第6話 身分証
パチパチと薪の爆ぜる音がする。
鬱蒼とした森の木々の間に少し開けた場所があった。
そこで火を起こし、野営をすることにした。
馬たちは勝手にそこに生えている草を食んでいる。
水は水生成で作った水を与えた。
パドと私は私が持ち込んだ携帯食、硬いビスケットと干し肉を食べ腹を満たす。
「私は辺境伯領のアイチェという街に行きたいのだけど……」
「アイチェか。俺の拠点としている街だな。どうせ俺も帰るから案内するのは吝かじゃない」
「ありがとう。前金でこれを」
首にかけていたネックレスを渡す。宝石は大きくて売ればかなりの金額になるはずだ。それを受け取ったパドが目を見開く。
「デカい宝石が嵌っている。結構するんじゃないか」
「わからないわ。売り先によっては足元を見られるだろうし」
「まあ、そうだがな。一応見る目はあるさ。ありがたくいただいておく。本契約はアイチェのギルドでだけどな」
パドはネックレスを腰のポーチに仕舞う。
「……ギルド」
「冒険者ギルドだ。ギルドを通さない契約はしないことにしている。緊急措置だから仕方がないが、正式な金額はそこで決める。いいか?」
「かまわないわ。アイチェまでどのくらいかかるのかしら」
「アイチェはこの森から一番近い街だ。俺はこの森で一月潜伏してあれを狩ったからな。この場所は街道からかなり離れている。街道まで戻るのに半月はかかりそうだ。この森は危険な魔物が多いことで知られている。魔物対策のために街は森と距離を取っているんだ」
「この辺も、なの?」
「ここは奥の方だから、そこそこ出るな。キマイラの巣はこの奥にあったしな」
パドは視線を森の奥に向けた。私もその視線を追った。
視線の先は鬱蒼とした広大な森。魔物か動物の鳴き声が時折響く。
木々の影に覆われて私たちのいる場所の上でも、少ししか空は見えない。
真っ暗な中、木々の隙間から見える夜空に光る星は雲がないことを教えてくれた。
「あの魔物を単独で討伐って凄いわね」
「そうか?」
「私のところへ蹴って飛ばしたのよね?」
「まあ、殴ったり蹴ったりも俺の得意技の一つだ。剣が通らない魔物もいるしな」
「冒険者って凄いのね。私だったら殴ったら手の方が怪我するわ」
「それは人に寄るさ。魔法の得意な奴も、斧が得意な奴もいる。ああ、そうだ」
パドはポーチに手を突っ込み、ごそごそと何かを探す。
ポーチも、魔導収納ね。
「あった。ほらよ。ギルドカードだ。契約を結ぶなら、保証は必要だろう」
渡されたのは、金属のプレート。名刺サイズくらいの長方形で、角に一つ穴が開いていて、そこに首に掛けられるくらいの長さのチェーンが通されていた。
そのギルドカードを受け取る。
表面には名前と拠点のギルド名と等級。
【パド】
【冒険者ギルド】
【アイチェダンジョン都市支部】
【★★★★★★★★】
「星がたくさん……」
冒険者のギルドカードの等級は星の数なのだろうか。
「ああ、それは等級を表すんだよ。文字の読めない奴もいるから、わかりやすいようにって上にあがる度に星の刻印が増えるんだ。星がないのは見習い。星一つで正式な冒険者だ。正式な等級は低い方から見習い、G、F、E、D、C、B、A、S」
「パドはS級なの? 依頼料足りるかしら」
冒険者に詳しくない私でも、S級は知っている。国に一人か二人しかいない、最高戦力だと。
道理であんな大きな魔物を蹴飛ばして転がせることが出来たはずね。
「足りるだろう。お釣りも来るかもしれねえな」
そう言ってパドはぽんと腰のポーチを叩いた。
「わ、私も一応身分証を」
腰のポーチを探ろうと手を伸ばす。
「いい。どうせ、街に入る時必要になるだろうし、その時で」
パドは片手をあげて制した。
「わかったわ。街で」
頷いて、ギルドカードをパドに返す。
「さて、もう休め。見張りは俺がする」
「いいの? 何日も寝ないのは無理よ」
「大丈夫だ。無理だと思ったら、ちゃんと寝るから」
パドの声は安心できる響きを持っていた。
「それに結界の魔道具を設置しているから大丈夫だ」
「わかったわ。休ませてもらうわね」
パドが持っていたテントの中に入って、魔導収納からマントを出して包まる。
パキッと薪を折った音がする。その音を聞いた次の瞬間には瞼が落ちていた。
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