46話
「私はご主人様について行きたいです」
ミツキの質問に対する答えは簡潔で、〝二つ返事〟という言葉が出てくるくらいの即答だった。
「え、えっと……」
そして、ミツキとしてはこんなにもあっさりと答えられたことに対して動揺を隠すことなど到底できないし、何よりこれほどあっさりと答えられた理由がまるでわからない。
「……理由を聞いてもいいかな?」
そのため、ミツキは素直に質問することにした。
分からないことは素直に聞いてみるというのはミツキが教訓にしているものだ。
これに対してリーフィアはまたしても、
「ついて行きたいと思ったからです!」
と即答した。ただし答えになっていない。
「あの、なんでついてきたいと思ったのかな? って意味だったんだけど」
「あ、そう言うことですか……そうですね……」
リーフィアはミツキの質問に少し考えるようなそぶりを見せるも、すぐにその顔を上げてミツキに言った。
「あたなと心がつながったときに、心の奥が〝この人がいい〟って思ったからだと思います」
「…………」
ミツキはその言葉を聞いて沈黙した。今日は沈黙が多い日である。
「す、すみません、ご主人様! こんな説明にもなっていない感覚的なもので! すぐにもっとわかりやすい回答を考えま──」
「あ、いや、別に問題ないよ!」
ミツキの沈黙を不服と受け取ったリーフィアが全力で理由探しをしようとしてきたが、ミツキはすぐにそれをやめさせる。ミツキが沈黙したのは別のところに理由があったからで、別に不服の意を示したわけではなかったのだ。
(むしろこれ以上ないくらい逃げ場を失った感じなんだよね……)
ミツキは心の中で苦笑した。
自分の行動を決定するときには必ず様々な理由を脳内に浮かべるのが普通だが、それでも結局、自分の行動を決めて、実際にその行動を行うのは自分がやりたいと心の底で多かれ少なかれ思うからだ。
まあもちろん、世の中には〝やらねばならないこと〟が溢れているわけで、すべてが全てやりたいと思えるかどうかと言えば絶対ではないわけだが……
今回のように、きちんと意志が通る時には、その心の底での感覚が大きく関わるのは確定的事実であり、尚且つ最も重要な要素である。
ミツキが目立ちたいと思う感情もこれに起因しているし、その奥底で決めた感情があるからこそ、この異世界という、今まで過ごしてきた環境とは全く違う場所でもぶれることなくやれている。
そのように、とても大事な心の奥底で決めたことだというのなら、それが他者に危害を加えるようなことでなければ、出来る限り叶えて上げるのが、この奴隷の主人である自分の役目なのだろうとミツキは考えたわけである。
なので、
「わかったよ。──これからよろしく、リーフィア」
ミツキは奴隷に忌避感があるのは否めないし、そのほかにもリーフィアのクラスや、途中リーフィアと心がつながったタイミングで見えた景色など、気になることは多いけれど、それでもリーフィアの考えを尊重した。
ちなみに、もちろん、この心の奥底の感情を大事にするというのはラノベやネット小説の受け売りだ。
ただ、これについてもとても正しいことだとミツキは感じているので、これを尊重しているわけである。
「はい! 宜しくお願い致します。ご主人様!」
そして今回の場合はそれが適切だったようで、リーフィアは笑顔でミツキに答えるのだった。
「じゃあとりあえず、ギルドに依頼完了を伝えに行かないとダメだね」
「そうね。今回は私もついて行くことにするわ。奴隷についての扱いも私の方が詳しいことは多いだろうし」
「そうだね。お願いするよ」
「と、いうわけで改めてリーフィアちゃん、私はアイリスよ。これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いいたします奥様!」
「「…………」」
リーフィアの爆弾発言にこの日何度目かの沈黙が訪れた。
「あ、あれ? ご、ご主人様、奥様、何か問題でもありましたか?」
この沈黙に対して、リーフィアの困惑の表情を作ると、ミツキよりも早く脳を再起動したアイリスが質問する。
質問内容はもちろん──
「──な、なぜ奥様?」
アイリスの呼称がおかしい件についてだ。
「え? 違いましたか? 部屋も同じでしたしてっきりそういう関係なのだと思ったのですが……」
「「…………」」
正論だった。とてもとっても、正論だった。
さらに言えば二人は一緒の布団で添い寝するということまでしているのだ。この情報も合わせれば二人がそういう関係にあるというのはほぼほぼ確定的事実のようなものだろう。
「とりあえず、ギルドに行きましょうか……」
「そうだね……」
「は、はい!」
そのことに気がついた二人は、なんとなく気まずい思いをしながらギルドに今回の依頼についての報告に行くことにした。
この後、ギルドにリーフィアの誤解を解くことには成功したものの、それでもミツキとアイリスが互いに気まずい思いをしたままだったのは言うまでもないことだ。
そのせいで、リーフィアがポツリと、
「これなら私にもチャンスがあるかな……」
とつぶやいていたことにミツキもアイリスもともに気がついていなかったことも、言うまでもないことだ。




