47話
「──なるほど、そうなったか」
ギルドの二階、執務室にて、頭が眩く光を反射しているギルドマスターのモットーが納得したように頷いた。
「やはり君に任せたのは正解だったようだな」
「……それはどういうことですか?」
モットーの言葉にミツキは不思議そうな顔になる。
「ああ、君はものすごく隠密性に優れているからな」
「うぐっ」
自分の影が薄いのだと言われているわけではないのはわかっているのだが、わかっていてもコンプレックスというものには反応してしまうもので、隠密性に優れるという言葉に反応してしまうミツキ。
「今回の盗賊団を秘密裏に処理するということを容易に達成できるのではないかと思っていたんだよ。うん、さすがの隠密性だよな! 現に今も見失いそうなはかなさみたいなものを感じるしな」
「うぐぐ……」
「? どうかしたのか?」
「……いえ、なんでもないです」
「そうか! まあなにはともあれよくやってくれた!」
「はい……」
褒められているとわかっているのだが、どうしてもうれしく思えないミツキ。
自然と、モットーへの八つ当たり気味の殺意が沸き上がってきそうになるが、それを抑えて次の話題に入ることにする。
次の話題とはもちろん──
「それで、リーフィアのことなのですが……」
ミツキは自分の座る席の後ろ、モットーの後ろに控えるエミリーと同じように、まるで主に仕えるという形で立っているリーフィアを見た。
実は座ったら? とミツキがこの部屋に入ってすぐに言ったのだが、丁重に断られてしまったのだ。
「ああ、そうだな。まあ、そっちの件については基本的に君の裁量だな。奴隷は一応、個人の財産の一つということになっているし……後で信頼できる奴隷商を紹介するから、そっちで決めてくれれば良い。あとは盗賊団が持っていたものなんかも君のものだ」
「あ、そうなんですか」
モットーのかなりあっさりした対応に驚くミツキ。
実はジョーが死んだあと、ジョーがいた部屋のさらに奥に宝物庫のような場所があって、そこからミツキはアイリスに持っていきなさいと言われたポーチタイプの四次元ポ○ットに入れて、この場所に持ってきていたのだ。
それらの扱いや、今回の場合はリーフィアしかいなかったが、奴隷についても、テンプレではあれかなりあっさりしているというのには、やはり驚いてしまう部分ではある。
さらに言えば、テンプレな展開の一つで忘れている点があることも理由だ。
「あの、持ち主が判明していたら、それを返すなんていう展開はないんですか?」
これも異世界もののラノベやネット小説での盗賊の宝物についての対応としては定番中の定番だ。むしろこういう展開からこそ、貴族とのつながりというフラグが立ったりするもので、アイリスという片手間にバグアイテムを創造してしまうような仲間がいるミツキとしてはこっちの方がありがたいと思って質問したのだが、
「あの、どうかしたのですか?」
ミツキはモットーが驚いたような顔をしていることに気がついて質問する。
「ん? ああ、いや、なに、お前の格好からおそらく、というかまず間違いなく《異世界人》なんだろうと思っていたのだが、思ったよりも欲がなくて驚いていただけだ」
「?」
ミツキは〝欲がない〟という言葉に対して首を傾げる。
これでもミツキはこれから冒険者として活躍して、そこからさらに時期を見て国に取り立ててもらって領主生活なんてことを考えていたりするほどの強欲さを持っている。
それがなぜ欲がないなどという反応になってしまうのか、ミツキからしてみれば不思議もいいところだ。
それに答えたのはミツキの隣で、エミリーの入れた紅茶を優雅に飲んでいたアイリスだ。
「この世界に来た《異世界人》っていうのは、たいてい強い力を持っているわけなのだけれど、たいていの男たちは自分に力に酔って好き勝手に動いているのよ」
「それってどういう……」
「そうね、今回の場合なら、奴隷の存在の処遇や、宝物の扱いについて、そんな風にいろいろと確認を取るような《異世界人》というのは、最近はなかなか存在しないわ」
「そうだな。貴族階級には《異世界人》の冒険者は礼儀がしっかりしているなんてよく聞くが、俺たち冒険者に対するあいつらの対応は、まあ、どんなに良い方向にとらえても舐めている感じだからなぁ」
ミツキはアイリスとモットーのその言葉になるほどとうなずいた。
ミツキはひょんなことから強くなったので、厳密には違うものの、他の、ソウタたちのような《異世界人》たちは皆チートを持っていて、尚且つオタク知識があるものならば冒険者は煩雑で、雑多で、野蛮なものも多いなんて言うのは常識だ。
ミツキとしてもその印象はこの冒険者ギルドに来て数日ではあるが感じているし、どうしてか自分に絡んでくるようなことはなかったが、新入りいびりなんていう展開も何度か見た経験がある。
もちろん、ミツキに新入りいびりが起きない理由は影が薄いからである。召喚される前の部活勧誘と同じ現象なので、ミツキは不思議がっているが、周りからしてみれば不思議なことは残念なことに全くないのだが……
ミツキ本人も薄々感じているが、まあ自分はモットーを倒したんだし? そういう意味でも絡みずらいんだろう? と勝手に解釈(こじつけとも言う)して、首をぶんぶん。
「どうしたの?」
「あ、いや、何でもない」
「そう? ならとりあえず戻りましょうか。状況説明も終わったし、今回の場合は報酬の方はそっちで精査が必要でしょうからね」
「あ、そうなんだ」
「そうだな、アイリスの作った眠り薬と言うのがあるし、ミツキが眠ったやつはそれぞれ武器を奪って縛っておいたと言っていたから心配してはいないが、それでも盗賊団のアジトの様子を確認しておきたいからな」
「なるほど……と言うことは案内とかは必要だったりしますか?」
ミツキは〝堕落の音頭〟のアジトがあった場所を思い出しながらそう言う。
あそこはモンスターの中でもかなり優秀なイザヨイ含めた四体のモンスター斥候たちでも約一週間の時間を要した場所なのだ。それなりに入り組んだ場所にあるということを知っているミツキとしてはこの提案は普通だった。
「ハハッ! ここで協力しようとしてくれるとは、お前は本当に根がいいヤツなようだ!」
モットーは気分がよさそうに笑う。気がつけばミツキの呼称が〝君〟から〝お前〟に変わっていた。
「まあ、心配するな。うちには最高の斥候役がいるからな。依頼を完了した冒険者は次の依頼を完ぺきにこなすために今は休め」
「……分かりました」
なんだか一気に好感度が上がったことに対してミツキは疑問に思いながらも、アイリスと、結局ずっと立ったままだったリーフィアと一緒の執務室を後にするのだった。




