第10話 器量
え?
この人もしかしてスパダリなの?
S級冒険者で、気遣いできて、女性に優しい。
顔はいいのかわからないけど、第三王子とは月とスッポンだわ!
いえ、比べるのも烏滸がましいわね。
「ほら、腹減ってるんだろう? 食え」
差し出された肉の焼けた匂いにお腹が鳴った。
皿を受け取ってその皿にフォークと、あっためたパンが添えてあったのにも驚いた。
「豊穣の女神に感謝を」
食事の前の祈りを捧げて、肉を口に入れた。
じゅわっと広がる肉汁。
肉はやや硬めだけれど、捌いたばかりだから仕方がない。
魔力が濃いのだろうが、滋味があるというのだろうか。
肉の味がはっきりしていて濃い。
ふられているのは塩だけじゃなく、ハーブもだった。
ハーブの香りが鼻に抜け、適度な塩味と、肉のうまみがたまらない。
パンは硬かったけれど、あぶったせいか肉の脂を容易く吸い込んで柔らかくなった。
その脂を吸い込んだパンも物凄く美味しく感じた。
「美味しい。パドは凄いわね。料理も出来るなんて」
「野営が多かったから、仕方なく覚えただけさ。もう少しの辛抱だ。腹が減ったら、また、肉は狩って来てやる」
パドも、フォークを使って肉を口に放り込んだ。
粗野に見えて、カトラリーの扱いに慣れている。
「ありがとう。このホーンラビットも依頼料に追加しておくわね」
「いや、このくらい依頼料の内だよ」
「あら、いいのかしら?」
「いいんだよ。食べたらさっさと休むといい」
無精ひげがまばらに生えた口元がかすかに上がる。
皿の片付けもパドはさっと済ませてしまった。
私は厚意に甘えてテントで休んだ。
襲撃はなかったようだ。
街道の方向に向かうということは、森の奥から浅いところに出るということ。
パドによると、弱い魔物の方が数が多いから、遭遇する率は上がると言われた。
「キマイラの匂いがついていても?」
「大分薄くなっているし、知能が低いから本能で畏れないと向かってくるんだ。魔物は動くモノに飛び掛かるような習性があるからな」
「キマイラはそんなに怖い感じだったのかしら」
「威圧というか、魔力が駄々洩れだったというか。背筋が寒くなる感覚だな。普段は森にいるはずの魔物を森の外で見かけるようになった。それで、凄腕の斥候が調査して、キマイラを発見したって話だ。S級冒険者は俺しかいなかったから引き受けるほかなかったってとこだ」
パドが薪を追加する。乾いた枝に火が移って燃え始める。
私はパドが沸かしてくれたお湯をこくりと飲んだ。
パドは夜に食事をする時、色々話をふってくる。
私が疑問に思ったことを問いかけると、答えられる範囲で答えを返してくれる。
私が住んでいた国はオキーフ王国と言って王制だ。
今いるこの国はイクアリテ帝国と呼ばれる軍事主義の国。
皇帝が頂点だ。
隣り合う国を併合していき、大国となった。
「帝都はずっと遠いところにある。いくつも国を越えないといけない」
「国?」
「ああ、自治権はあるからな。小国だったところが今の帝国では貴族になっている。ここもそうだ。カウーンレイ王国だったが、辺境伯領になり、当主はカウーンレイ公と呼ばれる」
「貴族領が元は国だったという理解でいいのかしら?」
「そうだな。色々な統治の仕方があるが、皇帝は戦争の時兵と金を出せば他のことはあまりうるさくは言わない。大きくなりすぎて末端のことまでかまってられないんだろうと思うがね」
肩を竦めて何気なく話すパド。
教養もあるのね。
少なくとも、政治の仕組みは知っているのだろう。
元貴族かもしれないわね。
うちの国でも、継がせられる爵位がない第三子などは、働きに出るしかないのだもの。騎士なんて夢の夢。
冒険者になるしかない場合もある。それなら所作が綺麗なのも頷ける。
彼と一緒に行動するのは街まで。詮索はしないほうがいいわね。
「帝国は一枚岩という訳ではないのね。国、貴族によって法が変わったりするのかしら」
「一応、刑罰は同じらしいが、刑罰を受けたことはないからどうだろうな」
「受けたらS級にはなれなさそうね」
「そうだな。犯罪歴があるものはなれない規定だ」
「それなら安心ね」
「そうかい? 襲うかもしれんぞ?」
「そうしたら、貴方は魔法で丸焦げになるわね」
「それは勘弁してくれ」
「ふふ」
不思議ね。こんなに話が弾むなんて。
考えたら私、男の人とこれほど会話をしたことがなかったわ。
前世も今世も。
公爵令嬢で、男性と二人きりなんて婚約者でもあり得なかった。
出会ったのがパドでよかった。
このまま無事にアイチェまで行けるといい。
そんなこと、あるわけがないんだけれど。
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