴方が認められるか知りませんが私は認めてあげましょう通してあげます。」
「負けた癖に口が回るな、じゃあな何年もこんな所で選定お疲れ様と言ってやる。」
「ふふふ、ええ、さようなら」
そう呟くとおそらく部品だったであろう大量のネジっぽいものや歯車、外装が崩れ羽が舞う中心に一本の剣が突き刺さっていた。
それを回収し、少し物思いにふける。
まあ不憫な奴ではあったな、何年もこんな地底で主人の為に憎まれ役をやってたんだから。
ただ楓と俺をボコってくれた恨みは別に消えないが。
……そろそろ寝よう、もう分解のせいで頭が痛い。それに増強剤の効果も切れそうだ。
楓は救命のリングで全回復してたよな……おやすみ。




