第11話 脱出
パドと共に森を抜けるために馬を駆って約10日。
魔物と出会うことがなかった最初の5日。
パドが言う森の浅いところに近づくようになると、魔物との遭遇が多くなってきた。
馬がその気配を感じ取るより早く、パドが魔物を発見し対処する。
「止まれ」
パドの停止の合図だ。
馬の足を止め、私は防御魔法の構築をする。
二頭の馬と自分を、結界の魔法で囲むのだ。パドは剣に手をかけて、臨戦態勢に入る。
茂みをかき分けて現れたのは狼の群れ。
森狼と一般的に呼ばれる魔物。
茶系の毛皮を持った群れをつくる魔物だ。
攻撃は爪と牙で、噛みつきやひっかき攻撃をしてくる。
稀に魔法を使う個体がいて、風魔法のエアカッターを放ってくる。
その時は尻尾の先が光るので要注意だ。
群れは5体。
正面に3体、両脇から1体ずつ。
パドが横なぎに剣を振るうと、3体の体が横に真っ二つに引き裂かれた。
悲鳴を上げる間もなく、3体は地面に落ち、血を撒き散らす。
「ギャン!」
「ガア!」
両脇の2体は身体の半ばまでの傷を負い、地面を転がる。
そこへパドが素早く近寄り、止めを刺す。
全ての森狼が沈黙すると、パドは剣を振るって血脂を落として鞘に仕舞った。
「埋めてしまう?」
「魔石だけは確保したい」
「わかったわ」
結界を解除して解体魔法で魔石だけ取り出し、穴を掘って埋めた。
「血の匂いで魔物が来る。さっさと離れよう」
パドの言葉に頷いて、馬に乗りパドの後を追いかける。
森は街道に近づくと鬱蒼とした日がほとんど差さないような様相から、木々の間から木漏れ日の差すような様相に変わっていく。
鳥型の魔物も襲ってくる。
夜は梟種が、昼は大型の鳥が襲ってきたが、魔物自体の種類が変わっていった。
獰猛な肉食の鳥から、虫を啄むくらいの嘴を持つ小型の鳥へ。
昼間襲ってくる鳥型魔物は私が魔法で処理をした。
鳥型魔物はなかなか美味しかった。
熊型の魔物は私は見なかったが、パドが野営の時に遭遇したらしい。
大型のゴディマックと呼ばれる種類は3メートル近く身長があり、掌が人間の頭ほどもある。威圧のこもった咆哮で、獲物を縛り殴り殺すのだ。
そのほか2メートルほどの熊型魔物が一番種類も数も多い。
毛皮の種類も、赤や黒、茶、白毛の模様のあるモノなど様々で脅威がある魔物だが、需要が多い。
だが、この森では強者でB級冒険者以下は難しいそうだ。
だが熊型魔物は群れを作らないので、縄張りに近づかなければ襲ってくることはないとはパドの言。
猿型の魔物は群れを作り、悪知恵が働くので厄介だがこの森で見かけたことはない。
もっとも、逃避行の間に出会ってないだけで、いるかもしれないが。
「……印を見つけた。あと少しで森を抜けられる」
パドは木を見て馬を停め、私に言った。
「魔物はもうこりごりだわ」
確かに、魔物の森だわ。奥の森で魔物に出会わなかったのは奇跡だ。
そしてついに森を抜けた。
抜けた先は草原になっていた。
その向こうにも森が見える。
振り返れば森の先に山が見えた。
「あの山の麓だ。出会ったのは」
「あんなところに迷い込んだのね」
「この草原で見えないが、真ん中あたりに街道が走っている。森の外縁部に沿って作られている。繋がる先はアイチェ、そしてオキーフ王国だ」
パドはいま立っている場所の左手側をアイチェ、右手側をオキーフ王国と示した。
「まず街道を見つける。見つけたら少し馬を休ませてアイチェを目指す」
「わかったわ。ところで浄化の魔法はまだ使っちゃだめかしら」
「……森を出たから大丈夫だろう」
なんとなく呆れたような視線を向けられた気がするけれど、清潔は病を遠ざけるのよ。
「浄化」
ついでにパドにも浄化の魔法をかけた。
「なんだ!?」
パドは驚いたように腕の匂いを嗅いでいる。
汚れはすっかり落ちて、パドの髪がべたついた状態からサラサラになった。
そよ風にパドの髪がふわりと流れる。
「あら、パドの髪って漆黒じゃないのね。光に当たると青く見えるわ」
私がそう言うと、パドの口がへの字になった。
指摘されたくなかったのかしら。
「規格外なお嬢様だな。浄化の魔法で体からいい匂いがするとか、服までまっさらに洗濯したみたいになるとか、普通ない」
そりゃあ、苦労したもの。この魔法の開発。
「あら、女の嗜みですわよ」
ほほほと笑って馬の腹を軽く叩く。
「ったく。勝手に行くな。こっちだ」
パドの馬が私の馬を追い越していく。
そして街道を見つけた。
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