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【第一章完結】とぼけたS級冒険者と悪役令嬢   作者: 佐倉真稀
第一章 逃亡

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第9話 考察

「不可侵の森?」

「そうだ。魔物が多く住んでいて、入ったら戻ってこれないという森なんだ」

「……私たち、入っているわね」

「まあな。不可抗力だから仕方ない。この森は一応カウーンレイ辺境伯領なんだが、たまにこの森から魔物の大群が押し寄せることがあって、ある程度は間引く必要があるんだ。この森に入れるのは、その依頼を受けたA級以上の冒険者、あるいは領軍だな。今回のキマイラ討伐もその一環さ」

 今は馬を休ませるため、休憩を取っている。念のため、結界を張っているので、それほど警戒はしないでいいらしい。

「私、大丈夫なのかしら」

「緊急避難だから、罪には問われないぞ。それに入ったら命を失うから禁止なんだ。出てこれるなら、問題は……あるにはあるが、ない」

「そのあるにはっていうところが怖いわね」


 パドはだらしなく地面に座っているようで、常に辺りを警戒している。

 王家騎士団の上澄みに、こんな気配の人が何人かいたと思う。

 彼の目は髪に隠れて見えないが、視線は私の顎のあたりに感じる。

 たまにいる不躾な男性の視線ではない。

 あの第三王子さえ、成長すると胸や腰に視線を感じた。

 ダンスの時の手の回し方も気持ち悪かったわ。

 添えるようにするのに、撫でまわしたりするのだもの。

 ほんと、聖女は彼のどこがよかったのかしら?

 顔かしら? 熨斗つけて差し上げますけど。

 浮気性の男や浮名を流す男はみんなどこか、危険を感じる視線をしているわ。

 貴族ですらそう。

 そんな視線を一切、この人からは感じない。

 探るような視線はあったけれど、不快な視線は一度もない。

 だから護衛を頼んだのだけれど、正解だったようだわ。


「入った理由は問われるだろうってことだ。その理由はちゃんと用意しておいた方がいい」

「パドは聞かないの?」

「暗殺者が絡むような面倒事は深く聞かない方が安全なんでな」

「賢明ね」

 頭もよさそうだし、なんというか、この人所作が綺麗だわ。

 S級冒険者はマナーも習うのかしら。貴族絡みの案件もありそうだから、多少は知っているのかもしれないわね。

「そうかねえ」

「そうよ。理由は考えておくわ」

「ああ。さて、行くか。馬の方はそこそこ満足したようだしな」

 馬は勝手に、生えている草を食べている。

 魔力が豊富なのか、美味しそうに食んでいた。


 この世界は魔力が多いものが美味しいようで、魔物の肉を食べるのは当たり前だった。

 かといって、王都などは危険がないように魔物の出るような場所は潰しているから魔力が豊富な肉は他の領地から仕入れている。

 だから、王都の物価は高いのだ。

 野菜なども自然が豊富な土地の者が美味しく、王都のような自然が少ない場所で育った物は味が薄いのだ。

 うちの公爵領で採れた野菜や肉は美味しかった。

 まだ、魔導収納に入っているはず。

 落ちついたら、調理して食べよう。


「草が食べたいのか?」

「え? はい?」

 急に声をかけられてびくっと肩が跳ねた。

「いや、馬が食べている草をじっと眺めていたから」

「お、美味しいのかなって思っただけよ」

「……ふむ。そういや、出会ってからここまで、ろくに食べてないからな」

 憐れみを持った視線でお腹を見られている気がする!

「ち、違うわよ!!」

「ははっ……出発するぞ。もう少し、距離を稼ぎたい」

 笑ったわ。

「わかったわ」

 パドは馬の手綱を取って馬の顎をそっと撫でた。

「もう少し頑張ってくれ」

 ヒヒンと馬がパドに顔を擦りつける。

 あれは甘える仕草だ。

「あなたももう少し頑張ってね」

 私も馬に声をかけて、背に乗ると鬣をそっと撫でた。


 何度か休憩を入れて、今夜の野営地を決めた。

 馬を繋ぎ、テントを張り、竈の用意が終わった。

「ちょっと待っていろ。俺が戻ったら、結界の魔道具を解除してくれ」

「え?」

「馬に水をやっててくれると助かる」

 そう言ってパドは森の中に分け入っていった。

「どうしたのかしら?」

 言われるままに結界の魔道具のスイッチを入れる。

「この魔道具凄い魔道具だわ。ダンジョン産かしら」

 中を調べたくなってうずうずした。

 こういう時はアイディアを書き留めるのよ。

 そう!

 魔導収納からメモ紙とペンを出して書き留めていった。


「おーい」

 声が聞こえてはっとして、メモ紙から顔をあげる。

 結界を叩いているのはパドだった。

 慌てて結界を解除し、パドが結界の範囲内に入ったら再びスイッチを入れる。

「すまんが、これを解体してくれ」

 目の前に出されたのはホーンラビットだった。

 通常の個体より大きい気がしたけれど。

「わ、わかったわ」

 解体の魔法で、肉とその他に分けて、水で洗い、浄化もかけた。

 内臓は穴を掘って血と一緒に埋める。

 パドは竈の台になっている石に浄化をかけると、肉を並べ塩をふった。

 焚き火に火をつけてしばらく待つ。

 その間に木の皿などを出して、食事の用意をする。

 私は解体の魔法を使った後は、ただ見ていた。


お読みいただきありがとうございます。


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