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冬木涼太という人間

 今から楓と魔物の戦いが始まる。

 英雄の才の無い俺は参加する事さえ許されない、それどころか人質にされてすらいる。


 英雄や賢人の才がない事なんて誰よりも自分が知っていた。


 小学生の頃は常に正しい人間であろうとした、性善説を説いて悪者はおらずいざこざの原因はただのすれ違いだと。

 そんな事を言うたびに俺は嫌われていたのだろう、いつしか人の善を信じる事を重じて人と向き合う事を忘れてしまい俺はそのまま育った。

 そしてしばらくすると虐めが始まった、最初はささやかなものだった。

 周囲の人間もいじりの範囲で悪気なんか全く無かった、しかし俺が周りに向けていた善性の押し売りは人の心に恨みを溜め込ませていた。

 いじりなんて範囲はとうに過ぎ暴力へと至るに時間は掛からなかった。

 ここで更に悪意に加速をかけていたのはクラスが一つだけだった事。

 善性の押し売りはクラス全員に施され多くの恨みが溜まっていたのだ。

 そんな虐めにいつしか俺は善性を説くことすら忘れ人の心を考えない傲慢さだけが残った。


 そんな俺でも根は同じままだったのか正義の味方に憧れた。

 映画、アニメ、特撮、更には英雄譚やラノベにまで手を出した。

 いつだって主人公に憧れた、仲間達の勇気に胸をときめかせた、敵の真意に心打たれた。

 誰かの為に命を賭して戦う英雄達をいつも見ていた。


 ただ……そんなヒーローと自分を見比べて自分の汚さに失望した。

 自分のやってきたことは人の心をかえりみない自己中心的な事で自分の理想の世界を作ることしか考えてなかった事だと気付いた。

 そしてそこに残ったのは人の為の献身の精神でも犠牲の心でもなく己の理想いや、欲を叶えようとする薄汚いものだとも。

 どれだけ憧れても、どれだけ恋焦がれても、染み付いた汚さが邪魔をする。

 異世界《こんなところ》に来て自分にもチャンスがまだあると、誰かの為に戦えるとそんな事を思っていやがる。

 そんなはず無いのに、こん事で変われるようなものじゃ無いと分かってるのに、染み付いた汚さに絶望して諦めていたはずなのに。


 そんな事を考えていると巨大な光と轟音が俺を襲った。

 そして飛ばされた巨大な光線の行先には楓が立っていた。


 「逃げろ‼︎」そう叫びたかった、しかし痺れた身体はそれすらも許さない。

 そして楓はその光線に飲み込まれた……が、その光線の跡地に楓は倒れ伏していた。


……救命のリング?

 70層の宝箱にあった指輪が己と魔力と引き換えに楓を守ったのだ。

 良かった、本当に良かった。

 でも、今の攻撃で楓は倒れた、次の攻撃は確実に当たる。

 なんとかしてくれ……楓…誰か。


……違う。



 そうじゃない、夢を語り、理想を望み、誰かの作った正義を求める。

 その上そんな無理難題を誰かへと押し付け自分の手柄だと言わんばかりに正義の味方面をする。

 そんな自分もう捨てた、成長し理想を語るのはやめた、友人も減り一人でいる時間が多くなった俺は今まで自分を頼ってたはずだ。


 そもそもさっき自分で言った筈だ異世界《こんなところ》に来ても俺は変わらないと、誰かの為になんて戦えないと。

 なら俺がなるべきはヒーローじゃない、誰かの為じゃなく自分のために戦う、そんな奴。

 それなのにどうした。

 クラスメイトには楓が居なきゃいけないから帰す?

 楓が帰りたいだろうから帰してあげる?

 そんな事を俺が本気で思う筈がないよな、もっと違う理由だ、そうもっと単純で簡単な。



「とっとと楓から離れろクソ野郎、俺はここから帰りてえし、楓と一緒にいたいんだ。」


 麻痺が治った、身体が軽い、力が溢れる……麻痺が治った理由は知らんが『我道』自分の為に戦う時にステータスアップってし過ぎだろ。

 まあ、俺の自己中具合ならこんなもんか。

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