幕間 勇者の行動
「勇者の皆に聞いてほしい事がある」
涼太達が王国から逃げ去った日の昼食時、王が転移者全員に話しかける。
「今日の朝に勇者の中から二名がなんらかの理由で逃亡した」
クラス内がざわつく、一人の名前はすぐに上がった
「楓ちゃんじゃない?今日の午前訓練にいなかったような。」
その意見に対しうなずく人間も多く、すぐに一人目はわかった。二人目、涼太はクラス番号で点呼を取るまで気づかれなかったのは置いておこう。
「理由は分からないが逃亡されてしまったのは大変残念だ、君たちの能力は私達も軽視ができない。その点を置いておいても彼女らはこの世界について知らなすぎる。だが二人については捜索隊を出してはいる、もし午前中に見かけていたら教えてくれると嬉しい。」
王の言葉と態度に皆は不安の表情を浮かべながらもなんとか納得しようとしていた。
「ちょっと待ってください‼︎」
そこで一人納得せずに声を上げる人間がいた、八神 光輝である。
「どういうことですか、僕はもう一人はともかく楓の事はよく知ってるつもりです、彼女が逃亡なんてするはずがありません。なにか事情があったとしか」
声を荒げる光輝を見てクラスメイトの納得の色が薄くなっていく。
そんな光輝の対応を予想していたかのように王の話は続く。
「すまぬ、先ほども言ったが理由は分からんのだ。申し訳ないとは思う、捜索隊に全力で捜索を命じておるから少し待ってはもらえぬか。」
「わ…かり……ました。」
その昼渋々といった表情で王の提案に光輝は納得の意を示した。
だがその日の訓練中。
「あの、光輝くん。ちょっといいかな」
一人の男子生徒が光輝に話しかけた
「なにかな、できれば今日は訓練に打ち込ませてほしいんだけど。」
これに普段より少し差し刺ししい様子で応じる光輝、男子生徒は恐る恐るといった表情で
「あのさ、今日の朝に僕の部屋に衛兵の人達が来たんだ。ただそれだけ、もしかしたら白波さん達のことと関係あるかもしれなかったから言いにきたんだ、じゃあね」
男子生徒はそれだけを言いすぐ去っていった、その後もそんな人が幾人か現れ、光輝はある方向の部屋の生徒だけであることに気がついた。
(何故一部の方向の生徒だけ、もしかして今日の朝に何かあったのか?)
それからの光輝の調査は早かった、衛兵が来たであろう生徒に質問をしていき、それはすぐ樹にも及んだ。
「今日の朝に衛兵が来ただろう、その事について聞きたくてさ。」
「朝ですか、たしかに来ましたけど特にすぐ帰りましたからあまり言える事はありませんよ。」
樹は面倒になるのを避けたかったのだろうか嘘をついた。
しかしその回答を樹から聞いた時、光輝の目は鋭くなった。
「すぐ帰った?それはおかしい他の生徒は皆衛兵は部屋まで入ってきたり数分間ほど何かを聞かれたそうだが?」
普段は涼太以外と話すことのない樹はクラスメイトの部屋に行った衛兵について情報が乏しかったようだ、結果
「……わかりました、夕食が終わったら部屋に来てください。話したい事があります。」
隠しているのも面倒だと感じ、すぐにゲロることにしたのだった。
「そういえば樹君、敬語とか使わなくていいよ。同級生だろ?」
その日の夜になると約束通りに光輝は樹の部屋へ行った。
「それじゃあ今日の朝に何があったか教えてくれるかな?」
光輝が樹に向かってする質問に樹は淡々と事実を伝えていった。
「王国側が二人の性格スキルを危険視して捕縛しようとした⁉︎それで二人は逃げ去る時に君に協力を依頼したということか。」
「だいたいそんな感じだな、多分だが調査を出してるっていうのも捕縛の一環じゃないか?」
樹はここで自らの考察を入れる、この話を聞いて光輝は深刻な顔で色々と思案しているようだ。
「なあ樹君、この国での僕達の価値ってどの程度だと思う」
おもむろに樹へと語りかける、その顔はなにかを決意したような表情だった。
「価値?まあこの世界の将来がかかってるからな、二人脱走したってだけでも他国にバレたらかなり責められるんじゃないか?」
「そうか、もしもだが僕達が戦うことにボイコットを起こしたらどうする」
「さあ、どうなるんだろな。魔術的なもので縛るか何人か人質にするか、あとは滅茶苦茶下手に出るかじゃないか?」
その話を聞いて何かを決意した表情に加え瞳には覚悟の色が宿る。
「そうだよな、分かった。今日はありがとうな。」
「お、おう。気にするな。」
樹は何をするか気にしていたようだが「自分に迷惑がかからないならいいか」とつぶやくと眠りに着いた。
一方その頃樹の部屋を退出した光輝はある人の元へ向かっていた。
