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【第一章完結】とぼけたS級冒険者と悪役令嬢   作者: 佐倉真稀
第一章 逃亡

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第7話 面倒事

※パド視点

 拾ってあった枯れ木の細い枝を半分に折る。

 それを火の中へ投げ込んだ。

 石で組み立てた竈の上に置いた手鍋から、木のコップに沸かしたお湯を注ぐ。

 やっと冬から春になったばかりのこの時期は、夜になるとかなり冷える。

 もっとも、この辺は雪は降っても積もらないから、残雪で身動きが取れないとかはない。

 だから、キマイラを討伐するために森に籠っても、凍え死ぬ心配はなかったわけだが。

 キマイラより危険な面倒事がやってきた。


 明らかに高価なドレス姿で、どう見ても怪しい黒装束3人に追われて逃げる令嬢。

 思わず仕留めたキマイラを蹴り飛ばしてそいつらを蹴散らした。

 どう考えても令嬢に加勢するしかないだろう状況だ。

 令嬢がか弱い令嬢じゃなく、気丈な令嬢だったのは少し驚いたが。

 死体を身ぐるみ剥いで身分証を探したが、ないどころかあからさまに暗殺業を生業としている者特有の装備。

 口の中に毒の仕込み。

 どこかに組織のマークとかがないか探したが、それもなし。

 身元を特定できないということは、相当に用心深い依頼者と請負元ということだ。

 相当に高位な貴族同士の争いか、はたまた……。


「お客さんかね」

 どうもこの一か月の潜伏生活で、独り言を言う癖がついてしまったらしい。

 俺は結界に阻まれて舌打ちをしている、怪しい男たちの前へ向かうべく立ち上がった。

 昼間の暗殺者とは少し趣が違う。

 黒いマントを着ているのは共通項だが、マントの上から光を表す縦棒と横棒が中央で交差している光の女神教の紋章のペンダントを下げている。

 そしてマントの合わせ目に聖書と天秤の紋章が刺繍されている。

 こいつらは光の女神教の異端審問官。

 疑われたら釈明の機会はない。ターゲットには死を振りまく存在だ。

 なぜそんな奴らがここに?


「俺は冒険者だが、あんたらは強盗か?」

 結界越しに向かい合う、マント姿の男たちと俺。

 先頭の背の高い男、その後ろには4人の同じ服装をした男たち。

 マントの裾から見えているのは神官が着る神官服。

 足元のブーツだけが旅装にふさわしい使い古された物だった。

「我々は光の女神教の異端審問官である。重罪人を渡してもらおう」

「重罪人? 誰のことだ?」

 ディアのことか? 教会に盾突くようなことを出来る年齢ではない。

「金髪のドレスを着た女だ。貴族令嬢……いや、今は追放処分を受けているからただの犯罪者だが、聖女様をないがしろにした重罪人だ」

「聖女?」

 こいつらは聖女を神聖視する派閥の異端審問官か。

 厄介な。

 そしてディアは聖女に睨まれた貴族令嬢。

 特級の面倒事じゃねえか。

 だからと言って今さら護衛から降りるなんてのは、ないんだけどなァ。


「そう。聖女様をないがしろにした重罪人は国外追放など、生ぬるい。我らは処刑するために追ってきたのだ!」

 顔をあげて目を血走らせ叫ぶ異端審問官。

 ディアが逃げてきたのは少なくとも、聖女が原因ということか。

 ディアは人をないがしろにするような人間には見えないし、異端審問官を差し向けるような聖女、ね。

 我が国、イクアリテ帝国の教会には聖女を神聖視する派閥はないが、隣国オキーフ王国は聖女信仰が篤い国。なぜなら聖女はオキーフ王国で見出されることがほとんどだからだ。

 ディアも厄介な奴らに敵視されたもんだ。

「なるほど、事情は分かった。ここまでよく追いかけてこれたな」

「我らには女神様と聖女様のご加護がある。犯罪人の後を追うことなど容易い」

 何らかの追跡方法があるということか。

 もしくは移動に使った馬の足跡か。


「いや。あんたたちがよくぞここまで、無事に森を通過できたと思ってな」

「?」

「この森が何と言われているか、知らないのか?」

「ただの森だろう? 静かだったぞ。さあ、雑談は終わりだ。女を渡せ」

「女だが、冒険者の恰好をした女だ。人違いだろう。それよりも早くこの森を出たほうがいい」

「なんだと!」

「この森は【不可侵の森】とわが国では呼ばれているんだ。この森は魔物が支配している。森を避けるように街道があるのはそのためだ。静かだったのは森の秩序を乱した強大な魔物がいたからだが、もう俺が倒したんでな。避難していた魔物が戻ってくるぞ」

 そう。魔物の目がいくつも彼らの後ろで光っている。

「そんなに叫んでいたら、魔物を呼び寄せているようなものだ。忠告はした。無事に帰れるといいな」


「な……」

 異端審問官が抗議の声を上げようとしたその時。

「ひい!」

 大きな熊型の魔物の手が最後列にいた男に向かって振り落とされた。


「あがっ」

「来るな!」

「怯むな戦え!」

「我が光の女神の……ッ……あああ!」


 俺は背を向け、元居た場所に戻り、コップに入れていたお湯を飲む。

「淹れ直しだな。冷めるのが早え」

 コップの中身を地面に捨て、新しいお湯を注いでゆっくりと飲む。

 白い湯気が空に上る。胃に落ちた熱さが冷えた体に染みる。

 結界の外の阿鼻叫喚はしばらく続き、そして静かになった。

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