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デスゲームで134連勝した俺のところに、「助けてください」とわんこそば女が来た~彼女とそばを食べるまで~  作者: 芦名 雅


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3/10

第3話 全員生還、4分



 前回の帰り際、花巻と連絡先を交換した。毎度いきなり訪ねてこられても困る。来る前に連絡しろと念を押しておいたら、さっそくメッセージが届いた。


花巻〈今度は全員、生きて帰られてしまいました〉


 俺は洗濯物を畳む手を止め、画面を見直した。前回の紙相撲では7人、その前のわんこそばでは全員が死んだ。今度は死者がいないらしい。だが、全員助かった報告にしては、ずいぶん困った言い方だった。


玖城〈何かまずかったのか〉


 そう返して、畳みかけのシャツを仕上げた。重ねて置こうとしたところで、次の通知が出た。


花巻〈宝を1つも探していただけなくて、怒られました〉


 畳んだシャツを、まだ畳んでいないほうへ戻した。


玖城〈何をやった〉


花巻〈宝探しです〉


 俺は画面から目を離した。宝探し。そばでも、紙相撲でもない。何かを探し、何かを見つければ勝つ。聞いた限りでは、少しは考えるところがありそうだ。


花巻〈今日、伺ってもいいでしょうか。今度は、先にご連絡しました〉


 確かに、そこは改善されていた。


玖城〈7時なら〉


花巻〈ありがとうございます! 会場図を持っていきます〉


 続いて、会場図の写真が送られてきた。部屋の配置や宝箱の位置に、赤いペンで書き込みがしてある。


◇


 午後7時、花巻は時間どおりに来た。肩から大きな鞄を下げ、脇には筒状のケースを抱えている。俺がそれを見たので、玄関へ入るより先に説明した。


「図面です。今日は装置はありません」


「それは助かる」


「この前、部長に説明した時も、装置の話より先に、何をするゲームなのか説明しなさいって言われまして」


「会社でも同じことやってんのか」


 居間へ通すと、食卓の端に立ててあった青い紙力士へ目が向いた。2日前、俺が足を折り直したものだ。腕の下へ支えを入れ、背中側も厚くしてある。


「玖城山、強くなってますね」


「今日はやらない」


「私も、新しいのを作ってきたんですが」


「宝探しの話をしろ」


 花巻は鞄へ伸ばした手を引っ込めた。筒から大きな紙を出し、食卓へ広げる。巻き癖で持ち上がった端を、青い力士で押さえた。


「これが会場です」


 中央に四角い広間。その周りに、小部屋が6つ。宝箱の絵が3つあって、入口とは別の場所に出口が描かれている。赤い矢印が、広間の壁にある案内板を指していた。


「ここにあるのか?」


「何がですか?」


「探すもの」


 花巻が口を開けた。


「まだ説明してませんよね?」


「矢印が向いてるだろ」


「それは私の作業用の印です! 会場にはありません!」


 彼女は急いで矢印の上に付箋を貼った。そんなに慌てなくても、俺は開催済みのゲームへ今から入り込まない。だが、先に答えを隠したかった気持ちは分かる。


「で、全員助かったんだろ。何が悪かった?」


「4分で終わったんです」


「早いな」


「制限時間は1時間でした」


 花巻は結果報告を図面の横へ置いた。6人参加、6人生還。前の2回と違い、失格の欄には何も書かれていない。


 その下に、宝箱開封数、0。


 俺はそこを指した。


「誰も宝を見つけてないじゃん」


「そうなんですよ。でも、でも、裏ルールは見つけてもらえました!」


 その声には、少し誇らしさがあった。


 俺は椅子へ座り直した。花巻も向かいへ座る。前回は、わんこそばの装置がまだ使えると言って胸を張っていた。今回は違うことを頑張ったらしい。


「順番に聞かせてくれ」


「まず、宝箱のどれかに、出口の鍵が入っています。鍵は1つです。見つけて、正面の出口から出た人が優勝。時間切れになっても首輪が外れていない人は、敗退です」


「鍵を取られたら、他の奴はどうする?」


「そこを考えていただこうと思って、別の解除方法も作りました。会場のどこかに、首輪を解除する6桁の番号を隠してあります」


 花巻は企画書の一行へ指を置いた。鍵以外の解除条件は会場内に提示されている、という文がある。存在そのものまで隠して、ただ当てろと言うゲームではない。


「その番号を入力すれば、鍵がなくても生きて帰れるのか」


「はい。首輪が外れた方は、係員用の通路から退出できます。正面の鍵を使わないので、大賞はありませんけど」


「全員、同じ番号?」


「覚え間違いがないように、そうしました」


「なるほど」


 誰か1人が見つければ、全員へ教えられる。それ自体は別にいい。大賞を狙う奴、先に安全を確保したい奴、番号を材料に鍵のありかを聞く奴。会場の作り次第で、いろいろ動く。


