己の責任
〜55階層〜
現在俺達は55階層を攻略中だ。50層を超えて次の階層からガラッとフィールドが変わり草原となったダンジョンで戦闘を繰り広げる。
「敵が後ろに一匹抜けた、気をつけてくれ!」
『ブレイドリザード』全長1.5mほどの尻尾が何かしらの武器になっている。
低い位置から放たれる尻尾での一閃がなかなかに厄介だ。
「だいじょーぶ、このくらいならこうだ」
楓は前回手に入れた杖によって可能になった詠唱破棄を使い複数の魔法を同時展開、ブレイドリザードをあっさりと屠った。
「なんか実力の差が出てきた気がするわ、ショック」
「この杖が強いからねぇ、でも武器の性能を抜いたら変わらないって。」
そうは言っても実力の差を感じてきたのは50層攻略前からだ、純前衛じゃない俺は前衛の役割をきちんとこなせてないところがある。
「……どこかで鍛えなきゃな」
「ほら、次来たから頼むよ前衛さん」
突撃してきた3体の戦闘の低姿勢からの腰辺りを狙った槍での横なぎの斬撃を下がって回避。
縮地で即座に間合いに敵を入れる。
振り切られ間抜けにケツを突き出している蜥蜴の尻尾を切り飛ばし生え直す前に飛び乗り脳天を刺す。
そして楓の魔法で足止めを食らっていた2体のうちの一体へ走り込み右前足を切り飛ばす。
体勢を崩し尻尾の振れないうちに首を切る。
最後の1匹は楓がアイスランスで仕留めた。
「うん、3体くらいなら余裕だね」
「ああ、だが5体とかになって来ると何匹か後ろに逃がしちまうからすまんな」
「そんなことないよ、本来なら遊撃よりのステータスなんでしょ、十分ありがたいよ」
魔石を拾いその後探索をし、見つけた宝箱の中身からは槍『スピア・ザ・リザード』とかいうのが出てきた。
持ち手が鱗、刃先が蜥蜴の尻尾で石突きが蜥蜴の顔、まあ使わないから倉庫番かな。
〜60階層〜
のどかだなぁ……あれ、ここどこだっけ?
「ボサッとしてないで行くよ、一応警戒しといて」
「りょーかい」
60階層のコンセプト(?)は牧場っぽい感じで敵は三種、『ラッシュカウ』『スリープシープ』『グランドホース』。
それぞれ突進、催眠、地揺らしをしてくるが何故か温厚。
「ここは攻めてこないしスルーで良いのか?てか散歩しようぜ」
ここまでのどかだと戦闘する気にならんよな。
「うーん、それでもいんだけどレベルは上げときたいし」
「無駄な殺生ははんたーい」
そう言うと楓は少し考え込んだ、おそらくここでおうリスクと先でおうリスクを比べてるんだろうな。
その結果、楓から出された結論は予想の斜め45°上を行った。
「多分だけど肉落ちるよ」
……
「よし楓、戦闘準備だ正直レベルが足りないと思ってたんだよ」
「凄い変わり身、あと普段とのギャップが」
ギャップ?仕方なくね、これでも健全な男子高校生なんだししばらく肉食ってなかったから食いたいと思うだろ。
〜20分後〜
「おい楓、やっぱこの階層スルーが正しかったってあれやばいぞ。はやく逃げろ‼︎」
広大な草原のフィールドから動物が集まり膨大な土煙を上げる。
牛の突進から逃げ回り、羊の催眠のレジスト音声が鳴り響き、地揺らしに足を取られる。
「うん、そうしよう。もう宝箱はもらったし撤退だよ肉は諦めて!」
「命かけるほど食い意地張ってねぇよ、なんだと思ってんだ‼︎」
命からがら俺達は61階層への扉を開いた。すると目の前に広がるのは迷宮でも草原でも無く沼地だった。
〜65階層〜
沼地は人間にとって劣悪な環境だ。それは異世界でも変わることなく足がとられ清潔な場所が少ない。
そんな中で出会う分には最悪であろう敵はなんだろうか、俺はアンデットだと思う。
彼らは沼地に足をとられても疲れることを知らず、骨のみゆえに泥からの抵抗も少ない。
「スケルトン5体だ、2体の足止め頼む」
そう言うと俺は魔法 《エンチャントライト》を使い剣に光属性を付けて斬りかかる。
スケルトンは個体によって武器が違い任せた二体は弓矢とクロスボウ。
俺の相手は片手剣に盾のナイトと、槍持ちのランサー、両手剣持ちのウォリアーだ。
後衛の2体は楓が防いでくれる、今は前衛で厄介な取り回しの効くランサーを狙う。
しかしそれが分かっているのか俺の間にバックラーを構えてナイトが飛び込んできた。
先読みで次の動きを予測し、盾に隠された突きを体をずらして回避。
膝を砕き前に崩れたところに剣を叩き込もうする。
しかしそこに両手剣と槍が叩き込まれようとしていた。
が、先読みで観ていた俺は空いている片手で相手の盾を掴み引き込み丁度剣と槍が盾持ちを砕く。
そして剣が振り切られた状態のウォリアーの首を光属性の恩恵もあり関節部分をあっさりと切り飛ばした。
