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48話

 モットーとの話を終えたミツキたちはいったん冒険者ギルドを出て宿屋に戻って来ていた。


「う~ん」


 ミツキが部屋に戻ってからしばらく、アイリスに暇つぶしとして与えられた魔法に関する本を読みながらうなり声を上げる。


「あら、何か気になることでもあった?」

「どうかしましたかご主人様?」


 これに対して反応したのは、ミツキがこの世界に来て何かと頼りにしているアイリスと、ひょんなことからミツキの奴隷となることに決まったリーフィアだ。


 アイリスは面白がるような反応をし、リーフィアはやや心配そうな反応をするという違いはあれど、その紅い瞳と蒼い瞳を持つ二人の容姿も相まって、ミツキはなんとなく妖精の国に迷い込んでしまったのではないかと感じてしまう。実際、アイリスは正真正銘の妖精族だし、リーフィアも地球では妖精などと同等の扱いを受けることもあるエルフなので、間違いではない。


 そんな二人の〝妖精〟からの質問にミツキは「いや」と一言入れて、


「単純に、冒険者ギルドが誇る斥候役がどんな人物なのか気になっただけだよ」


 それに対して「ああ」と反応したのはいたずら大好きな妖精の印象を受ける少女で、現在はミツキのブレーンを担っているアイリスだ。


「それについては正直、私もわからないわね」

「そうなの!?」


 相変わらずミツキのアイリスの豊富な知識への信頼度が異常値なようで、わからないという言葉に驚愕の表情になる。


「…………」


 相変わらずの高評価に無言になってしまうアイリスだったが、すぐに「やれやれ」と肩をすくめながらも言う。


「私もただの冒険者よ? 冒険者側の運営側のことなんてわかるわけないでしょう?」

「うーん、まあ……そう、だね……」

「なんでそんなに悔しそうに言うのよ……」


 ミツキの信頼の重さに困ったように言うアイリス。


「あの、なぜご主人様はその冒険者ギルドの斥候について気になっているのですか?」


 ここでリーフィアが質問してくる。


「んー、なんというか、斥候役だから、俺とおんなじタイプだろうと思ってね。いったいどんな感じなのか少し興味が湧いた感じかな。もし可能なら今後の参考にしたいかなぁと思ってたりするし」

「…………」

「ん? どうかしたの?」


 リーフィアが黙ってしまったことに対して質問したミツキだったが、


「ご主人様はなぜそんなに強くなろうとしているのですか?」

「え?」


 質問を質問で返されてしまい戸惑ってしまう。


「ハッ!? す、すみません、何でもありません!」

「え? でも……」

「本当に何でもないのです!」

「そう……分かったよ」


 あの発言の意味というものについて、リーフィアの記憶の一部を引き継いでいたミツキは非常に気になったが、それでも何でもないと言われればうなずくしかない。


 あるいは奴隷の主として命令すればいいのかもしれないが、そもそも無理やり話を聞くというのはミツキとしても本意ではないのだ。

 人には話したくないことだって多数あるのだし、そこら辺の分別はわきまえた人間になりたいと思っているミツキとしては強制的にと言うのは嫌いなのである。


「それで? 今後はどうするつもりなの?」


 少し微妙な空気感になってきたところで、アイリスが質問を入れてきた。


「今後かぁ……」


 ミツキもそのことについては考えていたので、すんなりと話題に乗ろうとするが、残念なことに現状で何かが決まっているということはなく、またしても考え込む状況に入っていく。


「まあ考えていることの一つとしては、もっと近接格闘を学びたいってことかなぁ」

「へえ、どうして? あなた、試験の時は使わなかったけれど、銃も持っているのでしょう?」

「ああ、そうなんだけどね」


 ミツキはすでに『朧月』や『朧霞』を任意に取り出せるということも、その性能についてもアイリスに伝えているための質問だったが、ミツキは首を振って自分の考えを告げる。


「確かに銃はあるけれど、それをいつでも使える状況になるとは限らないって、分かったから」


 そう言いながらリーフィアを見たミツキは、首を傾げている奴隷に対してやや暗い笑みを浮かべて、


「いや~、リーフィアの剣捌きには本気で死ぬかと思ったよ」


 そう言った。


「あ、あれは! す、すみません!」


 ミツキの言葉を聞いて、初めて出会ったときいきなり戦闘になったことを思い出したのだろう。リーフィアが慌てて頭を下げるが、すぐに「ははは」とミツキは笑って言う。


「別に怒ってなんてないよ? 自分の実力不足を痛感させられただけだから」

「すみません! すみません!」

「? 別に怒ってないのに」

「いや、あなたのその言葉は十分怒っているように聞こえるわよ?」


 アイリスがここに来て呆れる回数が非常に増えていた。


「それで、アイリス、このあたりに武術道場みたいな場所はあったりしない?」

「……ずいぶんとピンポイントで質問してきたわね」

「そうかな?」


 アイリスがニコッと笑うミツキをじーっと見つめるものの、それについて効果がないと思ったのか、またしてもやれやれと言いながら「あるわよ」と告げる。


「それで? あなたには既に見当がついているんじゃないの?」

「ん、まあね」


 ここに来て、今まではなかった、どこか飄々とした雰囲気を感じさせるミツキにアイリスはジト目を向けるが、そんなことを言うミツキは脳内での行動指針を決めたのか、今まで片手間に呼んでいた魔法の本を閉じて言った。


「……ギルドマスターの作っているだろう道場に寄ってみるとしますか」

「…………」


 アイリスがじーっと、それはもうじーーーっと見つめていたが、ミツキは気にすることなくうっすらと、この世界に来て初めてとも呼べる笑みを浮かべるのだった。

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