「最初に見つけた奴が、みんなに教えた?」


「はい。『これで外れるぞ』って。それで、全員が同じ番号を入力して、そのまま帰りました」


「鍵は?」


「使いませんでした」


「宝箱も?」


「開けませんでした」


 花巻は宝箱の絵へ指を滑らせた。3つのうち1つには、鍵と大賞の受取証。残り2つにも、次の箱の手がかりや、別の小さな賞品を入れてあったらしい。


「ここ、開けると音楽も鳴るんです。中の光が順番に点いて、鍵が上がってくるように作って」


 なんだ、その無駄に豪華な仕掛けは。こいつの企画は、どうして装置ばかり凝っているんだ。その半分でも、ルールを考えるほうに回せなかったのか。


「……で、その仕掛けは、誰にも見てもらえなかったわけか」


「はい……」


 肩が落ちた。装置の失敗ではないが、せっかく作ったものが使われなかったのは、かなり堪えたようだった。


「でも、番号を見つけた時は、みんな喜んでましたよね。それが、裏をつくってことではないんですか?」


「喜んだのはいい。何を探して、どう見つけたのかが聞きたい」


 花巻は付箋を1枚剥がした。先ほどの矢印が再び現れる。その先には、広間の壁に取りつけた案内板が描かれていた。


「番号と、それを入力すれば首輪が外れるっていう説明は、この案内板の裏です」


「裏ルールだから?」


「はい!」


 俺は、少しだけ黙った。


 何か意図があるかもしれない。よくある場所だから、見つけたつもりになった奴を別の場所へ誘導するとか。表の文を読むと裏へ回る必要があると分かるとか。


「表には何が書いてある?」


 花巻が写真を出した。


〈困った時は、うらを見よう!〉


「裏ルールって、板の裏って意味じゃねえよ!」


「えっ」


「しかも、ひっくり返せって教えてるじゃねえか」


「直接、番号のありかとは書いてません」


 花巻は写真を俺に向けたまま、真面目な顔で反論した。確かに番号とは書いていない。だが、首輪を外す手段を探している奴が、その文を見て裏を確かめない理由もない。


 案内板は、壁から外せるように留めてある。写真の下へ目をやると、指を入れる切り欠きまでついていた。


「これは?」


「外しやすいように」


「裏を見る時に?」


「指を挟むと危ないので」


 命をかけた宝探しで、案内板に指を挟まない配慮だけは、ちゃんとしていた。


 俺は写真を置き、会場図を見直した。案内板の前に、長方形の印がある。花巻へ聞く前に、別の写真を探した。


 あった。


 床に、黄色い足形が2つ。


「ここに立って読んでください、ってことか?」


「読みやすい距離です」


 写真を拡大した。案内板を囲む電球が、赤や黄色に光っている。


「何だ、この周りの電飾」


「順番に光るんです。暗くても気づけるように」


「隠してるんだよな?」


「番号は裏なので、表からは見えませんよ」


 もう探させるのをやめて、首輪を外す受付にしろ。


 俺が黙ると、花巻は企画書を手元へ引いた。端を指でなぞりながら、言葉を選んでいる。


「見つけてもらえなかったら、裏ルールを作った意味がないじゃないですか」


「だから、裏ルールっていうのは、こう……ルールの意表を突くような勝ち方のことだよ。裏に書けばいいって意味じゃねえんだ」


「だって、ちゃんと裏にルールを書いてあるじゃないですか!」


「その『裏』じゃねえって言ってんだよ!」


「でも、分かりにくくしすぎると、何をすればいいのか分からなくなりませんか?」


 そこは、間違っていない。難しくすれば面白くなるなら、規則を読むだけで何時間もかかるゲームを作ればいい。そんなものに命を預ける気はない。


 ただ、花巻は難しくする前に、解くところまで取り除いている。


「その宝探し、何で思いついた?」


「小学生の時、クラスで流行ってたんです。お昼休みに、宝物とヒントを書いた紙を隠して」


 彼女の指が、案内板から小部屋へ移った。会社の会場ではなく、当時の教室を思い出しているらしい。