「……僕が甘かった、この国は世界を守る為に僕達を呼んだんだ、僕達自信の安全なんて二の次だったはず。すまない二人とも、いつか迎えにいく。」
そう独り言を漏らしながら向かった部屋は
「失礼します、アゲットさん少し用事があるのですが」
王国の兵士のまとめ役、王国騎士団団長オーム・アゲットの待機部屋だった。
「おう、どうした光輝なんの用だ?」
「ここからいなくなったクラスメイトの事で話したい事があります、王への謁見を取り次いでいただけないでしょうか」
アゲットはその答えに対して困った表情で答える。
「その話は今日の昼に言った通り俺達も全力で二人を探している、もう少し待つということになっただろう。」
光輝に対して誠実な反応を見せるアゲットに対し光輝はそれでもと食い下がる。
「お願いします一度だけでいいんです、どうか」
アゲットはさらに困った表情を作り上げる。
頭を下げる光輝をしばらくみたのちに折れたように
「……分かった、一度だけ掛け合ってみる。」
「ありがとうございます、あとその際は王に一部の男子生徒達がお世話になりましたとお伝え下さい。」
アゲットは何のことが分かって無いような表情で答える
「?ああ、わかったそう伝えておく」
その翌朝、光輝は一人謁見の間へと呼び出されていた。
謁見の間にはアゲット、王様、アストルに衛兵が複数いた。
「クラスメイトの事について聞きたいことがあるらしいな、出来る限りそちらの要望には答えられるようにしよう。」
「そうですか、では単刀直入に言わせてもらいます。これから俺達にもう二度と危害を加えないでください。」
光輝は睨むような視線を王に向けて言葉を発する。
「もう二度と?一体何のことだ?」
王はまるで知りもしない事を聞かれたかのように言葉を返す。
「知ってますよ、昨日の朝の件について知ってる人間が一人いました。どうやら二人の性格スキルを危険視して捕縛しようとしたみたいですね、逃げられたようですけど。」
「なっ⁉︎」
その言葉に最初に反応したのはアゲットさんだった、どうやらこの件に関しては完全に無関係のようだ。
「失礼、話を続けてください。」
だがまだ真実が分からない以上様子見を決め込むらしい。
「一体何のことを、と言っても言い逃れはできそうにないな」
王はもう完全にバレていることを悟ったのか真実であることを認めた。
「そうだ、あの二人を捕縛しようとしたのは事実だ、だが私の行為はこの国の為に仕方なくの事だ恐らくこのようなことが有れば何度でもするだろう。それを覆せるカードがお主にはあるのか?」
あくまでも国の為に行った行為であるのならそう答えるであろうことは光輝もわかっていた、何故ならクラスメイトを守る為なら恐らく自分も同じ事をするだろうから。
「もし、これ以上クラスメイトに危害を加えたり脱走した二人を捕縛しようとするならば俺は魔王討伐を降ります。倒しても帰れるわけでは無いようですし帰還の方法も探したいので。」
光輝が取った行動は、自分達を放置させるか魔王を放置させるかの二択を選択させる事だった。
「ほう、確かにお主がいなくなるのは辛い、だが他にも勇者はおる。お主を捕縛してしまえば、事実を知る者が名乗り出てこない以上問題なかろう?」
王が衛兵を連れているこの部屋で武器の所持は認められなかった素手の光輝なら衛兵だけでも十分に捕らえる事は可能だろう。
「実力的にはそうでしょうね、ただクラスをまとめて導く人間がいなくなりますよ、女子をまとめていた楓にクラスをまとめていた僕まで居なくなってクラスの指揮は保たれますかね」
事実クラスメイトの指揮を上げ、ここまで持たせているのは光輝のカリスマ性にある事は間違いない、王という立場にある以上それは十分にわかっていた。
「……」
「ただ僕達に危害を与えない事を約束し、権力から守ってくれるのならば僕は魔王討伐に全力を尽くしましょう、悪い提案では無いと思いますよ。」
光輝はここで自分の持ちうるカードを可能な限り切る。
この提案は元から王国に不利はないのだ、脱走した二人が生きてる保証もなく探索に人員を割く必要も無くなる。
「……分かった、君達へ危害を加える事は君達が攻撃してこない限り今後無くなるだろう、他の勢力からの影響も出来るだけ受けさせない。」
「ありがとうございます、では私はこれから魔王討伐を本格的に行う為の準備を行いますので失礼します。」
光輝はそう言うと謁見の間を後にした。
(王国からの探索はこれから行われなくなった、正直普通なら頭のおかしい行為のはずなんだがな、冬木君の事はあまり知らないが楓と一緒なら大丈夫だろう。魔王を討伐する道中できっと会えるだろうな……生きてるって信じてるぞ。)