残りはランサー、立てた作戦とはまったく逆の順番になってしまったな。
ランサーは俺がウォリアーを相手した間に槍を引き絞り首の刈られた骨格の影から突き出される。
少しやばいか、攻撃が読めても沼に足がとられ槍相手に距離を詰めづらい。
「涼太、飛んで!」
逡巡していた時に楓から声が聞こえ即座に飛ぶ。
「《アイスフィールド》」
飛んだ間に近場の沼地が凍る。
「うお、なんだこれ。とりあえず楓サンキュー」
「気にしないで」
足場が凍り足の周囲の氷を槍で壊そうとするランサーの後ろに周り身体を袈裟斬りにすると最後のスケルトンも魔石となって消えた。
「そっちも終わったみたいだな、さっきは助かった。さっきの魔法は?」
「大丈夫、さっきの魔法は上位魔法の一種で環境を多少変化させる魔法だね」
「そんなのあったんだな、ならここまでももっと楽だったんじゃ」
今までの苦労が無駄に思えて少しショックだ。
「そうかもだけど凍った足場はもしもがあるからね、リスクは追いたくなかったんだ」
「そうか、すまんな考えが及ばなかった」
「まあまあ、じゃあさっさと宝箱見つけて沼地を抜けちゃお」
「ああ……いや、ここには他の場所より長めに滞在してくれないか」
「どうして?別に何か良さそうなものも落とさないけど」
「そろそろ近接戦を鍛え直したい、体術に自信はあっても剣術は国で齧った程度だからな、スケルトンとはいえ見て多少は盗んでいきたいんだ。」
「そっかぁ、私もちょっと前に君に言ってたしね。安全に超したことはないよ」
「あぁ、少なくともしっかりと前衛を勤められるくらいにはなってやる。」
俺達、いや俺は65層で特訓とレベル上げをし、この階層の敵なら楓のフォローなしで前衛部隊を倒せるようになって次の階層へ進んだ。
〜70階層〜
滑空するその顎を屈んでかわし炎属性のエンチャントを施した剣で喉を掻っ切る。
『ポイズンワイバーン』沼地の環境の一切を無視して空中から襲いくる翼を広げれば3mはあろう体と毒の牙を持つ飛竜だ。
「《飛炎斬》」
エンチャントした炎を飛ぶ斬撃として撃ち出す。
距離減衰がある上にエンチャントも無くなるが近接戦士が使える遠距離技として重宝している。
炎の斬撃は火の粉を散らしながら首を切られ後退した飛竜を堕とす。
「《フレイムレイン》」
俺が倒したその上空に控えた2体はさらに上に展開された降り注ぐ炎の槍に貫かれる。
「うーん、65層でかなり篭ったから環境にも慣れたしこのくらいなら楽勝だね」
「あぁ、だがやっぱり近距離戦しか出来ない身からしたら少しキツくはある がな」
沼地を突き進みながら会話をする中で1つの解決しない話がでる。
「ねえ涼太、あとどれだけ残ってるのかな」
「どうした?」
「ここに来てそろそろ2か月だよ、皆んなは今頃は魔王を倒しに行ってるのかなって」
クラスメイトか、今まで俺は気にしたことがなかったな。
いかに超人的な力を持とうと敵を殺せるようになろうとやっぱり楓は優しい。
だから周りの心配をし過ぎてしまう、ここに来たのだってきっと1人で消えようとするクラスメイトのためなのだろう。
ならこの状況は俺のせいでもある、『自己責任』俺が自己中心的でいることを俺自信が認めるための絶対条件だ。なら
「さあな、だが楓のグループのリーダーがクラスメイトを引っ張るだろ、危険回避に関しては樹がしくるとは思えない。大丈夫だろ」
少しでも安心させ少しでも早く帰すのが俺のやるべきことだろう。
「そう……だね、ごめんねなんかいきなりしんみりした話振っちゃって」
「そんなのことねぇよ、早く出たいとは思うだろ」
「うん、よし攻略進めよっか。ほらあそこに宝箱もあるよ」
良かった、どうやら完全にではないがいつもの調子には戻ったみたいだ。
宝箱の中身は……
救命のリング
HPが尽きる時にこのリングと魔力を 消費しHPを可能な限り回復する
おお‼︎めちゃくちゃ当たりじゃねぇか。
「これは楓が付けといてくれ」
「え?これは前衛をやってる涼太が付けるべきだよ、私は大丈夫だから」
「いや、俺の魔力量じゃどの程度回復するかも分からない、さらに俺1人回復しても回復も援護もないんじゃ意味がない、ヒーラーをやってる楓が持つべきだ」
「いや、でもやっぱり」
優しすぎて妙な所で意固地なのはどうにかならないかね?
「俺達が生き残る為には楓が生きてることが大前提なんだ、頼むよ」
「分かった、そう言うことなら」
結局は渋々と言った形で楓は受け取った。
あと2つ目が出たら俺が持つことを条件に。
〜75階層〜
そして75階層、71階層からの灼熱地帯とは打って変わって洞窟風の空間。
「またか」
それは前回から25階ぶりのボス部屋(?)だった。