「4年生の時です。隠す係を順番でやって、机の下とか、掃除道具入れの近くとか。ヒントを見て、次のヒントを探して。最後に宝物を見つけた人が、次の係になるんです」


「お前も隠してたのか」


「はい。でも、私の時は、なかなか見つけてもらえなくて」


 花巻は、紙の端へ小さな四角を描いた。


「棚の後ろに入れたんです。隙間があって、絶対に見つからないと思ったので」


「見つけてほしいのか、ほしくないのか、どっちなんだよ」


「隠してる時は、見つからないほうがいいと思うんです。でも、みんなが別のほうへ行っちゃうと、ちょっと……」


 彼女は四角のそばへ、細い線を引いた。


「途中で、こっちにも何かあるかもしれないよって言いました」


「教えたのか」


「ヒントです」


「それで?」


「そこを探してくれたので、もう少し右って」


 俺は、現在の会場図を指で押さえた。


「それが黄色い足形になったわけだ」


 花巻が案内板の写真を見た。赤や黄色の電飾に、指の入る切り欠き。見つける係へ、あれもこれも教えたくなったらしい。


「見つかった時は、嬉しかったんです」


「それは分かる」


「だから今回は、最初からちゃんと見つけられるように」


「最初から、見つけたあとのところに立たせてるだろ」


 花巻はペンを持ったが、何を書くか決まらないようだった。写真の上をペン先が行き来する。俺は、鍵の入った宝箱の絵へ指を戻した。


「番号を見つけるのが簡単でも、そこから考えることがあればいい。お前のは、番号を教える奴に、何の迷いもない」


「全員、帰れますから」


「自分はもう帰れる。それを黙っておいたら、何か得するのか?」


「特には」


「教えたら損する?」


「しません」


「じゃあ教えるだろ。鍵を探してる間に、首輪の時間が減るんだぞ」


 花巻は椅子の背へ寄りかけ、そこで体を起こした。


「でも、玖城さんなら、大賞を探しませんか?」


「番号を先に見つけたら、首輪を外してから探す」


「それは、できません。外したら退出していただくので」


「なら、他の奴に番号を教えて、鍵のヒントを譲ってもらうのもいい」


「皆さん、番号を聞いたら帰ったんです」


「だから、探す前に帰れるようにしたんだろ、お前が」


 俺は結果報告を引き寄せた。4分。首輪をつけ、規則を聞き、最初の案内板を読んだあとの時間だけで、全員がいなくなった。


 誰も宝箱を開けず、誰も鍵を奪い合わず、誰も嘘をつく必要がなかった。


「全員助かるのは構わない。でも俺が出るなら、助かる前に考えたい。今のは、誰かが裏を見て、番号を読み上げただけだ」


 花巻は赤いペンで、黄色い足形の写真へ丸をつけた。消すのかと思ったら、その隣へ〈要検討〉と書いた。


「じゃあ、明かりを消せば」


「暗くする話だけで済ませるなよ」


 俺は図面を裏返した。白いほうへ6つの番号を書く。花巻が書類を寄せ、机の真ん中に場所を空けた。


「同じ解除番号を使うなら、最初から全員に、1桁ずつ持たせるのはどうだ。6人分そろえれば、帰れる」


「教え合えば、全員そろいますね」


「そう。でも、誰より早く入力した奴には、追加の賞金が出る」


 花巻は6つの番号を見た。1本、指でなぞってから、俺へ目を戻す。


「自分の1桁を教えず、他の人の分だけ聞くんですか?」


「そいつは先に帰れる。残った奴は、最後の1桁が分からない」


「でも、1桁なら10通りです」


「一度しか入力できない。間違えたら、その首輪は解除できなくなる」


 彼女の指が、紙の上で止まった。


「一番早く入力した方は、正しい番号を知ってますよね。帰る前に教えてもいいですか?」


「いい。知ってて帰るか、最後に教えるかも、そいつが選ぶ」


「では、最初から全員に同時に教える約束でも」


「いい。ただ、約束どおりに教えるかは分からない。先に教える奴も、聞くまで黙ってる奴もいる。違う数字を言う奴だっているだろ」


