第13話 赫炎
周囲が炎に包まれ、森に火の手が迫る。街道の反対側には火の手が届いてないようだが、火種が飛べばわからない。
「街道に逃げるか? 待ち伏せ覚悟で」
「それがいいかもね。森に火の手が迫っているわ。一か八か、私に魔法を使わせて! 魔力量には自信があるの」
「……仕方ねえな。やってみるか」
「馬たちは、火が迫っていないところに逃がさないと。まずは逃げ道に水魔法を放つわ。タイミングを合わせてくれる?」
「わかった」
パドは手早くテントを仕舞って、設置してあった魔道具を手に持つ。
私は詠唱をして、結界を解くタイミングを待つ。
放つ方向は街道。
「切るぞ」
パドが結界の魔道具を解除する。
「放水!」
ホースから放水するイメージで水を放つ。
すると、パドがその後を馬に追わせた。
「行くぞ!」
パドが私の手首を掴んで走り出す。
広場から、火が消えた街道へ脱出する。広場にも火の手が上がった。
置いておいた枯れ枝はみんな火に包まれた。
「ここまでくれば、火には巻き込まれないだろう」
「じゃあ、やってみるわね」
これから放つのは大規模魔法。
無論、使ったことはない。
「水竜巻」
日本の龍が空をかけるような水流が空に浮かんで、火の海に飛び込んで森を目指す。
「ダメ、足りない」
消せたのは私のいる位置から森まで横幅は10メートルほど。
両脇の草原はまだ燃え盛っていて、森の外縁の木の葉に火が飛んでいる。
「もう、一回!」
詠唱を頭の中でする。
「魔力は、大丈夫なのか?」
パドが訊いてくた。
「まだ、あと二回はいけるわよ! 水竜巻!」
左手側の草原に向かって、放つ。水龍はうねりながら、火の草原を駆け抜けた。
しまった。力んでしまった。必要以上に魔力を籠めてしまった。
あと一回、行使できる?
「無理はするな。俺がやる」
パドが私の前に出た。腰を落として、剣に手をかける。
「斬撃」
横に振りぬいた剣が風圧を伴い、不可視の刃を繰り出す。
燃えた草が根元から斬られ、蝋燭の火を吹き消すように火が消える。
「ち、範囲が狭いか」
それでもまだ、燃え盛る草原は残っている。
「ディア、馬を……」
もう一回斬撃を繰り出そうとしたパドが振り返ると、顔色が変わる。
何か?
はっとして振り返ると、黒い人影が剣を振り下ろそうとしていた。
「ディア!! 伏せろ!」
私はしゃがみこんだ。その時剣を抜いて足を狙う。
パドは叫んだ次の瞬間、もう私の側にいて剣を黒い人影に向かって振り上げた。
黒い人影は足に剣を受け、パドに剣を弾かれ、バランスを崩して倒れ込む。
そこを、パドが剣で胸に止めを刺した。
「まだいる」
いつの間にか、囲まれていた。パドが背に私を庇うようにして剣を構える。
「火が消えてないのに……」
森が燃える。
そう思った時、遠くから狼の遠吠えが聞こえた。
「守護者か」
パドが小さくそう呟く。
守護者?
大きな影が空を横切った。
キマイラよりも大きい、真っ白な狼が街道に立っていた。
「ウォオオオオオン!」
ビリビリと全身に感じる咆哮。
森の中で遭遇した森狼などとは比べ物にならない。
そして、降るはずのない雪が辺り一面に吹雪いていた。
白狼の冷めた青い目が私たちを射抜く。
これは死ぬかもしれない。
私が覚悟を決めた時、白狼はのそりと近付き、黒い装束の連中を咥えあげ、先ほどまで火の付いていた草原に放り投げた。
大きな前脚がその人たちを押し潰す。
「見るな」
パドが手で私の目を塞いだ。
「守護者よ、騒がせてしまい、申し訳ありません」
パド?
『まあ、いい。お前は私の仕事はきちんと熟した。森に秩序が戻ってこよう。森に悪さを仕掛ける者を誅するのは私の役目でもある。こ奴らは、そういう輩だ』
低い声が頭に響く。白狼が話しているの!?
「ありがとうございます」
『娘、今回は特別だ。こ奴に感謝するように』
「は、はい!」
『ではな』
白狼は宙を駆けて山の方へ行ってしまった。
私はへなへなとその場に座り込んだ。
「あー……」
パドが頭を掻きむしっている。
「すまん。見るなって言っておきながらなんだが、あいつらを埋めてしまいたい。魔法を頼む。あ、剥ぎ取ってからな」
パドはそう言うと、白狼が制裁した連中の亡骸に向かって歩いて行った。
思い出したわ。
あの白狼……フェンリルは「救世の聖女と5人の英雄」に出てきたわ。
確か、隠しキャラの隣国の留学生ルートで……私の処刑ルートだった。
ゲームでの私がなにかいらないことをして怒らせて仕方なしに討伐するの。
聖女が喜々として討伐して魔石を得て、それを留学生に貢いで結ばれるとかだった気がする。
それでめでたしめでたしではなくて、その件でこの森を管理していた貴族は反乱を起こすの。それで、オキーフ王国とイクアリテ帝国とも戦争になって……。
その責任が私に降りかかって、公開処刑。
反乱を起こす貴族ってカウーンレイ辺境伯のことじゃないの!?
「ディア? おーい」
パドの声にハッとして立ち上がる。
「今、行くわ」
この国にも、私の死亡フラグはあったのね。
油断はできないわ。
もっと強くならなきゃ。
生き残るために。
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