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【第一章完結】とぼけたS級冒険者と悪役令嬢   作者: 佐倉真稀
第一章 逃亡

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第12話 街道

 街道に出た。

 街道は馬車二台が十分にすれ違える幅に均されていた。

「ここは辺境伯の騎士が見回っている。野盗は少ないはずだが、襲撃はないとも言い切れん。二人だからな」

 私はパドの言葉に頷く。

「街道沿いには野営できる広場がある。アイチェまでそこを利用しながら進むことになるな」

「どのくらいかかるかしら」

 街道の先に街は見えない。

「大体に三日とみているが、状況によるな」

 もうすでに日は傾いて冷たい風が吹く。

 草原が、風で波打つのが見えた。

「行こう」

「はい」


 私たちは馬で街道を進み、街道脇の草を刈ったような広場にテントを張って休むことにした。

 広場は何度も使われているようで、椅子の代わりになりそうな大きな石などや、焚き火の跡があった。

 馬たちはしばらく自由に草を食ませて、その間に野営の準備をする。

 竈を組んでテントを張り、馬に水をあげた。

「パド、夜になったら起こすわ。しばらく寝たほうがいいと思うの」

 火を起こすパドに提案する。

「そうだな。仮眠させてもらえると助かる。何かあったらすぐに起こせ」

「わかったわ」

 パドがテントに入った。


 薪はパドが集めて魔導収納に常にストックしていると言っていた。

 馬を休ませている時も、枯れ枝を見つけては拾っている。

 森を出たら枯れ木を拾うことはないから充分に持っているのだろう。

 森の方から、色々な鳴き声が聞こえてくる。

 陽が落ちて夕焼け空になってオレンジから藍色へのグラデーションが美しい。

 夜空は晴れていて星が瞬いている。森と空の区別がつかないほどの暗さ。

 夜空を見上げることなんて今まであっただろうか。

 星がたくさん輝いて前世でいう天の川のようだ。

 月は見えない。山の影にでも入っているのだろうか。

 この世界でも月は一つ。

 パチッという音に焚き火を見る。

 パドが用意した枯れ枝を、一つ焚き火に放り込んだ。


「救世の聖女と五人の英雄」は日本のゲーム会社だからか、学院は4月始まりで3月卒院だった。

 卒院記念パーティーは3月1日。

 それからもう1カ月は経った。

 王都からは馬を変えて急いで、国を脱出するのに二週間ほど。

 前世では桜のシーズンだ。

 桜はこの世界では見たことがない。

 さすがに世界観に合わなかったのかしら。


「ブルル」

 馬の鳴き声に馬を見た。足で地面を蹴っている。

 警戒している?

 そうだ。もう夜。パドを起こさなければ。

 バン! 

 結界に何かが当たって爆発したような音と振動。

 透明の結界が波打つ。

「!!」

 音がした方向を見ると誰かがいた。

 焚き火の光はそこまで届かず、辛うじて黒いシルエットが見えるだけ。

 誰なの?

 野盗?

 それとも、私を殺しに来た誰か?


「パ、パド……」

 私は震える体を叱咤してテントに駆けこもうとした。

 するともうパドは起きていて、テントの中から姿を現した。

「場合によっては結界を解くから、馬と自分を守ってくれ」

「わ、わかったわ」

 パドが人影の方に向かうのと同時に私は馬の側に向かい、二頭の馬の間に入ると結界を張った。

「……」

 パドがなにかを話している?


 ドン!


「!」

 私と馬がいる方向からも、振動が響いた。

 魔法をぶつけているんだわ。

 火魔法みたい。

 下手したら草原に火が点くことになる。

 だめよ。

 私が動揺したら馬たちも動揺する。

「だ、大丈夫よ。貴方たちは私が護るから」

 鬣を撫でて落ち着かせる。


 結界の外に魔法を撃ちだせるかしら。

 火が点いたら、消さないと。

 そう思っていると、少し離れたところに火花が散った。

 勢いよく草原に火が走る。

 あのままだと、森まで火が移ってしまう。

 山火事になったら、魔物が飛び出してくるかもしれない。


「ディア! 結界を維持しろ!! 絶対に解くな!!」

「は、はい!」

 パドがこっちに向かって叫ぶ。

 維持しても、空気が持つの?

 煙に巻かれたら?

 周りが火の海になる。

 人影はもう見えない。


「逃げた。森に火が移ったらまずいな」

 パドが戻ってきた。

「もう結界は解いていい。魔道具で足りる」

「でも、火事を消さないと……」

「ここのところ雨は降ってないから乾燥しているだろうしな。この結界は煙と火は防げるが、熱は防げない」

「そういえば暑くなってきたわ」

 じわじわと、周りの温度が上がってきている。

「まさかこんな乱暴な手を使ってくるとは……あいつら見つけたら絶対に許さない」

 ギリッと歯ぎしりをするパドの額に汗が流れる。

 真夏のような暑さ。


「ア、アイスフィールド」

 私たちの周りに氷原を発生させる。

 領域が凍り付く魔法だ。

「ディアは氷魔法の使い手なのか」

 パドが驚いた顔をした。

 足元の地面がパキパキと音を立てて凍る。

 この魔法の効果時間は魔力の籠め方で変わるが、多分持って10分ほどだ。

 熱が届かなくなったが、今度は寒い。


 火は草原を舐め尽くして、森に迫った。


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