 花巻は紙を手元へ向けた。いつものようにセンサーを増やそうとはせず、6つの番号の間へ小さな矢印を引いている。


「嘘の数字で、相手を先に入力させるんですか」


「自分より早く帰りそうなら、やる奴はいる」


「それ、間違いを入力した人は、ずっと残るんですね」


「そう。ほかの奴が正しい番号を教えてくれても、もう入力できない」


 赤いペンが、1つの番号の横で止まった。花巻は顔を上げ、俺を見た。


「それなら、数字が正しいか確かめる方法を、1つだけ残せませんか。誰の話も信じられないと、最後は勘になります」


 俺もペンを止めた。


 確かに。疑えるだけでは、選べることにならない。相手がどこまで知っているかを確かめ、嘘なら別の相手へ話を持っていく余地があったほうがいい。


「1人、1回だけ。1桁と数字を指定したら、それが正しいか分かる権利はどうだ」


「はい。それなら、全部を教えなくても判定できます」


「俺が確かめた結果を、お前が信じるかは別だけどな」


 花巻は、書きかけた矢印へ線を足した。1回で何を確かめるか。その結果を誰に言うか。そういうところが、まだ紙の上に残っている。


「答えの値段、ですかね」


「題名?」


「最初は1桁しか知らないのに、誰に教えるかで価値が変わるので」


 俺は6つの番号の上へ、その言葉を書いた。彼女がつけた題名に、今日は首輪の存在を隠すような陽気さがない。かといって、ただ物騒なだけでもない。


「それでいこう」


 花巻の口元が緩んだ。すぐに、新しい紙を取って処理の順番を書き始める。俺は図面の裏へ賞金と締切の条件を足した。途中で1つの数字を変え、彼女に戻された。全員へ一度に情報を知らせる機能も必要だと言うので、そこは頼んだ。


 机の端に、開かれなかった宝箱の写真が残っている。


「この箱は、別の企画でも使えるだろ」


 俺が言うと、花巻は写真を引き寄せた。


「使います。音楽も、ちゃんと作ったので」


「次は、誰かに聞いてもらえるといいな」


「はい。……玖城さんにも」


「中身を知らないやつならな」


 彼女は頷いて、会場図を巻いた。明るい案内板も、足形も、赤い矢印も筒の中へ戻っていく。全部をなくす必要はない。何を教えて、何を考えさせるかを、本人が次に選べばいい。


 玄関へ向かう前、花巻は鞄から小さな封筒を出した。


「花巻山も、置いていっていいですか?」


「宝探しの資料と一緒にしまっとけ」


「次、持ってきます」


 それだけは、妙に自信のある返事だった。


 彼女が帰ると、食卓には新しい規則案が残った。俺は洗濯物を片づけるつもりで立ち上がりかけ、もう一度その紙へ目を落とす。


 自分は1桁を持っている。確認できるのは1回。誰も自分へ本当のことを言っていないかもしれない。だったら、最初に確かめるのは、誰の数字だ。


 指先で1つの番号を隠した。


 その数字を渡す代わりに、何を約束させる。


 花巻へ教えるためではなく、俺が帰るために考えた。


 気づくと、帰っていったばかりの彼女へ、確かめたい条件を送りそうになっていた。スマートフォンを持ち上げ、やめる。


 自分で作ったゲームだ。聞いたところで、答えは自分で決められてしまう。


 俺は画面を伏せ、彼女が持ってくる次の企画を考えた。


 番号のありかは、書いてこなくていい。


────────── ここから付録 ──────────


企画メモ 答えの値段


 花巻の宝探しを元に、玖城と花巻が考えた情報取引ゲーム。番号を解く難しさだけではなく、知った数字を誰へ渡すかを勝負にする。


開始時の情報


 参加者は6人。解除用の暗証番号は6桁で、0から9までの数字を使う。先頭が0でも6桁として扱う。開始前に番号を固定し、ゲーム中は変更しない。


 各人には、互いに異なる1つの桁位置と、その桁の正しい数字を専用端末で知らせる。6人の情報を合わせれば、必ず6桁すべてが分かる。誰がどの桁を知るかは全員へ公開するが、数字そのものは本人にしか知らせない。


交渉と確認


 制限時間は30分。数字や確認結果を口頭、メモ、端末の共有機能で教え合える。複数人へ同時に知らせてもよい。嘘をつく、黙っておく、約束を破ることも認める。運営は情報の共有や約束の履行を強制しない。


 1人に1回だけ、確認権を与える。任意の1つの桁位置と候補の数字を指定すると、その組合せが正しいかどうかを本人にのみ回答する。正しい数字自体を教える権利ではない。権利は譲渡できず、使用後は復活しない。


 自分が知る数字や確認画面を相手へ見せ、情報の証拠にしてもよい。ただし、画面の提示や端末操作を暴力で強制してはならない。共有機能で送った数字が運営に認証された正答だとは限らない。


解除申請


 各人は制限時間内の好きな時点で、完成した6桁を申請できる。解除申請は1人1回だけ。申請前の入力画面は修正できるが、確定後の取消しはできない。


 正解なら首輪が解除され、生還が確定する。不正解なら、その首輪の解除申請は以後受け付けない。不正解者と、期限までに正解を申請しなかった者は、30分の終了時に首輪が作動する。別の参加者が後から正解を知らせても、使用済みの申請権は戻らない。


 解除した人の氏名と解除時刻は公開するが、申請した数字は公開しない。解除した人は直ちに退出しても、終了まで残って交渉してもよい。自分が申請した正解を残った人へ教えることも合法。


賞金と全員生還


 生還者は1人100万円を得る。さらに、最初に正解した人へ追加賞金300万円を支払う。機器の判定単位で同時に最初の正解となった人が複数いる場合、追加賞金をその人数で等分する。同時とみなす判定単位は開始前に提示し、後から変えない。


 全員が最初から本当の数字を公開し、全員が正解を申請することも認める。死者を出すための再判定は行わない。ただし、誰より早く正解したい人が、自分の数字を伏せたまま他人の数字を集めたり、共有の時刻を破ったりする余地は残る。


遊びの焦点


 最後の1桁を知る人には、その数字を渡す前の交渉力がある。正解者が出れば、残った人はその人から完成した答えを聞くこともでき、元の情報提供者の独占は崩れ得る。情報の値段は、固定の金額ではなく、その時点で誰が何を知っているかによって変わる。


 確認権をどの桁に使うか、画面を見せて信用を得るか、正解を知ったあと誰へ教えるかを参加者が選ぶ。全員の協力で生還する結末も、誰かが嘘を信じて申請を使い切る結末も、同じ公開規則から起こり得る。


 端末への干渉、認証画面の偽造、暴力による操作の強要は禁止。通常の発言として偽の数字を告げることと、運営の正答表示を偽造することは区別する。


企画書の余白


〈知っていることは、まだ渡していない間に値段がつく〉


 その下に、花巻の赤い字で追記がある。


〈確認する方法まで隠さない〉


企画書 宝探しゲーム


 企画担当:花巻こはる


 発想の元:小学4年生の頃、クラスで流行していた宝探し。隠す係と探す係を交代し、ヒントの紙をたどって宝物を見つけていた。


 基本ルール:6人、制限時間1時間。3つの宝箱のうち1つに、正面出口の鍵と大賞の受取証がある。正面出口の使用は1人で、通過すると施錠される。鍵以外の首輪解除条件も会場内に提示する。期限時に首輪が外れていない者は敗退。


 裏ルール:案内板の裏に書かれた6桁の共通番号を入力すれば、首輪が解除される。解除者は大賞を得られないが、係員用の通路から退出できる。首輪を解除した人は宝探しを続けられない。6人とも解除すれば、その時点で終了。


 会場案内の抜粋:案内板の表に「困った時は、うらを見よう!」。板の下には指を入れやすい切り欠き。足元に読む位置を示す黄色い足形。案内板の周囲には、赤や黄色の電球が順番に光る電飾。


 実施結果:全員生還。所要時間4分。宝箱開封数0。正面出口の鍵は未使用。大賞の受取人なし。


 担当者の所見:「裏ルールを見つけていただけました。案内板も外しやすくしてあります」


 上司の意見:「助かったことは構いません。宝探しより先に、全員が帰っています」


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